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28 ドレス

「あの子……本当に、馬鹿だったんだねえ」


 ウォルフガングが暴走した顛末を、仕事中に竜舎へとやって来た団長から聞いたジリオラさんは言葉を失い、その隣に居た私だって、王族に対し不敬かもしれないけれど同じ気持ちだった。


 ジルベルト殿下たちが暴走してしまった理由は……ディルクージュ王国の王族に代々伝わるという、竜力を倍増させるという腕輪があるらしい。


 それは、相応しい持ち主が使わねば本人も竜も力が暴走してしまうため、先祖代々使用を禁止されていたけれども『俺ならば可能だ』とのたまったジルベルト殿下は、臣下の制止を振り切りその腕輪を嵌めてしまったらしい。


 そして、見事に暴走……そして、憎んでいる団長の居るアレイスター竜騎士団へと向かって、攻撃を仕掛けて来た。


「殿下は……当分、外出は禁じられ、共に暴走することになった、ウォルフガングと会うことも禁じられているらしい」


「それは、まあ……そうだろうねえ。ウォルフガングも可哀想に。単なる巻き添えでしかないじゃないかい」


 可哀想なウォルフガングは愛する妻であるルクレツィアに地面へと落とされ、無数の竜から魔力を封じられ、今は殿下と引き離すためアレイスター竜騎士団にてゆっくりと静養しているらしい。


 ルクレツィアと一緒に居られるから、その方が良いのかもしれないけれど。


「ジリオラが言っていたことは、確かにそうだった。俺も……悪かった。殿下にはいつかわかって貰えるだろうと思っていたが、俺がわかって欲しいと働きかけねば、あの方にわかってもらえるはずもなく……こんなことを、引き起こしてしまった」


 ジルベルト殿下が暴走するまでに至ってしまったことを、団長は悔いるように話していた。


「はああ……止めな止めな。ユーシス。これは、流石にあんたのせいじゃないよ。あんなにまで馬鹿な事をするなんて、私も到底思いつきもしなかったし、王族の方々も同じ想いだろうね。まあ、当分反省すれば良いんじゃないかい。正直に言うと私も名前を取ってもらったあれがあるから、馬鹿だけど憎めないのはあるからねえ……」


「私もっ……団長は、悪くないと思います」


 二人はいきなり意見した私を同時に見たので、少し恥ずかしくなった。


「ユーシスも守るものが出来たからねえ。まあ、私は急ぎの仕事を思い出したから、お若い二人で会話を楽しんでおくれ……」


 にやりと微笑んだジリオラさんはそう言い、そそくさとその場を去ってしまった。


「ウェンディ」


「はっ……はい!」


 取り残された私は、居た堪れない思いでいっぱいだった。どうしてだろう……前はこんなに、団長の傍が居心地が悪いだなんて思うこと、なかったはずなのに。


 透き通る青い瞳の、まっすぐな視線。団長は素敵な人だ。ただ容姿が整っているだけではなく、彼の持つ空気……誠実で優しくて、そして、凜々しい。


「どうして、あの場に出て来た? ルクレツィアは逃げるように警告したと言っていた」


 団長は少し、怒っているようだ。私は身を守る術もなく、二匹の神竜が激突する場所に居たのだ。子竜たちに守ってもらって事なきを得たけれど、彼が怒ってしまうのも無理はない話なのかもしれない。


「そのっ……団長が心配で……私。逃げられなくて……ごめんなさい」


 その時、私の目から涙がこぼれてしまい、私は両手で顔を隠したら、団長は私の身体を抱きしめた。


「ああ。俺もあの時、胸が痛くて……ジルベルト殿下には悪いが、これは死んで貰う他ないと思った。子竜たちが君を助けたと知り、誰かを守るためにはなんでもすると思ったんだ」


「団長……」


 私が顔をあげた時、宙に浮く子竜たちが私たちを取り囲んでじーっと観察しているのを見て、慌てて両手を突き出して彼から離れた。


「えっ……なんで……」


「良いところだったよね?」


「続けて続けて」


「気にせずどうぞどうぞー」


「なんでやめちゃうの?」


「ほんとだよ!」


「離れないで、もっと見せてよー」


「ねー。みたいー」


「そうだよー」


「ウェンディ良かったねー」


「嬉しい?」


「二人とも仲良しだね」


「ねー。どうして離れたの?」


「気にしなくて良いからー」


 子竜たちの質問攻めに合い囲まれている団長は苦笑いをしたので、私はこの微笑ましい状況に我慢することが出来なくて大きな声で笑ってしまっていた。



◇◆◇



「良いですか。お父様! もう、絶対に駄目ですよ。カジノでお金を稼げたなんて、奇跡なんですからね! 二度目はもうないんですからね!!」


「わかった……わかったよ! もう、絶対にしないから!」


 つい、三日前にディルクージュ王国へ帰ってきたお父様は、伸びてしまった髪も髭もぼさぼさだった。けれど、アレイスター竜騎士団に迎えに来て、私が令嬢らしいドレスへと着替えると男泣きして大変だった。


 現在の私はというと、爵位を抵当に入れたお金で異国のカジノで大勝ちしたお父様を叱っていた。


 ジルベルト殿下とウォルフガングが暴走した事件から一週間ほど経った時のこと、私のことを迎えに来たお父様に連れ帰られて、アレイスター竜騎士団の皆に別れの挨拶も出来ずに、今ここに居る。


 あの時、借金をした友人に借りていた全額を返し、取り戻せるすべてを買い戻し、グレンジャー伯爵邸には、以前に勤めてくれていた使用人たちも知らせを受けて戻りつつあった。


 つまり、私は以前の暮らし……グレンジャー伯爵令嬢ウェンディとして、社交界デビューだってすることが出来る。


 私の胸には団長と契約結婚をして、カートライト侯爵家の紋章が刻まれているけれど、彼と離婚することになっても、グレンジャー伯爵家の紋章が浮かび上がることになる。


 だから……私と団長は、今では契約結婚する必要がなくなった。


 まだ、団長とはゆっくりと話せていないけれど、離婚することにはなるだろう。


「……お父様。私一度、アレイスター竜騎士団に戻らねばなりません。ただ一人になった私を雇ってくれて、とても恩義を感じているのです。挨拶もしなければなりませんし……」


 アレイスター竜騎士団の皆に、会いたかった。ジリオラさんにも父の事情は説明したものの、あの人とは話したいことがたくさんある。


 それに、子竜たちの巣立ちだって、もうすぐなのだ。子竜守を続ける必要もなく、普通の貴族令嬢に戻るとは言っても、彼らの巣立ちを見届けたいという気持ちは変わらない。


「ああ。それは私も、わかっている。ウェンディ。しかし、お前の社交界デビューの方が大事で先だ。ちょうど一週間後にデビュタントたちが集い王族へ挨拶をする夜会がある。だから、その夜に社交界デビューをしてから、やらなければならないことを片付けてはどうだ?」


「もう……お父様。社交界デビューというと、王族への拝謁もするのよ。私はドレスもなければ、装飾品もないのに」


 貴族界への仲間入りという意味合いの強い社交界デビュー時に、既製品のドレスという訳にはいかない。何ヶ月も前からドレスのデザインを練り、それに合う装飾品だって、注文したりもする。


「ああ! わかっている。だから、私はもう既に用意しているんだよ!」


「……用意している。ですって?」


 私は一瞬、あの時……父が友人に裏切られ、すべてを失った日に売ったあの白いドレスを思い浮かべた。


「ああ……お前の部屋にすべて用意してある。見ておいで」


 父はそう言ったので、私は急いで二階へと階段を上がり自室へと向かった。家具などもすべて売り払ったから、お父様は今色々と注文を掛けているらしい。


 だから、ここに帰ってから三日ほどは父の使う執務室にある、仮眠用の小さなベッドで眠っていたのだけど……。


「まあっ……凄いわ」


 私は思わず、声をあげてしまった。


 あの時に失ったあのドレスとは違うものの、幾重にも繊細なレースが重ねられ、ひと目見るだけで高価だとわかるような、美しく可愛らしい白いドレスだった。


 揃いで置かれていた、白い靴に、下着……それに、美しい宝石で飾られた装飾品まで。


「なんだか、高価な物ばかりね。お父様ったら……どれだけ異国で儲けて来たのかしら」


 異国のカジノは一攫千金を狙う者たちを喰っては私腹を肥やす悪魔の住む地獄だとは聞いているけれど、私の父は逆に悪魔の獲物を食い散らかして来たらしい。


 突拍子もないことを仕出かすし、本当に仕方のない人だけど、友人には裏切られてどん底に落ちても助けてくれる友人にも恵まれ……なんだか、運が悪いのか良いのか……本当に、良くわからないお父様だわ。

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