1-3設定 つづき
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、蝗害のイナゴは美味しくないそうです。
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
無心を心掛けて、ガラガラを回します。
がらがらがらがらがら……
1回目。
抽選器を回すと、中央の六角柱が光り、中に人型が現れました。種族容姿のベースとなる素体だそうです。
よくアニメとかで見る封印されている感じをイメージすると、およそ近い感じになると思います。
これに各個人のデータを統合することで、私のキャラクターが作られるわけですね。
「魔人系、妖精類、妖精亜種、魔妖精、バンシーなのです。特徴は、――」
種族は妖精系のバンシーでした。その後もナディちゃんの説明は続きますが、これは通常選択可能な種族だったので面白くないので却下、もう一回行きましょう。
2回目。
がらがらがらがらがら……
今度は白色の狐耳と尻尾のついた人型です。ふかふかそうな耳と大きな尻尾がとても魅力的です。
「おめでとうございます、なのです。限定種族、魔人系、妖怪類、妖狐亜種、雪妖狐なのです。特徴は、――」
限定種族ではあるものの、比較的出やすい種族で、能力的も魔法特化型で物理方面は不得意、低温環境下で能力向上、高温環境下で能力低下、狐火の代わりに極低温の水の玉だったり、雪でゴーレム(使役人形)を作れたりなんだりと比較的癖の少ない種族だそうです。
さて。ここでやめるか否か、ですね。
見た目もかわいいですし、これで決めてしまうべきでしょうか……
もし次を引いてしまえば、選択できるのはソレか祖人だけです。
ふむ。こんな時は、あれに限ります。
ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・――
結果は、ここで止める……
……回しましょう。
なぜ? なぜかといえば、迷ったから、ですね。
神様の言うとおり、をやってちょっとでも迷ったなら、それは「これで決まったなら仕方ない」と思えていない証拠です。
私がやりたいと、心のどこかの天秤がそちらに傾いているということです。
だから私は、そういう時、決まった反対側をやることにしています。
そもそも、これって、文字数が奇数なので、最後は始めた反対側で止まるのが決まってるので、こう考えるのが妥当だと思うんですよね。まあ、もちろんこれは自論であって、色々なやり方があっていいと思いますが。
思い切って、3回目を回します。
がらがらがらがらがら……
クリスタルの中に、最後の抽選結果が現れます。
結果は何の変哲もなさげな普通の人型。
変なのにならなくてほっとしたような、面白味がなくてちょっとがっかりなような、そんな感じです。
いえ、イワシとかが出るよりは何倍もいいですよね。はい。前向きに行きましょう。
「わわっ! これは珍しいものが出たのです! おめでとうございます、なのです! 固有系統、機構人形なのです!」
と、思ったら何やら面白そうなのが出ていたみたいです。
ぱっと見は完全に人と変わりませんが、言われてよくよく見てみれば、瞳の奥に歯車のような影が映っていたり、身体のところどころに薄らと切れ目が入っていたりと人ではないことがわかります。
最後に面白そうなのが引けるとは、何とも劇的ですね。決めました、これにしましょう。運命を感じます。
まだ説明を聞いていませんが、聞くまでもなく、きっとその方が面白いはずです。
そう考えていた私の前にポップアップでウィンドウが現れました。
赤枠で縁取られたウィンドウには、
『この種族には、各種ステータスに一般的な種族とは違う特殊なシステムが採用されています。
このように、特殊なシステムが適用されている種族は、その生き方に他者の経験が参考にならない場合が多いため、この世界で生きるにあたって、生きづらくなる場合があります。
以上のことを確認した上で、種族についての説明を継続しますか? YES / NO』
の文章が。
これは警告でしょうか?
つまりは、適用されているゲームシステムが他とはちょっと違うから、攻略サイトを見る・知り合いに聞く、みたいなことをして「最強育成していこう!」 とか「効率的に攻略だ!」とか、そういうのができないかもしれませんよ、ってことですよね。
ゲーム進行不能になることがあります、みたいなことを言われるとちょっと悩みますが、ちょっと難しくなるかも、とかそれくらいならどんとこいです。
YES部分をつついてウィンドウを消すと、ナディちゃんの説明が始まりました。
「はいっ、それではっ。機構人形の特徴は、
まず、一部の状態異常が完全な耐性により無効化されるのです。
次に、『基礎的なステータス』が身体部品の品質その他の要素に依存しているのです。
また、魔法などのMP消費系のスキルの使用時に消費するMPおよび、空腹度を表すEPが存在しない代わりに、MPに関しては代用品が、EPに関しては各身体部品に劣化現象が起こるようになっているのです。
種族特性として、他種族より『先天性アビリティ』が少なく、『後天性アビリティ』が多く習得できるようになっているのです。
また、汎用的にほとんどのアビリティをこなすことが可能で、その成長率も比較的良好ですが、習得済みアビリティによっては別方向のアビリティが習得しにくくなることもあるのです。
種族的な欠点としては、基礎ステータスを上昇させるフリークエストの効果がないこと、薬品系統のアイテムの効果がないこと、身体部品の消耗及び破損、先天性アビリティには比較的有用なものが多いため、その習得数の少なさも挙げられるのです。
これらはゲーム開始後にも確認することが可能です、なのです。
この他に、何か質問はございますですか?」
前二つより圧倒的に長い説明でしたね。
だいぶ扱いが難しそうな印象を受けますが、なかなか面白そうな種族です。
小耳にはさんだ話では、このゲームはオール1の基礎ステータスをフリークエストで上げていく系だそうなので、基礎ステータスが部品依存って、確かにもはや別ゲーですね。
ここで疑問が二つ。
まずは、
「『先天性』とか『後天性』って何でしょう?」
「はい。
基本的にアビリティは、アビリティ習得クエストで習得するものなのですが、先天性アビリティは、クエストをこなす必要なく習得することが可能なものであって、このアビリティ群はクエストでは習得できないものとなっているのです。
この中には種族固有のものも多数含まれ、後天性のものよりも比較的有用なものが多くなっているのですよ。
後天性アビリティはアビリティ習得クエストによって習得することができるアビリティ群になるのです」
ふむ。
要は、生まれ持ったアビリティ(才能)と努力によって得たアビリティ(能力)ってことでしょうか。
理解しました。
あとは、
「回復の方法はどうすればいいんでしょう?」
「はい。
この後のチュートリアルでも説明があると思うのですが、機構人形の場合、HPの回復は固有アビリティのスキルである『自己修復』、創作系統に属するスキルの修復、あるいは工房等の施設で入手またはスキルによって作成することのできるアイテムである『リペアオイル』等々、ほかいくつもあるので、種族的に回復が特別困難であるということはないのです。ご安心ください、なのです」
ふむ。
早熟か晩成かの違いはあっても、種族的な上位下位がないように設定されているみたいですね。
このほかは今すぐ特に気になるところもなかったので、種族を決定します。
「それでは、この世界で生きるシロ様は、【機構人形】で本当によろしいですね?」
「はい」
最終確認へ肯き返して、これで私は機構人形です。
「畏まりましたのです。では次に、シロ様の外見を決めていただきますのです。
…パーソナルデバイス内に存在するキャラクターデータを使用しますですか?」
「はい」
私はゲームの時はゲーム用に作ったキャラクターデータがあるので、いつもそれを使っています。
友人があれこれ弄って少し派手になっていますが、あまり気にせずそのまま使っています。
ゲーム用に作られたVR空間は『見えていても見えていない』空間ですからね。直接現実に紐づけられるようなものではないので、顔がそのままでも多少派手でも、問題ないです。
と言うか、前からどこかが成長したのか、再編集には身体測定を受けてください、と言われるので正直ちょっと面倒です。
少し待つと、六角柱の中の人型が光に包まれ、姿を変えていきます。
変化が収まったときにそこにあったのは、体格や顔つきその他はほぼ現実の私と同じまま、ただ、髪が全体的に腰の辺りまで伸び、色はベースをプラチナに少量の金色の髪が混じる形に。
碧色に変わった瞳が私の眠そうと言われがちな眼から覗いています。その周りをフワフワの長いまつげが縁取り、目じりには紅色のラインが引かれ、下唇にだけのせられた薄紅色と共に、脱色されたように白くなった肌の上を彩っています。
自分を見慣れているだけに、いつもながらこの自分っぽい何かは違和感がすごいんですよね。
今回は人形的な調整も入っているのか特に、です。
「シロ様の外見は、こちらでよろしいですか?」
「はい」
とはいえ、見た目は正しく人形っぽいので今回はベストマッチだった、と言うことでしょうか。
「畏まりましたのです。これより、シロ様の意識をこちらの身体に移動させるのです。目を瞑ってください、なのです」
指示に従って目を瞑ります。
シャンと錫杖の音が鳴り、
「……移動が完了しましたのです。目を開けていただいて結構なのですよ」
ほんの少しの間の後、ナディちゃんがそう告げます。
目を開くと、目の前は真っ暗。いつも通り視界を長い髪が覆っていました。
前髪を真ん中で分け、耳にかけて後ろに流しておきます。髪留めか何かが最初の方で入手できるといいんですけど。
なければ編んでしまいましょう。現実だと結構痛むのでやりませんけど、ゲームならそこらへん気にしなくていいですからね。
現実ではやりにくいおしゃれを堂々とできるのもゲームの醍醐味ですよね。
「操作に問題はないですか?」
少し体を動かして確認していきます。
……特に問題はなさそうですね。むしろ可動域が広くて面白いです。
「はい、大丈夫です」
「畏まりましたのです。以上で、この場で行う設定は完了となるのです。
以降は、チュートリアルフィールドへ移動しそちらの担当へと引き継ぎますのです。
それではっ! 【Roots】の世界をどうぞお楽しみください、なのです!」
ナディちゃんがそう言って錫杖を軽く鳴らすと、私の足元が円形に発光し始めます。目に痛くない不思議な光です。
光の軌跡によって精緻な魔法陣が描かれていきます。凝った演出で綺麗ですね。
っと、移動してしまう前に……
「ありがとうございました」
一つお辞儀をして握手に手を差し出します。
礼儀は大事。小さな子に対しては特に。
まあ、ナディちゃんはAIなので関係ないかもしれませんが、癖みたいなものなので。
ん?
ナディちゃんがぽかんとした顔のまま動きません。このままだと私移動してしまいます。
私はナディちゃんの手を取って、
「握手、です」
数度手を振って、手を放します。
光はどんどん強くなっていき、視界が白く染められる直前に一瞬だけ、ナディちゃんが笑ったのが見えました。今までで一番の笑顔で。やっぱり、あいさつは大事ですね。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じいただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲