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食堂娘の神様革命  作者: 春樹
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食事

 

 ぱくりと口に含んだ肉団子を食むとジワリと肉汁がにじみ出る。

 こんな柔らかく上質なものはいくら食堂を営んでいると言っても、うちでは扱えなかったよなとゆっくりと味わっていると同じ顔をしていたルオンとばったり目が合って笑いあってしまった。

 でも、肉自体は美味しいんだけれど、日本時代のあの食へのこだわりや質ってのは国独自のものだったんだなぁ……日本食が恋しい……って食堂でもここでも出されている料理を食べてしょんもりしたものだ。


「こんないいお肉食べれるなんて学校様様だよねぇ」

「ルオン、来る前はあんなに不安だ不安だって言ってたくせに」

「だってぇ」


 と現金なルオンはそのままフォークでレタスのような葉野菜に酸味の効いた甘酸っぱいドレッシングの掛かったサラダに取り掛かった。

 食堂のうちより、卸を生業にしたルオンの家は色んな各国の食材なども取り扱っていたのだけれど、そんな彼女でもやはり別格の肉を見ると不安なんてなんのその。

 野菜一つ取ってみても、そもそもの質が違うのだ。


「これも聖女様効果ってやつなのかな」

「?」

「先生たちの中でも露骨ではないけれど、身分社会の中で明らかに低い私たちに向けられる視線っていいもんじゃないわけじゃない?でも、明らかにそれが分かるようなことはなにもされてない」


 まだまだ精神的に幼い学生なんて視線こそ感じるし、陰で色々言ってるんだろうなってわかる程度の気配はする。

 けれど、それでも階級社会全く関係なく、同じ食事が出されている。


「この学校に事の発端の聖女様がいるから、見えるところでは何もできないんでしょうね」


 この肉が一体何の肉なのか、考えてみたけれどメニューをみてみても見たことのない動物のものらしいことしか分からなかった。

 そもそもこの世界には牛や豚、鶏に似たものはいてもそれは牛や豚、鶏ではない。

 牛肉らしい見た目の切られた肉を昔一口食べて、鶏のささみのような食感と味だった時には驚いた。

 この学校で同じ種類の動物が出されたら流石に質も違うのかもしれないが、ぱさぱさとして脂身の少なさにげんなりしたもので、店でもあまり人気のないメニューになっている。

 もう少し似たような食材が周りに見つけられれば、漬け込みをしてみたりしても面白かったのだろうが、そんなことが出来そうなものは見つからなかった。


 例えばこのドレッシングでも、細かく刻まれた赤い調味料が薄オレンジのオイルに混ざって野菜と合わさり彩豊かだ。味も刺激はなく、柔らかい。

 自宅の食堂では保存期間を利かせるため、塩の味があまりに濃く、もしくは香辛料系のスパイスで臭みを無理に消しているものが多い。


 一つ敷地をいけばそんな食材が当たり前の地域と、そんな地域から来た人間がいることが分かっているのなら、普通は食事の種類を身分さによって分けられていたっておかしくはなかった。


 視界の端に彼女が来たことが分かるざわめきが起こる。

 今日も今日とて人好きのしそうな笑顔をしながら、食堂のスタッフたちの歓迎を受けていた。


「あんな風に普通に聖女様が来ちゃうんだもの、まさか位も何も関係なしに教育を受けさせるように言った聖女様の目の前でそんな分かりやすいことしちゃったら、どんな目に合うかわかんないしね」

「三食甘味付きってのは、流石のユラも凄い嬉しそうに驚いてたもんねぇ」


 失敬な。全てに感謝してるとも。

 その甘味にしても、甘みが強すぎてあまり好みではないからいつもルオンにあげているのだけれど。

 いつかもう少し食材を分かってきたら、うちの食堂で料理を作っていい許可は貰えているから学校を卒業したら色々試してみたいものはある。


 人ごみの中で明らかに位が高いだろう学生たちが集まっている席に聖女の彼女は連れられて、沢山の人に話しかけられながら、運ばれてきた食事を笑顔で受け取っていた。

 はたから見れば、楽しく談笑しながら食事をするお嬢様方って感じなんだけれど。


「ユラ?」

「なんでもないよ」


 見ていることがバレない程度に何度か眺めていて、なんとなくわかったのは聖女の彼女の食事のスピードが遅いことだ。

 決して授業に遅れるような遅さでも、会話のせいで止まっているわけでもない。残している姿も見たことがないのだけれど。

 あれは、口に合わないのを顔に出さずになんとか食べている顔だ。


 私はこの世界に来た時、幼子だった。

 食事が味覚に合わない、とも思ったが食事の選り好みをしていられるような環境でも、贅沢を言えるような家でもない。

 どちらかというと食堂をしていた分、よその家の食事を一度ごちそうになったことがあるがうちが数段マシだったのだと思ったほどだ。


 しかし、彼女の色んな話を聞いてみても、この世界に来たのはこの数か月のこと。

 まだ半年程度しか経っていなければ、環境に慣れるにも難しく、もし私と同じ日本から来たというのであれば……これはかなりしんどいと思う。

 薄味にすればいいというわけではない、味噌が欲しいというわけでも醤油じゃないとだめと言っているわけでもない……ただかつての食事と比べると、あまりに格差が酷かった。


 ニコニコと食事をするルオンを見ていると、そもそものこの世界の人と異世界人との好みが違う可能性もある。

 関わるつもりこそないけれど、同情はやっぱりしてしまう。

 彼女の後ろに常に立っている真顔のエンヴィーはそれに気づいてもいないだろう。


 いかんいかん、この間ちょっと助けてもらったからか変に意識するようになってしまった。

 あと精神的に年上だからか、なんだか親戚の子供が困っているのを想像してしまった。一応、環境的には歴然に向こうの方が良いはずなのだから、人の心配をしている場合ではない。


 場合ではないのだけれど……。



「この間の掃除機の!」

「はは……今日はよろしくお願いします」


 なんで午後の授業で一緒になってしまうのだろうか。

 フラグか?これがフラグってやつなのか??



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