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SFもの

輪廻転生する粒子

作者: 夢見楽土

「クソッ、盗人どもめ!」


 私は、悪態をつきながら近くの木陰に座り込んだ。


 街での用事を済ませ、山奥の一軒家に帰る途中、山賊に襲われたのだ。


 金品を奪われ、逃げようとしたところ、刀で背中を斬られてしまった。山賊達は、そのままどこかへ立ち去って行った。


 背中なので見えないが、経験したことのない激しい痛み。自分の座った辺りを見ると、血だまりが出来始めていた。


 あと少しで家だったのに……


 人里離れた山道。助けを呼べる者は誰もいない。


 こんなところで、俺は死ぬのか。


 怒りと恐怖、そして諦観が()()ぜになった不思議な気分。私は空を見上げた。


 木々の合間から、雲一つない真っ青な空が見えた。


 幼い頃に両親を亡くし、天涯孤独の人生だった。畑を耕し、炭を街で売り、何とか生きてきた。それがあっさりと終わりを迎えようとしている。


「来世ってあるのかな」


 私はポツリと呟いた。先日、街のお坊様と話す機会があったのだが、そのときに「輪廻転生」というものを知ったのだ。


「人は死ぬと、来世で別の存在に生まれ変わる。まるで輪っかに始まりも終わりもないのと同じように、何度も何度も生と死を繰り返す」


 それが本当だとすると、私はまた別の何かに生まれ変わるのだろうか。


「ニャー」


 ふと横を見ると、いつの頃からか家に棲みついていた老猫が、こっちにやって来るのが見えた。


 そして、私の膝の上に乗ると、座って「ニャー」と一声鳴いた。


「ははは、すまん。天涯孤独だなんて考えてしまったが、お前がいたな……そうか、私の最期を見届けてくれるのか」


 私は、震える手で猫の体を優しく撫でた。


 ああ、神様、仏様。もし、輪廻転生というものが本当にあり、来世が本当にあるとするなら、またこの猫と一緒に……


 意識が遠のく中、私は神仏にそう祈りを捧げた。



 † † †



「クソッ、このポンコツめ!」


 私は航法系システムの操作卓を両手の拳で叩いた。


 ワープ航法を終えて通常空間に出たら、なんと目の前にブラックホールがあったのだ。


 このブラックホールは、異常なほど高速で回転しており、事象の地平面の外側にエルゴ領域が広がっていた。


 どうやら、このポンコツ航法系システムは、このエルゴ領域の影響範囲を過小に評価していたようだ。


 再ワープには時間がかかる。私は主推進機に点火し、最大加速での離脱を試みたが、徒労に終わってしまった。


 どんどんとブラックホールに引き込まれていく宇宙船。潮汐力でバラバラになるのは時間の問題……


「はあ、せめて苦しまずに死にたいな……」


 怒りと恐怖、そして諦観が()()ぜになった不思議な気分。私は操縦席に力なく座り、目の前のディスプレイに広がる重力レンズで歪んだ星々を見つめた。


 幼い頃に両親を亡くし、天涯孤独の身。おんぼろ宇宙船で星々を渡り歩き、細々と商売を続けて生きてきた。それがあっさりと終わりを迎えようとしている。


「パッとしない寂しい人生だったな」


 私がポツリとそう呟いたとき、後ろから「ニャー」と鳴き声が聞こえた。


 とある星に滞在していたとき、いつの間にか船内に忍び込んでいた老猫だった。


 老猫は、ピョンとジャンプすると、操縦席に座る私の膝の上に乗り、座ってまた一声鳴いた。


「ああ、すまん。寂しい人生だったなんて言ってしまったが、お前がいたな」


 私は老猫の体を優しく撫でた。


 船内に警報が鳴り響いた。


 もし来世があるのなら、またこの猫と一緒に暮らしたいな。


 私は今まで信じたことのなかった「神」に心の底から祈りを捧げた。



 † † †



 想像を絶する早さで回転するブラックホール。その特異点は、リング状になっていた。


 先ほどブラックホールに飲み込まれた有機物の粒子が、偶然に偶然を重ね、その特異点のリングを通過する。


 特異点のリングを越えた有機物の粒子は、奇跡と呼ぶことさえ憚られる偶然により、時空を越え、遥か昔の地球上に降り注いだ。


 遥か未来、ある一人の人間と一匹の猫を構成していた粒子が、遥か過去に遡り、再び一人の人間と一匹の猫を構成する。その粒子は、時空の輪の中を廻り続ける。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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