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5-7今日も一日満足でした

皆様こんにちは。お世話になっております。

からすです。

そういえば、コアラは一日二十二時間も寝るのだそうですね。

だから何というわけではありませんが。

●〇●〇


「……いらっしゃい?」


 とんがり帽子の大きな鍔の下からわずかに覗いた、ぼんやりと光を発している様にも見える藤色の瞳。


 薄暗く、わずかに煙掛かった店内で、目立つその視線がこちらに注がれます。


 問いかける声に、言葉にしづらい衝撃も落ち着きを取り戻し始め、手にしていたチケットをカウンターに差し出しながら、アビリティの習得に来たことを伝えました。


「確認しました…… こちらへどうぞ……」


 帽子の蔭へ瞳を隠し、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ店員さんに導かれカウンターへと入り、後をついてゆきます。


 店員さんが出てきた扉とはまた別の扉を通り、先へ。

 奥は表以上に暗く視界が悪くなっていました。


 流石に真っ暗なので、前を進む店員さんに照明の魔道具を使ってもいいかお聞きします。

 すると、なにかに気付いたように謝罪の言葉と共に許可が出ましたので、バッグから以前オーリナさんの所で買った灯りを取り出し、点灯しました。


 暗いのは何か理由があったわけではなく、気にしていなかっただけのようです。


 点灯すると、柔らかな光が周りを照らしだしました。

 

 通路、渡り廊下? でしょうか。

 建物の作りが分からないので何とも言えませんが、左右に部屋に入るような扉は無く、ただ一本の道が続いているのを鑑みるにそのように感じます。


 明るくなったことで、前を進む店員さんの事がよく見えます。


 見ると帽子の下には、長い黒髪に混じって艶のある黒い角がくるりと丸まる形で伸びていました。


 帽子は被る部分の径が頭よりも少し大きいのですが、それでもずり落ちてしまっていないのは、この角に引っかかっているからのようですね。


 店員さんを追いかけて通路を進み、道の先に見えた扉をくぐると、そこは他の習得クエスト時の作業場と似たような空間となっていました。


 この場所は天窓から月明かりが差し込み、歩いたりする分には照明がいらない程度には明るくなっています。

 それでも、細かい作業をしろと言われると困りますが。


 するすると先へ進んでいく店員さんを追いかけ、部屋の中を進み指示された作業台に着くと、店員さんが作業場の奥を指さし口を開きました。


「材料は…… あの山からご自由にどうぞ……」


 指さされた方向を見ると、部屋の端には積まれた大量の、何でしょう? がらくた? が目につきました。


 振り返ると既に踵を返し去っていく店員さんの姿が。

 背後からお礼を言うと、ちらりと横目にこちらを見て軽く頭を動かすのに合わせて帽子の鍔が揺れました。


 店員さんを見送り作業台に向かい、ポップしたクエストのウィンドウを確認します。


==========

【錬金術師の卵】アビリティ習得クエスト

 錬金術は、本質を変化させず、あり様を変化させる技術です。


達成条件:屑鉄から屑鉄以外のアイテムの作製


支給品:お試し錬金術キット


※このクエストは開始後1時間以内に達成してください。

※未達の場合は再度受注し最初から行ってください。


制限時間:60:00:00


報酬:アビリティ『錬金術師の才』

==========


 吐き出された箱の中には、一冊の本と虫眼鏡。


 一覧では、デリスの瞳と錬金術道具となっています。

 本の方が錬金術道具で、虫眼鏡の方がデリスの瞳ですね。


 なぜそのようなアイテム名なのかはわかりませんが、説明ではルーツを失ったアイテムの素材を見ることができるアイテムだそうです。


 今回の達成条件は、屑鉄から屑鉄以外のアイテムの作製ということで、屑鉄は作業場奥の山となっているがらくたの事ですよね。


 屑鉄を持ってこないと作業が進まない様なので、席を立ち、デリスの瞳を片手に早速がらくたの山へと向かいます。


 適当なものを手に取りデリスの瞳を用いて見てみると、赤鉄鉱、亜銅鉱、偽金鉱、と種々の素材が含まれている旨の表記が並んでいました。


 他のも見てみますが、どれも多少の違いはあれどほとんどが似たようなものです。


 ちなみに、アイテムを通さずに見ると、どれも『完全に破壊された現在では、もう元の所有者も製作者も知ることはできない。ルーツを失った何かの金属片』という同じ説明しか出てきません。


 一応、先天性アビリティの『照会』の方も試してみましたが、加工後の物の様なので、もちろん使えませんでした。


 適当な屑鉄をいくつか手に、作業台へと戻ります。


 戻ると、作業内容のウィンドウがポップしましたので、内容を確認。

 作業としては、分解と構築に分かれているようです。


 レシピとかそういうお話ではなさそうなので、作業を開始します。


 開始すると、まずは二個以上のアイテムの選択。

 すると、錬金術道具の本が開き、そのページに描かれた魔法陣が輝き始め、手元の空間に一メートル四方程度の空間が形成されます。


 同時に、選択したアイテムがとても細かな粒子状に分解されて空間に吸い込まれ、空間中を三色のグラデーション模様に染め上げました。


 分解の工程では、本の魔法陣を操作することで、このぐねぐねと混ざり合っているグラデーションを色ごとになるべく綺麗に分けていけばいいようです。

 おそらくは、それぞれの色と素材が対応しているのでしょう、と何となく予想。


 魔法陣を変化させるのは簡単で、記号の位置を変えたり線の角度を変えたりと、本の上の魔法陣を指でぐりぐりと出来るのですが、何をどうすればどうなるのかの挙動がいまいちわからないのでなかなか難しい。


 本の魔法陣は丸に六芒星、六文字でできているのですが、一文字場所を変えただけでかなり大きく動くこともあれば、入れ替えてもほとんど変わらないことも。

 図形も基本の六芒星と、二つを重ねて三角にしたものがほとんど変わりませんし、かと思えば三角を逆さまにすると、ある程度分かれていた色が綺麗なマーブル模様に早変わり。


 よくわかりません。


 空間内の色の変化を見ながら少しずつ色々と変えてゆき、ようやくある程度綺麗に三色に分けられたかなと思います。


 結果的に横楕円形に歪んだ六芒星の魔法陣になりましたが、こういうものなのか、もっとやり様があるのか。


 やり様があるのでしょうね。今も空間内の色を完全に分けられたわけではありませんし。


 そこらへんの研究は、まぁ、取るとなったら考えるのも楽しそうですが、今はこれで。


 十分に満足とはいきませんが、分解の工程の完了を意識して、次の工程へ。


 工程が移ると、自動的にページがめくられて新しい魔法陣が現れました。


 次は構築、霧になったアイテムを組み立ててアイテムに戻していく作業です。


 実際にやることとしては、魔法陣の上で散らばって表示されている同じ色の光の欠片を指でくっ付けていく作業ですね。


 指で欠片の位置を動かし欠片同士が近づくと、互いが磁石のように引き寄せ合い少し大きな一つの欠片へ。


 それをなるべく同じ色同士でくっ付くように慎重に動かしてゆきます。


 進めると、空間内でも色の濃度が上がってゆくので、拡大かなにかでもしているのでしょう。


 分かってもらえるかはわかりませんが、何となく、食事の時などに液体に浮いた油の玉をくっつけてゆくあの虚無時間を思い出すような作業で、欠片を固めてゆき、どうしても他の色とくっ付いてしまう部分は仕方ないとして、丁寧に塊を作ってゆきます。


 最後の色の最後の欠片をくっ付けると、空間の中から作業台へ、からからころんと音を立てて五つのアイテムが落下しました。


 アイテムはそれぞれ、赤鉄鉱が三つと、亜銅、偽金となっていて、丁度、デリスの瞳で見た屑鉄に含まれていた素材と同じです。


 気になったので試してみましたが、素材に戻ったとはいえ、扱いは生産物のようで、照会のスキルでは見ることができませんでした。

 ということは、天然の素材とは何かが違うのでしょうかね。

 天然の金属鉱石類を見たことがないので、何とも言えませんが。


 錬金術が、素材さえあればこうして鉱石類を生産できるアビリティなのであれば、採掘師とどちらを取るか迷いますね。


 でも、こうして元素材次第では見たことのない素材も手に入るとなると、やはり魅力的です。


 アビリティ習得受付の説明で見た限りでは、こう、薬草の薬効だけを取り出す、みたいなことができるのかと思っていたので少し感覚が違いましたが。


 いずれにせよこれで条件は達成できたようですので、あとは店員さんにこれを見せて終わりですね。


 席を立ち、来た道を戻りお店の方へと向かいます。


 カウンターには店員さんが座って、錬金術道具と思われる、魔法陣の描かれた本に、手にしたペンで何かを書き込んでいるところでした。


 扉を開けたところでこちらを振り返った店員さんが、私が手にしていたライトの明かりを眩しがるようにとんがり帽子を目深に被り直しながらカウンター横を開けます。


 店内であれば歩くのには支障がない程度には明るいですので、手にしたランタンの明かりを消し、カウンターの表へ出ると、店員さんへ作製した素材を全てお渡ししました。


 店員さんは、懐から眼鏡を取り出して掛けると、渡した素材を眺めます。


「はい…… 確認しました……」


 眼鏡を取って懐に仕舞い、手にした素材をカウンターに置くと、店員さんはそう言って開いていた本を閉じ、席を立ちます。


 支給品が回収され、クエストウィンドウに達成のハンコが押されたのを確認し、奥の扉へと消えていく店員さんの背後へお礼を言って、私もカウンター前を離れます。


 お店を後にする前に、ほとんど何も置かれていない棚を覗いてみることにしました。


 それによって、すぐに棚に何も置かれていない理由がわかります。


 販売されているのは各グレードの錬金術道具とデリスの瞳、それらだけ。


 それ以外は、ルーツを失ったアイテムの分解や、その他アイテムの合成を依頼できるようになっていました。


 分解は今やっていた通りなのですが、合成はアイテム間での効果の引継ぎになるようです。

 このアイテムの効果を、こっちのアイテムに付けたいよ、みたいなことができるみたいですね。


 ただ、可不可も多く、手持ちのアイテムで試しに色々と査定だけ出してみましたが、移せるものはかなり少なかったです。

 感覚的に一定の法則性の様なものは感じましたが、よくわかりませんね。

 

 何となくどんなアビリティなのかもわかったところで、お店を後にします。


 外に出ると、密集した家々の間から、少しづつ明るくなり始めた空が見えました。


 徹夜なんて余裕と豪語しておりましたが、流石に少し眠くなってきましたね。


 外部ソフトから時間を確認すると、現実はもう四時を回ろうとしていました。


 そんなに時間が経っていた感覚は無かったのですが、予想以上の時間経過に驚きです。


 自覚すると眠気も一気に来るもので、あとは採掘師と園芸師のアビリティが残っているのですが、場所の確認だけしておいて今日は眠ることにしましょう。


 どちらも比較的近い場所にありますので、マップを確認しながらまずは採掘師の目印の方へと向かいます。


 よくよく見てみると、街壁の外だと思っていましたが、一応壁の内側に目印が立っているようでした。


 壁沿いのその地点にはいまいち道が繋がっている様には見えず、どうやっていくのか頭を捻った結果、街門前広場の横道から壁沿いにぐるっと歩いてゆくという割と力技な方法で解決。


 辿り着いた目的地には、壁に張り付いて建つ建物が見えました。


 そういえば、以前フリークエストで巡回した倉庫のうちの一つもこのような造りでしたね。

 同じだとするなら、中は壁を貫通しているのでしょう。


 道理で壁の外にも見えるはずです。


 場所の確認だけと言いつつ、中も少し覗いてから終わることにして、ご用の方はこちら、の案内板に従って建物の横手へとまわり、こちらの看板のかかる扉をゆっくりと引き開けました。


 中はギルドの一角とほぼ変わらず、受付カウンターの並んだ事務所のような場所になっています。


 受付にも待ち席にもひとはおらず、奥では職員さん方が何かしらの作業をされておりました。


 今はもう寝ることにしたので、気づかれる前にぱたんと扉を閉じて近場の道端の適当な場所へ腰を下ろします。


 あと何かさくっとできること、というわけで、スキルを使い忘れている素材類に『照会』や『情報請求』を使ってざっと説明を確認しておきました。

 特に何か気になるような、目新しいことはありませんでしたが、こうして積極的に使って育てていかないと。


 意外と見ていない素材も多かったため、HPがかなり減りました。

 一応、リペアオイルで全快にしておきます。


 こうしてゆっくり回復できるタイミングならいいですが、CT(クールタイム)があるので、そろそろ回復量が心もとなくなってきましたね。

 今持っている分のリペアオイルを使い切る前に、もう少し回復量の多い回復を探さないといけませんね。

 上位のリペアオイルとかがあるのでしょうか?


 あとでクラフトスペース受付の方に聞いてみましょう。

 忘れそう。


 身体の方を確認し、消耗の表示はついていない様でしたので、『自己整備』の方を発動して、本日はログアウトすることに。


 ログアウト作業を終え、現実に意識が戻ってきた私は、ひっそりと部屋を出てお手洗いへ。

 母と父はまだ起きている…… えぇ、まだ起きているようなのでこっそりと。


 大変仲がおよろしいことで?


 お手洗いを済ませ、水分補給ともう一度軽く寝る準備を整え、またこっそりと部屋に戻ります。


 コクーンへごろんと丸まって、ルーツでの今後の事をあれやこれやと考えている内に、私の意識はいつの間にやら夢の世界へと旅立っておりました。

お読みいただきありがとうございます。


もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。

あとブクマとかも(強欲


いちにちのみつどが……

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