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六五話


 ドカンっ! ドゴンっ!


「始まったようだ」

「みたいだな」


 セリカが持つ蝋燭が消えかけようかとしていたその時、物音一つしなくなった屋敷の内部から派手な爆発音が響いて来た。

 二号班と三号班が行動を開始したのだろう。

 多くの者達が走り回る気配と、何を言っているかまでは分からないが怒号が飛び交っているのだけは、雰囲気で隠し通路(ここ)からでもなんてなく分かった。


 俺達は暫しこの場で待機。屋敷内の私兵が二号班と三号班に釣られるの待つ。


「そろそろか……」

「ああ。もうこの周囲に人はいないようだ」


 五分ほど待ち、【気配察知】で周囲から人の気配がなくなったことを確認。

 セリカは無言で頷くと、レイブレードを展開し、音もなく隠し通路の扉を両断した。

 もしかしたら、内側からこの隠し扉を開ける方法があったのかもしれないが、生憎と見つけられなかったのでこうした強硬手段をとることになってしまった。

 斬られた扉が、そこそこ大きな音を立てて崩れ落ちたが、それを気にする者はこの周囲にはもういない。


 俺達は、文字通り斬り(・・)開いた入り口から屋敷へと進入する。と、そこは明かりすら点いていない状態の一室だった。

 俺の持つランタンと、セリカのレイブレードに照らされている室内を軽く見回すと、そこが書斎もしく書庫のような場所であることに気が付いた。

 足元に大量の本が散乱しているのは、隠し通路の扉が書棚だったからだ。

 事実、振り向くと大きな書棚がばっさりと斬られていた。


「初手で当たり、とは行かなかったか」

「まぁ、そんな甘くはないってことだろ?」


 セリカはレイブレードを解除すると、本来の出入り口へと近づき躊躇いなく扉を開いて外へ出た。

 俺は【気配察知】でもう近くに人がいないことは分かっていたが、もしかしたらセリカも似たようなスキルを持っているのかもしれないな。

 俺はそんなセリカにくっ付いて、一緒になって部屋を出る。


 ちなみに、今のセリカは変身リングを外し、服装も俺が保管していた彼女の装備一式に着替えていたので、本来の自由騎士姿に戻っていた。

 ただ、レイブレードだけは気に入ったのか、装備したままになっていたけどな。


 外に出ると、そこはもう見るからに金持ちの家の廊下、という印象を受ける豪華な造りとなっていた。

 赤い毛足の長い絨毯に、一定間隔で置かれた照明器具が誰もいない深夜の廊下を惜しげもなく煌々と照らしていた。

 明かりの質からして蝋燭ではなく、セリカが通された個室に設置されていたマジックアイテムの同類だろう。

 この手のアイテムは、決して安いものではないそうなので、照明周りだけでもかなりのカネを使っていることになる。

 随分と羽振りがよろしいようで。はてさて、そのカネは一体何処から出て来たものなのやら。


「で、さっきから迷いなく歩いている様だけど、当たりは付いてるのか?」


 屋敷の間取りについては分からない、と言っていたグリッドに反して、先ほどからスタスタと前を歩くセリカにそう問いかけた。


「いや、ただの勘だ。手当たり次第に見て回りらしい(・・・)場所を探すしかあるまい」

「まぁ、そうなるよな……」

「なに、この手合いは往々にして自己主張が強いと、昔から相場が決まっているものだ。

 見ればすぐにそうと分かるだろうよ」

「そうだと願いたいもんだ」


 そんな感じで、俺達は当てもなく無駄に広い屋敷内を徘徊した。

 そうしてどれ程散策したか……

 【気配察知】に反応のない扉はすべてスルーし、屋敷内部を虱潰(しらみつぶ)しに歩いて行く。


「にしても人が少ないな……。使用人くらいはいると思ったんだがな」

「おそらく、使用人などは別の建物に居るのだろう。

 バハルは相当な人間不信でな。昔はそこまでではなかったのだが、近年は病的なまでに人を遠ざけていると聞く。

 側に置くのは護衛の者達だけ。その護衛も今は侵入者の撃退、もしくはバハルの護衛に向かった。そんなところではないか」

「……なぁ、それって単に心当たりがあり過ぎるから、いつ騎士団の捜査が自分の所に入るか、常日頃からビビってるってだの話しなんじゃないのか?」

「かもしれんな」


 だとしたらとんだ小心者だな。

 毎日ビビって生活するくらいなら、悪事に手なんて出すなと言いたい。

 まぁ、だからといって、開き直れば何をしてもいいとは言わんが……


「まぁ、これだけ誰とも会わないってことは、それだけ陽動が上手く行ってるからなんだろうけど、なんなら二、三人くらいと遭遇してバハルの居場所を聞きだした方が早かったかもな」


 と手持ち無沙汰故か、詮無い言葉が口を突く。


「はははっ、それは贅沢な悩みというものだ。何事も、そう都合よくはいかんものだ」


 まぁ、そうだよな。上手く行ってるなら、それはそれで喜ぶべきことだ。

 で、なんとはなしに窓の方へと目を向けると、そこから屋敷全体の様子が良く見て取れた。

 夜中なのに外の様子が分かるのは、例の照明のマジックアイテムや、松明なんかが派手に焚かれていたからである。

 こうして全体を見下ろしていられる辺り、俺達がいるのがこの建物の三階か四階辺りであることが分かる。

 突入の配置に付く際、地下水路から続いていた螺旋階段を大分上ったので、それなりに高いところにはいるだろうとは思っていたが、結構な高さまで上っていたようだ。

 こうして、高いところから改めて屋敷自体を見回してみると、屋敷が複数の棟から成り、それを渡り廊下で繋いでいる形をしていることが分かる。

 で、たまたま眼下に目を向ければ、先に突入した部隊を取り押させるためだろう、複数の私兵達が何処かへ向かって走って行く後ろ姿が見えた。


 試しにオプション画面からマップを確認すると、向かいの棟にイオスとグリッドを示す点が、そしてその隣の棟には他のメンバーを示す点が都合六人分表示された。

 イオスとグリッドを示す点がかなり近いことから、どうやら二人ともちゃんと合流出来たみたいだな。


 方向から考えて、今走っていった奴らはどうやらイオスとグリッドの方に向かっているみたいだ。

 一応、適当に私兵の一人を【身体解析(フィジカルアナライズ)】で調べてみると、実に大したことのないステータスをしていた。

 この程度の奴らなら、束になって掛かっても二人には敵わないだろう。


 そうこうしているうちに……

 

「っと、階段か……」


 廊下を曲がったその先に、上と下に続く階段を見つけた。


「どっちに行く?」

「上だな」


 セリカに意見を求めたら、即答だった。


「随分な自信だな。何か根拠でもあるのか?」

「いや、ない。ただ“賢者は塔の下に住み、愚者は上に住む”というからな。

 バハルは間違いなく後者だ。ならば上だろう」


 何となく意味は分かるが、取り敢えずどういう意味か尋ねたら、日頃の生活を考えたら、塔などの高層建築物に住むなら下に居を構えた方が当然利便性は高い。

 しかし、愚かな者ほどそんなことは顧みず、毎日の上り下りの苦労も考えずに高い所に住みたがるものだ、と教えてくれた。

 まぁ、エレベーターなんてものがないから当然だわな。

 煙と何とかは高い所が好き、と同じような意味だと推察する。

 なんてことを考えている間に、セリカはスタスタと階段を上って行ってしまったので、急いで後を追いかけた。


「……当たりのようだな」


 階段を上りきって少し歩くと、見るからに他とは違う豪華な扉が見えて来た。

 【気配察知】で調べてみれば、扉の向こうに少なくとも一〇人以上の反応が確認出来る。

 ここにバハルが居る確証はないが、人が居ることは間違いないようだ。

 ハズレならハズレで、そいつらからバハルの居場所を問い詰めればいいだけだ。


「結構な人数が居るみたいだぞ?」

「とはいえ、強者の気配は一つもない。どれも有象無象の衆だ。私一人で問題ない」


 【身体解析(フィジカルアナライズ)】は対象を目視しないと発動出来ないので、扉の向こう側にいる連中が強いのか弱いのかの判定は俺には出来ない。

 だが、セリカが雑魚だと言うのなら、そうなのだろう。

 セリカは迷いのない足取りで扉へと近づくと、躊躇いなく扉を勢いよく蹴り開いた。


「っ!? 誰だ貴様らはっ!」


 豪華に設えられた部屋の中、大きな机に座る四十代くらいのカエル顔をした小太りなおっさんが、身を乗り出した姿勢でセリカを指さした。

 そのおっさんを取り巻くようにガラの悪い男達が、完全武装した姿で立っていることから、この冴えないカエルオヤジがバハル男爵でまず間違いないだろう。

 どうやら当たりだったらしい。

 よく見れば、おっさんの後ろにはセリカを地下牢へと連れて行った、あの執事風の優男の姿も見えた。

 それにしても、着ているのが寝間着であるところを見るに、寝ていたところを叩き起こされたといった感じか。


「我々はマリーダ女王陛下麾下、特殊騎士団“女神の天秤”であるっ!

 ワルダー・バハル男爵。貴様をエルフ拉致監禁の現行犯、及び、殺人幇助(ほうじょ)の容疑で捕縛する。大人しく縛に就くがいいっ!」


 そんな男達を前に、セリカは臆することなく一歩を踏み出すと、高らかに名乗りを上げて凛々しく啖呵を切った。


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