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共通ルート


「いつ来ても立派なお城」


配達先へ向かう途中にはとても深い森がある。

お城はとても広大な敷地で、遠くからでも見えるほどの大きさだ。


 私は町の小さなパン(ブーランジェリー)のヴァーツリィー・ベーカリーの娘。

家が火事になってパンが焼けなくなって、家族がすごく困っていた。

 そしたら、パン屋の常連で変わり者と噂の魔導師さんが新しい家と竈を用意してくれて、その対価が毎日パンを届けることだった。


『好きなんだ! 一生私にパンを焼いてくれ!』


――なんてことを言われてしまっては、配達を怠るなんてできないだろう。


「そこの人間、最近この森の近くをうろついてんのおまえだな?」

「え、そうだけど」


 二足歩行だが爬虫類に近い下級魔族がぞろぞろと私を取り囲んでいる。


「あんた達このあたりで暴れてるゴロツキ集団ね!」


 男達は私を捕らえてカビだらけの地下へ放り込むと鍵をかける。

閉じ込められて配達どころではなくなってしまった。


「オーナーは残虐なショーをご希望だ! せいぜい大声で鳴いてくれよ!」


複数の獣の鳴き声がこだましている。鉄の柵が引き上げられ、私のほうへ向かってきた。


「いやあああああ!」


バスケットのロングブレッドを取り出し、棍棒に変革させる。

それで魔獣を殴りつけると、数倍の力が加わり見事なまでにフルスイングできた。


「私の力は“倍率付加”どんな物質も数倍の力に変化させることができる!」


危機的状況にならないと使えないのが難点だけど、これで鍵のついた柵を壊す。

 魔獣を倒されて、戦意喪失した様子のゴロツキは逃げていく。


「よ、セルデの連中相手に、派手に騒いでくれたじゃねェか」


いきなり男が現れて、敵意はない様子だけど警戒しながらいつでも逃げられる場所へ移動する。


「貴方は種族が違うけど……仲間じゃないわよね?」

「あんな下等と同じ扱いされちゃこまるぜ嬢ちゃん」


男は見逃してくれるのか、そのまま残骸だらけの奥地へ向かう。


「さて、配達!」



「お待たせしました!」

「丁度12時30分、時間通りじゃないか」

「それならよかった。(今日は用事があって数分早く来るつもりだったんだけど)」


あれは本当に終わったと思った。前にもこんなことがあった気がしたけど、よく思い出せない。


「ごくろう。……また明日」

「はい」


そっけない人だと思いつつ、コクりと頷いた。時間がないので帰宅はせず広場へ向かう。


「コルネ、こっちだよ!」

「叔母さん」


今日は広場で大会があるから、そこで売り子をしなければならない。


廃星戦(スターダストラグリオン)


それは7年に一度開かれる魔法世界の長“ドゥルグリース”を決める大切なイベントだ。


「階段で挫いたってきいたけれど、足は大丈夫?」

「ええ。……今年はどこの一族が覇権を握るかね……」

「ハケン?」

「えらいってこと、そういう説明はキミにはまだ早いかな」


3歳の親戚の子フォボスは首をかしげたままだ。



「御覧ください、これが今年の杖です」


神王(ドゥルグリース)は男女で交代制で、前の年は女神王(ドゥルグリア)だった。

今回の参加者は男性に限られており、トーナメントに勝利したものが男神王(ドゥルグル)となる。


「母さんはお店に立ってるから」

「じゃあ私は注文の確認……」

「あらフォボスがいないわ!?」


叔母は片足を骨折しているので、フットワークの軽い私が探すことになった。


「フォボス~!」

「おい! あれ……」

「大変だぞ!」


ステージを見ると杖の近くに小さな子供……まちがいなくフォボスだった。


「こら、神聖な場に……!」

「なんということだ!」


フォボスは会場に上がり、あろうことか杖を奪って振り回した。

そのままそれを投げて、地面に落としてしまう。杖は繊細で、粉々に砕けてしまった。


「何をしている! 今すぐ奴を捕らえよ!」


ほんの少し目を離したすきに、大変なことになってしまった。


「さて、言い残したことは?」


領主でありフランポーネの公女バレッドが問う。


「ありません……」


子供とはいえフォボスは大罪を犯し、目を離した大人の責任も重かった。

 平民の命は軽いもので、一族全員が処刑されることは免れない。今朝切り抜けたピンチなど無意味なほど短い人生だったと悟る。


「一族全員なんてあんまりです!」

「そうよそうよ!」


一人の声に民衆が沸き立った。そんな意見を言えば領主が黙っていない。皆は裁きが怖くないのだろうか?


「それでは我が国の杖を待つ他国の者へ示しがつかん」

「姉上……処刑ばかりしていてはかつての恐怖政治の時代と変わりません。民衆の声を聞くのも良き領主の務めかと」


公子フィディクが時代の変化を説き、思わぬ助け舟を出してくれた。


「ここは杖の材料を集めることで償わせるのはいかがですか?」

「ふむ……できるのか? この幼子に」

「フォボスは責任を取ろうにも幼いです。ですから私が新たな杖の材料を集めます!」


「気丈にも責任を請け負う彼女を、信用してみようではありませんか」

「お前がそこまで言うのなら……小娘、せいぜい足掻くがよい」

「わかりました!」


 庭師(ガーデナー)のオルドからボディとなる木、フィディクからはコーティング剤、組織の首領シルギから持ち手に巻くの布、そして上部には魔王の角から切り出した石。

 それらを大会終了までの期間、つまり1週間以内に集めなければ死罪は免れない。


「話は聞いたぞ。私も協力は惜しまん……」

「レレスさん!」


私には心強い味方がいる。きっとなんとかなる! 強い決意をもって私は材料集めを始めへ向かった。


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