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六六話


「うぐぅ……女王の犬共めがっ! 大人しく王都で飼われていればいものを、こんな所まで出張ってきおってっ!」 

「ああそうだ。遺跡の隠匿、を罪状に加えるのを忘れていたな。

 分かっているとは思うが、既に地下水路に監禁されていたエルフ達は我々が救出した。

 また、地下水路、及び、この屋敷の周囲は我々騎士大隊(・・)によって完全(・・)に制圧されている。

 当然、今現在屋敷内で暴れている者達も我々の仲間だ。

 最早、何をしても無駄な抵抗だ。素直に審判院の沙汰を受けがいい」


 余裕綽々といった様子で、セリカは事前に決めていたハッタリをバハルにかます。

 途端、ガマガエルの様なバハルの顔からさっと血の気が失せると、代わりに滝の様に汗が噴き出した。

 

「ぐぬぬぬっ! ゼバスっ! こうなればアレを使えっ!」

「か、畏まりましたっ! バハル様っ!」


 バハルの指示を受け、後ろに立っていた執事の男……ゼバスという名前だったらしい……が、壁際に走りよると、セリカを地下水路へと連れ込んだ時の様に壁に設えられた燭台に手を伸ばし、それを力一杯引き下げた。


 ズゴゴゴゴゴゴゴ…………


 少しして、足元から屋敷全体を揺らすほどの地響きと揺れが伝わって来た。

 立っていられないほどではないが、かなり大きな揺れだ。

 これってまさか……

 

「ふはっ、ふはっ、ふはははははははっ!

 これで地下水路へと繋がるすべての階段が崩落したっ! これでもう誰一人屋敷には上がってこれまいっ! 増援は期待出来んぞ? 女王の犬がっ!」


 うわぁ……マジであったか自壊装置……

 そして、本当に自ら壊して逃げ道をなくすとは……まさに、計画通り、ってな感じではある。

 ここまで思い通りに行くと、そりゃ悪い顔の一つもしたくなるというものだ。 

 チラリとセリカの方に視線を向けると、真面目な表情のその中で、僅かに頬がピクピクとひくついているのが見て取れた。

 どうやら、セリカも必死で笑うのを堪えていると見える。

 心中、お察し申し上げる。

 それにしても、あの隠し通路の自動開閉装置といい、今の自壊装置といい、一体どういう仕組みで動いているのか。ホント気になりますっ!

 時間があれば、じっくり調べてみたいもんだ。


「後は、屋敷に忍び込んだ()を始末すれば何とでも言い逃れが出来るっ!

 なにせ、私にはあの方(・・・)が付いておれるのだからなっ! このような些事、いくらでも揉み消して下さるっ!」


 と、ババルが勝ち誇ったように「俺のバックにはスゲー人が着いてんだぜ?」、的なニュアンスの言葉を口に出す。

 あちゃー……そういうの、言っちゃうんだぁ……

 そういうことは、喩え思っても言うもんじゃないだろ? と、そんなバハルに少しばかり呆れてしまう。

 自分から、関係者がいるとゲロってどうすんだか……

 しかも、バハルのバックにいる人物が、それなりに発言力のある地位にいる人物であるというが、その言葉から薄っすらと(うかが)い知れた。

 俺にはさっぱりだが、内情に詳しいセリカなら、もしかすると心当たりのある人物の一人や二人は頭に浮かんでいるかもしれないな。

 まぁ、それもここで俺達を亡き者にする自信があるから、なのかもしれないが。

 死人に口なしってな。


「まずは目の前の二匹の始末だっ! こういう時の為に高いカネを払ってまで貴様らを雇っているのだっ! 給金分は働けっ!」

「わぁってますって。ただですねぇ旦那? 女の方は、随分な上玉じゃぁねぇですか。ただ殺すってのは……ちぃと勿体なかねぇですかね?」

「……好きにしろ。手足の一本でも切り落とせば大人しくなるだろう」

「ははっ! これだから話の分かる方は違うっ!

 野郎共っ! 久々に下の大剣(・・・・)で遊べるみたいだぜ! 準備しとけよっ!」

「騎士のねぇちゃんよ? たっぷり可愛がってやるから、楽しみにしてなよぉ~。女の喜びってやつをよぉ、俺様が教えてやるからさぁ」


 取り巻きの一人、多分リーダー格と思しき男が周囲の破落戸(ゴロツキ)共に発破をかけると、周囲の視線が一斉にセリカに集まり誰もが下卑た笑みを浮かべていた。

 この後のお楽しみのことでも考えているのだろう。


 俺とて男だ。こいつらの気持ちが分からなくもない。

 それがセリカみたいな美人が相手なら尚更だ。が、悲しいかな、お前らごときのステータスじゃ、セリカに束になって掛かったところで相手にもならんだろう。

 この部屋に入った段階で、こちとら全員のステータスはチェック済みだ。

 どいつもこいつも、森で相手にした大男とどっこいどっこいの能力しかない。

 逆に、よくこの程度の能力でそれだけの大口叩けたものだと感心してしまうくらいだ。


「大剣? ……(びょう)か何かの間違いではないのか?」

 

 そんな破落戸共を前に、セリカは視線を下げ、男達の体の一部で止めると、奴らをバカにするように鼻で笑った。


「んだと、この(アマ)ぁが!!」


 下ネタの挑発に下ネタで返され、取り巻きの一人が額に青筋を立てて喚き散らす。


「ふむ。どうやら、威勢と態度のデカさだけなら大剣並みと言えなくもないか?

 まぁ、どちらにせよ、貴様ら程度の実力で、私をどうこう出来るとは夢にも思わぬことだがな」

「おっ? 言うじゃないかセリカ。下ネタの挑発だから、少しは動じるかと思ったんだが……」

「こういう仕事をしていれば、あの手の挑発は嫌でも聞き慣れるというものだ」


 セリカやれやれといった様子で肩を竦めて見せた。

 そういえば、この前も“タマ”とか普通に言ってたし。セリカって、案外下ネタ耐性高いのかもしれないな。

 まぁ、セリカの職務を考えれば、相手にするのはこうした破落戸が殆どだろうからな。いちいち気にしていたのではキリがない、ということか。 


「ヒュー、いいねぇ~、随分と気の強い女じゃねぇか。こういう女ほど、調教のし甲斐があるってぇもんよ。

 おいっ! まずは邪魔な男の方を始末しろっ!

 目の前で仲間がバラっバラになるとこでも見りゃ、少しは大人しくだろうよっ! 行けっ!」


 リーダー格の男の指示で、左右から二人ずつ。部屋の壁際を伝って俺達を、正確には俺を囲むようにじりじりと近づいて来た。

 部屋が無駄に広い所為で、どちらも現在の位置からでは攻撃が届かない。

 囲まれるのを防ぐには、どちらかに近づき阻止しなくてはいけないのだが、それはつまり、どちらかに背向けるということでもある。

 狙いはおそらくそこだ。

 対応するために動いた時、背を向けた側が一気に襲う。そんなところだろう。

 しかし……


「ぐあっ!!」

「痛ってぇっ!」

「ぎゃゃあああっ!」

「足がっ! 俺の足がぁぁぁっ!!」


 奴らは急に悶え苦しみ、その場に蹲るようにして倒れ込んだ。全員が足から(おびただ)しい量の血が溢れ出して……

 それはまさに一瞬の出来事だった。

 セリカが両手を軽く振るったと思ったら、片手から二本ずつ、左右で計四本の光の帯が伸びると、それはまるで鞭の如き速さで、近づく奴らの足を切り裂いたのだ。

 俺ですら、碌に捕らえられなかったほどの一撃だ。こいつら程度の実力では、何が起きたのかすら理解出来てはいないだろうよ。  

 にしても、だ。


「セリカ……お前、一体何をした?」

「何を、とはおかしなことを聞くものだな? 貴殿から借りたこの魔道具を使ったまでのことだが?」


 そう言って、セリカは腕輪を掲げて見せる。

 いやいやいやいや。おかしいだろっ!


「いや、レイブレードは光の剣を作り出す(・・・・・・・・)マジックアイテムで、それ以上の能力はない。

 今みたいに、鞭の様に伸ばして切り裂くなんて使い方出来るはずがないんだが……」

「ん? 何を言っているんだ? だから、この魔道具は|魔力で光の刃を作り出す《・・・・・・・・・・・》ものなのだろう?

 ならば、魔力の流し方一つで、形状などいくらでも(・・・・・)変えられるだろうに?」

 

 いや、だからそんなアイテムでは……ん? 待てよ?

 そういえば、フレーバーテキストに“実態を持たぬ、千変万化の光の剣”ってそんなことが書いてあったような気が……

 えっ? もしかしてレイブレード(これ)ってそもそもそういう武器だったのか?

 初期形状が普通の剣の形をしていたから、誰もが“こういう物だ”と思い込んでいただけで、本当は違った使い方があったってことなのか?

 確かに、形が変えられるかなんて試したこともないからな……


 だとすると、ひょっとしてレイブレードって実はかなりの強武器なのでは?

 いくら強力な防具を身に着けているとはいっても、一部の隙間もなく全身を守ることは出来ない。

 『アンリミ』では、その辺りの判定が厳密で、高い防御力の防具を装備していれば、全身一律で防御力が高くなる、ということはない。

 防具のない部分へのダメージは減算なしにダイレクトに通るのだ。

 その隙間を通すように攻撃されたら……


 全身を固い鱗で覆われたドラゴンタイプや、鉱石で出来たゴーレムタイプのモンスター相手には通用しないだろうが、相手が人間(プレイヤー)であれば、その有用性は計り知れない。

 いや、ドラゴンタイプとて、目や口といった防御力の低い部分を狙えば、十分に効果はあるか?


 とはいえ、今となっては調べようもないがな。それに、煙幕玉の件もある。

 この世界に来て、俺が持つアンリミ産のアイテムの効果が著しく変化した例がある以上、レイブレードもその一つ、と考えた方が妥当だろう。

 あそらく、フレーバーテキストの内容が影響を与えていると思うのだが、今のところ確証はない。


「くっ! 魔道具持ちかよ……

 テメェらっ! ちまちま攻めるのは止めだっ! 一斉に掛かれっ! 相手は二人っ! 数で押し込めっ!」


 俺がそんな思慮に(ふけ)っていると、リーダー格の男が残った手下達に一斉に攻撃するよう指示を飛ばした。

 確かに、四人は戦闘不能にしたが、未だに一〇人近くの傭兵が居ることに変わりはない。のだが……


「判断が遅いな……」


 セリカがぽつりと呟くと、またしても両手を一振りするだけで、無数の光の帯が伸び、傭兵達の足を切り裂く。

 傭兵達は、カエルを踏み潰したような悲鳴を上げると、各々、踏み出す間もなくその場に崩れ落ちて行った。それはリーダー格の男も含めて、だ。

 瞬殺とは、こういうことを言うのだろうな。セリカ無双だ。


「貴様らには聞きたい事もある。下手に暴れなければ命までは取らん。

 しかし、これ以上我々の邪魔だてをすると言うのなら、容赦なく断罪する。私には、その権限が与えられているからな」

「ぐっ……」


 痛みに歯噛みしながらも、セリカを鋭く睨んでいたリーダー格の男だったが、観念したのか項垂れ床に突っ伏した。


「こ、この無能共がっ! 小娘一匹にいいようにやられるとはっ! とんだクズ共がぁっ! 

 腕が立つというから高いカネを払って雇ってやったというのに、これではただの穀潰しではないかっ! カネを返せっ! このっ! このっ!」


 ご自慢の傭兵が一瞬で全滅させられた腹いせか、バハルが口角泡を飛ばす勢いで、足元で倒れるリーダー格の男に暴言を浴びせつつ、その顔を足蹴にしていた。


「ぐふっ! このヤロー……ぐはっ!」


 その中の一撃がいい感じに顎にクリーンヒットし、リーダー格の男がぱたりと昏倒してしまった。

 仲間割れとは醜いことで。


「さて、頼みの綱の護衛は全員倒した。バハル男爵、いや、罪人バハルよっ! 大人しく投降し、女王の裁きを受けるがいいっ!」

「はぁはぁ……小便臭い小娘が図に乗るなっ! まだ、まだだ……私には奴がいる……

 ギュンターっ!! ギュンターよっ! さっさと出てこんかっ!

 こういう時の為に、危険を冒してまで貴様を匿っているのだっ! 私がここで捕まれば、貴様とて逃げ場はないのだぞっ! さっさと私を助けに出てこんかっ!」

「ギュンター……だと?」


 誰か呼ぶように、突然叫び出したバハルに、セリカが訝し気に眉を(ひそ)めた。

 どうやら、ギュンターという名前に聞き覚えがあるみたいだが……


「どうした? 知っている名前なのか?」

「あ、ああ……。出来れば、私が知る者でなく、同名の他人であるここと願うばかりだ」


 セリカのその真剣な横顔から、その言葉が冗談ではないことを感じた。本気で会いたくない奴みたいだな。


「ギュンターっ! 速く出てこんかっ! ギュンターぁぁぁぁぁ!!」

「んなデカイ声で呼ばなくても、聞こえてるっつーの……

 てかよぉ、わざわざ俺様が出なきゃならねぇような相手なのか? バハルさんよぉ」


 バハルが激しく喚く中、俺達が入って来た扉とは違う扉がゆっくりと開くと、そこから冴えない感じの三十路過ぎと思しき優男が、寝ぐせも甚だしい頭をボリボリと掻きながら、如何にも億劫そうに姿を現した。

 一見、ぱっとしない印象を受ける男だが、その背に背負った自身の身長程もの長剣が、一種異様な雰囲気を醸し出していた。 


「なんだこりゃ? おいおい、どいつもこいつも職務中におねんねたぉいい御身分だなぉ、おい」


 男は邪魔だと言わんばかりに、床に転がっている傭兵達を蹴飛ばして道を作る。

 そして、その視線がふと上がり、セリカでピタリと止まった。


「ん? よぉ、アンジェリカ(・・・・・・)じゃねぇか。久しぶりだな。

 そっちの男は……見覚えがないな。新入り……ってわけでもなさそうだが、まぁ、いいか」


 男はまるで、旧知の友にでも会ったような気さくさで片手を上げると、セリカへとあいさつをしてから、俺を一瞥する。

 にしても、アンジェリカ? そう言えば、本人も“セリカ”とは偽名だと言ってたな。

 となると、アンジェリカってのか本名なのか?


「ああ、久しぶりだなギュンター・バンディル。 

 よもや、こんな所に隠れ潜んでいたとはな……この騎士団の面汚しがっ!」

 

 

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