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中途半端な沼男  作者: 有機
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第03話 神田 翔

 突然の相席に驚く。そりゃそうだ。俺、今見知らぬ女だし。席を間違えたと思われたかもしれない。


 神田 翔(かんだ しょう)、小さい頃からの友人で現在も大学まで一緒と言う腐れ縁だ。

 髪は若干長め。身長は175~180程。黒髪で、大人しそうな印象を受ける男だ。趣味は主にゲーム。

休日は一日家に篭っているようなイメージもあったが、そういうわけでもないらしい。

 そんな翔が、今まで見たこともないような視線を俺に向けていた。


 どう声をかけていいものか百面相をしてから、口から出た言葉は「君、少しいいかい」だった。

自分の台詞だが、警察の職質みたいだと思った。


「何か?」


 翔は明らかな警戒を見せた。こんな状況、俺だって警戒する。

自慢じゃないが、俺たちは女性と関わる機会があまりない。クラスカーストも下から数えた方が早い。と、いうか底辺だと思う。

そんな人種に女性が積極的に話しかけてくるときは壷を売ったり、絵を売ったりと悪い事を考えているに違いないと思ったのかもしれない。


「壷も売らないし、怖い人も控えていないので話を聞いて欲しいんだけど」

我ながら胡散臭い言葉が出たものだった。


「では、何の用ですか?」

若干驚いたような表情を見せてこちらを窺ってくる。

…こいつ、本当に壷か何かのセールスかと思ってたのか?


「話を聞いて欲しいだけだよ。まずはね」

「俺は宗教勧誘もお断りですよ」

「セールスも勧誘もしないし、お金も取らないと誓う」

「じゃあ、少しだけなら…」

と、聞いてくれそうな感じになったので、素直な友人に若干の不安を覚えながら今までのことを話そうと思った。


「もしも――の話なんだけど、君の友人が突然女性になったらどうする?」

「それはあれですか?LGBT的な…」

「ごめん、質問の仕方が悪かった。急に君の知らない女性になるんだけど、中身だけはそのままというか」

「ああ、よくある入れ替わり的なアレですね。漫画とかである」

確かに、漫画とかドラマとかであった気がする。話としてはベタだ。

これが物語りならB級展開もいいところだと思った。

「そう、それだ。そして、友人の身体はそのまま死亡。

見知らぬ女性の身体に入ったままどうすることもできない」

「そりゃ、お気の毒」

「だろ?この後どうするべきか――」

「いや、お気の毒なのは女性の方さ。

状況から見るに、女性は多分友人の身体と一緒に死んでるじゃないか。

そして、死後も見知らぬ誰かに身体を好き勝手に使われている」

「仕方がないじゃないか、俺だって好きでこうなったわけじゃ――」

自然と声が大きくなっていた。


 少しクールダウンする。でも、確かにそうなのかもしれない。

俺がこの身体にいるということは、女性の意識は俺の身体へ――そしてそのまま…

だとしたら、これ以上の不幸はない。経緯はどうあれ、見知らぬ他人に人生を奪われたことになる。


「失礼、取り乱した。確かに、その可能性は十分あった。というか、それが一番可能性が高い。だとしたら、元に戻る方法なんていうのはそもそも存在しないのか――」

「その、元に戻るというのはどういう状態をさしている?

自分の身体がない状態で元に戻るということは――」

「そう、この身体を持ち主に返すということ。死人は死人らしく、あるべき所へ還らねばいけないと思っている」


 つまりそういうことだ。いつまでも人様のモノを借りているのは良くない。借りたら返す。小学生でもできる事だ。それがどういう意味であったとしても。

「しかし、元に戻る方法を探すにしても記憶喪失として診断受けといて損はないでしょ。しっかりと足場を固めて自由に動けるようになってからでも何かをするのは遅くはないのでは?

 そして、万が一『元に戻る方法』なんていうのがあって、それを選ぶか選ばないかの選択が出来たとしたらそれはもうその時に考えるしかないんだから」

格好良く決めたところで最もな意見を言われた。確かにそのとおりかもしれない。


「ありがとう。とても参考になったよ」

「いや、面白い話だった。ところで、まず昼飯くらい注文したらどうだい?『もしも』の話ではあるが、君は俺の友人なんだろ?今日は長くなりそうだしね」

驚いた。この展開は流石に予想外だった。

「こんな話が現実だと思えるなら、君の頭は相当ダメかもね」

正直な意見を述べた。俺には到底理解できない。

「信じてもデメリットはないからね。話としては興味深いし。もしも嘘でも、お金も払わずに女性と楽しい時間を過ごせる。本当だったら友人の力になれる。どちらにしても一人勝ちだ」


大したやつだと思った。同時に、こいつらしいと思った。

俺の友人の神田翔は困っている人を放っておけない、正義の味方だった。

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