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第4話

 

 それから私たちは、コンソメスープと、お皿に大量に盛られたパンを食べ始めた。彼が律儀に、パン一つ一つの感想を聞かせてくれるので、私はつい嬉しくなって、パンのこだわりを熱く語ってしまった。途中で喋り過ぎてしまったかなと思い、口をつぐむと、「たまにはこういった晩ご飯も楽しいですね」と、彼は笑ってくれた。



「今の仕事につこうと思ったきっかけは、何だったんですか?」

 ひとしきりパンの話が終わると、彼にそう聞かれた。きっと私が熱く語り過ぎたせいだろうと思い、少し恥ずかしくなる。だけど、茶化したりせず、真剣に聞いてくる彼に、私も本心を答えようと思った。

「…… 私、食べ物を食べて美味しいって思えることは、すごく幸せなことだと思うんです。私にとって、その一番はパンでした。お腹いっぱい食べると心が満たされる。だから私も、誰かに美味しいって思ってもらえるようなパンを、作りたいと思いました」

「僕もあなたの作ったパンを食べて、幸せをもらっている一人です。仕事で疲れた時、あなたの作ったパンを食べると癒される」

 彼に優しい目で見つめられて、思わず目をそらしてしまう。

「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」

「それにあなたは、いつも楽しそうに仕事をしている。とても素敵なことだと、僕は思います」


 私はなんだか気恥ずかしくなり、食後のコーヒーでも淹れようと、席を立った。すると後ろから、彼の声が聞こえてきた。

「僕もあなたと同じような気持ちで、今の仕事を始めました」

 振り返ると、彼はどこか苦しそうな表情で俯いていた。

「だけど、いつの間にか、そんな気持ち忘れてしまっていました。周りの期待に応えようとすればする程、自分がやりたかったことが分からなくなって… 」

 コーヒーを淹れながら、彼の声に耳を傾ける。

「誰かと比べられるのが怖くなった」

 彼が時折見せる疲れた表情や、寂しそうな顔は、この辺りに原因があるのだろうか。

「すみません。愚痴っぽくなってしまいました」

 慌てて謝る彼の前に、コーヒーを置く。コーヒーのいい香りが拡がった。

「全然大丈夫ですよ。あっ、お酒でも飲みます?愚痴聞きますよ」

 悪戯っぽく笑った私に、彼の表情も少し柔らかくなった。

「いえ、ありがとうございます。コーヒーを頂きます」

 そう言って、コーヒーに口をつけた彼はほっと息をついた。



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