選考
翌日、土産物屋に一先ず最後の動物シリーズを卸し諸々の処理費用はどうにか相殺できた。税は土産物屋の分だけだ。
自由市場は運営元がグランオニオンの街なので市場の手数料等が税代わりだ。市場その物の利益より経済の活性化が目的だ。
貧乏人に稼ぐ機会を与えないと犯罪者が増えまくるっ、て事情もあるようだが・・
「これっ! 美味し過ぎますっ。飲み物ですかっ?!」
そう言えば紹介しそびれていた、この間、感動した肉挟みパンの屋台にマミを連れて来ていた。2人とも布の服だ。
さっき広間の機甲時計を見たら午後2時過ぎだったが、なんだかんだで昼飯を食べていなかった。
マミは気に入ってくれたようだ。
「いや噛めよ。蜂蜜レモン水も美味いぜ?」
「天国なんよっ!」
「天国、そこら辺にあったか」
「デヘヘ」
俺は美味いことは美味い肉挟みパンを食べ、蜂蜜レモン水を飲みつつ、あくびを噛み殺していた。
昨夜は戦闘自体、俺は久し振りだった上にそこそこな強敵! 加えて今日は土産物屋に直に卸さなきゃならないから3時間くらいしか寝てない。朝一でミント味のポーションを飲んで無理矢理起きてる状態だ。眠っ。
「・・でも意外と目減りしちゃいましたね。私が言うのも難ですが」
俺達の手元に残った利益は約32万ゼムだった。山分けで16万ゼムっ! 準備期間を含めると効率は悪かったが、一般の仕事で大体8日働いて16万稼げたらまずまずだろう。
「器用さと精神力のステータス評価上がった気がする。木彫りで働けるようになったし」
「それは私もですね。弱い出力の自在で持続的な魔法発動や針使いとして熟練度も!」
「まぁ、な」
マミは職業としての針使いってのの確立を企んでるフシがあるな・・
「買い物済んだら1回グランオニオンの冒険者ギルド行ってみないか? 今後の活動の整理をするにもレベル判定は必要だぜ? 俺ら衛兵に捕まったりはしているが、別に登録抹消まではいってないし」
そう『私はもう武器屋に迷惑は掛けません』と一筆は書かされたがセーフだった。
マミも『私はもう倒した犯罪者にむやみにトドメを刺して回りません』と一筆書かされたようだがやはりセーフ。
罪状の質にもよるが『多少の奇行』くらいならギルド抹消にはならないのだっ!
「そうですねぇ、私も魔法をあまり使わないので魔法使いとしてのレベルがいまいち上がらないジレンマがあったのですが、その辺も少し改善されたような気がしないでもないです」
肉挟みパンをモリモリ完食するマミ。俺もパンは食べ終わっていた。
「よし、レモン水飲み終わったらまずは買い物だ! マミ、今度は同行してくれ。俺は俺の理性を信用しないことにしたっ」
「なんですかそのダメ覚悟は?」
麦の茎のストローを咥えたマミに怪訝な顔をされてしまった。
冒険者らしく改めて鎧やローブを着込んだ俺とマミは中古の短剣短刀の専門店に来ていた。
そして案の定、俺は衝撃を受けた。
「っ!!」
す~~ばぁ~~ら~~しぃ~~っっ!!!
鋼の短剣短刀も数多くあったが、鉄や銅、場合によって石器や木製の物もっ! やはり彫刻刀とはスケール感と刀剣感が違うっ!
「はわわわ~~~っっっ、マミ! 凄いぞっ?! マミっ!!」
木彫りを経て、俺の刀剣感度は上がったようだ!
「大きい声で名前を呼ぶのやめて下さいっ! あとローブの生地を握るのもやめるんよっ、動けんしっっ」
「おっ? すまん・・」
いかんいかん、我を失い掛けていたっ。1人で来なくて正解だったぜ! 恐るべしっ、武器屋の誘惑力っ!!
「え~と、お客さん、大丈夫か? どういうのが必要なんだい?」
褐色の肌のハーフの店員が困惑気味に話し掛けてきた。
俺は自分の想いをどう伝えるべきか? 言いたいことがあり過ぎて上手く言葉が出なかったが、
「予算は今の装備の下取り抜きで11万ゼム。材質は鋼、彼の職業は見ての通り戦士です」
マミが代わりにテキパキとオーダーした。
「はいよ~」
スッと引っ込んでピックアップを始める店員っ。
「マミっ! 俺の鋼への想いはっ?!」
「物を見てからでしょう? 全然関係無い人にクソデカ感情をぶつけようとするのはやめるんよ?」
「ぬぅ・・」
マメめっ、毒針が絡まないとわりと常識人だっ!
そして程無く、
「11万で鋼製で実戦で使うとなるとこの辺かなぁ」
店員は23本の鋼の短剣短刀をズラリと並べたっ。
「ぐわぁ~~~っっっ?! 鋼の津波じゃーっっっ!!!!」
仰け反る俺っ!
「もういいですよっ、テツオ!」
「ここは鋼の祭会場かっ?!」
「?? お連れさん、大丈夫なのかい?」
「ちょっと鋼製品に思い入れがあるのと寝不足なんです。テツオ! 騒いでないでとっとと選ぶんよっ?!」
いい加減、長い前髪の向こうのマミの目が三角になってきた・・くっ、もうちょっと俺の鋼達と戯れたかったが、致し方あるまい。しまいに刺されるかんなっ!
「わかったよ。ふーむ・・」
俺は一通り見て、武器としての実用性はともかく鋼の純度や仕上がり、状態が他より見劣りすると判断した8本を弾いた。
「この子達は鋼的に無いな」
「お客さん、独特だが目利きだね」
俺はさらに残り15本の中から武器としての強度の足りない7本を弾いた。ここに関しちゃ俺も商売だ。見栄え良くてもすぐ欠けて折れる刀剣じゃしょうがない。残り8本。
「テツオ、貴方、選ぶとなったら早いですね」
「マミ、黙っててくれ。今は鋼達との時間だ」
「・・尻パンチしていいですか?」
ムカついたらしいマミに左の尻に強めにパンチされたが俺は動じなかった。
「ふぅー・・・」
呼吸を整え、目を閉じる。俺の周囲を駆け巡る8本の鋼の短剣短刀達。
色んな子達がいる。ドジっ子、ツンデレっ子、ヤンデレっ子、委員長タイプ、双子キャラ・・俺はそんな子達との教会学校での青春の日々を想う。
「フフフ・・ちょっ、待てよ」
「コールド」
「冷たっ?!」
いきなりマミに基礎冷気魔法を頭部に吹っ掛けられたっ。
「あにすんだよっ?!」
「今、存在しない記憶と戯れてたでしょう? 目を覚ませ、って話ですよ」
ジト目のマミ。『無』の表情で待機している店員っ!
「わかったわかった! ちゃんと選んだぜっ? 俺が選んだのは・・地味だけど基本元気! 時々打算もするけど根っこは誠実っ! 謝恩会でも頑張ってた、君に決めたっ!!」
俺は、残った8本の鋼の短剣短刀の中から小振りな『鋼のロンデル』を手に取った。
全体的に小造りで鍔も無いが、頑強でそれでいて鋭い仕上がり、小造りなのに柄の長さに少し余裕を持たせて実用的な物だ。
俺は、ついに鋼の武器を手に入れたのだ! 短剣ではあるがっ。
意外なことにマミの方の買い物はあっさりと済んだ。
約1万ゼムで毒針+0,5の毒を補充し、魔力を最大に充填すると2回だけ、甲羅の盾と同じ程度の防御力で装備者を攻撃から守る、中古の『甲羅の腕輪(充填式2回限定)』を10万で購入していた。
「オートガード2回だけでよかったのか?」
そのまんま亀の紋様の腕輪を左腕にしているマミ。
「中古でも予算10万ポッキリですからね。それでもこれまでノーダメありきだったのが、甲羅の盾程度とはいえ2回は耐えられるんだから生存率大幅アップですよ?」
「・・逆に今までよく無事だったな」
聞いてる方がヒヤヒヤしてきたっ。
「そのスリルも愉しんできたんですが、最近は少し考えが変わりました。テツオの面倒も看なくてはなりませんからねっ、へへ」
「おー? それはこっちの台詞案件だぞっ?!」
「なんですかぁ?」
俺達は軽く小競り合いをしつつ、久し振りにレベル判定をすべく、それなりに人の出入りのあるグランオニオン冒険者ギルド本部へと入ってゆくのだった。