6-3野菜抱えてのっしのし
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、一部の宇宙服は現代ではオーパーツと化しているそうですね。
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
人の多い中央通りを歩きながら、簡単にこのクエストについて考察してみることにしました。
考察、とはいっても初めて受けるクエストですし、簡単な想像しかできませんけれど。
一番印象深いのは、やはり道中に受けた攻撃ですよね。
あれは何だったのでしょうね?
ほぼ確実に今進行しているクエストの何かだったのだとは思いますが。
素直に考えれば、依頼主様はお嬢様っぽかったですし、クエスト名的にも恋を成就させたくないあのお嬢様のお父さんとかが配達を妨害するようにした、とかそんな想像になりますか。
いえ、でも咄嗟に逃げていなかったらあのまま死んでしまいそうな勢いで攻撃されましたけど、たかだかお手紙の一通で流石にそこまでするでしょうか。
それとも、相手がよほど趣味の悪い相手とか……
それならまぁ、わからなくもない、かな。
その流れで被害を被るこちらとしては困ったものですが。
中央通りに出てからだと、ほんの少し遠回りになってしまっていましたが、そんな考察をあれこれと巡らせていれば、お屋敷まで戻ってくるのはすぐです。
帰り道は、人通りの多さが衆人監視の目になったのか、元から襲撃は発生しないのか、それはわかりませんが、特に何事もありませんでした。
クエスト開始時の時と同じ門前の警備の方に声を掛けて、配達が完了したことをお伝えします。
もう一方の警備さんが屋敷へ報告に向かうと、すぐに件のお嬢様がお屋敷から飛び出してくるのが見えました。
彼女は感謝の言葉に続けて、相手の反応や返信が無いかと問いかけてきましたが、何の反応もなく封筒を室内へ滑り込ませてきただけですので、そんなものはありません。
そのことをお伝えしますが、彼女は「そうですか」と笑顔のまま一言。特に何を気した様子もなく、彼女はポーチからおそらく報酬と思われる袋を取り出して手渡してきました。
袋を受け取るとクエスト完了の通知と共に袋は光の欠片となって消えてゆき、所持金に報酬の3000 Cが振り込まれたのが確認できます。
「よろしければ、またお願いいたしますね?」
~ポーン… ポンッ~
笑顔でそう言葉を締めたと同時に、クエスト達成のハンコが押されました。
これでこのクエストも終了ですね。
彼女に会釈を返してその場を離れ、次なるクエストへと向かうことに。
マップを開き、残りのクエストの目印の位置を確認します。
そうしたら、次はこれにしましょう。
次に進行するクエストを決めたら、目印の位置に出発です。
目的地は、現在地から中央通りを挟んだ反対側。
位置的にはギルドの露店通りの外、中程に隣接するような位置で、裁縫のお店『&C‘s』の真裏、というわけではありませんが、おおよそそこらへん。
中央通りまで戻り『&C‘s』まで歩いたところで、周りを観察。
どこもそうなのですが、大きめのお店の横はスタッフオンリーというか、戸付きの柵がしてあって入れないので、少し周囲を歩き回りながらどこか適当に裏道には入れる道が無いか探し、発見した脇道から奥へ進入いたします。
マップ未記録の来たことのない区域なので、しっかりと確認しながら目印の場所へ。
幸いにも、こちら側は裏手に入るとすぐに壁に突き当たるので、シンプルに道が伸びているようでした。
マップを見るに、突き当たった壁は露店通りの外壁のようですね。
その壁に沿うように伸びた道を少し歩くと、目的の次なるクエスト開始地点に到着。
目的地となっていた建物は、職人区域の建物と同じようなつくりになっていて、扉にOPENの掛札があるところから見ても、お店のようです。
パッと見て何のお店かわかるようなものが無いと、依頼でなければ少し入るのを躊躇してしまいそうですが経営は大丈夫なのでしょうか。
扉を押すと、からんころんと、ベルが音を立てます。
店内へ足を踏み入れ、作りが同じであればカウンターとなる場所へ目を向けますが、そこに人影はありません。
また店の方は奥にいるのでしょう。
声を掛ける前に少し室内を見回すと、棚には統一性のない様々なアイテムが並んでいるように見えました。
何のお店なのかは品揃えを見てもいまいちわかりませんね。
カウンターに寄り奥へ声を掛けようとしたところで、タイミングよく奥の扉が開きます。
扉の先に目を向けると、そこには大きなカブが浮いていました。
そう、カブです。お野菜の。
子供が中身をくり抜いたカブをかぶって、黒い布で身体を覆ったら、今そこにいる方の大体の近似値を想像できるでしょう。
ただし、もちろん中に人が入っている様子はなく、目や口が笑顔の形にくり抜かれたカブの中では藤色の炎だけがゆらめいています。
「いらっしゃいませ」
ゆらゆらと宙に浮いて揺れるカブさんは、かわいらしい声でこちらへ声を掛けてきました。
声だけ聴いたら女の子ですね。
性別は不明ですが。
ところで布の部分がどうなっているのかとか、どうやって喋っているのかとか、多少気になるところではありますが、それはさておき、カブさんへ依頼を受けてきたことを伝えます。
「わぁ~、ありがとうございます」
カブさんがぺこりと頭? を下げるのに合わせて、上から伸びる葉が大きく揺れました。
見た目は新鮮に見えますが、生なのでしょうか。
触ってみたい気持ちを抑えて、続くお話を聞きます。
依頼の内容は、頭を取り替えたいから、指定の場所で大きく育っている野菜を幾つか取ってきて欲しいというものでした。
どうやら、ぶつけた拍子にカブさんのカブが欠けてしまったらしく、見せてもらうと言葉通り傷から悪くなり始めて、少し盛り上がってしまっていました。
採ってくる野菜は大きく育っているものであればなんでもいいらしいので、そこらへんは現地で、ですね。
カブさんの布の下から黒い歪な手の形をした何かが伸びてカウンターの下から一枚の紙を取り出すと、ペンでその紙へ何かしらを書き込みこちらへ差し出してきます。
行った先の受付で渡して下さいとのことで、その紙を受け取ると、クエストが開始されました。
==========
【たんこぶの治療法】フリークエスト
少し痛いので。お願いしたいです。
達成条件:指定アイテムの採取
報酬:悪戯な砂時計
==========
クエスト名的に薬草かなにかの採取なのかと思っていましたが、違いましたね。
お店を出て指定された場所を確認すると、目印は園芸師のクエストを受けた場所に立っていました。
向かうには露店通りの壁の向こう側に行かなければいけないので、どこかで通り抜けられればいいのですが、軽く見た限りでは中に進入できそうな場所は無いのですよね。
あまり期待はせずに、入れるところを探しつつ、壁に沿って門前広場の方へ歩みを進めます。
少し歩くと、建物にぶつかり歩いていた道は袋小路になってしまいました。
露店通りの壁と繋がっているということは、ギルドの建物ですね。
仕方なく、一旦中央通りへ出てから目的地へと向かうことにしました。
園芸師のクエストを受けた場所、名前を気にしていませんでしたが、マップ上の表記では『ザクロ農業園芸組合』となっている建物へと到着し、受付の窓口で先ほど受け取った紙を渡します。
「はい、確認いたしました。ノンナ様の貸地は十五番になっておりますので、あちらから外に出て、十五番の場所へどうぞ」
以前も通った道を通り街壁の外へと進みます。
言われた通り、十五番の看板が立てられているところを探すと、低い柵で囲まれた畑を発見いたしました。
畑には、お野菜に詳しいわけではありませんが、季節感を完全に無視したようなお野菜たちが並んで生っています。
畑に入ると、新しいウィンドウが立ち上がりました。
説明によると、採ることができるものは見ればわかるようになっているそうで、ちらりと目を向ければ、確かに、採取可能なものとそうでない物の区別がつきます。
その中で、複数個を自由に選択して採取し持っていけばいいようなのですが、採取したものはアイテムボックスなどに収納ができない、とのことで、沢山取っても持っていけないということですね。
さらに説明には、大きなものほど評価? が高くなりますが、移動に制限を受け、道中でぶつけたり落としたり置いたりすると、新しいのを運ばないといけません、と書いてあります。
ふむ。
それらを踏まえて、どれを採っていくのがいいでしょうかね。
一つでいいのなら、畑には抱えるほど大きなものもありますが、依頼として複数個持っていかないといけないので、却下ですね。
吟味した結果、トマトとかぼちゃで挑戦することにしました。
どちらも小脇に抱える程の大きさのもので、左右に抱えてゆけば安全かと思いまして。
他のは、にんじんはバランスが悪いですし、キュウリやナスは痛いですしetc...
とにかく手ごろなこの二つに決めました。
採取? 収穫した二つを抱えて畑を出ます。
それにしてもでっかい。
移動に対する制限は、明らかなのは速度の低下ですね、踏み出すのがよいしょといった風に重く感じます。
後は足元に布が纏わりつくような歩きづらさが少しあるような、ないような。
転んでしまいそう、ということは無いので、このもっさり感だけ我慢すれば問題はなさそう。
トマトとかぼちゃを脇に抱えて建物へと戻ります。
両手が塞がっていますので、扉は体当たりで開閉。
この世界の建物って扉が内開きなので、この建物から出られないのでは、と思いましたが、出入り口の方では窓口の方が開けてくださり、事なきを得ました。危ない危ない。
思考操作でマップを開き道を確認。
回り道さえしなければどんなふうに戻っても直線距離はあまり変わらなさそうですし、来た道を戻ればいいでしょう。
事故らないようにマップを視界端に寄せて通りを進みます。
のっしのっし。
門前広場まで戻ってから中央通りへ。
認識されてはいないのでしょうけど、こんな大きい野菜を抱えていると、なんだか視線を感じるような気がしてしまいます。
だからといって落としても嫌なので走ったりはしませんが。
のっしのっし。
来るときに出てきたギルド横から裏道へ入り、露店通りの壁に突き当たったら壁沿いに。
裏道は乱暴に歩いていると左右に抱えたお野菜たちをぶつけてしまいそうなので、少し慎重に。
のっしのっし。
リアルでこの大きさのものを持って、休憩挟まずにこの距離を歩いたら、翌日の筋肉痛は保証されるでしょうけど、この世界ならそんな心配はありません。
強靭な身体です。
リアルはあんなに貧弱だというのに。
リアルでも運動しないといけないのは、まぁ、その通りなのですが……
以前、三日坊主どころか一日で終了した朝のジョギングを復活させようかと、一瞬、瞬きよりも一瞬だけ頭に浮かべましたが、即座に脳内ゴミ箱へポイ。
あれはダメです。
終わった後行動不能に陥りますのでね。
とはいえ、リアルでも何か運動しないといけませんね。
そんなことを考えている内に、随分と時間が掛かった様な気がしますが、カブさんのお店へと無事帰還いたしました。
体当たりでぐいっと扉を開き店内へ。
両脇のお野菜を棚にぶつけないようにカウンターへ近寄ると、また丁度良いタイミングで奥の扉が開き、カブさんが姿を現します。
奥にゆらゆらと炎の揺らめく瞳? と目が合ったような気がしました。
両脇のお野菜に気付いてそちらに視線を向けたのか、カブさんの動きに合わせて頭の上の葉っぱが揺れます。
「わぁ~、立派なお野菜ですね。ありがとうございます」
喜んでいる声音に合わせて、カブさんはふわふわと宙で大きく身体を揺らし、葉っぱも一段とわさわさ。
改めて、持ってきたことを伝えると、カウンターの上に置いて下さいとのことでしたので、慎重にトマトとかぼちゃをカウンターへ。
改めて見ると、でっかいですね。
どちらもカブさんのカブより大きいかもしれません。
報酬の『悪戯な砂時計』というアイテムを受け取ります。
効果は、後で確認しましょう。
「本当に助かりました~。またお願いするかもしれないので、よかったらまたお願いします」
~ポーン… ポン~
クエスト達成のハンコもしっかりと押されて。このクエストもこれにて終了ですね。
ご機嫌な様子で踊るようにふわふわくるくると宙を回り始めたカブさんに、また頭? をぶつけないか少々心配になりながらも、カウンターを離れます。
お店のようですし、どんなものが売っているのか少し見てみてから、お暇いたしましょう。
そう思い、くるりとカウンターに背を向けました。
~きゅぽんっ~
……きゅぽんっ?
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲
追伸…
皆様、ご無沙汰しておりました。
少し遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
本年の抱負は『いっぱい書く』ですね。
どうぞ、2023年もお付き合いくだされば幸いです。