6-10経験
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、イルカはフグでキメることがあるそうですね。
だから何というわけではありませんが。
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水槽に足を踏み入れると、今までがやがやと広場に響いていた雑踏が静まりました。
周りを見回すと、それまでいた人波の一切がなくなっており、まるでこの世界に一人、取り残されてしまったような恐怖すら感じます。
ゲーム的に言えば、イベントを踏んでプライベートエリアに入ったというだけの話ではあるのでしょうけれども。
上から振ってくる水を避けながらひざ下程の水位で水の満ちた水槽を進み、マップ上で変わらず中央を指している目印に向かいます。
目印の位置に到着すると、すぐに調査ポイントを発見いたしました。
調査ポイントでは、中央に鎮座していた大樹の木の幹の一部に手のひら大に黒く変色した部分と、そこから黒い粘性の液体が流れ出ているのが見て取れます。
黒い液体が流れ出た周辺の水は灰色に染まっていましたが、一定の範囲ではっきりとした境界で二層に分かれ、それは周囲の水が、汚染水がこれ以上広がるのを封じ込めている様にも見えました。
調査ポイントには、汚染水に踏み入れなければたどり着くことができそうにありません。
明らかに嫌な予感をひしひしと感じながら、灰色に染まった水に脚を踏み入れます。
その瞬間、警告と共に『腐食朽呪』という状態異常が付与された旨の通知が目の前に表示されました。
すぐにその場から離れ、状態異常の内容を確認します。
影響は、継続的なHPの減少と、通常はステータスデバフのようですが、機構人形においては身体部品の急速な消耗となっていました。
状態異常自体は、内容を確認していた数秒で消える程度のもののようですが、調査ポイントに近寄るには汚染水を少し進まなければいけません。
どうにかならないかと手持ちのアイテムを漁ってみますが、めぼしいものは見当たりません。一旦戻って、長靴でも買ってくればいいのかもしれませんが、一度強引に行ってみることに。
消耗は困りますが、HP減少とデバフがそこまで強力なものではなかったのが、一旦マケボに行く面倒臭さに勝ってしまいました。
すこし頑張って、無理そうなら戻って対策を考えましょう。
汚染域に足を踏み入れると、また警告と共に状態異常が付与されます。
少し早足に調査ポイントへ進み、幹の変色した部分の目の前までたどり着くと、そこには幹に刺さった金属の杭がありました。
抜けばいいのかな? と考えていると、すぐに調査方法の指示がポップ。それに従ってゲージが満ちるまで調査ポイントを調べます。
杭をじっと見つめ、たまに出てくる印をちょんちょんとつついていると、少しづつゲージが貯まってゆきます。
調べ始めて十数秒が経つと、身体部品の軽度消耗の通知がポップ。
少し焦りを感じながらも、既に調査完了まで残り半分程度となったゲージに調査を続け、中度消耗の通知が表示されたのとほぼ同時のタイミングでゲージが貯まり切り、最後に杭を引き抜けば調査は終了、結果の通知がポップしました。
ただ、結果をのんびりと眺めている暇はございませんので、急いでその場から撤退。
汚染域を脱し、状態異常が消えたところで、ようやく一息吐くことができました。
中度消耗までの進行で見た目が酷いことになっています。
ここまでになったのは、チュートリアルの時以来ですね。やはり、対策をしてきた方がよかったでしょうか、と少しだけ後悔。
消耗はまたこの後ハツメさんの所で直してもらうとして、HPも200以上失っていたため、ちゃんと回復をしておきます。
調査結果を確認すると、この黒いのはこの大樹『精霊樹』にかけられていた呪いだそうで。
呪いの発生源となっていた杭には刻印が彫られており、その刻印は反精霊主義と呼ばれる集団のものとのこと。
杭自体はイベントアイテムで既にただの金属でしかなく、呪い自体も精霊樹が飲み込んでそのうち勝手に消滅してしまうとのことですが、迷惑な方々もいたものですね。
結果を一通り確認し終わると、マップ上のクエストの目的地が更新され、今度は街の四か所に目印が立ちました。
目印の位置には覚えがあります。確か、各所で見た若木と小さな池のあった場所ですよね。
一通りのウィンドウを閉じてざぶざぶと水槽を進み水から上がると、耳には広場の雑踏が帰って来ます。
そういえば、よく水濡れ状態になるので、水濡れ状態の付与を解除する何かが欲しいな、と水の滴る服を眺めながら思ったところで、改めてマップを確認いたします。
安全をとるのなら、新たに示された地点に向かう前に一旦消耗を直してもらった方がいいでしょうけど、行って、帰ってきてというのが正直少し面倒臭いと感じるのもまた事実。
二度手間、急がば回れ、という囁きを押しのけ、覗きにだけ行ってみることに。
その地点に行くだけでイベントを見て終わり、みたいなこともありますし……
一番近い目印をマップで確認。その地点へと向かいます。
たどり着くとそこには、以前見た時にはきれいな水を滴らせていた葉を黒く染め、灰色の水を滴らせる若木の姿がありました。
その若木の根元には、先ほど幹に刺さっていた杭と同じようなものが見てとれます。
これはやはりハツメさんの所に寄って、直してもらってきた方がいいでしょうか。
ただ、よく見ると若木が小さいのもあって、こちらは汚染水に触れずに調査を行うことも出来そうに見えます。
物は試しと調査ポイントに近づくと、やはり見た通り何の被害もなく調査することが可能でした。
順調に、先ほど同様の調査を進め、最後、杭を抜きます。
すると、羽々流々に回避感覚が発生。咄嗟のことではありましたが、なんとか感覚に従って身体を動かすと、杭の刺さっていた場所から黒い液体が噴き出し、今しがた身体のあった場所を通り過ぎて地面に落下。びしゃりと、石畳に広がりました。
び、びっくりしました……
振り返り、背後で広がった黒い液体を見ていると、それはぐにぐにと動き出し、潰れた球体を形成すると、蠕動し、経路の石畳を黒く染めながら若木の方へと移動を始めます。
水色とか白色とかなら可愛げもあるのかもしれませんが、黒だと気持ち悪いですね……
触れるのは避けたいところでして、どうしたものかと塊を眺めていたところ、それに答えるように『呪いの欠片から精霊樹の若木を守る』のポップが目の前に現れます。
守る? あれを倒すという判断でいいのでしょうか?
そこまで強そうには見えませんが、許容範囲外です。
一旦撤退の判断を下しまして、小さな広場から路地へと下がりました。
やはり、急がば回れになってしまいましたね。
路地へ足を踏み入れると、『クエストエリアを離れますか?』のポップが現れましたので、承認を返します。
すると、再確認のポップが表示されました。
『クエストエリアを離れると、進行中のクエストは失敗扱いとなり、最初から受注しなおす必要があります。よろしいですか?』
ふむ…… こうなりますか。やらかしましたね。
後悔先に立たず。
まあ、失敗して二度と受けられなくなる、というわけではない? と思いますので、別に問題ないと言えばそうですが、どうしましょうか。
悩んだ結果、少しだけ挑戦してみることに。
エリアを離れるのを取り消し、スティレットを抜きます。
こちらを無視して若木に寄って行く呪いの欠片に攻撃の届く位置まで近づくと、こちらが攻撃を仕掛ける前に、また羽々流々に回避感覚が発生しました。
感覚に従って身体を動かすと、地面から跳ね飛んだ塊がすぐ横を通り過ぎ、背後の壁に激突、潰れて広がりました。
相変わらずいきなり跳んでくるとびっくりします。
潰れた呪いの欠片を眺めていたのも束の間。はっと攻撃タイミングっぽい事に気づき、すぐさま壁に近寄って攻撃を加えようとしましたが、壁に広がった呪いの欠片は刃を避けるように動くと攻撃は壁に傷をつけただけで終わりました。
繰り返し攻撃を加えようとしたところで、またもや発生した回避感覚に慌てて身体を動かしました。
その直後、平たくなってぐにぐにと蠢いていた呪いの欠片が、平たいまま壁から離れて覆いかぶさるように飛び掛かってきます。
直撃は避けられたものの、僅かに避ける事に失敗。呪いの欠片が身体を掠り、腕の部分がじゅっと音を立て黒く変色し、ダメージエフェクトがこぼれます。
……油断しました。
弱い相手ではなさそうで、撤退の二文字が浮かびましたが、まだいけそうなので、今度はしっかりと考えて戦う意識に切り替えます。
適化、はまだ効果が切れていないですね。
記録引揚、は発動できる感覚が無く、効果無し、と。
どうやら近寄らなければ攻撃はしてこない様なので、落ち着いて準備を整えましょう。
幻影の稀撃と風の声を発動し、改めて若木に向かって動き出した呪いの欠片に近づきます。
同様に飛び掛かってきたところで、羽々流々を薄絹に咲く華の回避に切り替えてカウンターを狙います。
問題なく回避することができたところで、反撃の刃が呪いの欠片を捉えました。
そこで手に伝わってきたのは重く、硬い感覚。
先ほど意図せず石壁を攻撃してしまった時でもそこまで反動はなかったのですが、今回は思わず武器を手離してしまいそうになる程の鈍い衝撃が伝わってきます。
それでも何とか武器を振り抜くと、刃が呪いの欠片を両断しました。
1のダメージポップと共に。
1です……
これが、とても硬いだけでHPが低い敵、ということならいいのですが、そうでないなら少し困りました。
両断した二つの塊がずるずるとひと塊に戻っていくのを眺めながら、どうしようか考えたものの、一旦は何回か殴ってみることに。
もしかしたら、致命が入れば大ダメージとかがあるかもしれませんし。
なんて期待は、その後何度かの交戦で儚く散り。
致命が入る時には、攻撃時に赤い線が敵の身体に走るエフェクトが出るのですが、それが一向に出ません。
そもそも致命が入らないのか、あるいはとても確率が低いのかのどちらかのようです。
このまま、HPが低いことに賭けて殴り合いを続けるという選択肢もありましたが、それはこちらが万全の状態であればのお話でして。
腕の軽度消耗と、脚の身体部品が重度消耗状態。
訪れた通知によって、この戦いを早く終わらせてしまわなければいけないことが宣言されてしまいます。
やはり、ちゃんと直してから来るべきでした。失敗。
腕はまだいいとして、脚がまずいです。重度消耗の次は欠損でもう後がありません。
欠損までどれくらい持つのかわからない以上、撤退すべきなのは明白です。けれど、クエスト失敗の文字が頭の中でちらつきます。
残るは、もう戦いを早く終わらせてしまう他ありませんが、先ほどからダメージは1で、未だ呪いの欠片に弱った様子もなし。
さらには追い打ちをかけるように、上の装備品に破れ(小)、武器に刃こぼれ(小)の通知が続きます。
どうしたものでしょうかと、蠢く呪いの欠片の姿を眺めながら、思いついた順に、まず手始めにレッグベルトへと手を伸ばし手にしたアイテムを起動。投げつけました。
森狼との戦いの時の功労者、魔工炸裂板が着弾と共に起爆し、爆発。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲