七九話
俺は手始めに、集まっていた傭兵に手持ちの捕縛縄で傭兵共も縛り直して回った。
大体四、五人を一塊として縛って行く。
俺が捕らえた傭兵以外は普通の縄で拘束されていたので、より強固な拘束具に変えたのだ。
これで刃物を隠し持っていたとしても、縄を斬って逃げるなんてことはまず不可能となった。また、複数人を纏めて縛ることで、逃走の難易度を上げる狙いもある。
人と息を合わせて一つの行動をする、というのは実に困難な行為だ。
嘘だと思うなら、思い浮かべて見るといい。
二人三脚程度ならいざ知らず、三人四脚や四人五脚なんて、練習無しで突然やれといわれたらどうなるかを。
だから、たったこれだけのことでただ立ち上がるという簡単な行為すら、非常に困難なものへと変わってしまう。
これでこいつらは、もう放って置いても碌に動くことすら出来ない、というわけだ。
で、傭兵共の拘束が終わったところで、今度は亜空間倉庫からチェストボックスを取り出し、目的の物を取り出し一つ一つ床に並べていく。
それはムカデの人形だ。
こいつらは現在俺が主に使っている百里百足、正式名称“百里百足・百式”に至るまでに作られた百里百足達だ。
別に試作品とか失敗作ではない。歴とした完成品だ。
黒騎士やドーカイテーオーなど、大型の人形は改良する際には材料の都合上、原型に直接手を加えているのだが、こと百里百足に関してはそもそも制作に必要な材料がそんなに必要ではないことから、新しいアイデアが思い付く度に一体一体新しく制作していた。
結果、今では百式という名の通り、その数は百体にも達している。
その中から数字が大きい物から順に、百式を含め都合二〇体を取り出す。
百里百足達を取り出して何をするのかといえば、足りない見張り要員をこいつらで補うのだ。
俺は一度に多くの人形を操ることは出来ない。しかし、感覚を共有しておくことなら、数は問題なかった。
要は、こいつらを見張りに適した場所に一体ずつ配置し、あとは俺がこいつらからの視覚情報を監視モニターよろしく見張っていれば、俺一人で複数エリアの監視が可能になる、という寸法だ。
で、異変があればセリカ達に報告すればいい。
報告の手段は、別れ際にセリカに渡してあるしな。
『アンリミ』では、普通のMMORPGなら使えて当然のフレンドチャットや、パーティーチャットなどの遠距離チャット機能……要は、目の前にいない誰かとの通信手段が存在しなかった。
そのため、知人間で通信を可能にするには、“共信リング”というアイテムが必要だった。
その一つをセリカに渡しておいたのだ。
アンリミの、この“取り敢えず何でも面倒くさくしよう”という方向性は、正直頂けない所ではあるのだが……まぁ、それはさておき。
んじゃ、これから一体ずつ所定の場所に配置して回りますかな。
俺は地下牢で使ったソファー型のスライムクッション、通称・ムファーを取り出すと、その上にポフンと仰向けで飛び乗った。
そんな感じで、俺はムファーの上でゴロゴロしながらも、監視のための百里百足達を順次配置して行った。
………………
…………
……
どれほどの時間が経ったがろうか。
百里百足達から送られてくる外の様子に、少し変化が現れ出した。
別に敵襲を感知した、とかではない。
真っ黒だった空が、薄っすらと紫色に染まり出していたのだ。そう、つまり夜が明けた。
結果からいえば、特に何の異変もない平穏な一夜だった。
あまりに暇過ぎて、むしろ睡魔との戦いの方が難敵だったくらいだ。
たまたまチェストボックスの中に、昔作った睡眠耐性ポーションが入っていたお陰で事なきを得たが、あのまま居眠りしていたらセリカに大見得を切った手前、合わせる顔がなくなっていたところだ。
眠りこけていたら流石にダサ過ぎるからな……
それに自分から言い出した以上、見張りという責務はしっかりこなそうと、百里百足達から送られてくる特に何の変哲もない風景映像をぼぉーっと眺めること暫し。
ピコーン ピコーン ピコーン
共信リングに着信反応があり、目の前に小型のARウインドウが表示された。
表示されている送信者は、セリカとなっていた。まぁ、当然だな。だってあいつにしか共信リングを渡してないし。
ちなみにだが、ウインドウが他人に見えないのは当然として、この着信音も装着者にしか聞こえていないようになっている。
俺は目の前に浮かんでいるARウインドウの受信コマンドを、寝転がりながらオンにした。
「もすもす? どったよ?」
『あっ……その、なんだ……スグミか?』
妙にたどたどしいセリカの言葉に、ふっと笑いが込み上げてくる。
まぁ、俺なんかと違い、電話なんて使ったことないだろうから、それも仕方ないとえば仕方ないのだろうけど。
「以外に誰が出るんだよ?」
『そっ、それはそうかもしれないが、私はお前と違ってこんな秘宝具など使った事すらないんだぞっ!仕方がないだろう!』
「ああ、はいはい。そうですね。で? どうしたんだ? 何かあったか?」
『む……何だかその言い草がバカにされているようで気に入らんが、まぁいい。
こちらは順調だ。もう少しで荷物の搬出が完了する。そちらはどうか?』
「こっちは一晩異常なしだな。正直、暇で暇で仕方ないくらいだよ」
『良いことではないか。また一暴れなんてしたくはないだろ?』
「まぁな……」
確かにセリカの言う通りではあるが、暇すぎるのも問題なのだ。
俺の予想としては、何かもう一波乱あるんじゃないかと踏んでいたんだが、完全に予想が外れてしまった。
『こちらの作業が終了し次第、そこの傭兵どもを移送し事情聴取を行う予定だ。
それまでもう少し付き合ってくれ』
「あいよ」
それから二、三、セリカ達の状況などを聞いて通信は終了となった。
セリカの話しでは傭兵共の尋問は、セリカ達の隠しアジトで行うとのことだった。
俺やソアラが連れて行かれた場所とは、また違う場所らしい。
セリカ曰く、隠しアジトはこのアグリスタの街中だけでも複数あるのだと言っていた。
勿論、アグリスタだけでなく他の街にもアジトは無数に存在するのだとか。
というわけで、俺はセリカ達が来るまで見張りの続行と相成った。
「待たせたな」
程なくしてセリカ共々複数人の騎士達が現れ、テキパキと傭兵共も何処かへと連れて行った。
連行する際、捕縛縄は使用した本人しか解除出来ないという仕様の為、後々俺なしで解除出来るように、セリカが縛り直すという手間は掛かったが、これはまぁ仕方ないな。
ついで、というわけではないのだが、捕縛縄はそのままセリカ達に進呈することにした。
元々大したアイテムではないし、作ろうと思えばいくらでも作れるアイテムだからな。
セリカは「これ以上は流石に受け取れない」と突っぱねていたが、後で返してもらう方が面倒だと押し付けた。
で、このタイミングでギュンターの封印を解除するアイテム【解晶鍵】と、同じく奴が持っていた三七式術装長剣(最終型)を合わせてセリカに渡しておいた。
こうして俺はお役御免となり、セリカはセリカ達がやるべきことを、俺は疲れたので一人いそいそと宿屋へ帰ることにしたのだった。
宿屋へ戻ると、ソアラはまだ戻って来てはいないようだった。
きっとイオス達と一緒に居るから心配はいらないだろうと、自室へ向かうと俺はそのまま固いベッドへと飛び込むように倒れ込んだ。
実はつい先ほど、睡眠耐性ポーションの効果が切れ、ぶっちゃけ頗る眠くなっていたのだ。
もう、限界も限界。普段は、高々一徹程度でこんなに眠くなるなんてないんだが、俺も歳なのかね……
仕事で徹夜とかたまにあるが、こんなに眠くてたまらないなんて始めてのことだ。
なんだかんだで、知らず知らずのうちに精神的、肉体的に強いストレスが掛かって疲労していたのかもしれないな。
とにかく。というわけで、おやすみなさい。ぐぅ~……




