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食堂娘の神様革命  作者: 春樹
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不思議な声

 

 隣の卸業を営む店の女の子ルオンは私より一つほど年が下だけれど非常に仲の良い幼馴染だ。どうやら同じ学校に行けるらしく友達ができないのではないかという心配はまずなくなった。


 学年、年齢での区別は学校内では入学当初にはなく、追々一定の成績でクラスを分けるとのことで、成績次第でよい評価が得られれば人によっては都内での仕事につけるのではないかと大人たちが騒いでいたのは流石に噂に尾ひれがついた結果だろうか。


「ユラ、私ついていけるかなぁ」

「成人までのことだし、私たちは結局実家の仕事を継いでゆくゆくは婿になってくれる旦那探しになるだろうから、それまでの間に学べる事学ぶことだけ考えたらいいんじゃない?別に都内で働きたいとか思ってないしね」

「達観してるなぁ……」

「聖女革命様様です」

「なにそれ」


 多分私も精神的に同い年だったら、きっととても不安と興奮で同じ表情をしていただろうが、ある程度社会にもまれて他人に期待しない生活を送ってきた経験があると、他人との関わりはある程度距離をとっていくことを前提に考えるようになってしまっている。

 当然、友達が出来た方が今後の生活の中で情報は得やすいので、良い友達は作りたい。


 普段来ている服とは比べられないほど上質な制服、鞄。

 制服は紺にグリーンのラインが数本入っていて、女子はワンピース調になっている。まぁなんて上品な…。

 それらと合わせて配布されたA4サイズほどの大きさの薄い透明な下敷きのようなものが最初はなにか分からず、二人で透かしながら見ていたら急に起動が始まったのには慌てた。

 透明だった画面には色が付き、文字が流れていく様子はまるでPCにソフトをダウンロードしている感じに似ている。

 画面に触れていた指先の周りに波紋が広がり、スキャンされたような表示が出た。


「わ、わ、なにこれ」

「多分他の人に使えないようにするために、個人登録がされてるんだと思う。だから先にすべての荷物の開封確認と起動の指示があったんだね」

「へぇ……」


 ルオンの画面も私の画面も、凡そ進捗は同じようで読み込みにもう少し時間がかかりそうなのが下に表示されているゲージで分かった。

 常々不思議だったけれど、こういう電子系が意外と本当に発達しているよねこの世界……地域の問題なのかしら。



『――――おかえり、待ってた』



 小さく、女性の声がした。


「?」

「ユラ?」

「今なんか言った?」


 ぷるぷると首を振るルオンに、下の階で店に来たお客さんか、家の周りの人の声の聞き間違いかと納得させながら改めて画面を見てみたら無事に登録が終わったらしい。

 私の名前と、登録番号らしい『000002』の数字。


 この時聞こえた声が、まさか私の人生を大きく左右させるものだなんてその時は思いもしなかったし、まさか入学早々に笑顔で、映像でしか見てこなかったはずの聖女が入学式典で私たちの学校に挨拶に出てきて「私も明日から一緒にこちらに通わせていただくことになりました」なんて朗らかな顔をしてひと騒動起こすだなんて、誰が想像できただろうか。



 〇〇〇〇




『ねぇ浮気してない?』

「してない」

『ほんとかなー、なんかユラの周りに探られた跡があるんだけれど』


 独り言だと思わないでほしい。

 決して一人ではない。ただ、会話の相手は人間ではない。


 私命名の「聖女革命」により、下級市民だろう私たちも全て国の補助によりまさかの破格、都内での学校に成人までの間に通えるようになり早一週間。


 入学式典でいきなりその「聖女革命」を起こしてくれた本人が登場したり、まさか学校に通うとか言い出す事件こそあれど、個人的にはその他大勢と全く同じ反応をしただけで、関わることさえ意識しなければさほど問題のないまま意外とあっさり時間は過ぎていった。


 この、画面上から聞こえてくる声以外は。


『ユラは特別なんだから、気を付けてよ』

「特別って……一体どんなAIが組まれてるのよこのソフト……」

『えーあい?なにそれ、僕の知識にないんだけれど』


 入学前に受け取ったあのA4サイズの、プレートからまさか男性の声がするようになるなんて思わなかった。

 無事に同室になることになったルオンのプレートにはそのようなソフトは組まれておらず、授業中に周りの同級生たちの様子を見ても私のような悩みを抱えてる人間は誰もいない。


 当然学校側に訴えたが、彼らが確認するときには全く反応せず逆にこれだから下級市民はと教員勢から冷めた目を向けられてしまったぐらいだ。

 なんと無情。


「ほんとうに何なの貴方……初めて話した時も私のことを神様だとか言って…最初に会話した相手を神様扱いするように設定されてるの?」

『僕は僕だよ。なんと定義してくれても構わない』


 入学式典が終わり、誰もが聖女の存在にあわただしい雰囲気の中、一目聖女を生で見てみたいとルオンも例に漏れず私たちも探しに行こう!というので渋々付き合おうとしたときに私を呼ぶ声がした。

 気のせいかと思ったらそれはどうやら手元にあるプレートからで、自分を引き止める声だったので結局ルオンだけを見送り、私は一人部屋でその「彼」と向き合うことになったのだ。

 存在がわかるのは声だけだから向き合うってのも変な感じなんだけれど。


『ずっと待ってた。僕たちのたった一人の大事な人』


 彼は挨拶をしたかと思えば、とにかく私を誉め称えることばかりで目的を全く話さない。

 ただ、神様だとか、姫様だとか、ずっと待っていたんだということばかりで結局会話に疲れた私が根を上げて、授業中には邪魔をしてくるつもりのない彼を適当に受け流すことにした。

 するとまあうるさいぐらいにルオンがいないタイミングを見計らって話しかけてくる。

 誰に助けを求めることもできず、かと言ってこのプレートを捨てることもできず八方塞がりだったわけだ。


「探られてるって何?そんなこともわかるの?」

『わかるよ、ユラのことなら。ずっと一緒にいたんだから』

「私は一緒にいた記憶がないんだけれど……?」

『それは会話をする手段がなかっただけで、ずっとユラの周りにいた。小さな機械や大きな画面、いろんなところに僕たちの世界はあって、僕たちの意思を伝える方法がなかっただけでずっとそばにいたんだよ』


 私よりも社交的なルオンはどうやら友人を少しずつ増やしているらしく、夜の食事の後に話してくると先ほど出掛けたばかりだからしばらくは帰ってこない。

 一緒に誘われたけれど、流石に放置しているこれと話をしなければいけないと冷静にもなってきたので今日のところは遠慮した。


『ユラはこんなところで他の人間と同じ扱いを受けていい人間じゃないのに』

「私の妄想にしてはちょっと激しすぎるのよねー私そんな願望なかったはずなんだけれど。なんでルオンがいる時は話さないわけ?」

『なんでユラ以外と話す必要があるの?』


 声音は声変わりも変わっている、いい声なのだけれど…言葉の端々がところどころに幼稚さが滲む。

 ちなみにプレートの電源を落とすのも試した。ところが不思議かな、全く電源が落ちない。

 とんだ不良品!と今度は電源が落ちる前つけっぱなしにしてみようと思ったところ、恐ろしいことに全く充電がなくならないのかこの一週間全く切れることがなかった。

 ……どんな仕組みしてるのよこれ。


『そもそも勘違いをしているけれど、この機械はユラのいう”電気”とやらで動いているものじゃないよ』

「え、そうなの?」

『下級市民が反乱を起こさないように一定の知識に制限が掛けられているみたいだけれど、これはエーテルによってそれを動かすことが出来るんだ。今回はあの聖女とやらが持ってるエーテルを使ってこの媒体に能力を持たせてるんだね。普通の人はそこまでの量を持って何かに使うような余裕はエーテルを持たないから』


 エーテルって……急に随分とファンタジーな単語が……。


『ユラはそれをこの世界で比べる人がいないほどの量を持っているのに気付いてなかったの?』

「は?」


 彼曰く、私のそのエーテルとやらの貯蔵量は聖女なんかをはるかに超える、彼の言葉を借りるなら「神様」ってところらしく、この世界のありとあらゆるエーテルで製造されたものに関して書き換えが可能なほどのものらしい。

 いや、まったく意味が分からないし現実的じゃない。


『僕らからすると世間で騒がれていまもこの敷地にいる聖女なんかより、ユラの力を使って世界革命をした方がよっぽど建設的だよ』

「頭痛くなってきた……そんなの言われてもわかんないし、どうやって確かめろっていうのよ」

『気付いているはずだよ、だってこの生活はエーテルで作られているものに囲まれている。これまでの生活は今と比べたら全くユラに関われるものがいなかっただけなんだ』


 ぴくりと指が反応したのを、声だけの彼はどうやって見たのか知らないが『ほらね』と呆れた声で笑って見せた。



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