プロローグ
こんにちは、こんばんは。
Tommyと申します。
拙い本作ですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
ーー僕には好きな人がいる。
同じクラスの女の子だ。
気立てが良くて友達も多い。現に、彼女の周りには人が絶えない。
容姿はというと、非の打ちどころがない。
『立てば芍薬 座れば牡丹、歩く姿は百合の花』って言うけれど、彼女はまさしくそうだと思う。
つまるところ……完璧。
高嶺の花だ、と鼻で笑う人もいるだろう。
でも、諦めたくない。
彼女を見た時に感じた気持ち。
とても甘く、でも少し酸っぱい。
そして何よりーー温かい。
この気持ちを諦めたくない。
「初恋は、男の一生を左右する」、昔の偉い人だって言ったじゃないか。
だから、僕は言ってやるんだ。
優しい風の吹く屋上で、他人のことなんか気にしない大きな声で、
彼女に「好きです」......ってーー。
……そんな風に考えていた時期もありました。
「んなもん無理だぁぁーーっ!」
僕は頭を抱えて、勉強机から立ち上がる。
「想像しただけで、震えが止まらない......できるわけないだろ、こんなの!」
100を超えたあたりから数えなくなった「脳内模擬告白」、今回もやっぱり失敗だった。
そう、僕ーー『田中 圭太』ーーは、救いようのないほどのヘタレだったのだ......。
思い返せば半年前。
まだ中学3年生だった時から、僕は毎日こんなことを繰り返している。
......小説風に、かっこよく言うならーー緑に萌え立つ草に、少しばかりの灰色が混じり始めたころーー僕は恋をした。
初恋だった。
相手は当時のクラスの女子、『新島 静香』さん。
けれど「告白して付き合う」なんて、正直無理に近かった。
何故かというと、彼女は所謂 【一軍】で、
対する僕は【三~四軍】......。
僕らの間には、天と地ほどの差があったからだ。
でも、僕は諦めなかった。
何度も想像で告白の練習をして、少しでも会話できるように「コミュニケーションン指南!」の本も読みこんで......
自分で言うのもなんだけど、結構頑張ったと思う。
ーーそれでも、ダメだった。
想像で何度告白しようとしても、足がすくんでできない。
本を徹底的に研究して、書いてある通りに会話しようとしても、何故か言葉に詰まってしまう。
気持ちは十分なのに。
何度も反復したのに。
それでも、できない。
もう、諦めようかーー。
......そう思っていた時、好機到来、僕に転機が訪れた。
高校受験だ。
学校から高校についての案内用紙が配られたとき、僕は思ったーー
「高校生になれば、変われるはずだ!」ーーと。
何の根拠もないのに、妄信的に。
……しかしながら彼女は「完璧」。頭も相当によかった。
順位表の、「学年1位」の欄から彼女の名前が消えたことはない。
だから当然、受験するのは県のトップ校......。
「うおおぉぉぉぉ!」
その日から、僕は《《また》》頑張り始めた。
飯食いながら勉強して、風呂入りながら勉強して、寝ながら......は流石にできなかったけれど。
すべては、悪い頭をトップレベルへと昇華させるため。
そしてこの手で、バラ色の毎日をつかむため……。
そう思って、僕は只管机に向かい続けた……。
ーー恋の力とは、偉大である。
なんと僕は、高校に合格することができた。
……貼りだされた表の中に、自分の名前を見つけた瞬間。
涙があふれ出てきた。
けれど、拭わなかった。
(......頑張ったな、僕)
滴り続ける大量の水によって、自らの努力と妄信を褒め称えたことは、恐らく一生忘れないだろう。
......そして、今に至る。
「せっかく頑張ったのに、今までとなんも変わらんやんけーー!」
一人でツッコんで、ベッドに寝転がる。
シーツは干したばかりで肌触りがよく、特有のにおいがする。
寝ながら、部屋を見る。
本棚にひっそりと埋まってる、付箋とインデックスだらけの「コミュ指南書」。
半年前まではにらめっこしていた机は、今はもうほとんど使っていない。
「はぁ......」
生温い虚無感に浸ろうとした、その時。
ーー雷鳴のような轟きが部屋に響いた。
「うわ、うるさっ!」
音源ーー机の上のタブレットーーを見る。
画面には、「時間です、登校してください」の文字。
近所迷惑なので、取り敢えず音をとめる。
「全く、もう少し音量を小さくしろっての」
このタブレットは、高校から生徒1人1人に配られたものだ。
名前を「バトルフォーン」という。
なんだか「シュゥゥーーッ!!」ってしたくなる名前だ。
そしてバトルフォーン、もとい「バトフォ」には沢山の便利機能が付いている。
今の「目覚まし」もその一つだ。
......しかし残念なことに「バトフォ」は、音量設定が出来ない上に、めちゃくちゃうるさい。
例えるなら、救急車のサイレン並み。
「今日、先生に言おう」
そんなことを言いながら、床に置かれた鞄をからう。
鞄は大きく、「青春」を入れるのに十分な大きさだ。
ーー卓上のバトフォンを持ち、
ドアノブに手をかける。
「じゃあ、行ってきます」
そして今日も、一日が始まる。
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