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30 やり方(Side Eusis)

(ねーねー……最近、ウェンディ居なくて、さみしいよね?)


(本当だよ! どこいっちゃったの?)


(なんの説明もないのおかしいよね!?)


(この前、セオドアがウェンディが家に戻って寂しいって、一人で歩きながらぶつぶつ呟いていたよ!)


(はい! 僕もそれ聞いた!)


(私も聞いた。セオドア、ずーっと言ってるんじゃない)


(えっ……なにそれ、きもちわるい……)


(セオドアって、好きな子いじめるタイプだよねー……)


(本人に言えば良いよねー)


(ねー)


(何処行ったら会えるの? 僕らも飛べるようになったら、会いにいけるのかな)


「こら。それは、駄目だ。もうすぐ帰って来るから、それを待て」


 子竜たちが深刻そうに話している隣で黙って話を聞いていたら、不穏な展開になりそうだったので、一匹の首を掴んで顔を近づけた。


(えー! どうせ、ユーシスは会っているくせに!)


(そうだそうだ! ずるいぞ! 僕らだって会いたいのに!)


(ウェンディを何処に隠して居るの? この前までは、毎日来てくれていたじゃないか!)


(そうだよ! ユーシスはずるい!)


 キュウキュウとそこら中から抗議の鳴き声が聞こえたので、俺はため息をついた。


「駄目って言ったら、駄目だ。ウェンディはもうすぐ帰って来るから……この前会った時には、お前たちにも会いたいと言っていたぞ」


 そう言えば目がキラキラとした子竜たちの歓喜の声であふれ返り、俺はキュウキュウと喜ぶ子竜たちにもみくちゃにされた。


「……はいはい。ユーシスは玩具じゃないよ。ここで働いてもらわないといけないんだから、飛行訓練にでも行っておいで」


 ジリオラの声が聞こえて、俺はようやく子竜たちから解放された。


「ジリオラ。助けに来るのが遅くないか」


 わりと長い間子竜たちに揉まれていたが、彼らの身体はまだ柔らかく、大事にすべき存在で力まかせに振り払うことも出来なかった。


「そうかい? まあ、ウェンディの代役をしてくれるのは、私も助かるよ。どういう関係なのかは……知らないけどねえ……」


 ジリオラはにやにやと、嫌な笑いを浮かべた。そんな訳はないと思いつつも、俺も何も言えない。


 ウェンディが何を考えているかわからないし、彼女がジリオラに何処まで言ったかは俺には聞いていないしわからないからだ。


 これがただ、ジリオラが俺に鎌を掛けているだけという可能性だって、否定出来ない。


 彼女はウェンディを可愛がっていたようだし、俺たちに対し変なことをする女性だとは思えないが、すべてを素直に信じるにはこれまでに色々とありすぎた。


「……ウェンディは子竜守をやりたいと」


「そうなのかい。あんたの妻だったら、優雅で楽しい生活も出来るだろうに、変わった子だねえ」


 ジリオラは俺の言葉を聞いて、にやにやと微笑んだ。前々竜騎士団長の妻である彼女だってそうだったのに、子竜守を続けていたではないか。


「まだ、正式に妻であるという訳ではない。この前に求婚したら、返事は保留にされた」


「そうなのかい? まあ、時間の問題だと思うけどねえ……」


 返事を保留にされた話をすれば、ジリオラは不思議そうな表情を浮かべていた。


 子竜守として雇ったウェンディは、俺のことを好きだろうなと思う。


 だから、直接求婚した。


「けど、ユーシス。ウェンディにいつ告白していたんだい。あの子と子竜たちの様子を見て、結婚したのはあんただろうとは思って居たけど」


 ディルクージュ王国の貴族として産まれて来た時に、既に竜力には差があるものの、結婚すれば伴侶には釣り合うようになる。


 そういう意味ではウェンディには、無理をさせてしまったことになる。


「……いや、だから、この前に求婚した」


「何言っているんだい。その前に、好意を伝えるなり、なんなりあっただろう? それはいつだったのか聞きたいんだよ」


 ジリオラは犯罪者に事情を聞く尋問官のような顔をして、俺にそう言い、パッと視線を背けた。


「……それまでは、何も言っていない」


 まだ幼い子竜たちの前で好きだと言うには、はばかられたし、そういった空気になることもおかしいのではないかと思って居た。


 だから、ああして正式に求婚すれば良いと思ったのだ。


 貴族として実質的な結婚は済んでいるし、父親の許可も取った。彼女本人さえ頷いてくれれば、形式的な結婚もすぐに完了する。


「あんたって……わかってないねえ。いくら好意的に見ている男でも、いきなり求婚されたら、驚いて返事を保留にするのも無理ないよ」


「そうか……?」


 そういえばあの時も、戸惑っていたウェンディは『団長にそう言っていただいて嬉しいけど、保留にさせてください!』とは言った。


 嬉しいならなんで……? と思ってしまったのは仕方ない。


「そりゃ、そうだろうよ。あんたは本当に……女心がわかってないねえ……女に困らないのも、困りものだね」


「それとこれとは、何か関係があるのか」


「大ありだよ。向こうが好きで執着されることには慣れているけど、ウェンディのようにあんたに対してしつこくなくて、なんなら恋愛より大事なものを持っている女の子の方が好きなんだろう」


「まあ……そうだな」


 それだけではないが、大前提としてウェンディがそういう女の子だからこそ、俺は彼女が気になったとも言える。


「だから、ゆっくりと距離を縮める方が逃げられなくて良いんじゃないかい。ユーシスと結婚したくてベッドに潜り込んでくる女の子になら『結婚しよう』で、済むけどねえ」


 それは……確かにそうかもしれない。好意的に見られることが多数だったので、ああして求婚すれば喜んでくれるだろうとしか思って居なかった。


 保留されたことは、衝撃的だったものの……別に断られた訳ではない。そう思って居た。


「……やり方を、間違えたと?」


「大きく間違えてるねえ……ウェンディはあんたの周囲に居た女の子たちと、まったく違うと思った方が良いよ。そうでなければ、ユーシスの興味も引けなかったと思うからね」


「では、どうすれば良いんだ」


 否定され続け憮然として言った俺に、ジリオラは涼しい顔をして肩を竦めた。


「少しずつ距離を縮めて、お互いに一生を過ごしたいと想いが深まったと思えば、求婚すれば良いんだよ」


「俺はそう思って居る。でなければ、求婚などしない」


 ……一生一緒に過ごすのならば、こういう子が良いと思ったのだ。


 その気持ちに、決して嘘はない。


「結婚するのは二人なのに……あんたが良いだけでは、駄目だろう。本当に……頭が良いはずなのに馬鹿だね。ユーシス」


「それはわかっている」


 とにかく、俺はあの時に急ぎ過ぎたらしい。


 腕を組んで次に会う時はどうしようかと思えば、ジリオラは微笑んで大きく開いた扉を見た。


「ああ……そろそろ、ウェンディが帰って来るんだね……」


 明るい野外から、涼しい風が吹き込む。


 ……もうすぐ、彼女はここへ帰って来るはずだ。


 前のように住む場所がないからと必要に迫られて仕事をするのではなく、子竜守であることに誇りを持って務めるために。




こちらの作品『求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。』が、竹書房様ストーリアダッシュにてコミカライズされることになりました!

漫画家の先生は決まっておりますが、順次発表になります!

詳しくは活動報告にて。

※加筆がたくさんある電子書籍化も鋭意進んでおります!

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