48 一時撤退
「――リミッターの秘術を解除して、メビウスマターを暴走させろ!」
『無茶です!』
エスティカが答えるより早く、クシナダのほうが悲鳴を上げた。
「全部解除する必要はねえ! 何パーまでなら持ちこたえられる!?」
『……15%までならなんとか。』
「じゃあ、30%カットしろ!」
『なんで私に聞いたんですか!?』
「機械知性の予想を裏切る出力が必要なんだよ! やってくれ、エスティカ!」
「わ、わかりました」
「あ、ビームザッパーに内蔵してるメビウスマターは40%な! リミッターをカットでき次第、クシナダは軸線上にありったけ撃ちこんでやれ!」
『ビームザッパーが爆発しますよ!』
「そん時ぁそん時だ!」
「では、やります」
背後でエスティカが精神波を組み立ててるのがわかった。
目の細かい絨毯を編むように、精神波を編み上げる。
その精神波がツルギの機体を包むのが感じ取れた。
「リミッター解除、できました。本体は三割、ビームザッパーは四割です!」
『撃ちますよ!』
クシナダがビームザッパーを発射した。
さっきまでよりあきらかに太い火線が走り、ビームフィールドを赤熱させる。
「視界を遮れ!」
後方に加速しながら指示を出す。
『どうなっても知りませんよ!』
クシナダはビームザッパーを連射し、マギウスの視線を遮るようにビームフィールドを赤熱させた。
『むっ、逃すか!』
マギウスがこちらの意図を察してミサイルを放つ。
だが、
「エスティカ、すまんが堪えてくれ! バーニア全開!」
強烈なGとともに、ツルギが爆発的に加速する。
ミサイルの弾雨を置き去りにして後方へ。
『待て!』
「待つか、ボケ! 足をつけなかった過去の自分を怨むんだな!」
俺はそのままザッハトゥクルを脱出し、紫衣の森へと逃げこんだ。
『それで、どうするんです?』
紫衣の森に身を隠し終えたところで、クシナダが聞いてくる。
「どうすっかなぁ……」
頭をかく俺に、エスティカが言った。
「魔国に戻り、魔王陛下のお力を借りることはできませんか?」
「いや、それは無理だ」
「どうしてです?」
「マギウスが圧倒的すぎる。ティアマトやマジェスティックの機動性ではどうにもならない」
あの二機のドラグフレームは、マギフレームとちがって空が飛べる。
だが、ツルギのようにバーニアやスラスタで瞬間的な推力を得ることはできない。
ミサイルひとつ避けるにしても、いちいち羽ばたく必要がある。
ドラグフレームの装甲は厚そうだったが、ミサイルの直撃に耐えられるほどではないだろう。
……あのチビジャリ魔王なら、笑いながら炎の剣でミサイルを叩っ斬りそうではあるけどな。
だが、それができたところで数には勝てない。
彼女たちには実戦でミサイルの弾幕を切り抜けた経験などない。
それどころか、原始的な大砲以上の飛び道具を見たことすらないのだ。
そこで、エスティカが言った。
「あの……セイヤさまはマギウスに降るおつもりはないのですか? 勝てない以上はそれが合理的な判断かと思うのです。まして、マギウスはセイヤさまが火星に帰るための方法を知っています。あ、いえ、もちろん降ってほしいわけではないのですが」
「そいつは考えもしなかったな。まぁ、常識的に考えればそうか? いやいや、それでも、言うほど簡単なことじゃないと思うぞ」
「そうですか? セイヤさまは戦いを静観するだけでいいのですよね?」
エスティカの言葉に首を振る。
「まず、あいつは嘘をついてる。それも、かなりあからさまな嘘だ」
「えっ……?」
俺は戸惑うエスティカに説明する。




