子供の頃の景色
私の大切なものに貴方は気づく。
子供の頃に見た景色。夜、祖父の家に向かう車の中、窓の外を見ていた。その景色はまるで無数の光が走っているようで、その光を手の平に乗せて競わせたりした。でも、そんな景色がいつの間にか見えなくなっていた。なんでかな。色と光でいっぱいいっぱいの世界が水で薄められたみたいだ。
そんな中、一人の海賊に出会った。身長は自分よりも少し低くて、行きたい場所を見つけたのならその思いのまま行ってしまう。方向が合っているのかも分からないのに、間違えたらまた戻る羽目になるのに、何の考えもなしに突き進むその様は、頼りない小さな海賊だった。
ある日の帰り、下りの電車に乗ろうとホームへの階段を下りていると、ちょうど半分を下りたところで電車が来てしまった。また次がある。そう言って、ポケットに手を入れようとした、その時。「進め!!」調子のハズれた声が聞こえた。自分の袖を引いて電車に乗り込んだ。君を見た。なぜだろう。どこかで見たような、なつかしさが胸を温めた。「ほらね、間に合ったでしょ。」ただ君を見ていた。「なにじっと見てんの?」一定のテンポで笑う君の声が聞こえた。この日から、気が付けば自分は君の隣にいる。
いくつかの日々が過ぎた。君が突然に口にする。「遠くに行くことになった。」カウントが始まった音がした。何も言えなかった。夜の帰り道、君がいない日々を想像してみる。前と変わらないいつも通りの日々に戻るだけだ。言葉は簡単にできるのに、上手く動かない、何かが絡んでいるみたい、違和感があった。すると、零れるかのようにして呟いた。「何で君じゃなきゃいけないんだ?」もっと行動を効率よく出来る人も、頭が回る人も、身長が高くて容姿の整っている人も、話が合う人もいるのに。もう一度言葉にする。「何で君じゃなきゃいけないんだ?」夜の闇と沈黙が自分の周りを包み込む。すると、何かが砕け、勢いよく回るような感覚がした。いつだってそう、気持ちが向いたらなんでもとりあえずは行動する君。「だから、すぐにケガするんだ。」服に付いたシミを、腕を組んで隠そうとする君。「そんなんでずっといられるはずないのに、、、」新しいのを買えばいいのに、糸のほつれたマフラーをお気に入りだからと、ずっとつかい続ける君。大人ぶって、飲めもしないコーヒーに3個のシロップを入れても、まだ苦いやなんて口にする君。君じゃなきゃいけない理由。君に袖を引かれて電車に飛び乗った日。あの日。「なんだ、、、」かつて、自分を通り越していった無数の光と色が、君の周りにいた。忘れられない景色、もう一度見たくてたまらない景色を。「そこにいたのか、、、」君が作ってくれていたんだね。鈍感な心はいつも数歩遅れてやってくる。「君じゃなきゃダメなんだ。」小さくて頼りない海賊に連れられて、大きな波にぶつかったりもした。けど、そのどれもがどこか優しくて、海の青さだけを残し、静かに引いていく。今から行ってどうするの?「分からない。」何を言うつもりなの?「検討もつかないよ。」ろくなことにならないよ。そうかもね。「でもさ、もう失いたくないんだ。」もう、ためらって乗り過ごすのは嫌なんだ。振り返り、君の場所へ続く道をたどっていく。無数に並ぶ街燈は次に進むべき道を照らす。不意に、横を通り過ぎる光を見た。この夜に溶かすように、優しく手を放すように、口にした。「綺麗だ。」
皆様にも、小さな海賊は現れたでしょうか。
こうして出会えた皆様に感謝と更なる冒険を。
後書きは、コレくらいでいいのです。