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食堂娘の神様革命  作者: 春樹
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時計

 


 この世界の難点ってのはいくつかあって、そのうちの一つが時計だ。

 この世界には細かい時間割の概念がなく、精々あるのは砂時計のようなものだ。


 その代わり各町や区画ごとに鐘塔があり、その管理を行う職人たちがいるらしい。前まではただの鐘だと思っていたが、あれもエーテル機なのだろう。この国全ての鐘が同時に鳴っていると知ったのはこの場所に来てからだ。


 鐘の音は不思議とどこにいると聞こえにくいって場所がなくて、夜半の時には鳴らないようになっている。


 しかし夜の警備などもあるため、その時には手のひらサイズほどの鐘を持たされるらしく、父さんが町の巡回の当番が回ってきたときにはその鐘の話をしてくれた。

 身につけている人間にだけ聞こえるものらしい。


 鐘の音の回数で今幾つめの鐘か、と予定を確認することも出来るのだが寝ていて分からないってときはその音の違いで判断ができる。

 幼い頃から聞いていると聞き慣れてきて、この音が何時の音かわかるようになるのだ。


 例えるなら朝の五時ぐらいの鐘が一番高い音。これを聞いて、まだ寝れると子供の頃は布団にゴロゴロとして次の少し低くなった音で起きるのがいつものことだった。


 それにしたって、腕時計とかそんなのがあったら便利なのになぁと思ったこともあったが、しばらくして気が付いたのは町の誰も多分与えられたところで時計が読めないのだ。


 かつては乗れるようになった自転車のように、見たらそれだけでわかったのだが、幼少期の授業で時計の見方を教わったことを思い出した。

 あの頃は日常にあるものなので、基本的にはおいおい誰もが読めるようになったのだが、読めるようになるのには個人差があったことを思い出す。


 クリアが自身の声を発生させるためのエーテル機を作ってきたのだから、時計を作るのもいけるんじゃないかと思ったがそもそもそれを周知させるのに頭を抱えそうだ。


 私だけが理解しているのではいけないのだ。


 そんなことを想いながら構内の丁度中心に位置するらしい鐘の塔を見上げた。

 この辺は実は人はあまり来ず、休みの日の散歩道に使っていた。流石、都内に位置する学校とだけあって実家のある町の塔の装飾の無さと比べると月と鼈だ。


 華美とまで言わないぐらいの日の光が当たって反射する白い彫刻は、この国の神が描かれているのだがそれは人型をしていないので正直どう見るのが正確なのか分からない。


 ただこれだけの大きなものがこの世界で、これだけ細微に刻まれているのだから分からないなりに綺麗だという感想が零れた。


『マスターはお出かけされなくてよろしかったんですの?』


 都内にある学校のため、授業が休みの時は学生たちは連れ添って街にでて小銭をもって遊びに出ることがほとんどだ。

 一部勉学に努める人もいれば、家の手伝いに往復走って戻っている人もいるというのだから大したものだ。


 私やルオンの場合はここまで来るのに半日かかるため、緊急でない限りまず戻るという選択肢はなかった。

 しかしその分ルオンは都内で販売されているものなども勉強して、いつかは親の卸業から自身で小売業を行うのが目標らしい。立派だ。


 中級市民の気の知れた友達たちとも私も一緒に出たことがあるが、思ったより値段が安いものなどもあって今度戻れる機会があった時には日持ちのする土産を探していいかもしれないと認識を改めた。


「あまりお金があるわけじゃないし、街に出るとちょっとしんどくて」

『随分最初に比べて過敏になったもんね』

『ご実家が逆に何もなさ過ぎたんですわ、本来はあの程度はあるものなのですもの』


 少し歩くと植物園に着いた。

 この辺はホール上になっており、多くは施錠されておらず休みの日でも中を見ることが出来るので多少の観察などが許可されている。

 毒性の強いものもあるため、多くの学生は立ち寄らないが色んな意味でとても静かな場所なので私は個人的に気に入っている。


 ―――ごきげんよう

 ―――顔色が悪いですね

 ―――どうか、休まれて行って



「いつもありがとう」


 この声だ。

 実家に戻って、エーテルとそれ以外の感覚の違いがなんとなく分かるだけだったのが今はまるで色が違うんじゃないのかってほどに分かるようになってしまった。


 構内もそうだが、都内はもっと酷くて植物・道具・人、空気、昆虫に至るまで声がないものから声がはっきり聞こえるものまで聞こえてくるようになってきてしまった。

 ぶっちゃけ最初は幽霊だと思ったんだけど、メティに幽霊なんて存在しませんわと身近にいる非科学的な存在にまさかの幽霊を否定された。


 毒性の強いものがそうなのか、そのへんの違いは分からないのだけれど彼女たちは割と静かで心地よいと知ったのは結構最近のことで休みのたびにちょこちょこ来るようになってしまった。

 また促されるまま備え付けのベンチに座り、大きく息を吐いた。


 どこのお姫様だろうって思うぐらいに鳥も寄ってくるときがあるのだが、今日は遠くからこちらを窺っているのが分かった。

 気を使われてるのまで分かるようになってきたんだなぁ。


『それにしてもこないだまでここまでじゃなかっただろ。急に成長でもしたの?』

「うーん……」

『人は近くにいませんわ、どうぞ遠慮なく話してみてくださいまし』


 話すのは良いんだが、二人が気付いていないで私が聞こえてるだけなら本気で幻聴かなんかかもって思ってるんだけど。


「鐘の音が……」

『鐘?時間を知らせてるあれ?』

「あれ」


 閉じていた瞼を開けて、ベンチからでも見えるあのさっき横切ってきた塔を見上げるとかなり高い位置についている真っ白な鐘が、光沢をもって輝いていた。

 いっそ神々しいまでに真っ白だ。


 私が今まで見た塔は木造だったが、確かに鐘は同じように白だった。大きさの程度は分からない。


「鳴るとなんか喋ってるように聞こえるのよ。結構あれ長いこと鳴ってるから頭に残って」

『なんて言ってるの?』

「それが分かれば話は早いんだろうけど、全然わかんない」


 やっぱり二人には分からなかったらしい。

 困ったような声音が二人から漏れて、気にしないでというがそうもいかないというのが二人だ。


『それは音が鳴っている時だけ聞こえるんですの?』

「そうだと思うんだけれど、なんかずっと聞こえてるような錯覚も……ううーん」

『では会いに行ってみませんか?何かあれば私とクリアで何とかしますわ』


 何とかって何?と思っていたところ、クリアが嬉々として乗ってきた。

 鐘に?会いに行くって何?って思っていたけれど、彼らにあれもエーテルがもとで出来たものだから、私なら話せるだろうというのだ。


 私、別に超能力者になった覚えないんだけれど……と、昔見たテレビの物の声を聴きます!みたいな特番を思い出した。ええー、私もあんな風に一人でこう言ってるああ言ってるとか語り出すの?


 渋る私の様子を見てメティが珍しく強気に食いついてくる。

 心配しているのだ、という。


『私たちにはマスターほどの感知能力がないので、おっしゃっているのがわかりませんの。近づけばわかるかもしれませんから』

「私が疲れてるだけかもしれないよ」

『それならそれでお休みをしていただくだけですわ』


 ご存じ?エーテルを操ればマスター位眠らせるのわけないんですのよと言われて、流石にすぐに立ち上がって塔に向かうこととした。

 最近なんだかメティに勝てなくなってきている気がする。


 そう思っていたら強風が吹いて、急に背中を押してきた。混乱しているとクリアが呆れたような声で急かす。


『多分これ早く来いって』

「ええ?」


 否定するとさらに強くなった風がぐんぐんとあおってくる。髪の毛なんてぐしゃぐしゃだ。

 そんな馬鹿な、と思って植物園の中の草や木を見てみたら全く揺れていない。


 うそやん。



コナン映画見てきました。今作最高でしたね。

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