6-2なんでも屋さんだね
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、ネクタイって起源を辿ると防寒具なのだという説もあるそうですね。
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
目の前で風に揺れるバブルウィードの葉を両手で掴み強く引っ張りますが、当然先ほどと同様、すぐに抜けるような様子はありません。
先ほどよりは多少小さくとも、大地にしっかりと根付いているのは変わらないようです。
引っ張っていればそのうち抜けるのは先ほどわかりましたので、大人しく格闘を続けましょう。
先ほどは、そもそも抜けるのかという不安の方が強かったので気にしている余裕がありませんでしたが、やることがわかってみれば、今後はこのぷるぷるとした肉厚の葉が掴みづらくてしようがありません。
茎を掴もうにも根元の所まで肉厚の葉になっており、茎らしいものも見当たらないため葉を両手で掴むしかないのですが、弾力のある葉は掴んだ場所から変形し、力が分散することでとても手が滑りやすくなっています。
手から逃げ出すバブルウィードに少しイラつきを感じていたのか、無意識のうちに爪を立てるように葉を掴んで引っ張っていると、しばらくしてようやく二本目のバブルウィードが抜けました。
これで二本目。
急激に萎んで光の欠片と消えてゆくバブルウィードを強く握りしめながら、これが後三本もあることに辟易します。
劇的に楽になるとまでは言わずとも、なにかいい方法はないものでしょうか。
石板を戻しながら、何となくいくつかの方法を考えてみます。
一つはステータス。
この場合はSTRあたりが関係してくるのではないかという考え。
ただ、『戦闘適化』を使えば少しだけ数値を上げることができますが、微々たるものなので意味があるようには思えません。
このためにステータスポイントを振るというのも、微妙な感じです。必要となれば振るのに躊躇は無いのですが、これは何か違います。
もう一つは、切り刻んでみてはどうかという考え。
達成条件は『除草』なわけですし、収穫は出来ないのですから、切り刻んで消滅させてしまえば結果は一緒なのでは、と。
正直、こちらの方が手軽に現実的だと思いました。
そうと決まれば、次の石板を上げ、その下から出てきたバブルウィードに腰のスティレットを抜き、煌めく青白い剣身を石板から解放され生き生きと風に揺れるバブルウィードに向けて振りぬきました。
中心を横一文字に捉えたスティレットがバブルウィードを真っ二つに切り裂き……
と、いうことは無く、剣身はバブルウィードの表面を滑るだけに止まり、バブルウィードを激しく波打たせた以上の影響は見られませんでした。
こんにゃくやナタデココが切れない斬鉄剣の悲しみはこんな感じなのでしょうね。
一応、いちおう、必中を発生させられる『幻影の稀撃』のスキルを使用してしばらく切る、というか殴り続けてみましたが結果は変わらず。
ぶるんぶるんと波打つばかりで、特にダメージがあるようには見えませんでした。
敗北感……
なんだか無駄に疲れただけのような気がしますが、結局は引っ張るしかなさそうです。
ずる、というほどの事でもなかったような気もしますが、大人しく引っこ抜きましょう。
掴みにくい葉を両手で鷲掴み引っ張ります。
しばらくこうしていれば確実に抜けるのが分かっているからなのでしょうが、
結局はこれが一番早いように感じますね。
長い時間をかけて三、四、五本目と処理を進め、最後の石板を元の位置に戻したところで丁度、家の中へと入っていたお爺さんが庭へでてきました。
調子を聞いてくるお爺さんに、今しがた最後の作業が終わった所であることを伝えます。
依頼内容の作業は以上で終了とのことで、表の道へ戻り家を出たところで、お爺さんから感謝の言葉と共に小さな巾着袋を受け取りました。
アイテム名は『白燐花の種』。クエスト報酬ですね。
「いやー、助かったよ。よかったらまた頼むね」
~ポーン… ポンッ~
クエストウィンドウに達成のハンコが押され、このクエストも終了となりました。
袋の中を覗いてみると、想像よりも幾分か大きな真ん丸の白い種が詰まっています。
各種スキルを使用してみますが、反応が無く使用できる感覚がありません。
アイテム詳細には『白燐花の種』と、しっかり書かれているので、種は種なのでしょうが、見ようによってはラムネ菓子にも見えなくはないような気もします。
食べたらお腹から生えてくる?
一応、この身体はおそらく木材でできているわけですし、そんなこともあり得なくはないのでしょうか。
変なことを考えつつも、流石に試すつもりはないのでアイテムをボックスへ仕舞い、マップを開いて次のクエスト開始地点を確認します。
次は、『愛しのあの方へ』というクエストに向かいましょう。
これは、21レベルのお使いクエストですね。
奥、現在地よりも壁側、採掘師や園芸師のクエストをやった場所から丁度反対側に位置する場所周辺を指している目印を目指します。
歩いたことのない道にまた迷いそうになりながらも、少し歩いて家々の間を抜けると、壁沿いの少し広い道へ出ました。
ここまでくればもう迷わないでしょう。
そう思いマップから顔をあげると、そこには少し驚くような光景が広がっていました。
左右には、道に沿うように鉄柵と石壁が続き、街壁に沿うような形で建てられたお屋敷は造りこそ他の民家と似たような様式ではありますが、規模は何倍にも大きく、庭に一軒建っているのが見える、道中よく見た造りの建物が小さな小屋に見えてしまう程です。
ギルドの方が大きさで言えば大きいのかもしれませんが、庭もないですし、そもそもあれはひとの住む場所ではないですからね。
スケール違いなお屋敷を眺めながら、お掃除の事とかその他の生活を想像してしまい、私の心のどこか一部分が悲鳴を上げているのを感じます。
結論、住みづらそう。
大きなお家に住みたいという願望もない庶民なのでショウガナイデスネ。
左右を見渡すと、鉄柵の門とそこに立つお二人の警備の方を見つけました。
クエストの開始地点もちょうどその位置になっています。
近づくと警備の方に用件を尋ねられましたので、クエストを受けてきたことを伝えると、警備さんはもう一方の警備さんを残して奥へ。
少し待つと、ふわふわのドレスを着た女の子がお屋敷の扉からこちらへ走り寄ってくる姿が見えました。
種族的なものがあるので何とも言えませんが、見た目的には私とさして変わらない、あるいは外国風の容姿が大人びて見えることを考えれば、もっと幼いような年齢に見えます。
門から扉までは石畳で整備されているように見えるとはいえ、丈の長いドレスで走っているので、今にも裾を踏んづけて転んでしまいそうな雰囲気にそわそわ。
そんな心配をよそに、転ぶこともなく門まで出てきた少女は、息を切らして乱れた呼吸を整えるように一息つくと、その綺麗な空色の瞳をこちらに向けます。
「依頼を受けてくださったとのことで」
掛けられた鈴の鳴るような声に肯定を返すと、彼女は感謝の言葉と共に手元に抱えた小さなポーチから一通の封筒を取り出しました。
依頼の内容は、この手紙をある場所へと届ける事だそうです。
とても大切なものなので、確実に届けて欲しい、とのことでした。
大切なものなら、もっと確実に届ける方法があるような気もしなくはないので少し違和感がありはしますが、差し出された封筒を受け取ります。
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【愛しのあの方へ】フリークエスト
運んでいただきたいものがあります。どうぞ、よろしくお願いいたします。
達成条件:指定地点への依頼品の運搬
報酬:3000 C
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通知と共にクエストが開始され、マップ上へ指定の位置の目印が立ちました。
目印は、知っている場所で言えば、羽々流々のアビリティを習得するために行った場所やオーリナさんのお店のある程度近く。
職人街というか、そういう建物が多いような印象を受ける区域の壁沿いですね。
一旦、中央通りまで戻って向かった方が行きやすいのかもしれませんが、このまま今いる壁沿いの道を四分の一周歩けば辿り着きそうな感じもしますので、受け取った封筒を手に、マップを埋めがてら壁沿いの道を歩くことにしました。
道幅は中央通りよりも狭いですが、人通りがないのでその分とても広いように感じますね。
自転車、は流石に雰囲気が合わないかもしれませんが、空飛ぶ箒とかそういった類の何かしらの高速移動の手段も今後手に入ったりするのかなと思いつつ、道なりにぐるーっと歩いてゆきます。
しばらく歩いてたどり着いた道の端は、少しだけ開けた空間となっていました。
空間の中央には小さな若木。
細い枝の先に広がる数枚の葉から染み出すように滴り落ち続ける水は、周りを囲む縁によって遮られ、小さな池を作っています。
壁沿いの道は壁と家々に挟まれ、日が出ている現在でも基本的には薄暗くなっていましたが、この小さな広場は壁と家々に囲まれ真上から日が射しているわけでもないのにかかわらず、全くの薄暗さを感じません。
正に幼い中央広場、というのがぱっと頭に浮かび、どこか神聖な雰囲気すら感じます。
ぴちゃりぴちゃりと、雫が水面を叩く音だけが満ちる空間を乱した私の足音に、物陰で眠っていた黒猫が走り去る姿が見えました。
普通の猫もいるんですね、なんて呑気な感想を抱きつつ、水の滴る音を聞きながら、マップを確認して広場を見回し、目的地方向に進める道を確認していた私の耳に、ひゅっと何かが風を切る音が。
直後、開いていたウィンドウが強制的に落とされ、僅かな衝撃と共にダメージエフェクトがこぼれ、HPが少し減少します。
たん、と何かが石畳を叩いた音のした方へ目を向けると、黒い羽の付いた黒塗りの矢が光の欠片となって消えてゆくところでした。
なにごとかと驚いて固まっていると、さらに連続して風切り音が聞こえ、HPが一気に減少してゆきます。
まずい、まずい、これはまずいですね。
一度に減る量はそんなに多くありませんが、ずっとこうして攻撃され続けていたらやられてしまいます。
広場は袋小路になっているというわけではなく、比較的広い道はここまでで、広場から先は家々の間を抜けるような細い道にはなっているので、慌てて適当な細い道に飛び込み、少し先へ走りました。
細い道に入ってからはもう、追いかけてくるような様子も矢が飛んでくる様子もありません。
物陰でどきどきした気分を落ち着かせ、HPを回復させて一息つくと、マップを開きます。
気分的にすぐに人通りのある場所に出たいですが、感覚で進むとまた迷いそうなので、ここはマップを目の前に表示しまして、読み込まれる周辺の道をしっかりと確認しながら先へと進みました。
幸いにして、それ以降は攻撃されることもなく、すぐに見覚えのある場所の近くへと抜けました。
マップ的にはもう、一本隣は中央通り、人形師のハツメさんのお店の裏側も見えているはずです。
どれだかわかりませんが。
目的地点はもう少し先なので、適当な家の間を抜け中央通りへと脱出。
中央通りも、広場を挟んだ街の奥側はそこまで人がほとんどいなかったように感じていましたが、それでも今まで人気のない道を歩いていたところから出てくると、ところどころの建物から人が出入りしている様子に、意外と活気を感じます。
ここまでくれば何となく、安心できますね。
びっくりしました……
一応、マップで再度位置を確認。
ここからはもう見慣れた道です。迷いようがありませんね。
目的地点に歩みを進めるとそこには、この区域にありがちな、お店と工房を足して二で割った様な建物がありました。
改めてそう考えると、ここ周辺の建物は民家とは造りが違うのがわかりますね。
気にしていませんでしたが、思い出してみればあの小さな広場あたりを境目に建物の雰囲気が少し変わっていたような気がします。
目印のある建物は、看板が立っているわけでもなく、人の出入りがあるわけでもなく。お店のような雰囲気は全く感じられませんね。
少し不審者っぽい行動になってしまいますが、扉の前で横の窓から少し中を覗いてみても真っ暗で人けがありません。
場所はここで合っているので、扉の前に立った時点でノックしてくださいの指示が出ています。
指示に従い扉をノックしてみますが、反応なし。
以前のクエストもこんなでしたね。
また待っていればいいのかと、しばし扉の前でぼんやり。
すると、再度表示されたノックをしてくださいの指示に、先ほどは上手く出来ていなかったのかな? などと思いつつ、指示通りにもう一度、扉へノックをしてみます。
すると今度は指示が『依頼品を指定の場所に置いて依頼主に報告する』に変化。
指定の場所がピンで示されました。
指定されたのは扉の下の隙間。
そこに封筒を差し込むように、との指示に従い封筒を滑らせます。
扉の先で何か軽いものにぶつかるような、僅かな抵抗感がありましたが全て屋内へ押し込むことができました。
さて、後は戻って報告するだけですね。
来た道、人けのない道を戻ってまた襲われても怖いので、中央通りから戻ることにしましょう。
くるりと建物を背に、どこら辺から横道に入れば近いかな、とマップを見て帰り道を確認しながら足を踏み出します。
丁度そのタイミングで背後から、がさりと大量の紙束の崩れるような音が。
先ほど急襲を受けていたこともあり急な音に驚いて振り返りますが、何も変化はありません。
音の発生源はおそらく建物の中でしょう。ですが相変わらず建物内は真っ暗で、様子を窺うこともできません。
人が居たのかとも思いましたが、それ以降、建物はまた沈黙。
不思議ですが、もうこの場で何か指示されている事もありませんし、視線を切り、来た道を中央通りへと戻ります。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲
追記...
く~りすますがことしもやってきた~♪
からすさん、ちゃんと投稿するんだぞ…