結託
ミント湯に入った後、洗濯物をマミの『ヒート』『ウィンド』の魔法で乾かしてもらい、小ざっぱりした俺達は楽な布の服に着替え、近くの酒場、兎溜まりに来ていた。
店名通り兎型獣人族達が営む店だ。
俺とマミは荷物を空いた椅子に置き、木のジョッキでワインのお湯割りをグビグビ飲んでいた。
「ぷっはぁーっ、シャバの味だぁっ」
「最高ですねぇっ、一刺し、一っ風呂済ませた後のお酒は、最高ですねぇっ!」
ロクデナシの会話だが、お湯割りを飲み、ツマミも茹でたホウレン草の和え物とブロッコリーの和え物と茹でたジャガイモをシェアしているのは、別に酒を嗜む方のヴィーガンになったワケじゃない。
この3日牢屋で粥しか食べていないから、胃や肝臓が本調子じゃないからだ。
「・・で、だ」
俺は茹でジャガにホウレン草を乗せて食べ、アルコールが入った状態での味のしっかり付いた固形物の食事の美味さに軽く感動しつつ、切り出した。
「仮に2人でパーティーを組むとして、具体的にどうしてゆくんだよ? いや、その前にメリットは?」
実は俺、パーティーに誘われた際、言って見たかった台詞があった。それは「俺が組むメリットは?」だ。ふふふっ。
「まぁヒートとウィンドで洗濯物はすぐ乾きますよ? 洗濯屋と違ってタダですし」
「・・まぁな」
平静を装ってやったが、実はコレ、凄いメリットだ!
俺みたいな前衛職は毎回どのクエストでもドロドロになりがちで、しかもボンビーだから馬小屋暮らしで洗濯を干す場所に毎度四苦八苦していた。
だがこの流れで『洗濯すぐ乾くとすごく助かる』といった理由でパーティーを組むのはちょっとカッコ悪過ぎる!
俺はシレっとした顔のまま、ブロッコリーにホウレン草を乗せて食べた。うまっ、ホウレン草っ、万能説っ!!
「・・もうちょっと、材料だせよ」
「なんですか? 結構、欲しがりますね。そうですね・・単純に戦力が増しますし、魔法使いと組めばできる仕事のカテゴリー自体増えるでしょう。消耗品も纏め買いで効率いいですしね」
「なるほど・・」
ヤバい。断る理由が『しかしシリアルキラーである』以外無いが、そこが強過ぎるっ!
俺はホウレン草の上にホウレン草を乗せ、ホウレン草大盛りをフォークで食べた。美味いっ! いいぞっ、ホウレン草!!
「テツオ! どんだけ1人でホウレン草食べるんですかっ?! シェアしてるんですよっ? 今ので貴方のホウレン草は打ち止めですっ!!」
長めの前髪の向こうで目を剥くマミっ! くっ、コイツもホウレン草の実力に気付きし者だったかっ!
「譲らんではない・・」
俺は軽く咳払いした。
「マミ。お前、その・・辻斬り、というか辻刺しみたいな、一般人まではイッてないんだよな?」
フェチであっても一線を越えるか否かっ? その差で表の社会か裏社会かが決まる! どっちだ?!
「正直、考えないではないです。しかし・・」
マミはジャガイモの大きな塊をフォークで刺し、一口で口に入れモグモグ食べた。蛇の食事のごとしっ。
「私はやはり、血で血で洗うっ、ギリギリのバトルの中で毒針をブチ込みたいんですっ! はぁはぁっ」
想像で興奮するマミ。わかる。単純な結果ではなく、思考が尊いんだよなっ! 俺も鋼の剣の鋼感を想うのは好きだが、じゃあ強盗しよう、ってのはちょっと違う。そういうことじゃあないんだよ!
「そうか・・いいだろうっ」
俺は右手を差し出した。
「マミ! 一緒に互いのフェチ道を健全に極めようぜっ? 手を組もう!」
マミは俺の手を取った。魔法使いにしては鍛えた手だ。悪くない。
「テツオっ! 貴方のような男を待っていましたっ」
「よろしくな!!」
俺達はお湯割りワインで乾杯し直し、軽く雑談し、そう言えば逮捕された理由を2人とも言っていなかったことに気付いた。
「俺は武器屋の鋼の剣のショーウィンドウを見過ぎてヘバり付き過ぎて逮捕されちまったよ、ハハハッ」
「デヘヘっ、私も毒針専門店で近いことしがちです。我々の界隈ではあるあるですよ?」
「毒針専門店とかあるんだ~。ふふっ、マミは? なんで逮捕されたんだ?」
「大したことないですよ? 私が逮捕されたのは荷馬車の警護のクエストで野盗を魔法で撃退した後、我慢できず、気絶していた野盗達を1人ずつ毒針でトドメを刺して回ったのがやり過ぎと咎められた為でした」
「殺ってるじゃねーかぁああっ?!!」
台無しだっ。
「一般人じゃないですしっ、行商や旅人を20人くらい殺したり酷いことしてましたしっ、私の時も馬殺されてましたよっ?! 馬、可哀想だしっ、じゃあ刺すしっ!」
「『じゃあ』まで距離が短いだろっ?!」
「私は最短距離で生きてるんですっ! カゲロウみたいにっ」
「カゲロウは気絶した野盗にトドメ刺して回ったりしませんよっ?! カゲロウさんに謝ってっ!」
「イ~ッッッ」
「イーっとか言わないっ!」
ぐぉおおっ? 見通しが甘かったっ。上手くやっていけるのか?? 最悪、俺が刺されるヤツだぞこれはっ?!
というワケで2日後、俺とマミはグランオニオンから少し離れた、普通、素材狩りの為だけにはあまり冒険者達は来ない影森の東の端辺りに来ていていた。
俺達はキラーナス・強の群れと交戦している!
「ナスぅ~っ!」
蔓の触手を伸ばし暴れるキラーナス・強達っ。
対して俺はマミにクィックの魔法を掛けてもらっいた!
「加速からのっ、パワースラッシュっ!」
激突注意だが、加速中なら必中な上に2~3体纏めて倒せるぞっ?! よしっ。
マミの方は・・
「『エアシェイバー』っ!」
風の刃の魔法で範囲攻撃をして周囲の(マミは魔法使いだが刺したいので前衛で出てくる!)キラーナス・強に牽制をし、
「クィック! 刺す! 刺す!」
加速すると次々と的確に毒針を刺して仕止めていったっ。
「パワースラッシュ! パワースラッシュ! パワースラッシュ!」
「刺す刺す刺す刺すっっっ!!!!」
俺1人なら手に負えないキラーナス・強の群れも2人なら余裕を持って壊滅できた!
「ふぅ~っ、こりゃいい。こんな効率よくなるんだ!」
俺はちょっと感動するくらいだ。
「凄い・・いっぱい刺せた・・デヘヘへっ」
よだれ垂れてるぞ、マミ。
「・・おいっ、戻ってこい。とっとと素材を回収しよう。比較的安全な端っこでも影森だかんな」
「はぁはぁ・・了解です」
俺達はキラーナス・強達の『強いヘタ』を引っぺがしていった。
毒針で倒すとモンスターは毒されて素材が回収し難い。俺のパワースラッシュも加速状態だと狙いが大味で繊細な倒し方は無理。
キラーナス・強の頭部に付いてる強いヘタなら多少は胴体が毒されても雑に両断しても問題無し、だ。
まぁグランオニオン近くで纏まった生息地といったら辺鄙なここしかないから、正直そこまで高価な素材でもないし普通に戦うとわりと強いし不人気な狩り対象ではあった。
それから地味に遠いので帰りも魔除けの野営地で1泊し(夜、小雨が降ってきて最悪!)、行き帰り合わせて3日も掛けて俺達はグランオニオンに戻った。
風呂屋にも酒場にも行かず、俺達はモンスター素材の買い取り店へ向かった。
「もう一越えっ」
「生活が掛かってるんですよっ?!」
俺とマミは粘り店主を心底うんざりさせてしまったが、19万2千ゼムで強いヘタを売っ払った!
俺達は一先ず人目を避けて路地裏に移動し、9万6千ゼムずつ山分けした。
ここでふと、気になった。
「マミは金の使い道はどうすんだ? 使った消耗品は補充しなきゃならないが」
俺と違い、金の使い道がよくわからない。
「私は毒針の『毒』を補充しつつ、針を少し強化しようと思います。今のままだとすぐ錬成鍛冶に持っていかなくちゃならなくて、万年金欠です!」
「9万ちょっとで強化までできるか?」
毒針強化の相場はさっぱりだが。
「虎の子の10万ゼムを解放しますっ」
「お~っ、豪気だな! そっかぁ」
この時、内なる冷静な俺が囁いた。(半年ぶりくらいに大した装備の損耗もなく9万ちょっととはいえ余裕ができた。ここは段階を踏んで計画を立てるべきでは? 大人になれよ、テツオ)・・ふむ。
「俺も虎の子を動員して、中古の鉄の剣でも買おうかな? 銅の剣を下取りすりゃギリ買えると思うんだが」
「そこは鋼の剣の為に貯めないんですね!」
ニヤニヤしてくるマミっ。
「鋼の剣はよっぽどアレなヤツじゃない限り、中古でも90万ゼムはするんだぞ? もっと稼げるようにならないと!」
「完全に浮気じゃないですか?」
「違ぁうっ!!」
路地裏でしばしモメたが、なんだかんだでこの後、毒針屋にゆくマミと別れた俺は鉄の剣を買うべく武器屋へと向かうのだった。鋼じゃないが! 買うぞ~