七〇話
「端から、妙な違和感はあったんだ。だが、今ので確信した。
息もつかねぇ連撃に、今の一撃を受けて立ってやがるとか。普通なら、鎧が無事でも中身はイクはずだからな。
だってぇのに、息を切らしている雰囲気も無けりゃ、平然と動きやがる……
となりゃ答えは簡単だ。そのバカデカい騎士モドキが、ゴーレムの類だってことだ。
えらく人間臭く動くもんだから、気付くのに少しばかり手間取っちまったがな」
「まぁ、そうだが、それがどうかしたか?」
なんだか「犯人はお前だっ!」みたいな感じで、ギュンターがしたり顏で話してはいたが、俺からしたら「だからどうした?」という話しでしかい。
そもそも黒騎士が人形であることを隠していたわけでもないし、バレたからといって何か不都合があるわけでもない。
わざわざ、自分から話すようなまねをしていなかっただけだ。
大体、『アンリミ』でPvPをする時は、殆どの相手が俺のことを知っていて当然だった。
つまり、黒騎士が人形であることを知っている相手と戦うのが、俺にとっては基本だったのだ。
まぁ、それを知らずに黒騎士につかっ掛かって行ってくれるなら、それはそれで楽だったんだが、その程度のことでしかない。
「強がんなよ。ゴーレムなんてもんは術者を殺しちまえばただの人形だ。
要は、テメーさえ殺しちまえば、そこのデカブツも止まる。
わざわざ、親切にテメーの人形遊びに付き合ってやる必要はないってこった」
そう言うと、黒騎士へと向けていた長剣をスライドさせ、今度は俺へとその切っ先を向けた。
そういえば、セリカも「人形遊び」なんて揶揄していたが、この国のゴーレムマスターってもしかして嫌われ者なのだろうか? と、ふと、そんなどうでもいいことが頭を過ぎる。
「そうは言うが、それって要は、さっきからやっていること自体は変わらんだろ?
必死になって俺を狙っていたようだが、まともに入ったのは一度だけ。それも結局はノーダメージだったわけだがな。
その後は、俺の人形にいいようにあしらわれていた奴がよく言えたもんだ」
事実、ヘイトを俺自身に集めつつ、横から黒騎士で攻撃させる、というパターンにはハマっていたからな。
ただ、ギュンターの思いも寄らない能力の所為で、上手く行っていたとは言えないが。
「まぁ、テメェのことをナメ過ぎてた、ってのはあるわな。
だから、少し面白いモンを見せてやるよ……」
俺へと向かい、ギュンターがニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせる。と、何を思ったのか、徐に手にした長剣を逆手に持って振り上げると……
ドスッ!
「ぐあはぁぁっ!」
「なっ!?」
ギュンターは何を思ったのか、突然何の躊躇いもなく、近くにいた一人の傭兵の胸にその長剣を突き刺したのだった。
俺とギュンターの戦いが始まって以降も、セリカに足をやられていた所為で逃げるに逃げられずにいた傭兵達が、部屋の隅で蹲っていた。
その一人が、ギュンターの凶刃に貫かれたのだ。
まぁ、仲間というわけではないのだろうが、しかし、だからといってわざわざ殺す意味が何処に……
そう思っていると、刺された傭兵の体から黒い靄の様な物が立ち昇り、スルスルと長剣へと吸い寄せられていった。
「あがぁ、ぐっ、ぐる゛じぃ……だずげ……」
突き刺された傭兵が、見るからに苦し気に俺へと向かって助けを求めて手をのばす。
が、黒い靄が抜けて行くにしたがって、傭兵の男は見る見るうちに干乾びていき、最後にはミイラの様になってこと切れた……
俺にはその様子がまるでHPを……いや、生命力や命、魂そのものを吸い取っているように見えた。
俺の思考が追い付かないうちに、ギュンターは次々と傭兵達を串刺しにしては、ミイラを量産して回る。
結果、奴の近くにいた傭兵六人は全員絶命。運よく助かったのは、俺の後ろ側に居た僅かな傭兵達だけだった。
「まだちと足りないが、テメェをブチ殺すには十分か。足りなきゃ補充すればいいだけだしな」
「ひっ!!」
ギュンターの凶悪な双眸を向けられた傭兵の短い悲鳴が、背後から聞こえて来た。
今ので、何となくだが、あの長剣の能力が見えて来た気がする。
おそらく、あの剣は他者のHP、生命力、命、魂……そいったものを吸収し、それを糧に何らかの事象を引き起こす魔剣だ。
例えば、折れた剣を折れていなかったことにする、とか、受けたダメージを無かったことにする、とか、自身のステータスを上昇させる、とかな。
似たような物を、俺は知っている。
代表的な物で、ライフスティールという短剣と、ブッラディソードという剣がそれだ。どちらも『アンリミ』のアイテムの話しだがな。
ライフスティールは、攻撃力は低いが与えたダメージの一割を、自身のHPに換算するという特殊効果を持った武器だ。
しかも吸収した分に関しては、制限時間こそあるが上限を無視してプールされ続ける仕様になっていた。
要は、ダメージを与え続ける限り、HPを回復し続けるどころか、HP上限を青天井で増加させ続けられるという代物だ。
そして、ブラッディソードは自分のHPを犠牲にして高い攻撃力を得るという武器だ。
『アンリミ』では、この二振りの相乗効果を利用した二刀装備による、超回復プラス、バ火力攻撃が一時期流行ったものだ。
今、ギュンターが持っているあの魔剣は、それらの能力を足して更に各種マシマシにしたような武器なのだろう。
ただし、支払う対価は自身のHPではなく吸い取った他者の生命力……
つまり、少なくとも誰かを殺し続けている限りにおいては、奴はステータスを自由に操作でき、ありとあらゆるダメージを無かったことにすることが出来るということになる。
要は、条件が整っている限りにおいて、奴は事実上の無敵だということだ。
最初からその能力を使わなかったのは、本人が言っていたように使える生命力のストックが少なく、節約していたからだろう。
だがそれも、今ある程度補充出来た、と……
何? そのチート武器? 能力エグイ過ぎだろ……
差し詰め、あの長剣をソールイーター(仮)、とでも呼んでおこうか。
ギュンターは、そのソールイーター(仮)を刺していた傭兵から引き抜くと、その切っ先を俺へと向ける。
「んじゃ、準備も整ったところで再戦と行こうか? つっても、テメェに長々と付き合う気はねぇから、ここらでお開きだがな。
まぁ、この俺に本気を出させたこと、あの世で誇っていいぜ?
魔装戦衣・狂戦士の蛮装っ!!」
ギュンターがそう叫ぶと、奴の全身から鈍色のオーラが立ち昇った。
オーラエフェクトの色こそ違うが、雰囲気からしてセリカやブルックが使っていた多重バフスキルと同じ物だろう。
魔装うんちゃら、って言ってたし。
案の定。【身体解析】で調べてみたらモリモリのバフや特殊効果が乗っかっており、ステータスが軒並み二倍近く上昇していた。
ただ、【力】値だけは2000据え置きの様だ。
長剣の能力によって上昇したステータスには、バフ効果が乗らないのかもしれない。もしかすると、上昇というより書き換えみたいな能力なのかも知れないな。
まぁ、ただの勘だけど。
なんて、このまま相手の準備が整うのを待ってやる必要もない。
それに、現状、ステータスが劣っているこちらが受けに回るのは得策ではない。
先手必勝。
俺はギュンターの体勢が整う前に、黒騎士を突撃させてギュンターへと斬りかかる。
いくらステータスが上昇しようと、得物が変わらないのであるならば、ギュンターに黒騎士の大剣を受け止めることは出来ない。
受け止めても、ソウルイーター(仮)が破壊されるのがオチだからな。
むしろ、破壊無効化でソウルイーター(仮)に蓄えられた生命力を無駄使いさせることが出来るなら、それで良し。
上手くすれば、先ほどと同じように肉薄し連撃に付き合わせてしまえば、ギュンターのスタミナの消耗も狙える。
いくら【力】値が黒騎士を上回っているとしても、その程度では黒騎士を破壊するには到底足らない。
とにかく、俺は黒騎士を操作圏外に吹き飛ばされることだけに注意していればいいだけだ。
ならば、こちらが勝っている部分を全面に押し出し戦うのが最善だろう。
今重要なのは、奴を好きに動かさせないことだ。
いくら多重バフで強化されているとはいえ、ブルックのような防御力強化やダメージカット系は見当たらなかった。
ならば、本体に攻撃を直撃させれば、ギュンターはダメージ無効化を使わざるを得ない。
今はとにかく、あの厄介な能力を止めてしまうのが最優先だ。
一度でいいから、生命力をカラにさせてしまえば、後はどうにでも出来る。
黒騎士とギュンターとの間には結構な距離が空いていたが、黒騎士は一瞬でその距離を詰める。
「おいおい、少しは待てって。そんなガッツいてんじゃねぇよ」
軽口を叩くギュンターに、黒騎士渾身の一撃を叩き込む。
さぁ、さっきの様に往なすなり無効化なりしてみせろ。それが2ラウンド目の開始の合図だ。
しかし……
ガィンっっっっ!
部屋中に重く響いたのは、金属同士がぶつかる激突音だった。




