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八話


 そこでふと、賊の一人が口にしていた言葉を思い出した。 

()を出したら商品価値が下がる……ね。

 そこまで考えて、ふと、一つの疑問が浮かんだのだった。


「ん? だったら既に経験者(・・・)ですって嘘でもそう言えば、お役御免なのでは?」


 調べる方法がないことはないが……ジャンヌダルクの処女検査みたいなやつとかね。

 ただ、人攫いがそこまでのことをするかって話しだ。

 真実はどうであれ、嘘でもそう言っておけば、価値に疑義を挟むことは出来る。

 少しでも疑惑を挟めれば、買うのを躊躇わせるには十分な効果は出るはずだ。

 おそらく、かなり高額で取引されているだろう商品だからな。買う側にしても、物が物だけに傷物である可能性が少しでもあれば、そうそう簡単に買う奴はいない……と思う。

 勿論、カネに物を言わせて手あたり次第、という奴には効果はないだろうけど。


「あっ、えっと、それで逃がしてくれるなら、誰も攫われたりはしないと思いますよ?」


 俺が何気なくぽつりとつぶやいた一言に、ソアラが少し顔を赤くしたまま、そう指摘した。


「……ですよね」


 ……確かにそりゃそうだよな。ソアラに言われて、そう考え直す。

 攫う側からしたら、ぶっちゃけ未経験だろうが経験済みだろうが関係ないもんなぁ。

 何を言ったところで、助かりだけの方便だと思われるのがオチか。


 最悪、「こちら生娘エルフの生き胆で御座います」とか言って、調理済みで出してしまえばいいだけだし。

 それだと、もうエルフじゃなくてもいいじゃんね? という話しになりそうなので、何かしらの方法で“エルフ”ということは保証して売るのだろうが……

 まぁ、あんな奴らのことなど興味もないので、正直どうやって売っていのかなど、どうでもいいといえばどうでもいい話しだ。


「にしても、いくら何百年と生きるエルフだからって、薬にされるのはたまらんなぁ……」

「あっ、そのエルフ長生き説、嘘だから信じないでくださいね」

「えっ、エルフって長生きじゃないのか?」

「寿命だけなら、人間の方とそう変わりませんよ。うちの村で一番のご長寿おばあちゃんが一一〇歳ですから」


 おっと、ここで驚きの真事実が判明した。確かに、一一〇歳くらいなら人間でも稀にいたりするしな。


「エルフは、人間に比べて老け難いだけなんです。これは種族特性だと、昔、偉い学者さんがそう言っていました。

 大体、何百年も生き続けてたら、ただの化け物じゃないですか。それに、そんな長生きなら、今頃地上はとっくにエルフだらけになってますよ」


 まぁ、よくある設定だと、超長命種は極めて繁殖能力が低いから、子どもが生まれ難い、とかで人口バランスを保っていたりするんだけどね。

 しかし、俺はこうも思うのだ。そこまで繁殖能力が低かったら、普通に絶滅すんじゃね? と。

 妊娠・出産の周期が一〇〇年単位だとしたら、その間になにか大きな災害や病気が蔓延しただけで、ぷつりと簡単に種が途切れてしまう。

 結局、種を保存し続けるためには、子どもを沢山生まなければいけないので、超長寿・超低出産は成り立たないと思うんだよね。生物的に。


「確かにな……」


 俺の持論を肯定するかのようなソアラの言葉に、軽く頷く。が、当のソアラはプンスカといった感じで可愛らしく激昂していた。

 ああ、これはなんとなく分かるな。あれだあれ。

 日本には、未だにちょんまげの侍と忍者がいると信じている外国人に、日本人が呆れる感覚に近いものなんだと思う。


「ん? 老け難いってことは、もしかしてソアラってその見た目で、三〇とか四〇だったりするのか?」

「いえいえいえっ! 流石にそれはないですよ!

 老け難いと言っても、人間と差が出るのは三〇過ぎ、所謂、中年層からなので」

「そうなんだ。で、エルフって実際どれくらい若く見らたりするんだ?」

「そうですね~、人間の感覚で五歳から十歳程度は若く見られるそうですよ」


 三〇代なら二〇代に、四〇代なら三〇代にってことか。そりゃ、人間からは羨ましく思われるだろうよ。特に女性からはな。


「なら、ソアラって今は実際何歳なんだ? 十代くらいに見えるけど」

「今年で一七になりました」


 一七。一七か……

 まぁ、見た目通りといえば、見た目通りだな。

 しかし、一七といえば日本ならJKだよJK。

 仮に、ここに日本の法律を適用したら、二七の俺が無意味に声を掛けたら即事案扱いで、お巡りさん送りになる案件だよ。

 喩え、今回の様な保護目的でも、最悪、未成年者略取でタイーホである。


「あの、失礼かもしれませんが、スグミさんはおいくつなのでしょうか? スグミさんも大分お若く見えますが……」


 若い、ね。日本人は、見た目より若く見られるっていうからな。


「俺は今年で二七になったな。そう考えると、丁度一〇離れてるのか」


 ほぼほぼ一回り離れているのか。俺も歳を取ったものだ。


「二七っ!! うそっ! 私より少し上くらいだと思ったのに……一〇も離れてるなんて……」


 で、俺の年齢を教えたら、すげー驚かれてしまった。


「エルフの私が言うのも変ですが、見た目と年齢が違いすぎませんか?」

「ホント、エルフが言うことじゃないな」 


 取り敢えず、俺の種族(日本人)は、童顔体質が多いのだと説明したが、ソアラには中々納得してもらえなかった。

 終いには「種族全体で、邪法に手を染めているんじゃないですか?」と在らぬ嫌疑まで掛けられる始末だった。

 最後は渋々といった感じだったが、なんとか納得はしてくれたけどさ。


「しかし、別に超長寿なわけでもなく、ただ老け難いってだけで命を狙われるのは、ほんとたまらんなぁ……」

「本当ですよ。今まで成功例がないのに、どうして同じ事を繰り返すのか……理解に苦しみます」

「だな……」


 こんなしょーもない理由で攫われて殺されたんじゃ、死んでも死に切れないだろうよ。

 しかも、信憑性皆無な噂レベルの情報で人を殺すとか……もぉねぇ?

 これならまだ、風邪の時のケツネギの方が信用出来るというものだ。

 これってきっと、エルフを攫う奴よりも、そんなしょうもない物に莫大なカネを出す奴の方が問題なんだろうな……

 買う奴がいるから売る奴がいる。買い手が付かなきゃ、わざわざ高いリスク背負ってまで攫ったりしないって話しだ。

 

「なんかすまんね、いろいろ聞いて。年頃の娘さんには恥ずかしい話しとかもさせちゃたしな。でも、大方エルフについて理解出来たよ。ありがとさん」

「い、いえ……この程度しかお役に立てず、ごめんなさい……」

「いや、そんなことはないさ。まだまだ、聞きたいこともあるし、役に立ってもらうつもりだよ」


 申し訳なさそうにするソアラに、俺は軽い感じでそう言った。


 それから、あれやこれやとソアラを質問攻めにした結果、多くのことが分かって来た。

 まず、ソアラが誘拐された背景について。

 彼女の家は代々続く薬師の家系であるらしい。まだ見習いであるソアラは、その日も住んでいる集落の近くで、日課の薬草採取をしていたのだという。

 しかしその時、突然奴らに背後から襲われ、抵抗する間もなく攫われてしまい、わけも分からないままここまで連れてこられてしまったと言うのだ

 ふと、あれだけ森の中で素早く走り回れるのに、なんで簡単に捕まってしまったのか疑問に思っていたのだが、そういう事情があったようだ。


 で、攫われてしばらくした頃、見張りが居眠りをしている隙をついてなんとか脱出。

 それが今朝の話しであるらししい。

 何処かも分からぬ森の中。それでも、当て所なく逃げ回っていたが、碌な食事を与えられなかった所為で体力も尽き、しかも逃げる際に一太刀を受けて深い傷も負ってしまっていた。

 だが、ソアラは諦めず、小柄な体格を利用して、藪に飛び込んだり、大木の陰に身を隠したりして男共から逃げ回ったそうだ。

 しかし奮闘空しく、疲労と出血でもう一歩も歩けなくなってしまい、あとは運を天に任せるだけと覚悟を決めて、息を潜めて木の陰に隠れて蹲っていた。

 そんな時、丁度俺と出くわした。というのが、事の顛末であるらしい。


「突然娘が行方不明、か。さぞ、親御さんも心配してることだろうな」

「はい……」


 両親のことを思い出したのか、ソアラの表情が暗く沈む。

 ん~、なんとかして家族の所に帰してあげたいものだ。

 しかし、どうやって? ここが何処なのか分からないのでは、ソアラの住んでいた場所など到底分かるばすもない。


 しかし、その答えのヒントは、図らずもソアラ自身の口から語られたのだった。


 なんでも、ソアラが連れてこられる道中、あの人攫い共……正確にはエルフ攫いか? まぁいいか……は隊商を偽装した馬車で、街道を移動していたというのだ。

 その時、近くに街があるということをソアラは聞いたらしい。


 これで当面の目標は決まった。まずは街道を見つけて、そこから街を目指す。

 ソアラが、馬車は朝日を背にして移動していた、と言っているので、賊が向かっていたのは西。

 つまり街道を西へ向かえば、街があるということだ。


 裏を返せば、東に向かえばソアラの住んでいた村がある。ということではあるが、地図もなければ土地勘もない人間が、無暗に森の中を行く方が怖い。

 一本道なら何の問題もないが、枝分かれしていたらお終いだからな。

 ここは大人しく、道を知ってい人に案内してもらった方が確実だ。

 急がば回れってな。


 ソアラの話しでは、人間と異種族の仲は悪くはないようなので、街で助けを求めることが出来るかもしれない。

 協力が得られれば、ソアラを住んでいた村に帰してあげることだって出来るはずだ。


 ただ、気になるのは賊が街を目指していた、という点か……

 それはつまり、攫って来たソアラを連れたまま街に入れる自信があった、ということだ。


 単に街に入るための検問がザルなのか、それとも街に賊の協力者がいるのか……

 エルフの売買が目的であることを考えれば、後者の方がはるかに可能性が高いか。


 助けを求める人を間違えれば、俺がソアラを賊の仲間に渡すことになり兼ねない。

 協力を頼む相手は、慎重に見極めないとないけなさそうだな……

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