3-10ひと段落
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、ようやく一日目のプレイが終わるそうです。
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
クラフトスペースを出ると、こちらを向いた受付のお姉さんと目が合います。
びっくり。
受付さんが一人でも起きているところを始めて見ました。
起きていたのは、ずっと上を向いたまま口を開けて気持ちよさそうに眠っておられた受付さんです。
眠っていた時は後ろに垂れていたようで気づきませんでしたが、頭の上からウェーブの掛かった毛に包まれた垂れ耳が左右に垂れて、肩口で切りそろえられた同様のくるくる癖毛の上に乗っていました。
鍵を返しに、受付へ向かいます。
いつも対応してくださっていた羽耳受付さんは相も変わらずうつ伏せに寝ておられますし、わざわざ起こしてまでそちらに行く理由もありませんよね。
そう思いまして、起きている垂れ耳受付さんの窓口に。
判断材料が耳とかだけだと、何の種族の方なのか意外とわからないものですね。
聞いて、失礼ということは無いのでしょうが、何となく気が引けます。
「はいはい! いらっしゃいませ! 鍵のご返却でしょうか!?」
こえが おおきい。
とても おおきい。
カウンター前に響き渡る声は残響が聞こえるような気さえします。
隣の席の羽耳受付さんが身体を起こしてこちらを一瞥し「うるさいな~」と一言ツッコミを入れると、また寝入ってしまいました。
こちらに向いた私と垂れ耳受付さんが互いに顔を戻すと、丁度視線がぶつかり、えへ、と苦笑して耳の付け根を掻くような仕草をし、普通の声量で話し始めます。
何かのコントみたいで、少し可笑しい。
「ごめんなさい。今日初のお客さんなので張り切っちゃいました」
おそらく、お隣の羽耳受付さんが引き受けていただけで初めてではないと思いますがそうでなくとも明らかに、気持ちよく寝ています、という雰囲気の方にわざわざ話しかける方はいないでしょう。
そういえば、受付さんは私が見た限り常にこのお三方ですが、交代とかはないのでしょうかね。
他の受付では交代で受付さんが変わっているのを見ましたが。
闇深?
「どうかしました?」
「あ、いえ」
一瞬思考の渦に囚われぼーっとしていると、こてん、と首を傾けつつこちらへそう声を掛けてくる垂れ耳受付さん。
その声に意識を戻し受付さんを見ると、ばっちりと視線が合います。
真っ直ぐにこちらだけに向けられた視線の圧に何となく負けてしまい、顔を少し下方にずらして返答します。
「鍵のご返却でよかったですか?」
「あ、はい」
手にした鍵をカウンターに置き、受付さんへ返却。
「はい、ご利用ありがとうございました。またのご利用、お待ちしてます」
「ありがとうございました」
こちらもお礼を言って、窓口を離れようと思ったのですが、使った分とあとは収納も作ったことですしリペアオイルを買い込んでおくことに。
一旦くるりと後ろを向けた身体を回れ右。窓口の方へ向き直ります。
踵を返す途中に思いついたことでしたので、勢いそのままに再度反転したのもあり、受付さんから見たら、なぜかその場で一回転くるりと回ったように見えたことでしょう。
こういうところが、時折ひとから「動きが不思議」と言われる原因なのでしょうね。
「あの、リペアオイルを――」
何本にしましょう?
お金は三万と少し残っているので、この際一スタックになるように買ってしまうのもいいかもしれませんね。1スタック99本で買っても2970 C。それくらいであれば、結局使うものですし。
垂れ耳受付さんへ1スタック購入したい旨をお伝えします。
「あ、はい。リペアオイルですね。少々お待ちください」
そう言って席を立ち、奥へ。
受付さんを待っている間、ポーチに余っているリペアオイルはレッグベルトの方へ移動させておきます。
これで、咄嗟の時に使える、はず。
ついでにもう片方のレッグベルトの方にはオーリナさんの所で購入した『魔工炸裂板』を収納。
レッグベルトには枠が六つしかないのと、一枠に一つしか入らないので、使った都度補充するのを忘れないようにしないといけませんね。
他にも、そういえば見そびれてしまっていたアイテムの説明を見たり、としていると、すぐに木箱を台車に乗せこちらに運んでくる垂れ耳受付さんの姿が。
「お待たせしました」
カウンター前まで戻ってきた受付さんが、そう言って窓口横の機械を叩き、
「では、一本30 Cが一スタック九十九本で、2970 Cになります」
と、こちらを向くと、売買用ウィンドウが私の前に。
取引に承認を押し、チャリンという音と共に、台車上の木箱の中身がボックスに移ります。
リペアオイルがバッグの方に入ったのを確認。
「はい、ありがとうございます。また御贔屓に」
「ありがとうございます」
お礼を言ってその場を後にくるりと反転したところで、ふと疑問に思っていたことは受付さんにもわかるのでは? という考えが。
受付さんはあくまでも職員さんで、ものづくり畑の方ではないのかもしれませんが、幸いにして並んでいる方などはいらっしゃらないようですし、聞くだけ聞いてみてもいいかもしれません。ハツメさんやオーリナさんの様な個人経営? のお邪魔をしてしまうかもしれないよりはその方が。
再度くるりと反転し、二回転目。
先ほどからくるくると不審者ですね。
垂れ耳受付さんが笑顔のまま首を傾け、
「まだ何かありましたか?」
と、問いかけてくるのに答え、口を開きます。
「あの、質問大丈夫ですか?」
「はいはい。なんでしょう?」
「えっと、作製したアイテム関係の質問なのですが、大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。何かわからないことがありましたか?」
どう質問したものかと一瞬悩みましたが、そのままお聞きしてみることに。
「作ったアイテムに、強度増加というのが付いたのですが、『強度』というのがよくわからなくて……」
受付さんが少し上を向いて考える仕草を少し。
すぐにこちらに向き直り説明をしていただけます。
『強度』は複合的な要素の混じったものです。という前置きを挟んで、丁寧な説明が続きました。
アイテムによって強度の影響先が違うそうなので、代表的な所をまずは教えていただきます。
収納系、バッグやポーチ。
この類のアイテムの『強度』は容量や保持・保護能力その他の増加。
保持や保護がどんなものなのかいまいちイメージが出来なかったのですが、例としては、温度や、卵の様な外からの影響を受けやすいものに対する効果と言われて何となく理解できました。
そして武器の場合は、基本的には出力や付与に対する耐性等の増加による攻撃力の増加となるそうです。
この場合の『強度』は、ようは木の棒で殴るとその方の力次第では折れて十分に力を発揮できませんが、鉄の棒なら折れずに力を発揮できますよね、というお話なのでしょうね。
付与に対する耐性というのは初耳でしたが、このゲーム、アイテムに付与をすると行った付与に応じてアイテムにデバフが付くそうなのです。
そのデバフの効果を軽減するのも『強度』の役目、とのことでした。
他にも、アイテムごとにそのアイテムによって『強度』の影響してくるところはばらばらで、「本当に、強度は強度なんですよ」とのことでした。
これに関しては、今はボーナスくらいの感覚でいるのがちょうどいい感じがしますね。
強度が保護能力にも影響するとのことで、ついでに気になっていた状態保護効果というボーナスについても知れてすっきりです。
受付さんにお礼を言って、いよいよその場を後に、と反転したところでもう一つだけ、気になったことがあったのを思い出しました。
その場でくるりとまた反転。本日三回転目でございます。風見鶏かな?
流石に苦笑しているように見える受付さんに、若干の恥ずかしさを感じつつ、最後に一つだけ。
「すみません。最後に一つ」
「はい、なんでしょう?」
「リペアオイルを自分で作ろうと思ったら、何のアビリティが必要でしょうか?」
買うのと作るの、どちらのコスパがいいのかはわかりませんが、一応聞いておきたかったのですよね。
リペアオイルは薬師が作るもの、と教えていただき、ひらひらと笑顔で小さく手を振り送り出して下さる受付さんに多大なる感謝の意を表明しつつようやくその場を後にします。
ギルドを出ると、まだ暗く街灯に照らされる中央道。
多くの方々が行き交う道の端を歩き、向かう先はハツメさんとオーリナさんの所です。
少し歩いて道中。
裁縫のお店の前に。
私ずっと裁縫のお店って言っていますが、正式名称はなんなのでしょうね?
少し気になったのでマップを開いて確認してみると、マップには衣料・裁縫品のお店『&C’s』と書いてありました。
読みは、あんどしーず、でいいのでしょうか? なんだかおしゃれ? な名前です。
お店、あんどしーず、に入ると先ほど来た時よりもさらに活気にあふれ、お店奥のカウンターにもいくらかの方が並んでいるように見えます。
今回の私の目的はお買い物だけですので、近場の棚で購入ウィンドウを開き、欲しいものをピックアップ。
素材もかなり使ってしまったことですし、使ったものを買い足してこれで残金二万 Cと少し。
結構お金も減ってきましたね。
今はまだ一番お金の掛かる部分に関してはほとんど触っていないので、減りも緩やかですが、それこそ装備できそうな少し良い裁縫道具を買おうと思っただけで一万 Cを越えますから、装備をどうにかしたいと思い始めたらお金はいくらあっても足りなくなりそうです。
『霊晶片の微小魔石』。水属性魔石がまだ二個あるので、単純計算で六万 Cです。なので、全財産は合計八万 Cと少し。
そう考えると意外と余裕がありますから、少しくらいは更新してもいいのかもしれません。
そう思い、素材以外の物も少し眺めてみます。
衣料・裁縫品のお店というだけあって、当然ですが武器・防具に該当するようなものはありません。
服は防具といえるのかもしれませんが、その全てが防御力はお気持ち程度で特殊な効果の付いたものになっています。
あとは周辺衣料品やアクセサリですね。
服は何か良いものがあればと思ったのですが、特に気になるものもなく、今の私が着てもお金がもったいないかなと思ってしまい、買うに至りませんでした。
その他も特に欲しいな、と思うものもなく、結局先ほど目についた一万 Cの裁縫道具だけ購入し他は何も買わないという。
物欲さんは旅に出ています。
購入した裁縫道具に装備を変更し、お店を後にした私は、中央道を進みます。
ハツメさんのお家に到着すると出入り口から度々幾人かの方が出入りしているのが見て取れました。
何となくお店という感じがしなかったので、入るのをためらうのですが、私もその人波に紛れて中へ。の前に。
マップを開いて確認してみると、森の人形師の木彫店『翠』と書いてあります。
ちゃんとお店だったのですね。今更。
何と読むのでしょう? えっと、あおい? いえ、あおいは違いますね。みどり? すい、かな? どっちでしょうね。ハツメさんに聞いてみましょう。
合わせて、オーリナさんの方も見てみると、オーリナの魔道具店『オーリナ工房』と書かれていました。
各お店のお名前を確認したところで、店内へ。
中には、失礼かもしれませんが、意外なことに数名の方がいて少し驚きました。見る限りお人形の部品が主で、冒険に役立つような何かとは思えませんでしたので趣味で買う方はいれど店内に何人も人が居るようなところは想像できなかったのですよ。
商品は見たことがありませんでしたが、こうなるとお人形のパーツ以外にも何か売っているのか、少し興味が湧いてきますよね。
ステータス上げたら覗いてみましょうか。
奥へ進みカウンターの奥に座っているハツメさんへ声を掛けます。
「こんばんは」
「おう、いらっしゃい、新しい手入れかい?」
そう問いかけてくるハツメさんに頷き返すと、ちょいちょいとカウンター奥へ招き入れられ、奥へ。
先ほども来た人形たちの並ぶ部屋に。
あー、と呟いて頭を掻くハツメさんに、何となく察しました。
わざわざ敷布団敷くの面倒ですよね。確かに。
「そのままでいいですよ」
そう言うと、呟くように「助かる」という言葉を聞いて、私は畳にそのまま横に。
枕だけ頂けたので頭をのせます。
どのステータスを上げるのかという問いに、前は意外と早く上がってしまって時間が余ってしまったのをお伝えして、HPとINT以外の五つを一気に上げていただくことにしました。
本当なら、こまめに来て細かく上げていくのが効率的ではあるのでしょうが、ちょっとめんどくさ、以下略
また、今度は先ほどの倍くらいの数の小さな人形たちにぺたぺたと触られながら少し待ち、作業終了。
確認すると、頭以外の部位にステータス『○○+○(0%)』の表記があります。
これで上がったわけではないとはいえ、他の方は何度も何度もフリークエストを達成してようやく上がるわけですよね。
こんなに楽でいいのでしょうか。
表に戻り、ハツメさんにお礼を言ってカウンターを離れます。
少し気になっていた商品を見てみたのですが、売っているものはやはりお人形のようでした。
ただ、説明を見ると、全てからくり人形のパーツだそうで、少なくとも今の所持金ではパーツの一つにすら手が届かない様な一つ一つを、好きなパーツで買いそろえて組み合わせていくことで自分好みな子ができるという……
すぐ隣から聞こえ始めた「はぁ、はぁ」という吐息に、顔を向け――
――削除済み――
……何か深淵を覗いてしまったような気がいたしますが、気にせずオーリナさんの所へ。
ところで、私はいつの間に外に出てきたのでしょう?
ふむ?
まぁ、いっか。
深く気にせず、オーリナさんのお店へと歩を進めます。
到着し入店するも、オーリナさんのお店は相変わらずがらんどうで、カウンター奥にはオーリナさんすらおらず、お店として成り立っているのか少々心配になってきます。
声を掛けたらまた爆発しないかという不安に駆られながら、小さめの声で驚かさないように、カウンターの奥の部屋へ声を掛けます。
するとすぐに「はーい」とオーリナさんのお返事が。
奥の部屋から扉を開け、ゴーグルを外しながらカウンターへ出てきたオーリナさん。
よかったです。今度は爆発することも……
思った直後、ボンッと音がして、「あっ」という私とオーリナさんの声がハモります。部屋の奥から白い煙が。
やはり爆発する運命なのですね(遠い目
「あっ、シロさん、いらっしゃいませ。強化ですか?」
オーリナさんは特に気にした風もなく、こちらを認識したのか、そう問いかけてきます。
若干遠い目をしていた私もその言葉に肯定を返し、MPコンバータを外してカウンターに。
必要な素材を聞いてみると、赤鉄鉱が六つなので、相場計算で1640 Cとのことでした。
赤鉄鉱とかも集められたら、と思ってオーリナさんにお聞きしてみると、鉱石系は、採掘師の管轄になるそうです。脳内メモ。
今回もお金を支払ってお願いすることに。
おまけで1600 Cにしていただいて、支払いウィンドウに承認し作業を眺めること少し。
帰ってきたMPコンバータに『変換効率10%向上 (0%)』の表示が付いていることを確認し、装備。
魔石用ポーチも出来て圧迫問題も解消できたことですし、ついでに残りのお金で魔石を買えるだけ。
といっても、もう八千少ししかないのですが。
今の相場が1050 Cだそうなので、八個買えるので購入し、魔石用ポーチの中へ。
これでお金なくなりましたので、マケボ行って水属性魔石を出品して、シノに教えてもらったあの場所にまた行こうかなと思います。
オーリナさんにお礼を言って、ギルドへ来た道を戻ります。
ほんと、行ったり来たりですよね、私。
そうして中央の広場に差し掛かった時でした。
~ピピピ~
と聞き慣れたアラームが。
これはゲームのではなく、二十三時に設定していた方のアラームです。
一旦切って、母たちにお風呂と生姜焼きを焼かなくては。
どうせ今日は眠くならない限り徹夜するつもりですしここらへんでログアウトしてしまいましょうか。
あたりを見回して、適当に空いている中央噴水の縁に腰掛け、『自己整備』を発動させてからログアウトします。
ログアウトの確認にYESを選択し、聞こえていた周りの雑踏音がゆっくりと遠のいていきます。
お読みいただきありがとうございます。
次回からは四章です。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲
D〇AG〇STI〇I…… 闇深。
 




