My sweet umbrella
「彼氏さん、来てるわよ」
帰るために鞄をまとめてる最中、友達に囁かれる。が、問題は彼氏と言われて思いつく相手も居ないってことだ。大体私そっち系だしな。
「アレ。校門とこにバイク乗り付けてる奴」
言われるままに窓から校門を見ると、確かに見覚えのある人影がバイクにもたれ掛かっていた。こっから見ても分かる、気怠げな優男の細マッチョ、みたいな風体をしてるので分かりやすい。ヘルメットをもう一つ持ってるせいで誰かを待ってると言う事実も確かに分かり易いな。
だが一つだけ訂正しておこう。
「彼氏じゃないけど」
「前親しげにしてなかった? わざわざ学校まで送迎に来る様な奴とか彼氏以外考えられないんだけど」
「アッシーの可能性とか考えないの?」
ま、実際電話一本で使える足と財布にゃ事欠かない。ステゴロ強い奴の特権みたいなもんだが、便利だからたまには下僕を使うこともある。ただ今回は別。
「……アンタ、そう言うタイプなの?」
「まあ勘違いさせても悪いし、さっさと言うならあの子、男子じゃないよ」
見た目で間違われることは多々ある。ぶっちゃけ単なる可愛い女の子なのにみんな見る目ないね。あの子に王子様ムーヴだの不良ムーヴだのさせても、似合うのは見た目だけで中身とは全く噛み合わない。
「は? アレで?」
「勿論、凄い可愛いよ。何なら見に来る?」
ま、イケメンムーヴしか見せないだろうけどね。大概警戒心の強い子だし。
適当なことをほざいてたらマジで着いてきた。まあいいや。そろそろ周りへの牽制も一個は入れときたかったし。
「待った?」
「今来たとこだよ、八重」
何でもない様な顔こそしてるけど、少々むくれてるの様子の鶴樹ちゃん。相変わらずわかりやすくて可愛いね。せっかく迎えに来たのに私が他の女の子を伴ってるのがそんなに不満か。今日はよくよく可愛がってあげる必要がありそうだ。
「あ、一応紹介しとくね。こっちは私の友達の晴海」
と隣に連れてる方を指差した後、今度は晴海の方に向き直って
「こっちは私の彼女の鶴樹。イケメンムーヴはガワだけだから普通に扱ってあげてね」
と鶴樹の紹介をしつつ釘を刺しとく。まあ、私と気が合う様な奴にそんな釘を刺す必要もないだろうけど、私の不注意で鶴樹に被害が及ぶのも良くないしね。ところがぎっちょん、口をぽっかり開けてる晴海さん。
「どったのさ、晴海」
「初耳の情報が二件飛んできたらビビるでしょ。ってか八重、アンタそっち系だったのね」
「そ。もう付き合って三年になるからね、なかなか年季も行ってるんだな」
「へー、すご」
語彙力の消し飛んだ晴海。大丈夫だろうとは思ってたけど、純粋な驚きだけだし晴海ならまあ大丈夫だろう。それよりも、鶴樹の方が問題だし、さっさと帰りますか。
つーわけで、私のヘルメットを受け取って、バイクの前に乗って鶴樹の腰にしがみつく。普段だったら当ててる胸の感触とかでもうちょい弄るけど、流石にここでそう言うのをやるのは気がひけるし、帰ってからにしようと心に決めた。
「ちなみに、なんで私を迎えに来てくれたの?」
「携帯で見て、今日ちょっと遅くなるって言ってた帰りの時間にちょうど雷雨の予報だったから……」
健気な可愛い鶴樹ちゃん。お礼に今晩は前後不覚になるまでトばしてあげよう。私のことが大好きってこと以外が全て忘れちゃう様な深い深い快感の海に落としてあげよう。
私の雰囲気を感じ取ったのか、運転してる背中がふるりと震えた気がするけど敢えて無視。だってこれは、鶴樹ちゃんの被支配欲の無意識的な表出だからね。大事に大事に育ててあげるのだ。