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六九話


 ギュンターの凶刃が俺に突き刺さるその刹那。

 キンっと、甲高い音を立て、ギュンターの長剣が動きを止めた。

 その切っ先、俺と長剣との僅かな隙間に、光り輝く結晶の様な物が現れ、それがギュンターの長剣を受け止めていたのだ。

 そして、その光の結晶は役割を終えとばかりに、まるでガラスが割れる様な凛と澄んだ音を立て、無数の光の粒子となって舞い散ったのだった。


 シールドタリスマン。

 一度だけ、どんな攻撃からのダメージも無効化してくれる消耗品のお守りアイテム。それを、俺は戦闘前に確りと仕込んでおいたのだ。

 何が起きるか分からんからな。


 どんなダメージも、一度だけだが絶対に無効化してくれるという、非常に心強いアイテムではあるのだが、その反面、どんな低ダメージでも必ず反応してしまうので、使いどころが難しいアイテムでもある。

 ドラゴンのブレスを受け止めても一回。タンスの角に足の小指をぶつけても一回。ということだ。


 しかも、次にアイテムを使えるようになるまでのクールタイムが一時間と結構長い。当然だが、クールタイム中はいくら新しいシールドタリスマンを装備し直しても、効果はない。


 それを、こんな早々に使わされるはめになるとは……

 だがまぁ、致命傷を回避出来たと思えば御の字か。

 俺は空かさず、ギュンターから間合いを取ると、黒騎士の後ろに隠れるように回り込む。

 

「テメェ……今、何をした?」

「それはお互い様だろ?」


 売り言葉に買い言葉。訝しむギュンターに、俺も言葉を返す。何をしたかなど、わざわざ説明してやる義理もない。


 しかし、今のは流石にビビったな……

 額と言わず背と言わず、肝を冷やす嫌な汗が全身から溢れ出した。

 一応、他にも保険(・・)があるとはいえ、ここが『アンリミ』ではない以上、アイテムの効果が十然に発揮されるかは不明だ。

 今のところそうした事例は確認されていないが、だからといって、それが他のアイテムも必ず機能するという保証にはなり得ない。

 特に、HPがゼロになってから発動する蘇生系アイテムは要注意だ。なんたって、試しようがないからな。

 ここはアンリミではないのだ。死亡しても、デスペナ程度で復活出来るなんて甘い考えは捨てろ、俺。

 …………よし。認識を改めよう。油断大敵。なめて掛かれる相手ではない、と。

 ここからは出し惜しみは無しだ。本気で倒しに掛かる、と自分を戒める。


「悪いな。一つ詫びておく」

「なんだぁ? 今のでビビって今更許しを請おうってか? いいぜ、聞いてやる。言ってみな。

 だがな、マジでムカつくテメェはブっ殺す! それは決定事項だがなっ!」

「ああ、許して欲しいわけじゃないから安心しろ。

 俺はお前がザコだと、すぐに倒せる取るに足らない相手だと、そう高を括っていた。正直、お前なんかよりずっと強い連中と戦って来たからな。

 だが、お前はそこそこに強い。今まで手を抜いていて悪かったな。だから、ここからは本気で相手をしてやるよ。

 どうあがいても勝てない実力差、ってのを教えてやるよ」


 俺はそうギュンターに宣言すると、かかって来い、と言わんばかりにクイっクイっ手招きする。


「……だからよぉ……その上から目線がムカつくんだって言ってんだぁっ!」


 |咆哮搏撃《ほうこうはくげきとはよく言ったものだ。

 俺の態度が相当気に入らなかったのか、ギュンターが激昂し激しい咆哮を上げると、文字通り獣の様に俺へと襲い掛かって来た。

 その勢いや、先ほどよりも尚、速い。

 しかし、それでも奴の牙が俺へと届くことは決してない。


 黒騎士内蔵アイテム・ラプラスの瞳。


 物理的近未来を予測するこの黒騎士の目が、奴の動きのすべてを、そして未来までをも捕らえて俺へと教えてくれる。


 俺は天井に刺さったままになっていたもう一本の大剣も黒騎士に回収させると、そのままギュンターの前に仁王立ちにさせ待ち構えさせる。

 ラプラスの瞳が見せたギュンターの挙動は、黒騎士を無視し、足元をすり抜けて俺へと迫るコースを示している。

 あくまで狙いは俺単体らしい。

 自分の速さに余程自信があるのか、それとも舐められているだけか。

 ならばと、俺は全力で黒騎士に大剣を振らせる。

 軌道は真正面からのカラ竹割。

 ギュンターがそうした時同様、黒騎士の身長、そして振る大剣の大きさ、それらを考えれば大剣が天井に余裕で引っかかってしまうのだが、黒騎士の前ではそんなことは些末なことでしかない。

 黒騎士の全力を以て振るわれた一撃は、天井を、それどころか空気も切り裂き、音さえも置き去りにする。

 正に電光石火の一撃に、ギュンターは為す術もなく一刀の下に両断された。

 

 ……はずだったのだが、案の定、と言っていいのか、気付いた時にはそれは無かったことにされ、ギュンターは黒騎士の横を悠々と抜けて行く。

 とはいえ、このまま素通りさせてやるつもりなど毛頭ない。

 奴が右横を通り過ぎた時、振り抜いた大剣を返す刃で大きく横へ振った。


 狙いは奴の足だ。


 本来なら、黒騎士の視覚外であり、また俺からもギュンター自身の体が邪魔となり死角となる位置なのだが、ラプラスの瞳によってもたらされた未来が、俺に何処に何があるのかを鮮明に教えてくれる。

 そして、その一撃は見事、背後からギュンターの両の足を切断する。完全な死角からの斬撃だ。

 しかし……

 相変わらず、次の瞬間には確かに斬り落としたその足が、本来ある位置に戻っていた。

 まだだっ!

 

 俺の攻撃はまだ止まらない。更に黒騎士の上半身を回転させ、左に持つ大剣で再度ギュンターの両足を斬り飛ばす。

 それでも、やはり次の瞬間には足は元通りとなっていた。


 そうこうしているうちにギュンターは黒騎士を抜け、俺へと肉薄していた。

 それこそ、あと一歩踏み込めば、その長剣の切っ先が俺へと届く距離だ。

 時間にしたら、(まばた)き程の間しかない。


「死んどけやっ!!」


 それはまさに閃光の様な鋭い突きだった。先ほどの様に、目で追えるものではない。

 おそらく、何もしていなければ回避出来ない、そんな一撃だった。

 しかし、その未来は既にラプラスの瞳が俺に示した未来だ。

 来ると分かっている攻撃を回避するなど、最早ただタイミングを合わせるだけのリズムゲーに過ぎない。

 俺はリズムゲーも得意なのだ。特にドラムと太鼓のやつが好きだ。

 俺は体を半回転させ、悠々とギュンターの突きを回避する。と同時に、俺は軽くステップを踏みながら距離を取る。


「なにっ!?」


 避けられるとは思っていなかったのだろう。そのあり得ない事態に、ギュンターの目が驚愕に見開かれた。

 そこに生まれた一瞬の隙。

 俺は伸び切っていた奴の腕を、再度、黒騎士で斬り飛ばす。が……

 結果は変わらず。ギュンターの腕は、今も正しい場所に在り続けていた。


 ふむ。ギュンターを倒すにはまずこの厄介な能力の正体を見破るなり、どうにかするなりしなければ、埒が明かないみたいだな。

 確りした手応えを感じる辺り、当たり判定(コリジョン)抜けをしているわけではないようだが……うむ、分からん。


 俺は空かさず黒騎士を近くまで移動させると、背後へと回り込み身を隠す。これで最初の状態へと戻ったことになる。

 違いは、俺とギュンターの立ち位置が反対になったことくらいなものだ。


「チっ、ちょこまかと逃げ回りやがって……にしてもウゼェ……

 テメェを殺すには、まずそのデカブツをなんとかになきゃならねぇってわけか……」


 しかし、それは相手も同じようで、俺はギュンターを倒す方法が、ギュンターは俺へと至る方法が、お互い決定打を欠いたまま、暫しの睨み合いが続く。

 にしても、一体何なんだこの能力は?


 正直、ギュンター自身の実力からは、ブルック程の脅威はまるで感じなかった。

 ブルックには老獪さから来る、手練手管があった。

 勿論、実力は十分過ぎる程にあるうえで、力のぶつかり合いというより、互いの手の読み合いに重きを置いた戦いだった。

 心理戦、と言ってもいい。

 しかし、ギュンターは単なる力押しの一辺倒。

 こういう戦いは、ぶっちゃけ怖くない。むしろ楽なものだ。


 厄介なのは、ただただ奴の能力。

 その確実な手応えから考えるに、幻覚の類ではないはずだ。しかし、瞬間的な超回復とも違う気がする……

 例えるなら、そう、ダメージの置き換えや無効系の反応に近い。

 さっき俺が使ったシールドタリスマンのような……まぁ、『アンリミ』でなら、という話しではあるがな。


 おそらく、これらの効果が奴の持つ長剣の能力であることはまず間違いない。

 しかし、その肝心な能力がはっきりしない以上、今いくら考えたところで正解など分かるはずもない。素直に聞いて教えてくれるはずもなし。

 下手の考え休むに似たり、か。


 ならば、山を張るしかないだろう。

 仮に、長剣の能力がダメージ置き換え系や無効系だとすれば、そんな強力な能力をなんの制限もなしにバンバンと使い続けられるとは考え難い。

 必ず何らかの制限があるはずだ。例えば、使用回数とか、何か特殊なアイテムが必要とか……


 逆にそうでもなければ、アイテムの能力としては強力過ぎてバランスブレイカーもいいところだ。

 そもそも、それだけ有用な武器ならわざわざ宝物殿なんぞに封印なんてされているはずもなく、七聖騎士とやらの誰かが使っていに決まっている。


 現に、奴の手は今止まっていた。

 制限がないのなら、わざわざ様子を見るようなマネをする必要はないだろう。

 ここは一つ、試してみる価値はある、か……


 ドンっ!


 力強く踏み込む音を響かせて、今度は今までとは逆に黒騎士からギュンターへと仕掛けさせる。

 黒い砲弾と化した黒騎士が、一瞬の内にギュンターへと肉薄すると、その両の手に握られた大剣から無数の斬撃を嵐の如く繰り出した。

 そのどれもが首に頭に胴体に、と一太刀でも受ければ致命傷……というか即死となりえる一撃ばかりだ。

 死なないと分かっているからこそ、手加減ゼロで殺しにかかる。

 だが、


「チっ、だから、ウゼェっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その斬撃のすべてを、ギュンターはものの見事に往なしてみせた。 

 受けるでもなく、弾くでもなく、往なしていく……


 真正面から黒騎士の斬撃を受け止めれば、膂力の差、材質の差から長剣が折れるなどギュンターだって百も承知だろう。

 だから奴は、防ぐのではなく、黒騎士の斬撃のすべてに対して、自らの長剣で僅かな力を加え軌道を逸らしていた。


 しかし、裏を返せばそうしなければ(・・・・・・・)ならなかった、ということの証明でもあった。

 無条件にダメージを無効化出来るのなら、そもそも回避する必要などないし、剣が折れることを気にする必要もない。

 これで確信した。奴の力には制限がある、と。

 ならば、あとは手数で攻め、奴の能力の底を突かせるだけだ。


 俺は更に一つギアを上げて、黒騎士の斬撃の回転数を加速させる。最早、その動きを肉眼では捉えることは出来なくなっていた。

 しかし、だ。 


 黒騎士は二本の大剣を使って攻撃をしていた。黒騎士自身には右利き左利きという概念は存在しないので、左右の攻撃に優劣は存在しない。

 つまり、単純に考えて黒騎士はギュンターの二倍以上の手数で攻めていることになる。

 にも関わらず、ギュンターはその攻撃すべてを一本の長剣で捌き続けていた。

 スピードだけなら、黒騎士以上ってか……敵ながら大したものだ、と素直に感心してしまう。

 正直、『アンリミ』の上位プレイヤーでも、これだけの芸当が出来るのは極僅かだろう。

 腐っても、流石は王国騎士団最強の騎士の候補に名を連ねただけのことはあるということだ。


 とはいえ、こちらの攻撃がすべて捌かれている以上、ギュンターに有効打が与えらていないのは問題だな。

 こちらとしては、剣を折るなり致命傷を与えるなりして、奴の能力を無駄遣いさせれればと思っていたのだが……思い通りにはさせてくれないらしい。

 手が無くもないが、アレを使うのはちょっとなぁ……

 もう少し時間が経てば(・・・・・・)、他に打てる手も増えるんだがな。


 ちなみにだが、黒騎士の腕部に装備されている“ライオット”や、背部に格納されている“魔砲杖”の使用は今回の戦闘で使うつもりはない。

 ライオットでは、的が小さい上にこれだけ素早く動かれると、いくらラプラスの瞳を使ってもギュンターに確実に当てられる自信がないからだ。それに、外した時の二次被害が怖い。無関係な誰かに当たったら大事だ。

 魔砲杖に関しては、こんな閉所で火炎系の攻撃を使った場合、俺自身への被害が怖い。

 酸欠になるか、それとも丸コゲになるか……どちらにしてもたまったもんじゃない。


 よし。ここは少し手を変えるか。

 俺は敢えて、この膠着状態を維持することにした。

 狙いはギュンターのスタミナ切れだ。

 いくら強いといっても、所詮は生身の人間。その体力には限界があり、延々と斬り合いに付き合えるわけではない。

 それに、いくら長剣の能力でも、体力まで無尽蔵には出来ないだろう。出来たら最悪だが……


 反して、黒騎士は人形。体力(スタミナ)なんてものがそもそも存在していない。

 当然、黒騎士を動かす上でMPは消費するのだが、黒騎士が消費する秒間MPは、俺のMPの自然回復量とほぼトントンだ。

 つまり、理屈の上では黒騎士を二四時間どころか、延々と操作させ続けることが可能なのである。

 しかも、いざとなればMP回復ポーションを飲めば、瞬間で回復することだって出来る。

 果たして、奴にそれに付き合うだけの体力があるだろうか?

 

 実は『アンリミ』でも、この延々とスタミナを削る戦い方は|PvP《プレイヤー対プレイヤー》戦において結構有効な手だったりするのだ。

 いくらHPやMPが残っていたとしても、スタミナがなくなってしまえば、碌に動くことが出来なくなるからな。


「チっ、これじゃ埒があかねぇ……」


 しかし、人の思惑とはうまく行かないもので、ギュンターはそう言うと、一分もしないうちに斬り合いを早々に切り上げ、後ろへと引いてしまった。

 まぁ、確かに不毛な競り合いにわざわざ付き合う必要はないわな。

 だが、逃がさん。俺は黒騎士で逃げるギュンターを追撃する。


「クっ、ったく、しつこい男は女から嫌われる、ぜっ!」


 苦し紛れなのか、追いかける黒騎士に対して、ギュンターが蹴りを放つ。

 黒騎士とギュンターの体格や重量差を考えれば、大人と子ども。

 たかだか蹴りの一つ、大した攻撃ではないと判断し、むしろ逆に吹き飛ばしてやる思い出、俺は甘んじてその蹴りを受けたのだが……


 ドゴォンっ!!


「なっ!?」


 この判断がよろしくなかった。

 まるで自動車事故のような派手な音を立て、黒騎士があらぬ方向へと吹っ飛んだのだ。

 ギュンターの一撃を受け、その巨体からは信じられない勢いで弾き飛ばされた黒騎士は、近くの壁を突き破り部屋から押し出されてしまった。

 咄嗟に持っていた大剣を床へと突き立てることで勢いを殺したが、何もしていなければ【傀儡操作マリオネット・コントロール】の操作圏10メートルを軽く飛び出して、アウトだったところだ。

 あぶねぇ、あぶねぇ。

 ギュンターの【(STR)】値からはあり得ない結果に、俺は再度【身体解析(フィジカルアナライズ)】でギュンターのステータスを確認すると……

 いつのまにやら、奴の【(STR)】値が2000となっていた。


 「はぁっ!?」


 一気に三倍近くの上昇だと?

 セリカが使った魔装なんたらという多重バフスキルですら二倍だったってのに、上昇率はあれ以上。

(STR)】値が1300相当の黒騎士では、そりゃ吹っ飛ばされるわ。完全にパワー負けしてるもの。

 しかし、ステータスを確認しても何かしらのバフ効果を受けている様子はない……

 ならば、これもあの剣の能力の一つと考えるのが妥当だろう。


「チっ、今ので無傷かよ……だが、まぁいい。

 テメェの手の内は読めたからな」


 そう言うと、ギュンターは手にしていた長剣の切っ先を黒騎士へと向けた。


「そいつ、中身は人間じゃねぇーな?」


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