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【3/22電書発売】求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。【コミカライズ】  作者: 待鳥園子


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32 愛する弟

 私は子竜守の制服と言える木綿のワンピースに着替えて、貴族令嬢らしく結い上げていた髪も一度下ろして三つ編みにした。


 そして、ジリオラさんから指示されていた通り、子竜守としての報告書でもある日誌を騎士団内部へ取りに向かった。


 これは子竜たちの育児日記のようなもので、何か変わったことがあれば書き、それを団長は毎日見て居るらしい。


「ウェンディ! 帰って来たんだ!」


「……セオドア。貴方、子竜たちに変な行動取っていたと、噂をされていたわよ」


 聞き覚えのある声が聞こえて、後ろを振り向けば、そこにはなにやら肌が艶々のセオドアが居た。


「そうなの? 別に変な行動を取っていた自覚はないな~」


 彼らしく飄々とした態度で私に近寄り、顔を覗き込んできた。ジリオラさんも言っていた通り、こういうところさえなかったら、家柄も良くて顔も良くて、素敵な人だと思うのに。


 本当に残念だわ。


「ぶつぶつ呟きながら、竜騎士団内を歩き回っていたんでしょう。子竜たちが目撃していたわよ」


 子竜たつの報告をそのまま言えば、セオドアは驚いた表情になった。


「え! そうなの? そんなこと言ってた? ……てか、どうしてウェンディがそれを知っているの? 竜の声が聞けるほど、君は竜力は高くないだろう」


 私はセオドアの言葉を聞いてから、思わず息を止めてしまった。


 あ……そうだった!


 私が子竜たちの声を聞けるようになったのは、グレンジャー伯爵家の爵位が抵当に渡り、必要あって異常なほどに高い竜力を持つ団長と結婚をしているからだ。


「そっ……それは」


「え~……おっかしいな~。ウェンディ。もしかして、何か隠してない? 僕には何か言えないこととか~」


 目を細めたセオドアは私により顔を近づけて、私は目を瞑った。


「……おい。セオドア。子竜たちの噂は、俺がウェンディに教えた。お前は遊んでいないでいい加減仕事をしろ」


「団長!」


「ユーシス。邪魔しないでよ。僕は帰って来たウェンディと大事な話をしているんだからさ~」


 そこに現れたのは怖い顔をした団長で、私の肩を引いて、セオドアから遠ざけた。


「子竜たち含め、騎士団員からもセオドアが気持ち悪い行動を繰り返していると報告が何件かあがっているが、その話もした方が良いのか?」


「え。それって、事実なの?」


 セオドアが驚いた表情を整った顔で浮かべたところで、団長が私に目配せをしたので、慌てて私は彼らから離れた。


 ……団長。また、私のことを助けてくれた。


 ほんの少しだけ会えただけで、じんわりと胸が温かくなる……私は彼のことが、本当に好きなのだと思う。



◇◆◇



 数ヶ月前に卵の殻を破った子竜たちは、今はもう立派に飛行出来るようになっていて、私たち子竜守の仕事は寝床の掃除と固形物もがつがつと食べ出したために一日二回程度の餌やりだった。


 私がここで働き始めた時、ジリオラさんが『今が子竜守にとって、一番大変な時』と言っていたけれど、それは正しかった。八回のミルクやりが遠い昔に思える。


 私は日々の仕事のひとつである洗濯を終えて、のんびりと緑の芝生の上に座っていた。


 頭上には青い空が広がり、爽やかな風が通り過ぎる。


 ここ数ヶ月……なんだか、色々あったけれど……振り返れば、なんとかなって良かった。


 ……本当に良かった。


 我がグレンジャー伯爵家はすべての物品を売り払い、唯一残った爵位まで、抵当に入れたこともあった。


 一時はどん底の底にまで落ちてしまったと思ったけれど、今ではお父様がカジノで奇跡の大勝利をおさめ大金を稼ぎ、グレンジャー伯爵家は再興した。


 そして、今の私はもし無一文で投げ出されてしまっても、子竜守という仕事が出来るようになった。


 自分のこれからを思えば不安で仕方なくて、枕を濡らした夜もあったけれど、もうそれも過ぎた遠い話になってしまった。


 本当に良かったと思う……あとは、リシャールが貴族学校を無事に卒業してくれれば……グレンジャー伯爵家は、あの子に任せれば良いんだわ。


(ウェンディー!)


(ウェンディ!)


(こっちだよ!)


(こっち来てよ!)


(きんきゅうじたいだよ!)


 いきなりキュウキュウとかしましい鳴き声をあげる子竜たちに囲まれて、うとうとと眠気さえ感じていた私は驚いて慌てて立ち上がった。


「ちょっ……ちょっと待って。何があったの?」


(こっち!)


(早く!)


(驚くよ~)


(大変なんだから!)


 そうこうしているうちにたくさん集まってきた子竜たちは口々に言いつのりながら、驚いている私の腕を引いた。


「なっ……何? どういうこと……?」


 私はつんのめるように歩き出し、子竜たちは『早く早く』と急かすばかりで、何があったとは教えてくれない。


 皆が少しずつ体重を引き受けてくれているのか、足が浮いているような気がした。


 わけがわからないままに、私は手を引かれて子竜たちが示す方向へと付いて行くしかない。


「もっ……もう! 一体、何なの!?」


 なんとか彼らの速度に付いて行って、ようやく辿り付いたその場所に居た人物を見て私は驚いた。


「……リシャール!」


 草原の中で岩に隠れて、少しだけ影になっている場所。そこには、貴族学校に居たはずのリシャールが居た。


「姉様」


 いつもは艶めく銀色の髪はボサボサだし、制服は破れた箇所もあり汚れてボロボロ。悲しそうに表情を歪ませて、私のことを見つめていた。


「何があったの!? リシャール……どうして、こんな場所に?」


「……姉様に会いに来たんだ」


「リシャール」


 事情をそれ以上は言わずに、顔を俯かせて暗い表情を浮かべるリシャール。


 リシャールがこんな格好をしてここにいるなんて、本当に信じられないけれど、実際に来ていることは確かだった。


 私は貴族学校で何があったかと問い詰めたい気持ちを、必死で堪えた。何か言えるようなことであれば、すぐに言ってくれるはずだ。


 リシャールは本当に賢くて、私よりも大人っぽい物言いをする。


 それなのに、こんなにも落ち込んだ姿を私に見せているなんて……きっと、何も言いたくないのね。


「リシャール……とにかく、私の部屋へと行きましょう。団長には話してくるから、落ち着くまで居れば良いわ。良い方だから、そうしてくださるはずよ」


「うん」


 リシャールは私が背中を押せば、ゆっくりと歩き出した。


 子竜たちは草原で自主的に飛行訓練をしたり、遊んだりしているから、ここに隠れていたリシャールを見付けて、私を呼びに来てくれたのね……。


 アレイスター竜騎士団を訪ねれば、私のことを呼んでくれるだろうけれど……こんな姿の自分が訪ねてくれば、姉に不利益があるかもしれないと思い、ここに隠れていたのかもしれない。


 何があったのかしら。


 いいえ……私たちグレンジャー伯爵家には、これまでに色々とありすぎる程にあったわ。


 若い思春期の男の子ばかりの中で、お父様が没落したことを知られている。友人の温情で通えていたけれど……。


 そう思うと私は堪らなくなって、隣に居たリシャールの身体を抱きしめた。


「リシャール……ごめんね……ごめんね」


 幼いこの子が、父が没落してしまった後、貴族学校でどんな目に遭うかなんて……離れて住む私には、ここまで思い至りもしなかった。


「姉様……」


「リシャール。悲しい思いをさせてごめんね……」


 リシャールは私の背中へ手を回して、静かに泣き始めた。


 ああ……この子は何も悪くないというのに、神様。どうして……。

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