3-4MPについて
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、納豆菌の強靭さは有名ですよね。
だから何というわけではありませんが。
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これまた意外と入り組んだ道を進み、離れたり近づいたりと繰り返しながら少しずつ目的の場所へと寄って行きます。
途中に誰とすれ違うこともなく、
道沿い、玄関先に歯車のデザインが入った吊り看板。
扉には営業中の文字が入った表札が揺れています。
どうやらここが目的地でいいようです。
営業中なので、お店ということでいいのでしょう。
横の脇から覗く店内は、多数のランタンなようなもので照らされており、光の差し込みづらい裏路地にあっても屋内は明るく保たれております。
店内、出入り共に他の方がいる様子はありません。
兎にも角にも、ここで合っているはずです。
内開きの扉に手を掛け開くと、からんころんとドアベルの音が響きます。
店内の空気にまず感じたのは、無機質な香り。
金属の香り、なんて意識して嗅いだことが無いので言えませんが、それでも確かに、他のお店とはまた違った空気を感じます。
置いてある数々のアイテムの所為なのか、それともそれらを見た私がそう感じているだけなのか、それはわかりませんが。
そんなことを考えてしまうほどに、棚に並べられたアイテムの数々は今までこのゲームで目に入ってきた物々とは雰囲気が違いました。
似たものといえば、やはりMPコンバータが一番近いのでしょう。
小さなものから大きなものまで、何となく利用法がわかるようなものからさっぱりと理解できないものまで、多種多様なアイテムが並び、あちらこちらに視線が引っ張られて行ってしまいます。
視線をさまよわせつつ店内を見回しますが、やはり店内には人影がなく、お買い物をしている方どころか店員さんすらいないように見えました。
とりあえず奥のカウンターのようになっている場所に。
もしかしたら少し席を外しているだけで、奥にいらっしゃるかもしれませんし。
ぱっと見では奥にも人はいないようで、カウンターから少し身を乗り出し奥を覗いてみますが、広い作業台と壁にかけられた大量のケース、そこに詰められた用途もわからないような細々しい部品たちが見えただけで誰かがいるようには見えません。
ただ、さらに奥に木製や金属質な扉がいくらかあるのが見えますので、いるとしたらその奥でしょう。
あまり大きな声を出すのも得意ではないのですが、意を決して奥の方へ「すみませーん」と声を掛けます。
それに答えて帰ってきたのは若いお姉さんの「はーい」というお返事と、それに続く「今行きまーす」という声。
人が居たことに少し安心しながら待っていると、次に私の耳に聞こえてきたのは、足音でも扉を開く音でもなく、爆発音。
それも『ぼんっ』とか『どかんっ』とかそんな音ではなく、表現するなら正に『ちゅどーん』が正しいのでしょう。
そんな爆発音です。
NANIGOTO……?
断続的に三回ほど『ちゅどーん』を聞こえてくると、ようやくその音も止まります。
鉄扉の隙間から漏れ出てくる黒い煙に、奥にいた方が生きているのかという不安に駆られて、救助に言った方がいいのでは、と思い始めた頃。
「あー、大丈夫です、大丈夫ですー、気にしないで下さーい、今行きまーす」
という声が奥から聞こえてきます。
ヨカッタ、イキテタ。
大丈夫と言うのなら大丈夫なのでしょうが、気にしないのは無理ですよね。
いまだに若干不安なまま、待つこと少し。
奥の鉄扉が開くと、空気が大きく動き、外からの空気で扉が揺れてドアベルがからんと音を立てます。
風はこちらからあちら向きなのでそこまでではないのですが、それでもなお鉄扉の方から空気に乗って漂ってくる何とも表現し辛い変な香り。
その香りを全身に纏って、服をはたき髪を手櫛で整えながら奥から姿を現したのは、黄色のつなぎを身に着けた少女。というか幼女。
顔も含めところどころが煤に汚れているのは先ほどの爆発の所為なのでしょう。
特筆すべきはその身長で、私の三分の二程度しかない身長は私よりも頭二つ分ほど小さく、目算で100 ㎝ をぎりぎり越えるくらいしかありません。
明るいオレンジ色のショートヘアの前髪を太めのカチューシャで留めたデコだしスタイル。髪のところどころが跳ねているのも先ほどの爆発の所為なのか、はたまた癖っ毛なのかはわかりませんが、雰囲気と表情にとても快活な印象を受ける子です。
この子が店員さんということでいいのでしょうか?
煤に曇ったゴーグルを外し、逆パンダになった彼女と目が合います。
すると一瞬固まったかと思えば、カウンターの向こう側にはふみ台でもあるのか、とととっ、とすごい勢いでカウンターに走り寄りこちらとおなじ目線に合わせるt「ふぁあー! すごいすごいっ! 本物ですか!? ぅぶっ……」
NANIGOTO part2!?
かなりの不意打ち気味にカウンターから身を乗り出し、鼻頭が触れ合いそうなほどの距離まで顔を寄せてくる彼女に、思わず顔を覆うように手が出てしまいました。
なんか突撃されると癖で撃墜したくなるのですよね。
今は彼女が小さいからですけど、同級生とかでも急に動かれると頭をべしっとやってしまうこともありますので、よく『前世は猫』と言われます。
子供は好きですけど興奮した様子でいきなり寄られるのはちょっと怖い。
そのまま軽く身を引きながら距離をとると、自分でも自覚が出来たのか、こちらに謝罪を告げて見た目だけは冷静に。
「いらっしゃいませ! 機構人形さんが何か御用でしたでしょうか?」
瞳にはまだ興味の色が抜けきっていませんが。それでも普通にお話しできるくらいの雰囲気にはなりましたので、
「これの強化と変更? というクエストで来たのですが」
見せてしまった方が早いかと思い、自身からMPコンバータを外して、見せながら聞いてみます。
「はいはいはいはいはい。ですよねー!
やったー!
見せてもらってもいいですかっ!?」
カウンターから身を乗り出して伸ばされた手にMPコンバータを渡すと、その場でひとしきり眺め「少々お待ちくださいね」と一言断りを入れてから少し奥の作業台へ。
素人目には大小様々な歯車をボンドか何かで無作為にくっ付けて丸くしたようなにかにしか見えないので何をしているのかはわかりませんが、各部を工具やらで軽くいじったり、拡大鏡で観察したりとしている姿を眺めます。
手元の紙に観察しながら何かをがりがりと書き込んでいき、メモ帳程度のその紙が文字でいっぱいになったころ。
「はいはいはい、何となくわかりました。ありがとうございますっ!」
顔を上げてこちらを見ながらそう言って、MPコンバータを手にカウンターまで戻ってくると、手元に持った紙に視線を移し書かれた情報を纏める様に話が続きます。
「そうですね、私も見たのは初めてなので出来ることしかできないのですが、基本的な構造は…… ってそんなこと説明してもしょうがないですし、聞いてもわかんないですよね。
えっと、今見た感じ、できるのはですね――」
マニア特有の早口が発動し、怒涛のように流れ出てくる説明を何となく纏めるとこんな感じ。
強化に関しては、MPへの変換効率を向上させるのを主として、魔石を変換したMPを貯めておく場所を増やすことで、電池を二本にして別々に利用するように、利用できる量を増やしたりといったことができるそうです。
それにはいくらか素材が必要になることがあるので、買っていただくか集めていただくかしてください、とのこと。
ただ、こちらは身体部品とは違い、一気に容量を上げて出力できるようにすること自体は出来ても、そうすると、機構人形の場合は身体への負荷がとても大きくなってしまい大変なことになりかねないそうですので、こちらも少しづつ上げていく必要がありそうですね。
また、MPコンバータ自体は魔道具のエネルギー供給の部品と似たようなものになっているようで、新しく作ることも可能とのことです。
強化していく方が高くついてしまうので、身体の方が出力に耐えきれるのであれば新しく良いものを作った方が安上がりではあるらしいのですが、それもどちらが良い悪いの話ではなくて、新しく作ってしまうと、ある程度の基礎値がある状態のものを作ることになるので、強化していったカスタムというかオリジナリティというか、自分の使いやすいようにしていった方向性の方が使いやすい場面ではただ全体の性能が良いものよりも使いやすいこともある、というお話ですね。
そんな熱弁を、主にMPコンバータの装置としての仕組み的なお話を延々と聞いていると、何となく、気になったことだけはあれこれと考えてしまう自身と重なって、親近感。
説明も一区切り。
はっとした様子で「余計なことまで、すみません」と謝罪を述べて話が終わります。
「お客さん…… えっと……」
「あ、シロです」
そういえば名乗っていませんでした。
なんかお店で店員さんに名乗る、って習慣にないですよね。
「あ、はい。 シロさんですね! 私はオーリナと申します! 今後とも、よろしくお願いしますね!」
「はい。よろしくお願いします。」
ずいぶんと『今後とも』の部分に力が入っていたのに少し面白いです
「あ、それで、シロさん、今強化していきますか?」
「えっと、必要な素材とかって?」
強化したいですが、
「最初は軽く調整するだけですし、赤鉄鉱が二つあればできますね。
確か今の相場は……」
オーリナちゃん、さん?
見ている感じ、ちゃんと言う感じはしないですよね。
小ささは種族的な何かっぽいですから、さん、が正しいでしょうか。
オーリナさんが作業台にある機械を叩いて、おそらく相場を確認。
すぐにカウンターに戻ってきます。
「お買い上げいただくのでしたら、520 Cなのですけど、おまけして500 Cでかまいません」
「お願いします」
もうそれを聞いた瞬間即答です。
数千単位だと少し悩むかもしれませんでしたが、数百単位なら今は懐も温かいですから。
「はい、畏まりました」
同時に500 C支払いのウィンドウが表示されましたので、承認を。
「はい、ありがとうございます。
少々お待ちくださいね」
再度MPコンバータを手に作業台へ戻ると頭にしていたゴーグルを装着。すぐに夕焼け色の光が手元を覆うように輝き始め、手元が完全包まれます。
手元が見えないので、どのような作業をしているとかは全く見えませんね。
裁縫師のアビリティを取った時の周りの方然り、ものを作っている時は普通に作業している姿が見えますので、あれは強化という別の何かなのでしょうね。
私もできる様になったりするのでしょうか。
そんなことをぼんやりと考えながら作業が終わるのを待つこと少し。
作業が終わったようで、オーリナさんが戻ってきます。
手には特に変わったようには見えないMPコンバータ。
まぁ、調整だけって言っていましたから、劇的な変化はなくても当然ですか。
「はい、ではこちらになりますね」
今回何をやったかの説明を受けながら強化されたMPコンバータを受け取り、装備します。
強化の内容としては、変換効率が一割程向上したようなので、今までなら10のMPになる魔石が11になるということですよね。
とはいえ、こちらもMPの横に『変換効率10%向上 (0%)』という表記が出ているので、ちゃんと使って身体を慣れさせていかないといけません。
~ポーン~
と、ここでクエストも達成判定になり、ウィンドウに達成のハンコと共に、報酬の無属性触媒が吐き出されました。
触媒はそのコンバータから特定の属性で出力する際のMP使用量を減少させる効果があるようです。これまた今使ってしまうのは少しもったいない気がします。
……何でもこうして保管していると、ちゃんと進められるのか若干心配になりますがその時になったら考えましょうね。
このゲームがどれくらい硬派なゲームなのかは知りませんが、手に入ったものを駆使していかないと詰むゲームも往々にして多いですからね。
オーリナさんにお礼と今後もよろしくお願いしますをしたところで、少々気になったことを聞いてみることにいたしました。
「あの、ここって、何のお店なのですか?」
「一応、魔道具屋ですよ、生活に役立つものから冒険に役立つもの、他にも役に立たないものも。
私の趣味のようなお店なので、実際なんでも売ってますけど」
おぉ、やはり魔道具を扱うお店だったのですね。
そうしたら、ここで魔道具について聞いてみるのもいいですよね。
そしてここがオーリナさんのお店だという新事実も発覚。
やはり『さん』でよかったですよね。
「あの、魔道具について教えていただくことって、出来ますか?」
「魔道具について、ですか?」
私の言葉に少し首を傾けるオーリナさん。
「えっと、何が知りたい、とかはありますか?」
そう問われて、むしろ魔道具について何か知っていることはあっただろうかと考えてしまいましたが、本当に何も知らないのですよね。
「魔道具については何も知らないです」
答えると、オーリナさんが少し上を見つめて人差し指で空にくるくると円を描く仕草を見せると、すぐにこちらに向き直ります。
「じゃあ、魔道具ってどんなものなのかから、お話していきましょうか♪」
「はい、よろしくお願いします」
なにやらやたらと生き生きとした様子に、既に若干地雷を踏んでしまったような予感をひしひしと感じながら、続きを待ちます。
専門的なお話になったら付いていける気はしないのですけれどね。
お読みいただきありがとうございます。
難産……
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲