合流
冒険者ギルドの判定室で『試しのオーブ』に触れてステータス評価を受ける。俺の評価は・・
戦士レベル13 生命力B 魔力D+ 精神力B- 強さB 守りB 素早さC+ 器用さA- 知性C- 運D 性質ロウ 属性土
だった。呼応してギルドカードも更新される。
Dが凡庸って基準。器用さA-はヤバい。パフォーマンスできる適性があれば即、手品師に成れる評価だ。
3ヵ月ぶりくらいに判定したがレベルが1つ上がり、精神力と素早さと器用さが上がってた。特に器用さ上がったな~。
「テツオ! 私も魔法使いレベル13になってたんよ~」
判定室の前の廊下のロビーでマミと合流した。
「いや~、生命力D+ 強さC- 素早さBに上がってました!」
「マミは、ほぼ盗賊か暗殺者のステータス評価だな」
「ふっふっふっ」
等と俺達はロビーで軽く話してから、ギルド内の簡素なカフェで薄くて苦いコーヒー(使う豆少ないからめちゃローストしてるっ!)を今後の方針をざっと協議し、取り敢えずギルドの中央受付、通称『ハロークエスト』に行ってみることになった。
色々言われるからなんとなく避けて冒険者ギルドと提携している酒場なんかで依頼を受けがちだが、ハロークエストで仕事を受けるのが普通に一番固い。
ソロではなくなったしレベルとステータスの評価も上がった。仕事の幅も増えたろうから様子を見よう、ってことだ。本職は『辻刺し』や『木彫り』じゃないからさ!
「なんで2人が・・」
13番窓口のエルフ族のセクシーなヨイヨイさん(既婚)は俺とマミがパーティーを組んでいるのを呆れられつつ、そこそこ件数のクエストリストを俺達に提示してくれた。
俺とマミは思案を重ね最終的に3件に絞った。それは、
1、『珍しい蘭酒の材料集め』推奨レベル10 報酬、10万ゼム。珍しい蘭酒試飲。不要素材(約12万ゼム相当)の取得。 内容、素材モンスターの撃破。 協力者、無し。 備考、要毒、麻痺対策。
2、『廃棄された教会でのアンデッド退治』推奨レベル10 報酬15万ゼム。 内容、レイス亜種、ブラックドック亜種撃破。 協力者、レベル8相当サポーター1名。衛兵1名。自警団1名。 備考、対闇対精神アクセサリー貸与。現地で既に内偵中。移動補助(現地までの往復乗り合い馬車)あり。
3、『声の小さい怪盗の逮捕協力』推奨レベル10 報酬日給2万ゼム。内容 『 怪盗つぶやき』の逮捕協力。協力者、現地衛兵隊及び自警団、その他参加冒険者とサポーター多数。備考、暗視装備貸与。移動補助(現地までの往復乗り合い馬車)あり。手柄が大きければ大幅ボーナスあり。
だっ! 自分達より推奨レベルが低いのはクエストの推奨レベルはソロ案件を除いて3人パーティーでの受注を前提としているからだ。俺達が選んだのは・・
翌日早朝! 俺達は衝突防止を兼ねたうっすら輝く魔除けを車両の後部に付けた8人乗りの乗り合い馬車に揺られていた。2頭引きで結構速い。
まだ暗いのでモンスターを刺激し難い緑色の陰火蝋燭を使った反射板付きのカンテラを、庇のある御者台の右側上部から突き出した灯り掛けに吊るしている。
御者は屈強なドワーフだ。腰の後ろにグラディウス(ゴツい短剣)を差し、御者台にはクロスボウと矢筒、手槍も2本置く。元冒険者か衛兵か自警団経験者だろな。
馬車は機甲の技術でサスペンションが使われているので快適だった
「贅沢ですね~」
さっきから水筒のハーブ水を飲みながらレーズンをモリモリ食べてるマミ。朝食らしい。
俺は別になんともないが、他に5人客がギッチリいたから近くの車窓の1つをスッと開けておいた。甘めの香水みたいな匂いが籠っちまうからな。気になる人は気になるだろう。
「だが依頼人、ちょっと怪しいぞ?」
「そこは内偵してるサポーターと協力者にお任せですよ? テツオ、我々には捜査だとか推理だとか、そういうチマチマした作業能力は絶無ですからね!」
「・・まぁ、な」
なんか揃って頭悪いみたいにされたが、清々しいくらい現地での戦闘以外興味無いマミだった。
馬車は途中の郷等にもいくつか寄り、俺達は昼過ぎ辺りに目当てのナリテェ郷に着いた。静かな郷だ。
俺達が引き受けたのは『廃棄された教会でのアンデッド退治』だった。
アンデッド退治クエストの発生した郷だけに何やら陰鬱な空気が漂っている気もする・・古びた建物、古びた小道、人気の少なさ、風にたわむ周囲の木々の緑の濃さ、鳴くカラス、横切る黒猫っ!
「よし、テツオ。取り敢えず馬車駅舎でトイレ借りましょう」
台無しだっ。それっぽく気持ち盛り上げたのに!
「・・ハーブ水ばっか飲んでるからだよ」
と言いつつ俺も駅舎で用を足し、スッキリした俺達は郷の酒場に向かった。昼間っから飲みにゆくワケじゃないぞ?
小さな郷でも酒を出す見せはそこそこあるが、俺達が訪れた『ポー亭』は冒険者ギルドの提携店だ。2階で宿屋もやってる。
俺達はポー亭の主人に話を通しカウンターで少し待つと、2階から褐色の肌の小柄なフェザーフット族の若い女が綴じた書類の束を木のトレイに入れて階段を降りてきた。
「いや~、中々ギルドから人が来ないから資料だけ渡して降りようかと思ってたとこだったんだよぉ。宿に狭い部屋取ってくれるだけじゃワリに合わな」
が、俺達を見てギョッとした。
「げっ? デススコーピオン・マミとへばり付きのテツオっ! えー?」
「なんですかぁ?」
「仕事はするってっ!」
俺達の信用度はこんなもんか・・。
それはそれで仕方無し、割り切って俺達はポー亭の主人が空けといてくれた店の個室に移動した。
「2人! ほんと大丈夫なのか? 刺したりへばり付いたりしないよなっ?」
「刺さんよっ」
「誰構わずへばり付いたりしないぞっ?」
悪質な魔物じゃねーかっ!
「ならいいけど・・」
サポーターのフェザーフット族の女は咳払いをして改めて俺達を見た。
「あたしはサポーターのアッチ・トーチテイルっ! 歳は今年で16、種族はフェザーフットっ。相当レベルは8っ! 適性のある職業は狩人と盗賊だっ。ギルドにサポーター登録してまだ半年くらいだけど結構優秀だよっ?」
「私はマミ・シューティングスター。毒針を愛し毒針に愛されし魔法使いですっ!」
「俺はテツオ・ブラックウッド。戦士で、やがて鋼の剣を買う男であると共に既に鋼のロンデルを買い終えし男だっ!」
「・・自己紹介が結構強いね」
若干気圧されているアッチ。
「ま、いいや。大体の話を聞いてると思うけど、今回のクエスト、ただアンデッドを倒すだけじゃ済まないかも? なんだわ」
アッチは声を潜めるのだった。