5-8かっこんかここん
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、ダイアモンドは擦るのには強くても叩くのにはそこまで強くないそうですね。
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
――イベントの開始を告げるアナウンスが鳴り響き、広場を満たしていた喧騒がより一層の盛り上がりを見せます。
もはや個々が何を言っているのかはおろか、運営のアナウンスさえ聞き取れない様な活気と、そんなことを思う気持ちすらも押し流してしまうほどの勢いが広場に満ちていました。
次の瞬間には通りの向こう側から押し寄せる人波にのまれ、少し目が回ってしまいます。
ぐいっ、と身体を引かれる感覚にそちらへ視線を向けると、そこにはいつも通りの友人の姿。
相変わらず、手足は硬質な金属性の輝きに包まれていて、そんないつも通りに少し安心します。
通りの端で濁流のように流れる人並みの行く先を眺めますが、目的の先ははるかに遠いのか、視認することができません。
イベントごとであれば、望は積極的に参加するはずですが、行かなくていいのでしょうか?
そんな疑問を抱きつつ隣を見ると、基本的な装飾品とは雰囲気の違う、各部に煌めく美しいアクセサリが目につきます。
私には、なぜだか漠然と、それらが数々のイベントの上位勲章であることが解りました。
視線を自身の身に移しますが、そこには何の輝きもありません。
基本的にはイベントごとに参加することのない私にそういったものがあるわけもありません。
ですが、いつもゲームはそれをプレイヤーに、私に求めます。
目的を提示して、それはいつも争いです。
ぷつり、と。
世界は消滅し、現実の日常が戻りました。
いつも通りの日常。
そんな中でまた、新しいゲームを探して端末をぼんやりとしている私。
また、面白そうなゲームを発見した時、こちらを呼ぶ声が聞こえました。
その声に振り向き――
――なんて、
そこで、ぱちりと意識が覚醒しました。
カーテンの隙間から入り込んできた陽光が目覚めたての開いた瞳に入り込んできます。
見ていた夢の記憶はすぐに、部屋に差し込む晴天を疑わせない朝日に溶けてゆきました。
コクーンの覚醒機能による適切で十分な休息を経て一日が始まります。
コクーンは睡眠周期を勝手に記録してくれていて、予定や夜更かし、その他諸々も含めて適当な睡眠時間を調節してくれます。
今朝で言えば、昨夜は夜更かしで本日も休みですし、大体十時くらいでしょうかね。
自身の認識していない意識や身体の疲れなども判断しているようなので、正確にはわかりませんが。
起き上がり、これからの予定を頭の中で整理しながらカーテンへと手を伸ばします。
コクーンは身体の睡眠の波? というのを判断し、適切なタイミングに意識を覚醒させてくれているらしく、眠気が残っていたことはありませんね。
はるかいにしえの時代には、こんな覚醒機能は存在しなかったらしく、音などで無理やり起きていたそうですよ。
保体の授業で体験させられたことがあったのですが、起きやすい周期というのを無視して起こされると、身体が重くて起き上がれないですよね。
私は寝起きがすごく悪くて起き上がるまでにかなりの時間を要しました。
技術進歩ありがたやー、ですね。
カーテンを開くと、既に少し高めの位置まで上がった太陽の光が部屋を満たしました。
唐突に、昔の経験を思い出し、その恩恵を存分に享受している私は、顔も知らぬ技術者に感謝しながら、朝日を全身に浴びるように、んー、と一つ伸びをします。
コクーンに入っていれば、椅子に座ったりしている時のように身体が固まることは無いのですが、いつもしてしまうのは気分ですね。
時間を確認すると、時計の表示は予想通り十時少し前を示しています。
部屋を出て、朝ごはんというには少し遅いですが、本日もゲーム前の腹ごしらえとまいりましょう。
母父のお二方は既に出発しているようで、家に人の気配がありません。
ご飯は何にしようかな、と考えつつキッチンに向かうと、キッチンの真ん中に一枚のメモ紙。
書置きによると、冷蔵庫に食べ物が入っているそうなので、覗いてみることに。
冷蔵庫の適温化冷蔵室を覗くと、そこにはお皿に盛られた、サンドイッチが入っていました。
きっちりとサイズが整えられて並べられたサンドイッチは、確実に父の作でしょう。
卵と、もう一種類はツナのやつですね。
父作となると、ツナを使ったサンドはマヨ好きの母のと、マヨが苦手な私ので、私のはツナ玉ねぎのはずです。
因みに母が作るとツナおかか醤油になるので色的にぱっと見てわかります。
冷蔵庫にあったお茶をコップへ注ぎ、取り出したサンドイッチと共に席へ着き、ラップを取ってありがたくいただくとしました。
量的に、一度に食べきれないのはわかっているはずの量なので、残り半分ほどは再度ラップをかけてお昼? というか、今食べたので次はおやつの時間でしょうけど、あとに残しておきます。
残りはお皿ごと適温化冷蔵室に放り込んで、その後お手洗いやシャワー等、諸々の身支度を済ませました。
着替えは、しなくていいですよね。
動いていたわけではないですし、クリーナーだけかけておけば十分。
部屋に戻り、そそくさとコクーンの中へもぐりこみます。
寝る直前まで作業をしていたゲームというのは、直前まで何をしていたか曖昧なことが多いものですが、ログインを済ませゲームが始まり周囲の景色が見えてくると、何となく、昨夜何をしていたのかを思い出してきました。
当然ですが『自己整備』は終了しており、体調? も万全です。
昨夜は覗いただけでお暇した扉から中へお邪魔いたしました。
中では変わらず受付奥で職員さん方が作業をしておりましたが、私が扉をくぐるのに気づいた職員さんの一名が窓口へ。
「こちらでご用件をお伺いいたします」の声に、職員さんのいらっしゃる窓口へ向かいます。
取り出したチケットを渡し、採掘師のアビリティ習得に来たことを告げると、チケットを受け取った職員さんが、あちらへ、と指し示した方へと視線を向けました。
この内部の広さ的に、この建物は街壁を貫通するような作りになっているはずですので、指し示された方はおそらく壁の内部か外側。
ちらりと見ただけでは気づきませんでしたが、そちらの方向には、大量の木箱が積まれている場所が見えました。
そちらでは多くの方々が何かしらの作業に動き回っており、こちら側とは事務と現場、といった感じで、同じ建物内だというのになんだか別の空間のようです。
職員さんにお礼を言って建物内を移動し、皆様が作業する場所へと向かいました。
「おっ! あんただね? 採掘師の技術を習得したいっていうのは」
近づくと、女性の声がこちらに声を掛けてきます。
声のした方へ目を向けると、そちらから黒髪ショートの女性が歩み寄ってくる姿が見えました。
距離が近くなるにつれて、私はその体躯に驚かされることになります。
私の倍はあろうかというほどの身長の女性は、ハーフジャケットを纏い、ところどころに深い傷の入った分厚い前掛けを金属製のベルトで止めていました。
手元だけが特別大きく見えるほどの丈夫そうなミトンを手に、足元を守るためか各部が金属で補強されたブーツも装備し、外装だけを見ればいかにも現場作業員といった風貌です。
ですが、頑強そうな装備に比べてその下はというと、丈の短いシンプルな薄手のTシャツや短パンの装いで、薄着の下からはその活動性を窺わせる健康的な筋肉の浮き出た褐色の肌が覗いていました。
その方に、受付でこちらへ、と言われたことを伝えます。
「あいよ! 聞いてるよ。間違いなさそうだね。
そしたら、こっちで作業を手伝ってもらうから、ついておいで」
指示通り移動するその方の後をついて行くと、しばらくしてセキュリティのかかった部屋に到着しました。
お姉さんがそのセキュリティを解除すると、重々しい動きで扉が開きます。
セキュリティの掛かっている場所に、ある意味部外者なひとを入れていいのでしょうか?
少し心配になりますね。
部屋の中は数多くのリフトが表にもあった木箱をあちらへこちらへと運び、それら全ての木箱は部屋の奥、壁の中央に鎮座する巨大な金属製の扉から運び出されていました。
幾重にもロックを掛けられるように作られているように見える、丸い形の重厚な金属製の扉は、幅だけで人の身長ほどもありそうな分厚さで、その姿は、現代でも大きな銀行などには存在するような、大金庫の扉にも見えます。
今その扉は開け放たれており、その奥には、岩壁の露出した階段が下方へと続いていました。
作業はさらに奥で始めるらしく、今しばらく進んでゆくお姉さんに付いてゆきます。
階段を降り切って少し真っ直ぐに進むと、そこには広い空間が形成されており、作業の賑やかな音が空間内で響いておりました。
指示されたのは壁面の一角。
到着するとお姉さんは、終わったら戻っておいで、と言い残して去ってゆきます。
ポップしたクエストウィンドウに表示されている今回の目標は、『未知の原石』を十個手に入れる事。
支給された採掘道具は、木製の柄に、片方が尖っていてもう片方は平たくなっている金属製の頭が付いた道具でした。
片手で持てる程度の大きさの道具です。
作業は『調査』と『採掘』の工程に分かれているようです。
作業を開始し、調査の工程で壁をハンマーの方で叩くと、叩いたところを起点にソナーのように光の波紋が広がり、後にはところどころに光の点が残りました。
光の点は、みるみる間に薄くなってゆき、すぐに消えてしまいます。
説明では、光の点を指でマークしてください、とのことでしたので、もう一度壁をハンマーで叩き、点を出現させました。
すると、点の位置が先ほどと変わっており、これは少しだけ反射神経を要求されそうです。
点をつついてマークすると、その点に印が付き、消えることが無くなりました。
これを繰り返して十個マークを付けるのかと思ったのですが、そうではないようで、一つ印をつけた時点で工程が次へと移ります。
次の採掘の工程では、採掘道具の尖った方でマークした場所を強く叩いてくださいとのことでした。
強く叩こうと思ったら振り上げて振り下ろすわけですが、それをそこまで大きくない印に向けてとなると、狙いが難しそうですね。
慎重に、でも思い切り、印に向けて採掘道具の尖った方を振り下ろします。
その先は、印の少し右側に。
少し身構えていたのですが、手に強い衝撃が来るということは無く、わずかな反動と共に先が壁に当たった状態で静止します。
かーん、と気持ちのいい音が響き、壁から一つの石ころがこぼれだしてきました。
手に取ってみると、片手で握りこめる程度の大きさの石ころの説明は『未知の原石』となっており、これを後九個集めればいいのですね。
試しに『照会』のスキルを使ってみると、スキル自体は使えましたが、未知の原石であることに変わりありませんでした。
ただ、『情報請求』を使うと、この石ころが様々な金属を含有した鉱石であることが説明に書いてあります。
これを特定の鉱石にするにはまた別のスキルが必要なのでしょうか。
オーリナさんは、採掘師で赤鉄鉱が手に入ると言っていたような気がしますが。
少し謎は残りますが、作業を進めてゆきます。
少し作業をして気付いたのは、ソナーで出た指示点は一度にいくつも打てる事ですね。
沢山の場所に印をつけても、沢山の印になるわけではなく、工程が移ると一つの印になるのですが、沢山打った方が良いものが出てくるような気がしました。
おそらくなのですが、調査精度みたいなそんな感じのものが上がっているのかもしれませんね。
あとは、採掘時に印からの外れ具合によっても出てくるものの質や量が変わっている気がします。
真ん中を捉えたときは明らかに大きいものが出てきましたし。
となると、最大値は調査で沢山点を打って、採掘で真ん中を掘る、ということになるのでしょうか。
試行回数が少ないので、そんな気がする、というだけですけれどね。
因みに、大きかろうが小さかろうがスキルを使ってみた時の説明はかわりませんでした。
そんな風に色々と試しながら繰り返し、ようやく十個の未知の原石が集まりました。
大小さまざま、意外と嵩張るもので、十個でもかなりの量に感じます。
アイテムボックスへ収納し、外へ出ることに。
階段を上がり、上の部屋へと戻ると、地下が少し薄暗かったのもあり、部屋の明るさに少し眩しく感じてしまいます。
まぁ、そんなことはありえないので、そういう演出なのでしょうけど、と思ってしまう私はわるい子……
部屋へ出るとこちらに気付いた先ほどのお姉さんが、声を掛けてきました。
採掘したものを指示された箱にざらざらと投入し、見ていただきます。
特に問題は無かったようで、そのまま返却されました。
未知の原石は、一部の創作系アビリティの他、この建物の受付で依頼すると鉱石や宝石に加工することができるそうです。
細工師や彫金師でもできるそうなので、取るとなったらセットでこれらも取ると良さそうですね。
これにて採掘師のクエストは達成。
残りは園芸師のクエストですが、その前に未知の原石を加工していただきましょう。
お姉さんにお礼を言って、その場を後に、受付へ戻ります。
入口の所の事務の様な受付で鉱石を渡してお金3000 Cを払い、受付の方が鉱石の入った箱を奥へ持って行ったかと思うと、本当に渡したものを加工したのか心配になるくらいすぐにインゴットの入った箱を持って戻ってきます。
内訳は、赤鉄鉱八個に亜銅鉱二つ、偽金鉱一つと小さなエメラルドの欠片が一つとなっていました。
各々の鉱石の値段がわからないので何とも言えませんが、気分的にはかなり高めですよね。
やはり、他の創作系アビリティの取得が安定でしょうか。
そんなことを考えながらインゴットを受け取り、受付さんにお礼を言って、建物を後にします。
マップを確認。
園芸師クエスト開始地点はすぐ近くですね。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲
追記...
あれもこれもゲームが楽しいのが悪い。




