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27 咆哮

 ついさっきまで白い雲ひとつない青空が広がっていたはずなのに、暗雲立ちこめる風景に心には嫌な予感が広がった。


 あんなにも震えてしまうほど、ひどく怯えていたアスカロン……それに、団長の危機として、私には見えた風景……ウォルフガングが、暴走したですって……?


 ウォルフガングはジルベルド殿下の竜ではあるものの、彼を知る誰もが気の良い竜として語っていた。


 だと言うのに、突如として暴走してしまうなんて、何があったの……そんなウォルフガングに対抗出来る神竜ルクレツィアは、私たちを守るために必ず出撃したはず。


 ……自分の竜騎士、団長を背中に乗せて。


 私は子竜たちが飛行訓練をする、あの広い草原にまで走った。慣れない身体でいきなり走ったせいだろうか、お腹が痛い。けれど、そんなことくらいで、止まる訳にはいかない。


 ディルクージュ王国の貴族夫婦は不思議な力で繋がりお互いの危機には、胸騒ぎがすると言う。私があれを見たということは、団長に命の危険があるということ。


 開けた空間には、強い風が吹いていた。けれど、私が走って来た場所には吹いていなかった。


 これは、ここに居る存在が吹かせている風だということだろう。


 立ち止まって上空を見れば、そこには、大きな翼を広げた黒い神竜が二匹。


 お互いの動向を窺い、睨み合っているようだった。片方、少しだけ大きなウォルフガングは明らかに様子がおかしく、黒く雄々しい身体を取り巻いてるのはパチパチと光る白い稲光。


 ああ……暴走している。


 もう片方、団長を乗せたルクレツィアは、落ち着いているようだ。いくつか自分の前に、半透明な盾のようなものを置き、どんな攻撃が来ても良いように対処している。


 いきなり苦しげで悲しい咆哮は遮る物のない辺りに響き渡り、私の身体には嫌な予感が走った。


 ウォルフガングが先に仕掛けたけれど、ルクレツィアは慎重に攻撃を防ぐ。けれど、戦いはルクレツィアの防戦一方になっていて、団長はいくら攻撃されても、ジルベルト殿下を乗せたウォルフガングに攻撃することはなかった。


 嘘でしょう……団長はこんな時になっても、ジルベルト殿下に遠慮しているというの?


 防戦するばかりで攻撃をしなければ、殺されてしまうかもしれない。ああ。けれど、団長はいつもこうしていた。


 優しいからジルベルト殿下の悔しい気持ちを思いやり、自分が我慢すれば良いと、これまでに何もしなかった。


 けれど、今は殺されてしまうかもしれないのに!!


 私はもどかしい気持ちで、胸の前で手を組んだ。ウォルフガング側は幾度攻撃を仕掛けても、軽々と躱すルクレツィアに対し苛々しているようだ。


 その時、無数の稲光が光り、破れかぶれな攻撃をウォルフガングが放ったのだとわかった。


「っえ……」


 幾筋も空に線を描いた光、その一本が自分に向かって来ているのを見て、私は思わず目を瞑った。命の危険を感じたけれど、もうここから動いても手遅れだと瞬時に思ったのだ。


 けれど、甲高い金属音のような、大きな音が響き渡り、私は何事かとパッと目を開いた。


「えっ……生きてる? あ……アスカロン! それに、皆……」


 死を覚悟した私の前には十数匹の子竜が集まって、何枚かの半透明の盾を作り出し、彼らは懸命にそれを支えていた。


 しぶとく残り、なかなか消えてくれない白い光も、子竜たちは何度も何度も押し返し、徐々に勢いが衰えて、そして、消えていった。


「ウェンディ! 駄目だよ。巻き込まれれば、死んでしまう!」


 アスカロンが真っ先にぺたんと尻もちをついた私へと飛んで来て、何匹もの子竜が服や手を引っ張って座り込んでいた私のことを動かそうとしていた。


「けど……けど、団長が……」


 私が空を見上げれば、先ほどまで防戦一方だったルクレツィアが、打って変わって攻撃に転じていた。先んじて造っていた半透明の盾を取り巻き、もうウォルフガング側は攻撃しても効かない。


 ルクレツィアはこれまでは見られなかった迷いのない動きで、一気に攻撃を仕掛け、ついには神竜ウォルフガングを地面にまで追い詰めた。


 そして、これまで近くで戦いの成り行きを見守っていたらしい、アレイスター竜騎士団の竜たちが一気に集まり、半透明の盾を無数に作り出した。


 ウォルフガングは苦しげに咆哮をしたけれど、身体は自由を奪われ、動くことは叶わなかった。


 ああ……完全に、勝敗は決していた。団長は助かったんだ……良かった。


「……皆。ごめんね。私のせいで、危ない目に遭わせてしまって、ごめんなさい。早く帰りましょう」


 ほっと息をついた私は傍に居た子竜たちを連れて、アレイスター竜騎士団屯所へと戻ることにした。


 この子たちの親が、ああして出て来てくれたならば、子竜守として任せてくれている私は、子竜たちを守らなければならない。


「良いんだよっ。ウェンディ、いつもありがとう」


「ありがとう」


「うまくいってよかったー」


「けど、なんか駄目かもって、思ったよねー」


「ねー。結界って難しいんだね」


「無事で怪我もなくて、良かったよ」


「嬉しいねー」


「あっ……お父さんとお母さんだっ」


「ウェンディ。もう危ないことしないでね」


「早く帰ろう」


「神竜って怒ると怖いんだねー」


「ウェンディって、いのちしらずってやつじゃない?」


「ねー」


「そうだよー」


 私は飛行する子竜たちに髪や服を引っ張られたりしながら、竜騎士団への道を辿った。


 後ろは振り向かなかった。もう大丈夫……危機を脱することが、出来たと確信して。

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