6-1フリクエも楽しい
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、脳の容量ってHD品質の映像換算で約十三年分なのだそうですね。
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
ノックして少し待ってみるものの、扉の向こう側からは何の反応もありません。
ご不在でしょうか?
いえ、クエストですし、流石にそんなことは無いと思いますが。
もう一度、急かす雰囲気の出ない様にと心がけて扉を叩こうと手を挙げたのと同時くらいでしょうか。
ゆっくりとわずかに扉が開き、その隙間からこちらを覗く女性の姿が見えました。
此方を窺う女性と目が合うと、扉は開かれ、今しがた隙間からこちらを覗いていた女性が出てきます。
扉の先から姿を現したのは質素な服装をした女性で、印象的なのはその目元が隠しきれない隈に色づいていることでしょうか。
「依頼を受けてくださった方、でしょうか……?」
その問いかけに首肯を返すと、女性は安心したように一息。家の中へと招かれます。
勧めに従いリビングで席へ着くと、すぐにお茶が出てきました。
これは、飲めるのでしょうか?
そんな疑問と共に、物は試しとお茶を手に取り口をつけると、無効なアイテムの警告が表示されはするものの、問題なく飲むことはできるようです。
そういえばこの世界での飲食は初めてですが、そこらへんは他のゲームと変わりありませんね。
感覚はあれど実感は無し、といった感じ。
飲み食いができるゲームは、毎度どこからともなくどれくらいの実感があるかを評論する方が現れるのですが、素人目? 素人口? にはどのゲームも変わらないものです。
女性も席へ着きお茶を飲んで一息つくと、クエストについてのお話を始めました。
「この度は、依頼を受けていただいてありがとうございます」
そう言って机の向こう側で頭を下げた女性は、話を続けます。
依頼内容は、最近、扉をノックされるのに出てみると誰もいない、ということが続いているそうで、その悪戯の犯人を捕まえてほしいというものでした。
話の途中にも、扉をノックする音が聞こえて女性と一緒に出てみましたが、お話の通りそこには誰もおらず、彼女にしか聞こえない幻聴という線も消えました。
説明を全て聞き終え、クエストが開始されます。
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【戸を叩く悪戯】フリークエスト
悪戯の犯人を捕まえてほしいです。お願いします。
達成条件:一定時間の扉前の監視
報酬:ワタバナ布
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このクエストの達成条件は『扉前の監視』ということで、クエストウィンドウとは別にポップした内容の説明には、指定される位置に一定時間滞在し扉に意識を向けていてくださいとのことですので、早速、指定された外の扉の見える物陰へと移動。
物陰は、太陽の光が遮られているせいか少しだけひんやりとしているように感じます。
扉の方へ意識を向けると、視界に30のカウントが現れました。
ちらりとカウントの表示へ目を向けると、数秒進んでいたカウントが30に戻ってしまいます。
どうやら、30カウント継続して扉の方を見ていなければいけないようですね。
再度扉の方に視線を向け直し、カウントが過ぎるのを待ちます。
扉の方を見ていれば他の事を考えていてもカウントは進むようで、この後の行動順なんかをぼんやりと考えていました。
カウントがゼロになるまで監視を続けても、悪戯をしに来る影は現れません。
しかし、少しして扉が開き中から女性が顔をのぞかせました。
なにをしているのかと不思議に思っていると、女性に話しかけてくださいとの指示が出ましたので、それに従い顔をのぞかせて外を確認する女性へと声を掛けます。
話を聞くと、どうやらまた扉を叩く音がして、出てきたようでした。
ですが、見ていた通り、誰かが扉を叩いていた様子はありません。
その事実に少し背筋にひやりとしたものを感じます。
鳥か子供か、そういった類の何かかと思っていたのですが、もしかしてお化けとかそういうお話でしょうか……
扉前には誰も来なかったことを伝えると、女性は一段と表情を曇らせます。
もう一度だけ確認していて欲しいとのことで、再度、今度は先ほどとは違う場所を指定され、そこから扉を監視することに。
日の光が遮られ冷えた物陰に、ひやりとした空気が流れ肌を撫でます。
先ほどと変わりないそんな感覚も、また別のものの所為に感じてしまいます。
先ほどはぼんやり他の事を考えていたせいで何かを見逃してしまったのかもしれませんし、今度はしっかりと扉前に意識を向けたまま30カウントの経過を待ちました。
しかし、今回も扉を叩く何かが現れることはありません。
カウントがゼロになり、女性が扉から顔を出します。
話を聞くと、やはりまた扉を叩く音が聞こえたようで、今回も扉の前には誰も来なかったことを伝えました。
それを聞いた女性は暗い声で感謝の言葉を述べ、紐で留められたロール状の布生地を手渡してきます。
その後、女性は一つお辞儀をして扉の奥へと消えてしまいました。
これでクエストが終了。クエストウィンドウに達成のハンコが押されました。
これで終わりなのですね。驚くほどすっきりしないのですが。
何度か受けたら結果も変わったりするのでしょうか。
報酬のワタバナ布は「吸水性・通気性に優れた布」だそうです。
付与効果に『吸水』と『水濡れ軽減』が付いていました。
吸水は初めて見ましたね。
効果は『接触した周囲の吸収可能な状態の液体を吸収する』となっています。
名前は吸水ですけど、水じゃなくても良さそう?
水濡れ軽減は、水濡れ状態の時間の短縮。
こちらはシンプルですね。
お店で見かけたことの無い素材ですし便利そうですね。
覚えておく、というのは難しいかもしれませんが、何かを作る時に必要になったら周回しに来ましょう。
報酬をバッグへ仕舞いこみ、次のクエストの開始地点へと移動します。
次は『嫌われる根性論』というクエストが近いですね。
マップを見ながら入り組んだ道を進み、目印の立っている場所を目指します。
マップが無ければ確実に迷っていたことでしょうが、一度散々迷ったおかげか、あっちこっちと彷徨うこともなく目的の場所へと到着しました。
指示を出されるまでもなく、クエスト開始地点となっているお家の扉をノックします。
少しして中から出てきたのは、杖をついたお爺さんでした。
つるりとした禿頭に、代わりとでもいうように立派に蓄えられた白髭が目を引きます。
視界が逆さまになってしまったかと、思わず首をかしげて平衡感覚を失うところでした。
「おや、依頼を受けてくださった方ですかの?」
斜めっていた視界を戻しお爺さんに頷き返すと、家の中へと招かれます。
案内されるままに家内を進むと、家の一番奥は比較的広い部屋に大きな窓、そしてその先が庭、というつくりになっているようでした。
クエストは外で行うようで、そのまま庭へ出ます。
庭は、区画分けされた花壇とその間を通る石畳というつくりがとても素敵で、草花で満たされていればとても美しい事でしょう。
ただ残念なことに、今はどこにも何も植わっている様子はありません。
しかし、花壇にはふかふかの土が満たされ、雑草の一本もない綺麗な状態。
ふむ。
一応、クエストの達成条件は『バブルウィードの除草』となっていますから、雑草毟りやその類の作業になるのでしょうが、一見ではどこかに雑草が生えている様には見えません。
そんな風に思っていると、お爺さんから毟って欲しい雑草を教えていただきます。
石畳の一枚を捲るようにお願いされ、指示通り地面との間に手を入れて力を籠めました。
大きな石が埋まっているのかと思ったら、石板が地面に置いてあるだけのようで、比較的簡単に持ち上げることができます。
それでも十分に重いですから、これは確かにお爺さんには難しいかもしれません。
石板を持ち上げ花壇の縁へと立てかけておくと、その瞬間、下の地面から私の腰丈ほどもある肉厚の草が、ぷるんと音を立てそうな動きで起き上がりました。
どこにどうやって収納されていたのですか?
石板の下でぺちゃんこになっていたのでしょうか?
今回のクエストは、この草を放っておくとそのうち石板を割って出てきてしまうので、取り除いてほしいとの依頼のようです。
お爺さんの説明を聞き終えると、クエストが開始。
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【嫌われる根性論】フリークエスト
そろそろ放っておけん。
達成条件:バブルウィードの除草
報酬:白燐花の種
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家の中へと入るお爺さんを見送り、作業を開始します。
説明によれば、このバブルウィードは特に特別な何かをする必要はなく、引っ張れば抜けるようなので、ぷるぷると風に揺れる葉を両手で掴み一気に引っ張りました。
ぬ、ぬけない……
当然抜けると思っていた予想に反して、かなりしっかりと根付いているバブルウィードが抜ける様子はありません。
思わず説明を見返してみますが、引っ張れば抜けると書いてあります。
説明を信じてしばらく格闘していると、徐々に根の周辺の土が盛り上がってきているのに気づきました。
変化が見えたことで不安が無くなり、さらに格闘を続けることしばらく。
不意に、ずぼっとバブルウィードの根が地面から抜けたことで、危うくひっくり返るところでした。
これでようやく一本。
抜いたものはどうしたら、と考えていると手にしていたバブルウィードは急激に色艶を失ってゆき、完全に萎んだかと思えば光の欠片となって消えていってしまいます。
なにに使えるかわかりませんが、見たことのない植物でしたし、持って行っていいなら保管しておきたかったですが、消えてしまったものは仕方ありません。
そういえば『照会』のスキルも使ってみていませんでしたし、次は抜いてしまう前に使ってみましょうか。
石板を元の位置に戻して、一か所目の作業が完了。
これを、あと五か所ですね。
次の石板を上げると、先ほどよりは一回り程小さなバブルウィードが姿を現しました。
抜いてしまうと消えてしまうようなので、その前に照会のスキルを使ってみます。
~ピロリン~
うん?
……あ、レベルが上がりましたね。
最近聞いていなさ過ぎて何の音だか忘れていました。
バブルウィードの内容を確認したら、アビリティの方も確認しましょう。
『情報請求』も使って、と。
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『バブルウィード』
いにしえの時代より、その姿を変えることなく生き続けている原始的生物。植物と混同されることが多いが、植物ではない。
※拡張情報
身体のほとんどが魔力でできており、根から常に周囲の魔力を吸い上げて生きている。莫大な魔力をため込むことで結晶化する。
※作製可能効果▼(判別不能)
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……草じゃなかったのですね。
どちらかと言うと魔力生命体みたいなそんな感じのもののようです。
『作製可能効果』というのが見られるようになったのが、今回のレベルアップで追加された要素でしょうか。
バブルウィードの作製可能効果は見られないようですけど。
レベルアップしたアビリティの方も確認。
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『形作る知識』Lv.2 → Lv.3
その人形は、理由を求めた。世界すら忘れた始まりを、欠片から組み上げて。
スキル▼:A 第一分類記録照会権限
A 情報請求
P 権限拡張(生態)
A 記録引揚 - New
INT+7 LUC+5
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ふむ?
アクティブ?
先ほどは使っていませんから、表示される情報が増えたのはまた別の理由なのでしょうか。
スキルの効果は『照会したアイテムの、最も古い記録を閲覧する』というもの。
早速、新しく増えたスキルをバブルウィードに使ってみることに。
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『バブルウィード』
いにしえの時代より、その姿を変えることなく生き続けている原始的生物。植物と混同されることが多いが、植物ではない。
※拡張情報
身体のほとんどが魔力でできており、根から常に周囲の魔力を吸い上げて生きている。莫大な魔力をため込むことで結晶化する。
※最古記録
遥―昔、この―界に―――最も満ちて――時代――栄を極め―生物だが、~以下記録破損により読取不能~
※作製可能効果▼(判別不能)
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スキルを使うと、バブルウィードの情報ウィンドウに『最古記録』という欄が追加されました。
ほとんど何が書いてあるかわからないのは、仕様なのか対象によるのか。
バッグから渋草を取り出し、『照会』『情報請求』『記録引揚』と全てのスキルを使用してみます。
照会と情報請求は以前にも使用したことがあるためか、発動しませんでした。
記録引揚が発動し、同様に渋草の情報ウィンドウへ最古記録が追加されます。
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『渋草』
世界中に広く分布する植物。若葉は傷の治癒を助ける成分を含んでいるが、成熟した葉は成分が変化し強い渋みを持つ。香料や薬品として用いられることがある。
※拡張情報
渋草は生命力が非常に強く、種を持たない代わりに寒暖を問わず葉や根の欠片からでも新たな個体が発生するが、魔力の豊富な場所では生育できない。
※最古記録
成体が魔――対する適応能力だけを持たないが、非常に高い環境適応能力によって、世界から魔力が――れた時代に繁栄を極め、ほとんどの大地を覆いつく――でに広がっていた。
※作製可能効果▼
生体忌避 一部の状態付与軽減
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こちらの最古記録は、だいぶ穴あきが減っていますね。
ここら辺の度合いは見るアイテムによりそうです。
また今度、手持ちの素材を一通り見てみることにしましょう。
レベルアップしたアビリティの確認も済んだところで、クエストの作業を再開することにしました。
目の前で風に揺れるバブルウィードへと手を掛けます。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲
追記...
いえ、ほんと、何度見返しても誤字脱字がぽろぽろと……