いいから決めろ
元平民とか男爵令嬢とかに転生してあっ、私ヒロインじゃん、っていうのの男性バージョンがハーレムものだと個人的に思っている。
一つ前の短編 原作開始前にバッドエンド と同じ世界観ですがそっち読まなくても大丈夫です。
「えぇと、それではこちら、依頼の品です」
「ありがとう。これでとうとうハッキリするわ」
にこりと微笑んだ女のその笑みは、なんていうか凄味があった。
はぁい! 転生したら魔女だった!
そんな私、ウリリエットは本日とある一行の依頼を受けてとある薬を納品したばかりであります!
お薬の名前は正式名称だととても堅苦しいし長ったらしいので簡潔にわかりやすく言うのであれば。
好感度みえ~るくん。
そんな感じでお願いします。
今回そんなお薬を依頼したのは、とある冒険者メンバーの人たち。
これがね、なんていうかね。
自分は物語の主人公なんだ! とかやらかしてくれれば妖精憑きとして始末できる可能性も高かったんだけどね。そういう風には言ってないからさ。というか前世の記憶がありますここは物語の世界でした前世では、みたいな事を言いだして世の中に混乱をもたらそうとしているのであれば妖精が憑いてるとされて、まぁ、場合によっては殺処分されるんですけれども。
恐らく今回の人はそういった事案を既にどこかで見て、警戒しているんじゃないかなぁと思う次第。
でも多分前世の記憶があるっぽいんだよね。
妖精憑きとされてなくても、まぁ、うん。
割とこう、死亡フラグ乱立させてる感あるからね、転生者。
私? 私も割りとよく死にそうな目に遭ってる。私の場合はどうにか毎回生き延びてるけど。
この転生者っぽい人の命日が多分近々なんだけど、延命処置のためのお薬とかを作らされたわけではない。
むしろ逆。
多分この薬によって彼は死ぬ。
とはいえ毒ではない。
この冒険者メンバー、一言で言うとハーレムパーティなんだけど。
中心にいるであろう男性が恐らく転生者。
で、他の人より能力高めで生まれてきたっぽい。
その結果冒険者として活躍するぞ! って感じになったまではよくある話だからそこはいいんだけど。
仲間にするメンバーのことごとくが女性。
お仲間に男性が一人としていないの。
まぁ、ね?
能力面で求めた人材がたまたま女性でした、とかもありがちな話だからさ、それだけでハーレムだなんだとは言わないけども。
だって実際男女比偏りまくったチームとかあるけど、人間関係なんてそれぞれ違うからね。
前に見かけた逆ハーレムパーティかな? って思ったのなんて、末っ子の妹を過保護に守ろうとするお兄ちゃんたちのチームでした、っていう恋愛に発展しない感じのやつだったし。
家族で冒険者してるってのはここじゃよくある。
ついでに女性陣に囲まれてハーレムパーティかな? って思ったら女系家族で男性が旦那さんだけ、っていうところもあったな。奥さんと娘さんに囲まれてパッと見ハーレムっぽいけど奥さんと娘さんそっくりすぎてあ、これ違うやつってなったけど。
ただ、今回の冒険者さんたちは家族ではない。
血のつながりがある人は誰もいない、男一人女性六人のメンバーである。
両手に花ってレベルじゃない。
自分を愛してくれる異性に囲まれ取り合われ……っての、まぁ、わからんでもないよ?
自分を好きな人からちやほやされたり甘やかされたり自己肯定感上げられたりするの、気持ちいいもんね。
自分必要とされてる~ってなっても仕方ない。
ただあの……ハーレムってさ、魔物と戦う時のヘイト管理より維持するの大変だぞ? と私は言いたい。
そもそもこのメンバーが、金で雇ってその間は全力でそういう感じにするっていうやつならいいよ。金の切れ目が縁の切れ目だ。
その場合は仕事と割り切ってるから女性陣もそれなりにドライなんだよね。
でもそうじゃない場合だとさ、それぞれの女性が男性に好意を持ってるわけでしょ?
自分以外の女性が好きな相手といる、っていうだけでもいい気分にはならないと思うし、自分が一番愛されたい、とか思ってたらもう泥沼よね。
私は何番目でもいいの……とかいうタイプは一見控えめで何でも受け入れてくれるかも、って思えるけど内面では全然そんな事思ってないとかザラだからね。
というか本音と建て前のギャップありまくりだからね。
女性陣の仲が良くて一人の男性を共有する場合、男性主体じゃなくて女性の方が主導権握ってる場合じゃないと難しい気がする。
いや、よっぽどハーレム管理がお手の物、ってタイプなら大丈夫かなとは思うけど。
でもさっきも言ったけど多分この男性――仮にタコ足配線君としよう、や、長いか、タコでいいかなもう――は転生者です。
それも恐らく前世日本あたりで暮らしてたであろう人物です。
私が住んでた日本と同じ世界の日本なら一夫一妻。重婚なんぞ以ての外。
ハーレムが通用するのはラノベとアニメだけ、みたいなところ出身者がさ、ハーレムづくりに慣れてるって事、ある……?
異世界転生してチートもらってハーレムでウハウハ、みたいな作品は確かにあったけど、あれはあくまで主人公に都合の良い女性しか出てこないからね。でも現実となると自分に都合のいい女性ばっかじゃないわけで。
タコくんは気付いていなかった。
人間て男女どっちもめんどくさいのはいるけど、女性の面倒くささと男性の面倒くささは方向性が異なるという事を。
前世の彼がどういう人かまでは知らない。知る気もない。
下手にこういう感じの人かなって想像すると、とても偏見に満ちそうだからね。
ただまぁ、これだけは言える。
このタコくん、前世で女性とはあまり付き合った経験がないタイプだ。
いやあのそれも偏見じゃないか? って言われるかもだけど、まぁ聞いてほしい。
そもそもおモテになるタイプならこんな事になってないんだって!
女にモテるタイプにもいくつかあるけど、こういうたくさんの女性を侍らせるタイプの場合、全員をきっちり公平に扱えるか、それとも誰も愛さないで同じ扱いにするかなの。
多少の差はあってもお相手に合わせた愛し方ってあるから、それに合わせて大体皆同じくらいの扱いをされてるな、って思えるなら自分がいつか一番愛されたいって思ってる女性がいたとしても、まぁそれは水面下での争いだから。表立ってとんでもない事にならないよう上手く調整できれば問題ないの。
誰も愛さないパターンは、ハーレム作ろうと思ってないけど勝手に群がってくる場合かな。
まぁこっちもいつか自分が特別な立場に……って野心に燃える女性がいたりするとは思うけど、誰も特別扱いしない、どころかまず恋愛対象にも見てもらえない状態だからね。
あまりぐいぐい行き過ぎて邪魔だと思われたらバッサリ関係切られる、ってなると強引に踏み込めないし、それを見越してる場合もある。確実に長期戦になりそうなやつ。
あとは、もういっそハッキリ順位つけちゃうとかかな。ほらあれ、第一夫人第二夫人、みたいな。
序列ができてるなら下克上とかありそうだけど、まぁそれも水面下での争いかな。
後宮とかが舞台の作品とかにありそうなやつ。
だがしかし、このタコくん、一見すると全員を平等に愛しているような感じだったけど、実際はそうではなかったので。
愛してるとか好きだとか、そういう言葉をたまに口に出して伝えるのはいいんだけど、その頻度とかあまりにも差が出るとタコくんがいない時の女性陣だけでの会話で始まる誰が一番愛されてるかマウントトーク。
私愛してるってこの前言われた。
あ、それあたしも言われた昨日。
えっ、うち三日前なんだけど。
わたし随分言われてないけどでも好きって百回くらい言われた。
――とまぁ、そんな風に愛してるって言われてないけど好きって言われたとか言われた日付とか回数とかに結構なバラつきがありまして。
皆愛してる、誰か一人なんて選べないんだ……っていう優柔不断な態度であればまだ諦めもつくけれど、全員平等に愛してるとか言っちゃったらしいのでさぁ大変。
平等って言っておいてあっちに愛してるって言ったのにあたし言われてませんけど~!? となったのである。
あと、プレゼントにも差が出たっぽい。
お仲間は皆同時期に仲間になったってわけでもなくて、出会った時期も異なるらしいから、そうなると古参がその分一緒にいる時間が長いのは当然なわけで。
新入りは入ったばっかなので勿論タコくんと一緒にいられる時間は全然少ないわけです。
なので入ったばっかの人を気遣ってタコくんが一緒にいるのはまぁ、まだ仕方ないと割り切れるかもしれない。でもそうやって古参勢をずっと放置しつづけるのはよろしくない。そっちにちゃんとフォローあるならいいけど、タコくんはそのフォローがちゃんとできてなかった。
プレゼントの値段とかもね。結構な差があったらしいからさ……
タコくんが冒険者になったばかりのあまりお金がなかった時のプレゼントとかはさ、まぁ金額的にそんな大したものじゃなくてもね、仕方ないよ。気持ちが大事ってのもあるよ。
でもある程度お金に余裕が出てきてから仲間入りした相手への贈り物に豪勢なの贈って、古参は放置じゃぁさぁ……贈り物の数は古参のが多いかもしれないけどトータルの金額古参のがそんなかかってない、とかになるとさぁ……いくら気持ちが大事っていってもじんわり不満が出たっておかしくないわけで。
仮に家庭内で、兄弟にクリスマスプレゼントか誕生日かはともかく、親が兄弟にプレゼントをしたとしてだよ?
兄弟の年齢差はそこまで離れてないのに片方に五万くらいするゲーム機あげて、もう片方百均で買った玩具とかだったらさ。
その時点で兄弟喧嘩になるか、後々大きくなってから思い返して親への不信感が溜まると思うの。
兄弟でも姉妹でも明らかに差があると後の禍根に繋がるからね……
欲しいものリクエストした結果がそれなら文句はないかもだけど。
だがしかしタコくんはそうではなかったので。
できれば自分の事を一番愛してほしいけど、でもタコくんの事は皆大好きだから……って感じで内心不満を持ちつつもそれでもどうにか納得させようとしてたのに、ふたを開けてみれば結構な差があるときた。
皆同じくらい好きとか言ってたのなんだったの!? ヒトの事弄んでたの!? となってしまったわけだ。
この時点でタコくんが土下座で全力謝罪でもしとけばよかったのかもしれないけど、しどろもどろになりつつ誤魔化しに誤魔化しを重ねその場しのぎを繰り返した結果、タコくんの愛を信じられなくなってきた……ことで今回の依頼に繋がりましたとさ。
口先だけだともう信用できない、ってレベルにまでなってるならとっととお別れした方がよさそうだけど、でも自分がいなくなった後、他の皆と上手くいったらまるで自分だけいらなかったみたいに思えてイヤだし腹立つし……! となったらしい。
まぁ、わからんでもない。自分一人抜けた途端円満になったら自分が和を乱していたのか……!? ってなるよね。他の人が抜けた場合もそうなるならいいけど、自分だけってなったら何かこう、存在否定されるまでいかないけど近い感情は持ちそう。
別に自分が皆の仲をクラッシュさせるつもりはなくてもそうなったら、自分はマトモな人間関係を築けません、みたいに思うかもしれない。
完全に愛想が尽きたならともかく、未練があるならスパッとお別れするのも中々決心つかんよな。
タコくんが皆大好きだよとか言ってるけど、果たして本当にそうなのか。
彼の愛情を可視化できるような何か、ありませんか!?
そんな無茶ぶりとも言える依頼によって、私は好感度が目に見えるお薬を作ったわけですよ!
とっても! めんどくさかった!! ですッ!
依頼料はそこそこだけど、手間考えたら割に合わんわ……マジでくっそめんどかった~。
「さ、それじゃいい加減ハッキリさせましょうか」
メンバー最古参、タコくんと最初に出会った女性がにこーっと笑う。
そうしてお薬をさぁ飲めとばかりにタコくんへ突き出した。
「や、あの」
「なぁに? 飲めないの? やっぱり皆愛してるは嘘だったの?」
「いえ、その」
「大丈夫よ、明確にハッキリわかるようにすれば皆も安心するから」
ねぇみんな? とばかりに他の仲間たちを見れば、他のお仲間も同じタイミングで頷いた。
お薬は飲んだ人が見た相手の好感度が頭上に浮かぶ仕組みとなっておりまして。
タコくんがお薬を飲んでから見た人に対する好感度がタコくんの頭上に出ます。
なのでタコくんが直接知ることはできないけど、その場のお仲間さんにはバッチリわかるって寸法さぁ!
この逆で自分がどう思われてるかを知るバージョンもあるけど、今回そっちの出番はなさそうですね。
ともあれ、タコくんはお薬を飲むしかなかった。飲まなかったら愛してるって嘘だったの? と詰め寄られて地獄だろうし、かといって飲んでも場合によっては地獄。
まぁ、好感度次第ですかねぇ……
最初タコくんは飲んだ後、誰も見ようとはしなかったけど。
六人の仲間たちに縛り上げられて身動き取れなくされたあと、閉じた目をかっ開かれて強制的に見る事になってしまった。
もうこれ、タコくんの彼女らに対する数値が高くなかったらアウトじゃね……?
低かったらこのまま愛想尽かされる流れになりそうな予感。
ちなみに好感度最大数値は100とします。
というわけで最古参の女性の好感度から見てみると。
45……半分以下やん!
その数値に思わず他の仲間たちもざわついた。
長い間一緒にいた相手の好感度が半分以下!
えっ、どういう事……!? となるのは当然だし、最古参の女性はまさかこんな数値が出るとは思わず呆然となって目を見開いて立ち尽くしている。
えっ、どういう事……? となりながらも、二番目にハーレム入りした女性がタコくんの視界に入る。
48とちょっと高いがこちらも半分を切っている。
最古参よりちょっとだけ数値が高いとはいえ、これは勝ち誇れない。
そうして三番目、四番目と次々に女性たちが視界に入ってみれば。
50、54、62、70……と徐々に数値が上がっていた。
最後に仲間になった相手が一番高いとなって、自然と新入りに女性たちの目が向けられる。
えっ、えっ、あたし仲間入りしたのホント最近だよ!? と狼狽えるが、同時にちょっと優越感がチラチラ見え隠れ。
なお最近といっても三か月くらい前の話だそう。
最古参の人は? そう私が聞けば四年前との事。
ふむ……?
「もしかして……そいやっさー!」
ちょっと気になったので、私はタコくんに一つの魔法をかけた。
この好感度が見えるお薬を飲んだ時じゃないと効果を発揮しない魔法である。
その魔法が発動して、空中にスクリーンみたいなものが浮かび上がる。
それはグラフだった。
最古参の女性が四年前、といったのでそこからの記録である。
それらグラフが六つ浮かび上がる。
各々のお仲間の好感度の変換推移、とでも言えばいいだろうか。
最初は確かに高かった。
最古参の女性は最初からそこまで好かれていなかったわけじゃなかった、と知ったものの、しかしそのグラフは徐々に下がりつつある。
知り合った直後はそれなりで、仲間入りするのあたりでちょっと上昇、そこからある程度上向きだけど、その後は徐々に下がっている。
これは彼女が何かして嫌われたとかではない。
何故なら二人目の仲間が加入したあたりから下がっているので。
二人目も最初は高かった。
だが三人目が仲間入りしたあとからやはり下がっていっている。
それは、皆同じ傾向だった。
グラフを見て私がそれらを説明すれば、女性たちの目はタコくんへと向けられていく。その目はとてもじっとりとしていた。湿度たっぷり。
完全に嫌いになってはいないけど、要するに飽きた、と言える。
前世のソシャゲとかで、新キャラが出たとしよう。
勿論今まで推しだとか愛を注いでいたキャラがいたとして、その新キャラが可愛いとかカッコイイとなれば一時的にそっちに気持ちがいっちゃう事ってあるとは思う。
もしくは今まで見てたアニメが終わって俺の嫁が別の新番組で新たにできた時のような。
二次創作サイトとかでも人気のあるキャラのイラストや二次創作が溢れているとはいえ、人気ジャンルで新キャラが出たら少しの間はそのキャラネタにした作品が爆発的に上がったりするもんな……
多分ではあるけれど、タコくんの愛情はそういう感じで新しく来た相手に向けられていた。
古参勢を嫌っているわけではない。
ただ、長く一緒にいるせいで新鮮味が消えてマンネリ化した結果なんだとは思う。
下がっていく一方だったとはいえ、それでも時々ちょっとだけグラフが上にいった所は多分なんらかのイベントみたいな出来事があったからだろう。
そう私が言えば、女性陣は思い当たる節があったようだ。
だが再びいつもの日常に戻れば、その好感度は下がっていく。
上げた状態を維持するためには、常に俺を楽しませろって事なのだろう。刺激的な恋愛をお望みならともかく、結婚して安定した家庭を築きたいタイプとは相性悪そう。
かわりばえのしない日常に飽きて刺激を求めて不倫とかするタイプって言ったとしてもこれ否定できそうにないのよな……だってお相手一人に決めたわけでもなく、複数って時点で片鱗出てるし。
ちらりと私がタコくんに視線をむければ、彼の目は忙しなく泳ぎっぱなしだった。そのせいで頭上の好感度が馬鹿みたいな速度で動いている。
その動いた先で、一度80という数値が見えて思わず女性たちは今誰見たの!? となる。
そうしてタコくんの視界が無駄に動かないよう頭をがっしり固定した状態でもう一度それぞれが視界に映っても80という数値は出ない。
だが、最後にもしかして……と私へと視線をずらせば。
そこには燦然と――輝いちゃいないが80の数値が!
お仕事で出会っただけでタコくんとは正直マトモな会話もしていませんが?
えっ、それでも私にこんな好感度持つの?
節操って知ってる?
ちなみにお仲間の女性たちは、私がタコくんと接点がない事はよく知ってる。
隠れてコソコソ会ってたとかもないと知ってる。
依頼に来たのは古参の女性で、その時タコくんは別の仲間に預けてきてたし、私も今日お薬を納品するまで彼の事なんぞ見た事がない。
疑われたらキリがないけど、一応真実しか口にできない真実薬があるからそれ使ったっていいぞ。
新しい女性が来たらそっちに夢中になって、古い女性は放置。
でもこいつら俺の事好きだから、適当言っときゃまぁいいだろ。
恐らくはそんな感じなんじゃなかろうか。
皆の事平等に好き、の平等は新しい人が来たら古い奴らはどうでもよくなる、という点で平等ではあるけれど。
「冗談じゃないわ」
ぽつりとそう言ったのは最古参の女性である。
彼女は仲間になった時、本当にタコくんの事が大好きで愛していたのだろう。
次に仲間になった女性もタコくんの事が好きとなれば、不安に駆られもしただろう。
けれどそれでも、仲間だからという理由で接してどっちも好きだなんて言っちゃって、同じくらい愛するからとか言われて、内心で不満を持ったりしながらも、それでも嫌われるよりは……となったのかもしれない。
もしかしたら最初の頃は仲間内でタコくんを独占しようと水面下での争いもしてたのかもしれない。
でも争ってばかりだと不毛だから、と仲間内でルールを決めて、そうやってなんとかやってきたのだろう。
けれども、新しく仲間入りした女性たちと今の自分たちの扱いに、やっぱり思うところがありすぎて。
だから、私に依頼した。
前ほど熱量が感じられなくても。
それでもこの数値がちゃんと高ければ、仲間としての絆とか、恋人として積み重ねたものだとか。
そういったものがあったに違いない。
けれども新しい女性が入れば今までいた相手への興味が薄れ、それは好感度にもしっかりと出ている。
一番最近仲間になった女性は、それこそ最初好感度が一番高かった事に嬉しそうではあったけど今はもう違うようだ。
まぁそうよね、次に誰か新しく仲間に入ったら同じようになるっていう前例が五人分あるもの。仮にこの先仲間が増えなくても、新鮮味が薄れて下がっていくってわかりきっちゃったもの。
平等に皆同じくらい50あたりをキープされていたら、誰も文句はなかったかもしれない。
でも45から70の差は結構なものだぞ。
新入りちゃんなんてあと数年後にはこうなる、の見本がハッキリとあるもんな。
これから先、好感度が更に下がっていく事もあり得るわけで。
ちなみに0は嫌いではなく無関心、マイナスいくと嫌い扱いになります。
どっちにしてもそこまでいったらイヤすぎるな。好きな相手が自分に対してこれくらいの気持ちですってわかった時に無関心とかマイナスだったら普通に心が痛い。
「ずっと愛してるって言葉を信じてたのに……それを信じて支えてきたのに……ッ!!」
「あ、いや、その」
この期に及んでタコくんはまだ何か言い訳を探したようだけど、ひんやりした視線を仲間たちから向けられて言葉に詰まる。
いやそこでそれでも何か言えよ。悪足掻きでもまだ何か言えばいいでしょうに、言葉を詰まらせた時点で好きだったのは昔の話って認めてるようなものだぞ。
ちなみにこちらの世界、重婚は特に認められておりません。
一部、王族や貴族階級など、どうしても自分の血を受け継いだ跡取りが必要な場合は二人目の奥さんとか認められるらしいけど、それだって夫の判断でぽんぽん追加はできないようになっている。
たとえば最初の奥さんが子供を産めない身体になってたとか、そういうのが判明した時に第二夫人とか側妃とか迎える事はあるらしいけど、それだって誰でもいいわけじゃないから夫が好きな相手を選べるわけでもない。
審査がとても厳しいのである。
人間以外の種族だと複数の妻を持つとかあるみたいだけど、人間種族に関しては一夫一妻が基本である。
とはいえそれはあくまでも結婚相手に限った話なので、恋人の段階で複数の相手を持つ分にはグレーゾーン。
ま、よっぽど上手くやらないとこうなるんだけどね。
「いつか、ちゃんと私を選んで結婚してくれるって信じてた。今はまだ結婚なんて先の話だからって言葉を信じて、貴方を慕う相手が増えてもそれでもいつか自分が選ばれるって信じてたのに……!」
一番長くいた相手が一番好感度低いという事実に、最古参の女性は裏切られたと思ったのかもしれない。
今まで耐えていたものが耐え切れなくなったのか、その目からはポロポロと涙がこぼれている。
「あ、マリシャ……」
「もういいわこっちから見切りつけてやるわよあんたなんか大っ嫌い!」
ばっちーん!!
そんな音がして、タコくんは哀れマリシャと呼んだ相手から強烈な平手打ちをくらったのである。
逃げられないようイスに縛り付けられていたタコくんは避ける事もできないままそれを食らった。
身体能力的に優れていようとも、流石に無防備な状態で食らった一撃はかなりのダメージだったようだ。
「そうね、わたしも。抜けるわ。確かにアンタの事好きだったよ。マリシャールがいてもそれでも構わないって思ってた。マリシャールの次でもいいから愛してくれればって思ってた。
でも次から次に増えるんだもの。マリシャールが段々蔑ろにされてくのは感じてたけど、それでもアンタが愛してるっていう言葉に信じようとしてたよ。してたけどさ……
信じた結果がこれじゃぁね……
わたしもさ、いつかは好きな人と結婚して子供産んで……っていう平凡な夢はあるの。その相手はできればあんたがいいなって思ってたけど……あんたは誰も選ばなかった」
あ、マリシャだと思ったらマリシャールだったのね。まぁ、大差ないか。
「あたしもー。自分が選ばれようと思ってあの手この手で迫ったのにさぁ、結局きみを大事にしたいんだ……とか言われてなぁんにもなかったのだけは救いだわー」
おや。ハーレム作っておいて手を出してない……だと……!?
「胸とかやたら見てきてたし、セクシー系衣装で迫ったりもしたんだけどなぁ……なのに空振り。あたしこれじゃただの痴女じゃん」
「悪いけどうちも抜けさせてもらうわ。
この状況で恋敵が減ったやったー、って思える程能天気じゃないから。
だってご新規さん参入したら次はうちが古参扱いでしょ? やってらんない」
「ちょっと待ってくれ……本当に皆大好きで選べないんだ……!」
「この期に及んでまだ言います? 大好きっていう数値じゃないでしょ」
「それはこの薬が駄目なんだって。不良品に違いない!」
「は? 喧嘩売ってます? こちとら冒険者ギルドでSランク薬師の免許所持してる優秀な魔術師ですよ? その相手の作る薬に難癖つけるとかマジで殺すぞ」
ま、実際魔女なんだけどね。
一応魔女って言わないで魔術師で世間では通してるからね! でもそれにしたって人の作った薬が悪いとか責任転嫁は許さん。
私の向けた殺気に怯んだタコくんは、救いを求めるように仲間たちへ視線を向ける。
今までなら、きっとすぐさま彼を助けようとしただろう。そうして彼の役に立って感謝の言葉をもらって、そのついでにイチャイチャしようとしたかもしれない。
だがしかし今となっては皆の視線はしらけていたし、冷え冷えしていた。
私がタコくんにちょっとでも好意的な態度であれば、もしかしたら女性たちは私が彼女らとタコくんの仲を引き裂くために……なんて穿った想像をしたかもしれない。
でも私タコくんの事視界に入れてなかったからね。最初の時点でいない扱いしてたから。仮に視界に入れてもその目に恋や愛を感じられるようなものは一切ないと断言できるくらいの他人扱い。
大体新しい女性に目移りしているってのわかりきってるから、タコくんの私への好感度が高くてもなぁ……正直こっちからすると面倒なんだわ。
私も好感度みえるお薬飲んでタコくんへの好感度表示したら多分限りなく0に近い数値しか出せないだろうから、変に勘繰られたらその時はそうやって証明するつもりだけど、どうやらその必要はなさそうかな……
「じゃあ聞くけど、誰も選べないって事は誰とも結婚するつもりもないって事!?」
五番目の女性が問う。
「今は結婚とか考えてないけど……」
「今は? いつかそのうちは考えてるって事?」
「や、それは……」
タコくんの言葉はとても歯切れが悪い。もごもごと口の中に何か詰め込んだのかと思われるくらいハッキリしなかった。
「それってつまり、考え始めた時に新しく入ってきた女性がいたらその人を選ぶかもしれないって事よね。この中から選ぶつもりなんてないって事じゃないのそれ」
「ちが……」
「違うっていうなら今選んで。自分が選ばれなかったとしてもそれならそれで諦めつくから」
その言葉に、だいっきらいと言ったマリシャールさんもタコくんを見た。
嫌いという気持ちはそうなんだろう。今までのタコくんの行いの結果だ。
でも、それでもまだ完全に諦めきれてはいない。もしここでタコくんがマリシャールさんを選んだのなら、多分丸く収まるかもしれない。嫌いとは言ってもまだ引き返せる可能性はある。
けれど……
「…………」
タコくんが選んだのは沈黙だった。
きょろきょろと目はあちこち彷徨い、そうして最終的に足元へ向く。
「選んだら、それ以外の皆は?」
「悔しいけど諦めるしかないでしょ。しばらくは引きずるかもしれないけど」
「それが嫌なんだよ」
「でもそうさせてるのは貴方よ」
「だから選びたくないんだ……」
「そう」
六人の女性はその言葉で何かを覚悟した。そんな雰囲気が確かにした。
「それじゃあ、私たちはここでお別れするわ。いつまでも惨めに縋り続けても希望がないなら傷は浅い方がいい。
とはいっても、全然浅くなんてないんだけど。
さよなら、タコール。私たち、今日でこのチームから抜けさせてもらうわ」
「えっ……?」
「さよなら、ウリリエットさん、悪いけど後頼んだわ」
「あぁ、はい。頃合い見て縄外せばいいんですね。了解です」
マリシャールさんに言われて私は頷く。
いくら前世と違って身体能力が強化されてるといっても、その分他の物も頑丈なのだ。前世と同じと考えていたら全然そんな事はなかった。縄の強度とかホント軽率に武器にできちゃいそうだからね。
「ちょっ……まってくれ皆」
ぞろぞろと部屋を出ていく仲間だった女性たちは、しかしタコールくん――本名からしてタコくんだった――の声に足を止める事もなく。
それどころか誰一人として振り返りもしなかった。
結局彼は、全てを失ったのだ。
誰か一人を決めていれば、その人だけは残ったかもしれないのに。
ちなみにこの後彼は、転生してハーレム作って人生ウハウハになるはずだったのに……みたいな事を口走ってしまったので。
結局妖精憑きとして処分される事が決まったのであった。
何せ言動が転生して自分はヒロインだと思ってるタイプと同じだったからね。
きっとタコくんは前世の世界で二次元だけでハーレムしてる方が良かったんだろうなぁ。
実際の人間はね……心も感情もあって現実を生きていかなきゃだからね……楽しいだけじゃないもの。
折角前世の事を明かさないで上手くやってきたつもりだったのに、最後の最後で自滅したタコくんであったけれど。
まぁ、女性陣にボコボコにされなかっただけマシじゃないかな……?
妖精憑きとして処分された時点で死んでるけど。
ちゃんとした面白いハーレムもの書ける人ってすごいんだなっていう感想。
次回短編予告
王子とその婚約者、そして王子と恋をした身分の低い令嬢。
けれど、悪役令嬢なんて存在していなかった。
それどころか悪役令嬢ポジションの令嬢は名前しか登場しない話。