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五七話


 目の前には、他とは明らかに雰囲気の違う扉が一枚。

 細かい装飾などが加えられていることから、この部屋が特別な部屋であることは一目瞭然だった。


 残す探索場所は、この部屋のみ。となれば、この部屋にセリカが居ることはほぼ間違いない、はずだ。

 てか、最後の最後まで当たりが引けないって、どんだけクジ運ないんだよ俺。

 まぁ、一番奥の部屋なのだから最後になるのは当然といえば当然なのだが……それでも、釈然としないものはある。

 ……なんてことは置いといて。

 俺は閉ざされている豪華な扉の隙間から、器用に百里百足を内部にスルスルと侵入させる。


「おっ、やっぱり当たりか」

「セリカ、居ましたね」


 扉が豪華なら、部屋の中もまた豪華。少なくとも、騎士団の詰め所の一室、という雰囲気ではないわな。

 何だかよく分からん壺やら絵画などの調度品がズラズラと並ぶ中、部屋の中央にセリカが高級そうなソファに座っていた。

 目の前には、膝くらいの高さのテーブルが一つ。その上には、お茶とお茶請けが二人分が置かれていた。

 一つはセリカの物だが、もう一つはテーブルを挟んだ反対側に座る、よくいえば恰幅の良い、悪くいえばただのデブい男性の分だろう。

 セリカ同様、高級そうなソファに一人深く座っている。

 その沈み込んでいる深さから、男の体重が察せられる。


 今まで見て来た騎士然とした騎士達に比べたら、あまりに体系がだらしないが、軍服の様な服を着こみ、左胸には小さなバッチ……勲章? だろうか……が一つ二つ付いているところから、ここの騎士団の責任者だろうことが(うかが)い知れた。


 なるほど。こいつが騎士団の団長のクズーム騎士爵か……

 セリカから話に聞いていた通りの風貌で、一目でそれと分かった。

 セリカの話しでは、このクズーム騎士爵という男はカネにものをいわせて騎士爵を買った豪商で、性格はとにかくケチ。

 金銭にはとことんがめつく、地位や名誉にも並々ならぬ執着をもっている野心家らしい。


 騎士団の団長という大役に収まってはいるが、本質は商人。それもかなりの小物。

 当然、騎士団を統べる器があるはずもなく、現在の騎士団を実質的に管理運営しているのは、元アグリスタ騎士団の長でり現在は騎士隊の隊長を務めているヒュードリンという人物が取り仕切っているらしい。

 つまり、このクズーム騎士爵は完全なお飾り団長というわけだ。


 セリカ曰く、騎士団の中では目下一番賊に内通していると思しき人物であるそうだが、残念ながら明確な証拠は掴めていないのだという。

 まぁ、見るからに聞くからに胡散臭さをプンプンと感じるからな。

 むしろ、これで真っ白だという方が怪しいくらいだ。

 とはいえ、怪しいというだけで捕まえられるわけもなく、監視対象に留めるのが限界だったらしい。


 で、そんなクズーム騎士爵の後ろには、秘書官らしき女性が静かに佇んでいた。

 ぴしっとしたスーツのような服を着ており、髪をお団子(シニョン)にまとめ、目つきはキリリと鋭い。

 見るからに、出来るキャリアウーマン臭を匂い立たせている。ド定番の三角眼鏡がないのが残念なくらいだ。

 よし、この人をロッテンマイヤーさん(仮)と名付けよう。

 

「セリカの安否は確認出来た。これで、一先ずの目的は達成だな」

「それじゃ、これからどうしますか? ムカデさん帰します?」

「いや、折角ここまで来たんだ。このまま戻っても芸がないから、このままこっちでも少し情報収集をすることにしよう。イオスもそれでいいよな?」

「むしろそうしてくれと助かる」


 一応、班の長たるイオスの許可も得たところで、俺は百里百足をシャカシャカと走らせ、二人の直上まで移動させる。

 百里百足には、映像だけでなく音も拾える機能が内蔵されているのだが、集音能力はエテナイトと比べるとかなり低いため、ある程度対象に近づく必要があった。

 天井には、良い感じで豪華なシャンデリアが備え付けられていたので、そこに百里百足を紛れ込ませ、更に二人に近づく。と、


『……なるほど。ソーラ殿と申しましたか? そちらの事情は概ね理解しました。突然の誘拐。さぞ、お辛かったことでしょう。心中お察し申し上げる』


 ようやく、二人の会話が聞こえて来た。

 話しの内容から、どうやら今の今までセリカはクズーム騎士爵から事情聴取を受けていたようだな。

 ちなみに、ソーラというのはセリカのエルフ姿での偽名だ。

 

『ですが安心召されよ。我がノールデン王国は、エルフ保護を是とする国家。ここに居る限りは、御身の安全は保障いたしましょうぞ』


 そう言うと、クズーム騎士爵は人の良さそうな笑みを浮かべて見せた。

 しかし、そうは言ってもこの国の人間がソアラを誘拐して、この街に連れ込もうとしていたんですけどね。

 それにしても、聞いていた話と印象が大部違うな。ってことは、これは演技かな?


『お心遣い、感謝いたします』


 そんなクズーム騎士爵に、セリカが丁寧に礼を述べ頭を下げる。


『ただ、ですな……我が騎士団としましても、速やかにソーラ殿を村へお帰しして差し上げたいところは山々なのですが……

 事、エルフ案件に関しましては、専門の部隊が対応する決まりとなっておりまして、我々の一存では貴方をお帰しすることは出来ないのです』


 クズーム騎士爵の言葉の真偽を確認するためにイオスへと視線を向けると、イオスはただ小さく頷いた。

 ふむ、嘘ではない、みたいだな。

 というか、その“専門の部隊”ってのが多分、セリカ達のことなんだろうな。


『ですので、貴方には暫し、ここアグリスタにご滞在して頂きたく思います。

 ああ、安心して下され。滞在場所や費用などは、すべてこちらでご用意いたしますから』

『そうですが。何から何までありがとうございます。

 それで、暫く、と仰いますが……それはどれくらいの期間なのでしょうか?』

『そうですなぁ……ここから王都まで使いを出して三日。準備に一日。帰りに同じく三日。

 出発は明日の朝一番として、明日から七日。今日からですと、計八日といったところでしょうな』


 もう一度イオスに視線を向けると、小さく頷く。

 これも嘘ではないらしい。今の所、クズーム騎士爵はセリカに対して嘘を吐いてはいないようだ。

 まぁ、今のところは、だけどな。


 セリカ達の調べでは、黒幕はここアグリスタを管理している監督官の可能性が濃厚らしい。

 となれば、必ず検問を仕切っている騎士団と監督官に繋がりがあるのは間違いない。

 しかし、その繋がりを明確に示す証拠が見つからないがために、セリカ達はこの街に長々とした滞在を余儀なくされているのだ。

 このクズーム騎士爵と監督官。この二つの点を繋ぐ糸が見つかれば、この事件、一気に進展するに違いない。

 あとはどうやってその糸を掴むか、なんだが……と、そんなことを考えていたら……


『なるほど。分かりました。それでは、よろしくお願い致します。

 それで、不躾な話しで恐縮なのですが、迎えが来て頂けるまでの間、私はどこに滞在すればよろしいのでしょうか?』

『そうですな。ここ、騎士駐屯地でも構いませぬが、とはいえむさ苦しい男所帯。

 婦女子であらせられる貴方には、少々居づらくもありましょう。

 ですので、この街の監督官様であらせられるハバル男爵のお屋敷などは如何でしょうか?

 バハル卿は、ノールデン王国でも名の知れた慈善活動家であらせられ、エルフ保護も積極的に行っております。

 今回の件、卿に話せばきっと快く引き受けて下さることでしょう』


 ……案外簡単に繋がったな、おい。

 てか、バハル男爵ってセリカ達の話しだと、このクズーム騎士爵に輪をかけてカネにがめつい男だと聞いている。

 そのバハル男爵が、慈善活動家……だと?

 一応、イオスに視線を向けると、呆れた顔をしてフルフルと大きく首を横に振っていた。


「はっ! あの死人すら食い物にする男が慈善家だと? 笑わせるな」


 ですよね……はい、ダウト。黒、決定だ。

 セリカも良い質問をしたものだ。聞かずとも、セリカの後を着ければ自ずと分かったことではあるが、これで先手が打てる。


「俺は今の話しを他の団員達にも知らせて来る。

 囮作戦を継続している者、また捕虜を監視している者以外を招集するため、多少時間が掛かると思うが、その間この場を任せても大丈夫だうか?」

「おう、任せとけ」


 俺は立ち上がったイオスに、サムズアップでそう答えた。


「では、頼む」


 イオスはそう一言言い残すと、颯爽と走り出して行った。


「んじゃ、こっちも撤収だな」


 セリカの安全は確認出来たし、聞きたいことを苦も無く聞けたので、百里百足を回収する。

 とはいっても、出した糸を巻き取って、来た道を戻る様なことはしない。このままインベントリに放り込むだけでオーケーだ。

 『アンリミ』の仕様上、アイテムをインベントリなり亜空間倉庫なりに収納した場合、アイテムごとに設定されている“初期状態”で収納される。

 つまり、糸を伸ばしている今の状態でも、インベントリにしまってさえしまえば、元の状態に自動で戻すことが出来る、というわけだ。

 まぁ、なんて便利なんでしょう!


 というわけで、俺が百里百足をインベントリに回収しようとしたその時。

 一瞬だが、確りとそして確実にセリカと視線が交わった。

 マジか……嘘、だろ……おい……

 偶然なんかではない。その証拠に、セリカはこちらに向かて、小さく笑みを浮かべて見せていたのだから。

 俺達の……というか、百里百足の存在に気づいていた、と考える方が妥当だろう。


「あのスグミさん……もしかしてセリカって私たちのことに気づいていたんでしょうか?」

「……たぶんな」


 どうやら、ソアラも同じことを思ったようだ。

 セリカ自身には追跡用の人形の話しはしていたが、今ここで使うとことは予定にないことだ。

 それに、人形の形状について詳細は話してはいなかった。

 そんな状況下で俺の百里百足に気づくとか……しかも、俺達に気づいたことに気づかせないなんて……セリカ、なんて恐ろしい子。

 あの若さにして特殊部隊の頭を張っているのは、伊達や酔狂ではないのだと、改めてそんなことを実感した。




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