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ながいきのひけつ

作者: 朔月 茨

この物語は、日本の少し未来のお話。誰かの心に、少しでも残るといいなと思いながら書きました。

日本のテクノロジーは発達して、ついに長寿の薬が開発された。人々は薬の効果や副作用を怖がって、薬を買う人は少なかったが、悪ふざけのような軽い気持ちで、薬を買い服用する若者も少しいた。この物語の主人公はのぞみ、この時代にしては古風で珍しい名前の、可愛らしい少女であった。彼女は、地下アイドルのグループのリーダーであった。ファンの数も右肩上がりで、とても充実した、順風満帆な生活を過ごしていた。メンバーも同年代、仲の良いグループで、みんな可愛らしく、努力家な少女たちであった。以前よりも少し大きなライブ会場、ファンのみんなとの握手会には長蛇の列、のぞみのグループは波に乗り始めていることが、目に見えてわかっていた。リーダーとして、のぞみは誇らしかったし、とても達成感を覚えた。ライブからの帰り道、とても暗い、静かな帰り道、自分たちのオリジナル曲を聴きながら1人で帰るのぞみ、のぞみにとっては、この時間が一番寂しく、虚しく嫌いだった。ライブが終わってしまったと言うのが実感されてしまって、あのキラキラな世界から一気に引き戻されるこの感覚が、どうにも嫌いで、早足になってしまう。家に帰り、エゴサをする日々。のぞみは自分が嫌われてしまうのではないかと言う心配をしながら夜な夜な眠りにつく。夢に向かって一生懸命で、前向きな他のメンバーたちと自分を、心の中で比べてしまっていた。自分は後先の心配や後悔ばかり、自分のネガティブなところが嫌いだった。アイドルになりたいがために、高校を中退してしまったこと、今でも後悔していた。AIやロボットがさまざまな職業を奪ってしまったこの時代、残っているのは人間にしかできないエリートの職業と、ロボットにでもできるがロボットの購入費や維持費を出すことのできない企業の、安月給の雑用くらい。今時高学歴でないと、エリートの職業にはつけない。自分には天性のアイドルへの才能があると思っていた昔の自分に腹が立つ。スマートフォンにしか目を向けていない生活を送っていたが、夜中どうしても寝付けなかったのぞみは、久しぶりにテレビをつけてみた。夜中、面白い番組はやっていないが、ニュースを聞き流していると、のぞみの頭の中は整理された。


「最近話題の長寿の薬、効果や副作用は?」


たった一文だけが耳に入った。のぞみはパッとテレビを見つめる。ニュースに触れずに生活してきたから、最近の出来事なんて、全然知らなかった。

東京都で強盗がありました。だの、行方不明だった〜さんが先日発見されました。

なんてニュースを見ても、自分の何の利益にもならないと思って、世間の事柄を完全に遮断していた。でも、こんなことが起きているなんて。慌ててパソコンを開いて、長寿の薬について調べる。つい先日、日本の科学者が発明した薬らしく、効果は確実だし、副作用もないらしい。値段はのぞみからすれば、目玉が飛び出るような値段であった。6000万円なんて、持ってるわけがない。でも、わたしがアイドルでい続けるためには、若さと美しさが必要なんだ、どうしても、必要なんだ。親に相談したら、反対されるなんてわかってたから、何も言わなかった。わたしがアイドルになることも反対して、一度もライブに来なかった冷たい血の持ち主た。あんな人に相談したって、正しい答えが返ってくるわけがない。わたしは自分1人で幸せを勝ち取ってみせる。だから

買わなきゃ。買わなきゃ。老けてみんなに嫌われたくない。だから、どうしても買わなきゃいけないんだ。誰も邪魔しないで。

なけなしの貯金全部叩いて、お金を借りて、長寿の薬を買った。

ついに手に入れた瞬間、これがわたしの生きる意味だったんだ、わたしはずっとアイドルを続けてもいいんだ。と言う気持ちが押し寄せてきた。思い切り泣いて、今までの不安が全部吹っ飛んでいくのを感じた。届いた箱の中には、緩衝材と、小さな小瓶に薬が三粒。こんな少しで足りるんだろうか。

あぁ、もう一瓶買っておけばよかった。お金なんて、アイドルとして、これから稼いで、すぐ返せるんだから。

のぞみは薬を飲んだ。何とも幸せな気持ちでいっぱいになった。自分に自信がついた。

それからのぞみは、以前よりさらに明るい性格になり、ファンも増えていった。グループも、人気がさらに増した。とにかく最高な気分だった。自分は無敵なように感じた。

その幸せが崩れ始めたのは、2年後の冬だった。メンバーの1人が脱退を宣言した。ファンの間では、話題になって悲しむ声が多かった。のぞみは、幸せが崩れていっていることに、まだ気づいていなかった。メンバーが4人になり、ファンの数も少し減った。でもオリジナル曲を配信するとトレンドに上がったりして、のぞみのグループはまだ十分人気があった。しかし、また、メンバーの脱退が決まった。しかも、2人。でものぞみはなんとも思わなかった。のぞみの中でメンバーが、『一緒に頑張る大切な仲間』から、『自分が輝くための踏み台』に変わってしまっていた。のぞみのグループはついにのぞみともう1人、じゅりあだけになった。じゅりあはファンに対して、とても丁寧に接しており、ファンもたくさんいた。のぞみにもファンはたくさんいたが、ファンが見ているのはのぞみの外見のみで、のぞみは人を見下すような人間になってしまった。じゅりあもアイドルを続けるには厳しい年齢になり、やがてグループをやめていった。のぞみは自分にはたくさんファンがいるという自信を持っていたが、いざ1人になると、自分のファンは両手で数えられるほどだった。のぞみはこの事実を受け入れられなかった。どこで間違えたのかすら、わからなくなっていた。ファンの人数や、自分の年齢という数字だけの情報で、のぞみはやむなくアイドルを辞めた。何年ぶりだろうか、こんなに後悔するのは、やはり学歴を積んでおくべきだったのだ。今や自分が着る服は、キラキラカラフルで可愛いワンピースや大きいリボンの髪飾りではなく、清掃の地味な服。わたしが着るのには早すぎる、まだこんなに若々しくて美しいのに!何が不満なの!?アイドルをただ純粋に続けたかっただけなのに。

清掃の仕事はロボットを買えなかったほどの小さな貧乏な会社であるため、給料も安かった。毎日生活するのに一杯一杯で、借金なんて返せるわけがない。そんな日々が、10年続いた。のぞみは38歳。周りの同年代に比べ、若すぎる容姿。しかし疲れ果てたその姿。美しかったはずの目。今やその目は虚だった。あぁ、なぜ長寿の薬なんか買ってしまったんだろう。メンバーのみんなと、アイドルとして、行けるところまで行って、上り詰めて、残りの人生は、アイドル時代のお金を少しずつ切り崩したり、メンバーと一緒に雑用の仕事でもして、細々と人間関係を大事にして生活すればよかったんだ。学歴なんかなくても、人脈でなんとかなる道はあったんだ。ただひとりぼっちで、借金を負いながら、雑用をするよりも、いい人生の道はあったんだ。やっぱりわたしの人生は後悔でできていた。なんでこんな人生なんだろうと、また後悔してしまう。わたしはもう、取り返しのつかないミスをしてしまったんだ。泣き出した。涙が止まらなかった。もう自殺しようと思って、自宅のベランダから飛び降りたが、長寿の薬の効果か、重症を負ったにも関わらず、死ぬことはできなかった。長寿の薬の効果は何年なんだろう、私は、いつになったら、楽になれる、、、?


『いつまでこの生活を続ければいいの?』


そんな気持ちで、長い長い、永遠の地獄のような200年を過ごした。友人や家族、仲の良かった仕事仲間。アイドル時代のメンバーも、みな寿命で死んでいった。若いままの姿で、幾度となく葬式に参列した。後ろ指を指されることも多々あった。でも、そんなことより何より、孤独が何よりも辛かった。いつ死ぬのかわからない、出口のないトンネルのような、暗闇が続いている人生。一筋の光も見えない。借金も持って、家族もおらず、あぁ、こんな最悪な人生になるなんて。そもそもわたしは、1人になりたくなくて、アイドルというグループに憧れたはずなのに。アイドルでない人より、ずっと孤独じゃないか。泣きすぎて、涙が出なくなってきた。感情も、どんどん薄れていく。これも、薬の効果なのだろうか?あれ?なんのために生きてるの?なんで、、わたしは、泣いていたの?あぁ。何もわかんないや。永遠の命なんて、素晴らしいじゃないか。あはは、なんで、悩んでたんだろう。何もかも、どうでも良いなぁ。早く、早く早く。


死にたいなぁ




あぁ、実験成功だ。ついに人間の心情だけで人を長生きさせることに成功した。え?あぁ、わたしは薬を作った張本人です。まぁ、あの薬は、小麦粉しか入ってないですけどね。たった今、のぞみという非検体が、わたしの実験の成功を証明してくれたのですよ。彼女は500年くらい生きれるでしょうね、これはめでたいことです、さぁ!お祝いしましょう!人間は薬がなくても不死身になれるかもしれない、これからの研究が楽しみです。さぁ、あなたも不死身になりたくはないですか?この薬を使えば、もしかしたら、なれるかもしれないですね。あぁ。でも、あなたはこの秘密を知ってしまったので、きっと薬は効かないでしょう。ずっと恨んでいた人を、騙してみるのに、使ってみるのも良いかもしれませんね。特別に、お譲りいたしましょう。くれぐれも、正しい使い方をするように、ね?

小さい頃から長生きをしてみたいと思い生きていた私ですが、実際そのような薬を作ることができ、世の中に普及したら、どのような恐ろしいことが起こるか、想像しながら書きました。同時にわたしはアイドルを目指していた時期があったので、主人公と自分を少し重ねながら書きました。誰かの心に残るお話が、これからも描けたら良いなと思っています、もし最後まで読んで下さった方がいらっしゃるのならば、私はとても嬉しいです。感謝いたします。

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