七四話
どうやら、ソウルイーター(仮)の能力を使いきったみたいだな。
ソウルイーター(仮)を手放してもいるし、こうなればギュンターもまな板の上の鯉の様なものだ。
それから少しもしないうちに、ギュンターの体から溢れ出していたオーラも消えた。
一応、確認の為に【身体解析】で確認をしてみると、うむ、バフが消えすべてが初期値に戻っているな。
ここまで来たら、もうまともな戦闘行為は不可能だと判断して、【全能領域】のみ解除する。
ただ、【潜在開放】と【蟷螂之斧】は保険として残しておこう。
いくらギュンターがほぼ無力化されたとはいえ、何があるか分からないのと、この二つのスキルは一度解除してしまうと、もう一度発動するのが面倒なのだ。
【潜在開放】はまた発動句を言わなければいけないし、【蟷螂之斧】に至っては、再度一〇分待ちだからな。
「ごふっ……この……クソ野郎が……殺すなら一思いにヤりやがれ……」
【全能領域】を解除したところで、タイミングよくギュンターが声を掛けて来た。
「お前はバカなのか? 俺は“捕まえる”って言っただろ? 人の話しは少しは覚えておけ」
俺は、黒騎士によって宙ぶらりんにされているギュンターへと近づき、そう答えた。
ぶっちゃけ、俺自身としてはこいつに何の恨みもないからな。ちょっとムカつくと思うくらいなもんだ。
だから、“殺せ”といわれて“はい、分かりました”と殺す気にはなれない。
そういうのは俺ではなく、セリカの役目だと思う。
しかし、改めてギュンターの症状を見ると凄惨たるものがあるな。
これ、多分、そこら中骨折とかしているのではなかろうか? だが、だからといって、死なないようにポーションを使ってまで回復してやる必要もないだろう。
下手に元気になって、また暴れられでもしたら面倒だからな。瀕死くらいが、大人とくなって丁度いい。
まぁ、ギュンターも元とはいえ騎士だ。そう簡単に死ぬような、柔な体の鍛え方はしていないだろう。
だが、このまま長々と放置していれば、その可能性もゼロではなくなる。
生かさず、そして殺さず、かつ、安全確実にギュンターを無力化するために、俺はインベントリから一つのアイテムを知り出した。
もしかしたら何かの役に立つかもしれないと思い、事前に用意しておいのだが、本当に使うことになるとはな。
俺が取り出したのは、掌大の大きさの水晶玉だった。
それを、俺は奴の足元へと向かってポイっと放り投げる。
放たれた水晶玉は、綺麗な放物線を描きギュンターの足元に落ちると、パリンと小さく音を立てて砕け散った。すると、
「っ……!!」
砕けた水晶玉の欠片の一つ一つが、ムクムクオと急激に巨大化を始めた。
巨大化する水晶の末端がギュンターのつま先に触れると、それはまるでアメーバの様にゆっくりと、だが、確実にギュンターを取り込みながら巨大化を続けた。
つま先から膝へ、そして腿、腰と……次第に上へ上へと上がって行く。
もう身じろぎする体力すら残っていないのか、ギュンターは指先一つ動かすことなく、自分が水晶に飲まれていく様を見つめていた。
この水晶は結晶牢という、捕縛縄と同じ捕獲系統のアイテムの一つだ。
捕縛縄は耐久度が残っていれば何度でも使用出来るタイプのアイテムだが、結晶牢は一回使い捨ての消耗品だ。
代わりに、捕縛縄より一段も二段も上の性能をしている。それこそ、今の黒騎士でさえ捕獲が完了してしまったら、もう脱出は不可能なくらいだ。
ただし、強力な捕獲能力を有してはいるのだが、その捕獲速度は捕縛縄と比べものにならないくらい遅い。
そのうえ、捕獲が完了すれば強固な檻となる結晶牢だが、捕獲途中の耐久力は非常に低い。捕獲中に攻撃を受けたりすると、案外簡単に砕けてしまうのだ。
だから、普通は捕獲対象が動かない状態であるか、もしくは動けない状態になるまで弱らせてから使うのが一般的な方法だ。
なんの考えも無しに結晶牢を使って捕まえられるのなんて、ナマケモノくらいなものだろう。
『アンリミ』では大型の、特に捕縛縄では捕獲出来ないボス級の強力なモンスターを捕獲する際に使われるアイテムなのだが、捕縛縄でギュンターを押さえるには多少心許なかったので、虎の子の結晶牢を使うことにしたのだ。
こいつに捕らわれれば、ギュンター如きのステータスでは、もうどうこう出来るものではない。特に今のような瀕死の状態なら尚更だ。
水晶はじわじわと、だが確実にギュンターを飲み込んで行った。
水晶がギュンターの腰を超えた辺りで、ギュンターを掴んでいた黒騎士の手を放し下がらせる。
長居をしたら、こっちまで巻き込まれかねないからな。
多少、水晶の浸食が進むのを待ったのは、もしかしたらギュンターが力を隠している可能性を考慮してだ。
この男の場合、力任せに足を引き千切って逃げたりとかしそうだしな。
ソウルイーター(仮)を手放しているとはいえ、念には念をいれてのことだ。
「そいつは特殊な捕獲アイテムでな、専用の解除アイテムを使わない限り、捕獲した対象を半永久的に水晶漬けにするマジックアイテムだ。しかも、捕獲した時の状態を維持する効果がある。まぁ、簡単に言えば、お前はここで瀕死のまま、死ぬ事無く封印されるってこったな。
だから、お前はしばらくそこで大人しく寝てろ。次に目を覚ますのは、セリカ達の前だろうよ」
「……一つ、聞かせろ……」
観念したのか、特に暴れるでもなく騒ぐでもなく、ギュンターは恨めし気な瞳を俺へと向けると、そんなことを言い出した。
ってか、こいつ人の話ちゃんと聞いてたのか?
「……なんだ。言ってみろよ」
「……テメェー……一体何モンだ? 騎士団の……人間じゃねぇんだろ……」
ふむ。俺は一体何者なのか、か……これはまた、随分と哲学的な質問が来たもんだな。
人は何処から来て、何処行くのか。そして、何を成す為に生まれてきたのか……なんて、そんなことを聞いているわけではないだろう。
しかし、だ。そんなこと、一番知りたいのは俺自身なんだよ。
どうして俺はここにいるのか、どうやって来たのか、そもそもここは何処なのか……
分からないことだらけだ。
だが、それをギュンターに懇切丁寧に話したところで何の意味もないし、こいつだってそんなことを聞きたいわけでもないだろう。
だから、俺は俺が知る限りの俺のことを、短い言葉にまとめることにした。
「俺は新潟 直実。アンリミテッドワールド、ワールドボスダメージランキング、一二期連続全一の“人形使い”だ」
「何、分けわかんねぇこと……」
ギュンターがそこまで言うと、丁度頭部が水晶漬けとなり最後まで言い切ることなく、その言葉は途中でぶつ切りにされてしまった。
「だろうな。俺もそう思うよ」
ギュンターが残した最後の言葉に、俺も同意する。しかし、俺という存在を言い表すのに、他の言葉が出てこなかったので仕方ない。
俺は水晶漬けになったギュンターに近づき、水晶に軽く手を触れる。
と、目の前に小さくARウインドウが表示され、浸食度が100に達していることを示していた。
これで……ゲームの仕様通りであるなら……解除アイテムを使わない限り、ギュンターは二度とこの水晶の牢獄か出ることは出来ないだろう。
「ふぅ~」
ここに来て、どっと疲れが込み上げて来た。思わぬ苦労に、つい大きなため息が出る。
これでこっちは片付いたな。
思った以上に疲れたな……もっと簡単に片が付くと思っていたんだが、見立てが甘かったか。
さて、いろいろと誤算はあったが、とにかくこっちはこれで無事終わりだ。
セリカの方も上手く行っているといいんだが……
俺はそんなことを考えつつ、部屋の中に残っていた生き残った傭兵達を捕縛縄で縛り上げる作業へと移行する。
俺とギュンターの戦いを見ていたから、とも限らないが傭兵達は特に抵抗する素振りなど一切見せず、随分と大人しく拘束されて行った。
これだけ素直だと、こっちは楽が出来て大助かりでいい。
おっと、忘れないうちにソウルイーター(仮)を回収しておかないとな。で、後でセリカに返してやろう。
何でも、国の宝物に保管されていた物みたいだし。
粗方作業が終わったところで、俺は床に転がっていたソウルイーター(仮)を拾い上げ、インベントリへとしまった。
よし、これで無くしたり奪われたりの心配はなしだっ!
で、実はさり気に気になっていたソウルイーター(仮)の能力を、早速【武具鑑定】で確認してみることにした。
【武具鑑定】は直に手で触れた物か、もしくはインベントリ内のアイテムがスキルの対象になるのだ。
どれどれ……
アイテム名 【三七式術装長剣(最終型)】
効果 【吸魂】【一自万象】
と、表示されたARウインドウにはそう記されていた。
三七式術装長剣(最終型)、というのがこの剣の正式名称のようだな。
次に、効果について更に詳しく調べてみる。
【吸魂】
この武器によって刺し貫いた者の魂を、LPとして吸収する。
【一自万象】
LPを消費し、本体、または所持者の事象を改変する。消費するLPは改変する事象深度によって変化する。
と、いうことらしい。
事象深度とか、いまいち意味の分からない単語はあったが、この文面から察するに、俺の予想はそれなりに当たっていたようだな。
で、ここまで調べて気になることが一つ。
どうやら、フレーバーテキストのページも存在するようだ。
一応開いてみると……
【一人の熟達した戦士で、敵の軍団を壊滅させる“不死の強兵計画”により、オルドゥム帝国が作った術装兵器の最終型。
剣・槍・斧と様々な形態が存在し、剣型は都合一三振り制作された。これはその中の一本。シリアルナンバーは7。
ただし、度重なる事象変更は精神に異常を来す、との研究報告もあり。
副作用に関する研究は、何故か途中で打ち切られている為、真相は不明である】
……これって何気にスゲーことが書いてあるのでは?
セリカはこの剣に関して、出所も来歴も不明だって言ってたからな……
俺はオルドゥム帝国なるものがなんなのかさっぱりだが、セリカなら知っていもおかしくない。
教えた方がいいのだろうか? しかし、教えたら教えたで「何でそんなことを知っているんだ?」って話に絶対なるよな……
さて、どうしたものか。
なんて、うんうんと唸っていると、廊下から誰かが走って近づいて来る音が聞こえて来たのだった。




