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五八話


 それから程無くして、豪華な馬車が騎士団詰所を訪れた。

 馬車が扉の前に横付けで止まると、中から執事風の使いらしき若い男が一人下り、そのまま詰所の中へと入って行った。

 その隙に、俺とソアラはカメレオンクロークで気配を消しつつ、馬車の後部側に回り込む。

 馬車には御者が残ってはいたが、気配を極限まで消している今、向こうからはこちらの姿が見えていないも同然だ。

 御者が特殊なスキルを持っているか、俺達が目立った行動をしたり騒いだりでもしない限り、気づかれることはまずないだろう。

 素早く移動を済ませると、俺は形状変化(シャープ・チェンジ)を使い馬車の後部をちょちょっと改造し、掴みやすい手すりとステップを一瞬で作り出す。

 よし。ここに掴まっておけば、馬車が多少揺れた程度で振り落とされる心配はない。


 準備が整ったので、俺は無言のまま視線をソアラへと向け頷くと、二人して馬車の後部へとしがみ付く。

 声を出して御者にバレたらことなので、行動は静かにかつ素早く行う。

 このままソアラ共々、バハル男爵邸に侵入する、というのが俺の算段だった。


 俺たちの姿は外からは丸見えだが、じっとしていればカメレオンクロークの認識阻害の効果により、喩え見えてはいても気付かれはしないだろう。

 これは、そういうアイテムだからな。

 バハル男爵邸は、警備の厳しい貴族街の中にある。しかし、こうして紛れ込んで侵入してしまえば何の問題もない。

 賊が使っていた手段の流用だ。

 一応、行き先が分かっているとはいえ、何があるか分からない以上、不測の事態に備えてセリカを護衛する、というのも俺達の任務に含まれている。

 流石に腕が立つといっても、一人にするのは危険だからな。


 ちなみに、イオスの知らせを受けた他の団員達は、クズーム騎士爵の見張りを少数残し、一足先にバハル男爵邸に向かっていた。

 彼らがどうやって貴族街に侵入するのかは知らないが、まぁ、彼らはその道のプロだ。

 俺が心配しなくとも、自分達でなんとかするのだろう。それに、カメレオンクロークもあることだしな。

 それこそ、正面から堂々と侵入することだって不可能ではないはずだ。


 彼らの任務はバハル男爵邸の監視であり、内部に侵入するのは俺、イオス、ソアラ、そして数人の騎士のみとなっていた。

 俺が潜入部隊に入っているのは、単純に俺が最大戦力だからである。もし、戦闘が発生したとしても、俺が前線にいれば対処もしやすい。

 俺がセリカの護衛役になっているのも、同じ理由からだ。 

 イオスはエルフの代表として、あとは部隊の中でも指折りの猛者が選ばれている。


 戦力としては心許ないソアラが潜入組に含まれているのは、もしそこに誘拐されたエルフの女性がいた場合、ソアラのような同族でかつ同性の存在がいれば、被害者の精神的負担を多少なりとも軽減することが出来るかもしれない、という観点からだった。

 それを言い出したのが、まぁ、ソアラ自身な訳だが、セリカがそれを了承したことでソアラが今回の作戦に参加する運びとなったわけだ。


 作戦としては、セリカが連れ込まれるのと同時に屋敷内に百里百足を潜入させ、エルフ誘拐に関する証拠を捜索する。

 証拠を発見出来た場合、速やかにこれを回収。難しいようなら、場所だけ覚えておいて、あとで回収。

 そののちに、警備が手薄になる夜を待って潜入組が強襲、バハル男爵を確保。

 証拠が未回収だった場合は、この時にまとめて回収する予定だ。


 もし、証拠が見つからなかった場合でも、バハル男爵の行動如何によって、即突入し確保も在り得る。

 例えば、セリカがバハル男爵の手によって監禁されるとか、王都にいる女王麾下の騎士団、女神の天秤に連絡を入れない……など、あからさまな離反行為が確認された場合などがそれだ。


 ちなみに、王都への報告義務は騎士団が有しているのだが、その騎士団を管理監督しているのはその土地を管理する者、今回の場合は監督官であるバハル男爵である。

 つまり、騎士団の不手際を、バハル男爵の監督不行き届きという過失で追及することが出来るということだ。


 というのが、現在の筋書きである。

 一応、バハル男爵を取り逃がした場合の保険として、監視組が屋敷から逃げ出した者を確保する役割を担っている。


 少しして、バハル男爵の使いらしき人物がセリカを連れて戻って来た。

 そして、セリカを馬車に乗せ、バハル男爵低へと向けて出立した。俺達が馬車の背面にくっ付いているとも知らずに……


 馬車はコトコトと、何の問題もないまま街中を走る。そして、貴族街の検問を潜ると、街並みは一変した。

 綺麗に石畳で舗装された道に、見るからに高級そうな邸宅の群れ。まさに高級住宅地そのものだった。

 さっきまでいた街並みとは別世界だな。

 平民街、とでもいうのか? 向こうにも石畳はあったが、轍などで表面が削れボコボコになっていたのに対して、こちらはまっ平で綺麗なものだ。

 人通りが平民街と比べて圧倒的に少ないこともあるのだろうが、おそらくは結構な頻度で交換しているのだろう。

 カネの掛かっていることで。


 そうこうしているうちに、馬車はバハル男爵邸へと差し掛かる。

 警備のため門前で門番に一度停車させられたが、特に何を調べるでもなく馬車は敷地内へと進入していった。

 ただの確認作業だったようだ。

 そして、馬車は敷地内をどんどん奥へと進んで行く。

 それにしてもデカい家だことで。屋敷の門から玄関までどれだけ離れてんだよ。

 それから少しして、ようやく屋敷の玄関前に辿り着き、停車。

 俺達は空かさず、馬車から飛び降りると適当な茂みへと姿を隠す。

 

 その間に、馬車から使いの者が降り、中に居たセリカに手を貸しつつ優雅に降ろした。

 その時。一瞬、セリカが俺たちの方へと視線を向け、小さく頷いた。

 ここまでは計画通り。そんな意味だろう。

 だから、俺もソアラも同様にセリカに向かって頷き返す。

 こちらも問題なし、と。


 で、タイミングを見計らい、俺は手早く百里百足を取り出し、セリカの元へと向かわせた。

 使いの男が、扉の前に立つ警備員らしき人物……無駄にゴツイ鎧で身を固め、手には槍を持っている……に一言二言何かを言うと、鎧姿の警備員が無言のままに重厚な扉を開いた。

 すると、使いの男がどうぞと、セリカに一礼しエスコートする。

 この男、何だか動作がいちいちキザ臭くて鼻につくな。

 まぁ、それはさておき。


 流石は街を仕切る監督官の屋敷だけあって、警備は厳重なようだ。

 ゴツイ警備員がいることだけでなく、扉が非常に頑丈そうに作られている。それに作りも良く、騎士団の詰所のように閉じた状態では百里百足でも通れる隙間はないだろう。

 しかし、いくら厳重な造りの扉といえども、開いた隙に一緒に入ってしまえばなんの障害ともなり得ない。

 俺は壁伝いに百里百足を天井へと登らせると、セリカ達が扉を潜るのに合わせて屋敷内部へと潜入させた。


 屋敷の内部は、玄関からして豪華だった。高い天井に、煌びやかな調度品の数々。

 ただ、そのどれもこれもが成金趣味丸出しで、金ピカに輝いているものばかりだった。目が痛いわ。

 なんというか……骨董品に大して詳しくない俺でも、これは悪趣味だと思うほどであった。

 調度品に統一性はなく、単に金色の物を並べているだけ。センスの欠片も感じられない。

 なんだかクズーム騎士爵のいた部屋に、相通じる何かを感じる。


 そんな中、使いの男を先頭に、セリカが何処かへと案内されて行った。

 さて、何処に向かっているのやら。


『あの……どちらに向かわれているのでしょうか?』


 それはセリカも聞かされてはいなかったようで、使いの男へとそう問いかけていた。

 すると、先導していた使いの男はその場で足を止め、セリカへと振り返ると恭しく頭を下げた。


『これは申し訳ありません。今向かっているのは、ソーラ様用にと特別にご用意致しましたお部屋で御座います。

 色々とありお疲れでしょうから、まずはそちらで休養を取って頂こうかと思いまして。

 それと、バハル監督官様からソーラ様が落ち着きましたら、一度顔を見せる様に申し付けられております故、その時はご足労お願い申し上げます』

『そう……ですか……分かりました。気を使って頂き、ありがとうございます。

 こちらも保護して頂いたことについてお礼を申し上げたいと思っていましたので、謁見の件、よろしくお願いします』

『バハル監督官様に、その旨必ず伝えておきましょう。では、こちらです。どうぞ』


 使いの男はそう言うと、またセリカの前に立ちスタスタと歩き始めた。そこからは特に会話もないまま、セリカは使いの男の後を追う。

 そして、通路を右へ左へと折り曲がり、どんどん奥へ奥へと進んで行く。気付いた時には、窓一つない一本道の廊下を二人は歩いていた。

 窓がないのに廊下が暗くないのは、所々に設置されたランプのおかげだった。

 ただ、その明かりは蝋燭ともLEDや電球とも違う、柔らかな光を放ち周囲を照らしていた。

 近い物を挙げるとするなら、俺が使っている輝晶石(きしょうせき)を使ったランタンの明かりが一番近いだろう。

 だとするなら、このランプはマジックアイテムの類ということだろうか。

 そんなことを考えていたら、廊下のどん詰まりに扉があるのが見えた。

 こんな廊下の最奥に、部屋が一つ。

 おいおい……流石にこれは怪しいなんてもんじゃないだろ……


『こちらが、ソーラ様にご滞在して頂くお部屋になります』


 使いの男はそう言うと、扉を開き一人部屋の中へと入って行った。

 ここから見る限り、部屋の中は真っ暗で何も見えない。今がまだ日中だということを考えれば、この部屋の中にも窓がないことは容易に想像が出来た。


『光あれ』


 部屋の中から、使いの男のそんな言葉が聞こえて来ると、突然部屋から光が溢れ、中の様子がはっきりと分かるようになった。

 部屋の明かりもマジックアイテムの類……だろうな。


『どうぞ。お入りください』


 使いの男は扉の前に立ち、恭しく(こうべ)を垂れてセリカを部屋へと(いざな)う。

 ここで躊躇っても仕方がないとばかりに、セリカは勧められるがままに部屋へと入って行った。

 その隙に、俺もまた百里百足を部屋へと忍び込ませる。


 部屋の内装自体は、とても綺麗なものだった。

 少し広めのワンルームといった感じで、大きめのベッドに全身が映りそうな大きさの鏡が付いた化粧台、部屋の中央には大きなテーブルが1台に椅子が数脚、壁際には立派な暖炉。

 そして、煌々と輝くシャンデリア。

 おそらく廊下を照らしていたマジックアイテムと同種のものだろう。

 シャンデリアのデザインが少しばかり派手なような気はするが、それを除けば、まぁ 過度な装飾品もなく、普通に良い部屋だった。


 少なくとも、玄関の成金趣味丸出しの金ピカ感に比べたら、遥かに良い。まさに月とスッポンだ。

 それと、案の定、部屋に窓はなかった。

 窓がないのは、セリカの身の安全を確保する為に、外部から不審者が侵入出来ないようにしている。というよりは、完全に逃亡を防止する為、と考える方が自然だな。


 バタンっ


 そんなことを考えていたら、背後で扉が閉まる音が、部屋の中に木霊した。

 確認の為に入り口に視線を向けると、そこには使いの男が扉を背にして立っている姿が見えた。

 使いの男は顔を俯かせているので、今、どんな表情をしているのかは分からない。

 だが、分からないが、明らかに先ほどと雰囲気が違うことだけははっきりと分かった。


『あの……どうかしましたか?』


 セリカも使いの男の異変を察したのか、そう問い掛ける。しかし、使いの男は何も答えず、黙ったまま。


『あの……』


 再度、セリカか問い掛けようとした時、


『ふっ……ふふっ……ふはははははっ!』


 使いの男が、何を思ったのか突然高笑いを始めた。傍から見ていると、ただのやべー奴にしか見えないな、これ。


『あの能無し共が捕縛されたと聞いた時は、一時はどうなることかと思いましたが、こうして商品を再回収出来たのですから、まぁよしとしましょうか』

『あの……一体何を言って……』


 そんな使いの男の態度を恐れるように、セリカは胸元をギュっと握りしめると、ジリジリとそしてゆっくりと後ずさる。

 てか、セリカだってこういう可能性は考慮していたはずだから、これが丸っと演技なのは間違いない。

 それにしても……


「セリカ、演技上手ですね」


 感覚共有(シェア・センス)でその光景を俺と一緒に見ていたソアラが、ぼそろりとそんなことを呟いた。


「それな。まさかセリカにこんな才能があるとは……」


 クズーム騎士爵の所でも思ったことだが、普段のセリカの言動を知る人間としては、これでは最早完全な別人だ。

 変身リングも相まって、事前に教えて思わなければセリカを知っている人物でも、簡単に騙されそうな演技力が彼女にはあった。

 いや、マジで女優の才能があるんじゃなかろうか?


『はぁ~、これだから亜人種というのは察しが悪くていけません。話の流れから、大体分かる物でしょうに……

 仕方ありません。優しい私が、低能な亜人種にご教授して差し上げようではありませんか!

 賊を使い、貴女方亜人種を捕獲していたのは我々です。さらに言えば、騎士団の中には我々の協力者が数多くおりましてね。

 時折、こうして救助した亜人の横流しなどを手引きしてもらうことがあるのですよっ!

 健気にも私達を信じ、本気で助かったと思い安堵する貴方の表情っ! 実に滑稽っ!! 実に愉快な見世物でしたよっ!

 そうだ。滑稽と言えば、英雄気取りであの無能共と貴女を、騎士団へと渡したあの商人。奴もまた愉快な男でしたね。

 今頃はどこぞの酒場で、自身の英雄譚でも語っていることでしょう。自分が何を誰に渡したのか知りもせずに……

 本当に、知らないというのは幸せなことだと思いますよ』


 これは……あれか?

 完全犯罪に成功したと確信した犯人が、有難い事に何から何まで、聞いてもいないことを綺麗さっぱり解説してくれるという、あれか?

 逆バージョンに、火サスの崖上現象というのが存在する。

 こっちは、事件の犯人を崖の上へ連れて行くと、何故か洗い浚い全部ゲロするという特異な現象のことである。


「なんていうか……そっくりそのままお返しします、って感じですよね」


 そんなご高説を聞いていたソアラが、可哀想なものでも見る様な優しい目で、ため息交じりに呟いた。


「それな……」


 なんだか勝ち誇ったようにドヤっているところ誠に申し訳ないが、こちらとしては完全に思惑通りに事が運んでいるので、滑稽なのは正にこの使いの男の方だったりする。

 ホント、知らないってのは幸せなことだと思うよ。うん。


『そんなっ……! 帰してっ! お願いですっ! 私を村に帰して下さいっ!!』


 まるでショックを受けたかのように、数歩よろよろと後ずさってからの、懇願するような絶叫。セリカの鬼気迫る迫真の演技に、全国の俺が感動しました。


『バカなのですか? それで、はいそうですか、と帰すとでも思っているのですか貴方は?

 さて、もう逃げられないことはお分かりになったでしょう? 痛い思いをしたくなければ、大人しくすることです。

 ああ、安心して下さい。扱っている商品の関係上、慰み者になるようなことだけはありませんので、その点だけは保証しましょう。

 ただし……反抗するようでしたら、それ相応のお仕置きがあることは、覚悟しておいてください。

 なにせ、我々が欲しているのは貴女の子宮だけですから。生きていれさえいれば、手足くらいは無くとも構わないのですよ』


 生き肝が薬になるとはソアラから聞いてはいたが、“肝”って肝臓のことじゃなくて内蔵全体を指していた言葉だったのか。

 で、その“肝”の正体が子宮だったっと……

 やたら処女に拘っていると思ったら、そいうことだったのね。

 なんにしても、人を薬にして飲むって……考えただけで胸焼けするわっ!

 権力とカネを持っている奴の考えることは、マジで分からん……


『いやっ! こ、来ないでっ!!』


 使いの男がセリカに数歩近づくと、セリカはテーブルの反対側へと回り込み、椅子を持ち上げ応戦姿勢を取った。


『そんな物で、何をしようというのですか?』


 余裕綽々といった感で使いの男がセリカに近づき、片手でセリカが持ち上げていた椅子を掴むと軽々とそれを奪い去る。


『きゃっ!』


 椅子を奪われた際に、床に倒れ込むセリカ。か弱い少女感が半端ない。なんと芸が細かいことか。

 セリカがこんな三文芝居を続けているのは、単に怪しまれないようにするためだろう。

 殺されると分かっていて、素直に従う奴などそうはいないだろうからな。

 実際、それで相手はセリカがただの少女だと完全に油断していた。優越感に浸り、緩みきった下卑た表情がまさにその証拠だ。


 まぁぶっちゃけ、この男が騎士隊詰所に姿を現した時に、身体解析(フィジカルアナライズ)でステータスを確認しておいたのだが、そのステータスはセリカと比べれはゴミのようなものでしかなかった。

 つまり、セリカがその気なら、こんな男はワンパンKOなのだ。


 セリカは倒れた姿勢から這うように扉へと向かって走り出すが、扉の前でピタリとその動きが止まってしまった。


『そんな……』


 何かと思い、扉をよく観察してみると……


「あっ、この扉ドアノブが付いてませんよ!」


 ソアラの言うように、本来付いているはずのドアノブがこの扉には付いていなかった。

 なるほど。一度入ったら出られないってわけかい。用意周到なことだ。

 ただ、このままでは使いの男も出られないので、何かしらの方法なり道具なりはあるんだろうけど。


『どうですか? 驚いたでしょう? その扉は特注品でしてね。内側からは、特殊な道具がないと開けられないようになっているのですよ。だから逃げられる、などとは微塵にも思わないことです』

 

 なるほど。道具の方だったか。それはさておき。

 使いの男はくくくっとセリカを嘲るように笑うと、スタスタと化粧台の方へと向かって歩いて行った。

 

 そして、脇に据え付けられた燭台に手を掛け、それを下へと引く。と、ガコンっと、何かが動く大きな音が壁の向こう側から響いて来た。

 続いて、ガラガラ何かが回る様な音が聞こえて来たかと思えば、ゴゴゴっと化粧台がゆっくりと横へと移動を始め、その後ろから人ひとりがようやく通れるくらいの、細い下へと続く階段の入り口がぽっかりとその姿を現した。

 隠し通路か……

 それにしても、あの装置。どういう仕組みで動いているのだろうか? 私、すごく気になりますっ!

 なんせ自分、理系なもんですから。

 

『さて、本当の貴女のお部屋へとご案内致しますので、どうぞこちらへ』


 使いの男はそう言うと、優雅な仕草でセリカに隠し通路に入る様に促した。


『い、嫌……』

『おやおや、これはいけませんね。我儘を言わないでください。でないと……』


 しかし、それを拒否するセリカに対し、使いの男は懐から一振りの抜き身の短刀を取り出すと、それをセリカへと向かって突き付けた。


『お仕置きをしなくてはいけなくなってしまいますよ? 貴女だって、痛いのは嫌でしょう?』

『っ……!! わ……わかり……ました……』


 セリカは観念したとばかり大きく項垂れると、よろよろとした足取りで仄暗い階段の入り口へと向かって歩み出した。

 俺もその後を追って、通路へと百里百足を滑り込ませるのだった。


 

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