3-6糸で遊んで遊ばれて
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、シュークリームのシューってキャベツという意味なのだそうですね? 似ているといわれれば、似ている……?
だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
道中、他愛もないお話をしながらギルドにたどり着くと、言っていた通り修練場のスペースへと移動します。
そういえば利用するのは初めてですね。
マルメさんと、以前来た時は猫さんのいらっしゃった受付窓口に向かい、利用手続きを済ませます。
その際、ギルド証を求められ、初回利用ということで簡単な説明を受けたのですが、内容としては修練場の基本的な仕組みについてと、扉をくぐる際に使用したい部屋を選び入ってくださいということと、部屋へ入ったら扉はちゃんと閉めて鍵もかけてくださいということ、忘れ物は回収しますのでこちらの受付へどうぞ、という内容でした。
受付さんから番号の振られた鍵を受け取り、木枠の扉だけがずらりと並ぶ間を抜け、その番号の扉へと向かいます。
マルメさんが扉の鍵を開け手元のウィンドウを操作すると、そのまま真っ暗な扉の先へ消えていってしまいます。
ここへ足を踏み入れるのに少々勇気がいりますよね……
私も暗闇へ手を触れると、ウィンドウがポップし『入室しますか? 同室:マルメ』の文字に入室をつつくと、真っ暗だった扉の先が開けて何もない部屋が。
中にはマルメさんも見えます。
あ、こうなるのですね。
これなら入りやすい。
扉をくぐり、受付さん言われた通り扉をきちんと閉めて鍵も掛けます。
部屋の中は特に何かがあるというわけでもなく、本当にただのお部屋。
受付でマルメさんが多目的部屋と言ってらっしゃったので、他にも部屋があるのでしょうね。
そんなことを考えつつ部屋を見回していると、マルメさんが部屋の収納扉を開けて椅子を取り出しているところでした。
「そうしたら、始めましょうか~」
二人で対面する形で座ると、手元に私が貰ったものと同じような糸を取り出して話し始めます。
「何から話しましょうかね~?
じゃあ、まずは糸操りってなぁに? ってところからお話しましょうか~」
「はい、お願いします」
マルメさんが手にした糸を伸ばし、
「まず、糸繰りっていうのは、そのまま、糸を操る技術の事なんですね~」
読んで字の如く、そのままですね。
マルメさんが指を軽く振ると、手にした糸がくねくねと空で踊ります。
「これはあくまでも、糸に魔力を通して思い通りに動かすための技術でして~、布みたいに沢山の糸が集まった状態を動かすのは、まぁ、やってやれないことは無いのですけど、とっても大変なんですよね~」
確かに、布も糸の塊なわけですから、糸を操ることが出来れば動かせそうですよね?
少し気になったので、聞いてみます。
「あ~、ん~。
ほら、布って、糸が沢山集まっているじゃないですか~。
そうすると、流した魔力があっちこっちに行ってしまって、動かせるだけの魔力を流すためにとっても沢山の魔力が必要になってしまうのですよね~」
納得。
布を動かすということはそれを作っている糸を全て動かすということになるのですね。
大変というのは、そのための魔力、この場合はMPの消費が多いという考え方でいいのでしょうか。
「なので、使い道としては、縫い物に使ったり~…… ぐらいなんですけどね~
ほら、裁縫道具は道具にもよっちゃいますけど、これなら本人の技量だけでできるので~」
本当にそこまで使い道が思いつかなかったようです。
先ほど買った装備品の糸を取り出し、そのことについても聞いてみました。
「あ~、そうですね~。
確かに、装備品の糸も細かく動かせるようになりますけど、そんな必要あります? って感じですからね~」
ふむ。
考えてみると、細かく動かしたい場面というのはあまり思い浮かびませんね。
そうなるとやはり主な利用は裁縫用となるのでしょうか。
「まぁ、使い道はそれくらいですけど~、便利は便利ですし、早速練習始めましょうか~」
利き手を尋ねてくるマルメさんに、右手ですと答えると、マルメさんは私の右手を取り薬指に糸の先を結びつけると、上から軽く引っ張り糸を張ります。
「今、私の魔力が通っていますけど~、私が離したらすぐに抜けていってしまうので、強く『倒れないように』って意識だけしてみてくださいね~」
感覚は一切わかりませんが、マルメさんの説明を聞いて、言われた通り『倒れないように』という意識だけはしっかりとしておきます。
私がうなずいたのを見て、マルメさんが手を離すと、糸は一瞬直立を維持し、すぐに重力に従って垂れてしまいました。
「じゃあ、もう一回やりますね~」
手ごたえもないまま、そうして繰り返すこと十数回になったころ、糸の挙動に初めて変化が現れます。
すぐに垂れてしまうのは変わらないものの、垂れる際の動きが明らかにゆっくりになってきているではありませんか。
さらに回数を重ねると、最終的にはマルメさんが手を離した後も直立した状態を保てるようになりました。
それを確認すると、次のステップへ。
こうしたい、と糸に伝えてあげてください。と言われましたので、とりあえずバネのようにくるくると螺旋状になるように意識してみます。
この段階で既にある程度動きはするものの、最初は手にぐるぐる巻きになってしまったり、絡まってしまったりと糸の動きが荒ぶり思い通りにはなりませんでした。
ですが回数を重ねていくと、糸も思った通りに動いてくれるようになり、だんだんと強く意識しなくても不自由なく動かせるようになります。
さらに次のステップとして、最初のマルメさんが魔力を通さない状態。
今まではマルメさんのMPを呼び水に、数値上はMPの消費無しでやっていましたが、今度は自身のMPを消費して操る練習をします。
とはいっても、それはそこまで難しいこともなく、問題なく行うことが出来ました。
MPの消費は伸ばした長さに応じて消費される量が増えていくらしく、以降の操る際の消費は無いようです。
感覚としては大体1 mまでは1消費。
ということは2 mで2消費、なのかな? と思ったのですが、長ければ長いほど消費は増えていくそうで、2 mも伸ばすと10位使うらしいです。
3 mで100? そんな単純ではないでしょうか。
先ほど買った糸の魔道具の方は、長さ対消費は固定値な様でしたけど、あちらは糸を操るための消費ではなくて、糸を作るための消費なのでしょうね。
魔道具の方である程度動かせますし、その点どうなのでしょうと思ったのですが、マルメさんもよくわからないらしく、実際にやってみたかったのですが、私のMP事情は懐に攻撃してくるので、魔道具をマルメさんにお貸しして確かめていただくことに。
結果としては、糸自体が魔力を使って作ったものだからか、かなり伸ばしても操る消費はかなり少なくて済む様でした。
あと、マルメさんが魔道具をかなり気に入ったようで、買った場所をお伝えするととても嬉しそうにしていらっしゃいました。
有名ではなかったのでしょうかね?
以上で、糸操りの習得が完了。
以降、アビリティとして取得できるようになりました。
こういうのは、教えてもらえばアビリティを取らなくても使えるのかが少々疑問だったのですが、マルメさん曰く「出来るけど、むずかしいですよ~」とのことで、今はこうして教えていただいているからアビリティが無くてもできるだけだそうです。
大人しくアビリティを取りましょうね。
アビリティ欄から取得しながら、なぜギルドで受けられないのかも聞いてみました。
理由は単純で、ひとが付いて教えないといけないのでギルドに登録して受けに来る人が増えても手が回らなくなってしまうからだそうです。
と、いうことは逆に、他にもわざわざ教えないといけないようなものはほとんどギルドからは受けられないということなのでしょうか。
そう考えると、ギルドで受けられるものだけでもかなりの数があったのに、アビリティにはどれだけの数があるのでしょうね。
そんなことに思いを馳せながらアビリティを確認してみます。
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『糸操り』Lv.0
魔力を用いて糸を操る才を持つ者の証。
スキル▼:P 道具の扱い(糸)
TEC+1 INT+1 ※MP+5※
~機構人形~
※MPステータス取得不可。
※MPコンバータの変換効率がわずかに上昇します。
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見慣れない書かれ方に一瞬戸惑いましたが、MP+5が出来ないからその代わりに、ということですね。
こんな風になるのですね。
今まで、MPが上がるものを見ていなかったので気付きませんでしたが、空腹度のEPが上がることもあるのでしょうか? その場合どうなるのでしょうね?
耐久度の上昇とかがそれっぽいでしょうか?
無事習得することも出来ましたし、以上で糸繰りについては終了でマルメさんと修練場を出て受付さんへ鍵を返したら、お礼を言って一応その場で解散に。
ただ、お店に行ったときに素材のお買い物をし忘れていたので、一旦ログアウトしてお家のことをやったら私も戻ってお買い物したいですよね。
そうしたら、ギルドのクラフトスペースというのも気になりますし、魔石用のポーチとか色々作りたいです。
フリークエストが全然できないのですが、まぁ、あくまでもフリーなクエストですからね……
近場の椅子の端に座り、周りを見回すと、夜だからかかなり多くの方が行き交う様子が見て取れます。
これなら、自己修繕も使えるのでは? と思い、発動してみました。
すると、発動のアナウンスと共に18分のカウントが始まります。
それを確認し、ログアウトしてしまいます。
一通りのログアウト動作を終え、コクーンを出て外を見ると、外はまだ一応明るいようでしたが、時間的にはもうすぐに日が落ちることでしょう。
部屋のカーテンはもう閉めてしまって、リビングへ。
夜何食べようかなと思ったところで、そういえば母が買ってきたお肉があったのを思い出しました。
豚肉なので、生姜焼きですね。
少し早めの晩御飯ですが、父と母が帰ってくるのは遅くなるでしょうし、さっさと食べてしまいましょう。
キッチンに立ち晩御飯の支度をしていきます。
私は生姜焼きは漬け込まないタイプですね。
面倒ですし。
お砂糖多めで調味料を合わせて、生姜もすりおろして。
私の分はお肉を焼いてから合わせ調味料で煮詰めていきます。
その間にキャベツも切って。
私はこの甘めのタレが絡んだ太めの千切りキャベツが好きなのですよね。
父と母の分はチャック付きの袋に漬け込んで冷蔵庫へ。
キャベツもビニール袋に入れて冷蔵庫。
ご飯ももうそろそろ硬くなってきそうな感じなので、全部取り出してラップで包んで冷凍庫行き。
明日食べましょう。
父と母用に新しくお米を炊いておきます。
大体いつも零時前後には帰ってくるので、二十三時にタイマー。
皿に盛り付けたらいただきます、です。
ささっと食べてしまって食器は洗浄機に放り込んだら、クリーナーで軽くお掃除。
後は、お風呂、というかシャワーでいいですね。
お湯を張るのは少し面倒です。
そちらもささっと済ませ、水分補給を済ませたら、これで一応寝る前にやっておかないといけないことは一通り済ませました。
髪を乾かしたら、戸締りの確認をして、父と母へ冷蔵庫の焼いてない生姜焼きとキャベツのメモを残し、部屋へ戻ります。
この間、二時間程。
食べるのが遅いので、主に作って食べる時間ですが、時計は二十時近くになっており、外を覗くと流石にすっかり暗くなっていました。
眠くなったらそのまま眠る予定なので、部屋の電気は消した状態で、再度コクーンに入ります。
戻ってくる感覚と喧騒。
自己修繕は無事完了したようでした。
さて、一旦メモしておいた素材を買いにお店へ戻りましょう。
席を立ち、ギルドを後にします。
お店へ戻ってくると、棚に寄り商品一覧のウィンドウを開きます。
その中からメモにある必要な素材を数個分購入し、レシピも気になったものを購入し、合計で大体一万 C分購入。
大量の素材を抱え、ギルドに戻ります。
クラフトスペースの受付では、昼間寝ていた方々が変わらず寝ておられました。
特に並んでいるということもなかったので、先ほど対応してくださったうつ伏せで寝ている方の窓口に。
窓口に近寄ると、受付さんがむくりと頭を起こします。
「あ、昼間の。いらっしゃいませ~。
クラフトスペースをご利用ですか?」
「あ、はい、これって……」
こちらを視認して、覚えていてくださったのか、そうおっしゃるお姉さんに、ボックスから取り出した『クラフトスペース利用券』を差し出しながら尋ねます。
「あ、は~い。いただきますね。」
お姉さんにチケットを渡して少し。
鍵を渡されて、修練場の時と似たような説明を受けます。
あちら、と指された方にある扉へ移動し鍵を使うと、修練場の時と同様に入室の確認がポップ。
入室を押すと、スライド式のドアが自動で開き、扉の向こう側には全体が木調で統一された、如何にも工房といった雰囲気を感じる部屋が広がっていました。
そさくさと部屋の中へ足を踏み入れます。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲
追記.
い、言い訳を…… 満月にKOされました。(意味不明