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五四話


 人混みに紛れ大通りを一人歩く中、ふいっと路地裏へと足を向ける。

 そして、周囲に人の目がないことを確認した上で、俺は着ていたローブのフードを目深に被った。

 このローブ、実はただのローブではない。


 アイテム名、カメレオンクローク。

 フードを被った状態で、かつ、非戦闘状態の場合に限り、外敵からの認識を極度に低下させるという、認識阻害アイテムなのである。

 『アンリミ』では、これさえ着ていれば、取り敢えず中級ダンジョンまでなら奥まで行って生きて帰って来られる、と言わしめるほどのアイテムだ。

 まぁ、ただ、本当に行って帰ってくるだけだがな……

 なにせ、カメレオンクローク装備中は、あらゆる行動速度が50%低下し、また、移動以外の行動……これは攻撃行動は勿論、ポーションなどのアイテム使用も対象となる……を取った瞬間、効果が解除されてしまうのだ。

 カメレオンクロークは、効果の発動の有無に関係なく、装備しているだけで行動低下のデバフを受ける。

 そんな状態で戦闘状態にでもなれば、逃げることすらままならずボコボコにされるだけだ。

 一応、気付かれずに敵に近づいて先制攻撃を行うことも出来なくもないが、行動速度が低下した状態で攻撃しても、最悪回避される可能性だってある。

 なら、脱いでから攻撃すればいいように思うが、脱ごうとした段階で認識阻害が解除されてしまうので、攻撃するよりむしろヤバイことになり兼ねない。

 そんな危険を冒すくらいなら、気付かれていない状態で遠距離攻撃を仕掛けた方がまだマシだろう。

 

 それに、認識され難くなる、というだけなので、例えば人とぶつかったり、目の前で極端に存在をアピールしたり、明らかに場違いな場所に居たりすると、当然気付かれる。

 要は、このローブを着て、銭湯の女湯に突入しても余裕でバレる、というこったな。残念である。

 ちなみに、一度表通りから裏路地に入ったのは、人との接触を避けるためと、もしかしたらいるかもしれない尾行を巻くためだ。

 あと、このカメレオンクロークは、所謂“気配”を極限まで希薄にするアイテムであるため、それ以外の探知方法、例えばエテナイトの熱感知や、イオスの魔光眼といったものには、簡単に探知されてしまうという欠点もあった。


 とはいえ、それでも潜入や尾行、見張りをする上では非常に心強いアイテムであることに変わりはない。これを使わないという手はないだろう。

 まぁ、こればっかりは、向こうさんに高度な感知スキルを持った者がいないことを願うばかりだ。


 俺は急ぎ足で……とはいっても、行動制限が掛かってしまっているので、普段の半分の速度しか出ないが……裏道を通り抜け街門へと向かう。

 それから少しして……


「何か動きはあったか?」


 街門の近く、物陰に隠れるようにして潜んでいるイオスとソアラを見つけ、声を掛けた。


「スグミ殿か。今のところは何も。特に目立った動きはないな……」

「そうかい」


 俺はイオスにそう答えると……特にその必要はないのだが……木の陰に身を隠し、セリカが連れて行かれた詰め所を見張ることにした。


 現在、街門周辺はイオスとソアラだけでなく、複数の騎士が今も見張っており、アグリスタの騎士たちの動向を監視していた。

 それも全員……それはイオスとソアラも含めてだが……俺が渡したカメレオンクロークを装備して、だ。

 

 カメレオンクロークは、高性能な割りにレアリティはかなり低く、大量に入手可能なアイテムであった。

 それに、人気もあまりなかったしな。

 まぁ、いってしまえば、所詮は気配を消せてモンスターに気づかれ難くするだけのアイテムだ。これを有用に利用出来る状況というのは、それなりに限定される。

 そのため、売っても二束三文、低レアリティのため分解しても大した素材にはならず、結果、不良在庫を山の様に抱えていた、といわけだ。

 しかし、それが何の因果か今は役に立っているというのだから、貧乏性もたまには役に立つこともあるものだ。

 

 ちなみにだが、イオス達がカメレオンクロークを着ているということは、当然その姿は常人からは認識され難くなっている。

 そんな気配のないイオス達を、どうして俺が簡単に見つけることが出来たのかといえば、パーティー登録されているメンバーであれば、カメレオンクロークなどの特殊効果の影響を受けないからである。

 仲間が何処にいるか分からなくなったら、面倒なだけだからな。

 ホント、アンリミのシステムが機能していて助かった。


 しかし、これは予想外だったのだが、イオス達とパーティーを組もうと思った時には、どういうわけか既に俺はセリカ率いる騎士団のパーティーに組み込まれていたのだ。

 アンリミならパーティー申請を送って、許可があって初めてパーティー登録がされるはずなんだが……

 勿論、パーティー申請など受けた覚えも送った覚えもない。


 しかも、このパーティー。俺を含めて人数が二〇人を超えていた。そこには、ちゃっかりソアラも含まれている。

 アンリミでは、一パーティーの上限は六人と決まっているはずだ。それが、こんな大人数でパーティーが組めるなんて……

 複数のパーティーが同一の敵と戦うレイド戦では、一時的にではあるが参加者全員が一つのパーティーとして扱われることはある。

 だが、今はそういう状態でもない。


 つまり、必ずしもアンリミのシステム通りになる、ということではないらしい。

 何がシステムに影響され、何がされないのか、確り調べる必要がありそうだ。まぁ、今はまだ有用に機能しているからいいものの、マイナス方向に働いたらたまったものではない。

 ますます、分からないことが増えていくな……っと、それは今は横に置いておくとして。


「でも、セリカ一人を敵陣の中に放り込んじゃって良かったんですか? 大丈夫かなぁ……」

 

 と、何の変化もないまま時間だけが過ぎ行く中、急に不安になったのかソアラがそんなことを言い出した。


「まぁ、大丈夫だろ」


 そんなソアラに俺が軽く答える。


「どうしてそんなことが言い切れるんですか? もしかしたら正体がバレて、酷い目に遭っているかもとか、あいつらが無理やりセリカを連れ去ろうとしているとか、スグミさんはそういうことを考えないんですかっ?」


 俺の反応が軽かったことに、ソアラが眉根を釣り上げて憤懣(ふんまん)やるかたないとばかりに語気を強めた。


「落ち着け。いいか? セリカはそもそも、そんな下手を打つようなタマじゃない。

 あいつには、自分の使命をやりきる自信があった。でなきゃ、自分から一番危ない任務に進んで申し出るわけないだろ?」

「それは……そうかもだけど……」

「それに、いざって時はセリカ自身でなんとかするだろ。あいつにはそれを可能とするだけの腕がある。手合わせした俺が保証するんだ。間違いない」


 もっといえば、ソアラに渡したエナジーボウ同様、暗器型の武器アイテムをセリカにも渡してあった。

 丸腰の様に見えて、実は確り武装しているのだ。

 セリカの実力を考えれば、有象無象の騎士が束になったところで彼女には傷一つ付けることは出来ないだろう。

 

「でも……」


 それでも心配なのか、ソアラは尚も不安そうに食い下がる。


「ソアラはセリカのことを信じてないか?」

「そんなことはっ!」

「だったら信じてやれ。友達なんだろ?」

「う~……はい」


 俺にそう言われ、渋々といった感じではあったが、ソアラは一応は納得してくれたようだった。


 それからまた暫く経って……

 

「でも、ただただこうして見てるだけってのも、暇ですねぇ……」


 案の定というか、初めに我慢が効かなくなったソアラがそんなことを言い出した。


「相手がこちらの思う様に動かないのは当然だ。耐え忍び、機を待つ。狩りでも同じことだ。昔、お前にはそう教えたはずだが?」


 そんなソアラに、呆れた様な口調でイオスが窘める。


「そうだけどさぁ~」

「別に無理に付き合う必要はないと言っただろ?

 それでもセリカに無理を言って着いて来たのは、一体どこの誰だったか?」

「うぐっ……それは、私だけど……」


 事実とはいえ、痛い所を突かれたと、イオスの一言にソアラの表情が渋くなる。

 本来、ソアラはこの作戦に参加する予定はなかった。

 しかしソアラが、捉えられているかもしれない同族がいるなら自分も協力したいと、渋るセリカを押し切って今回の作戦に参加することになったのだ。

 まぁ、心意気は認めるが、結果がこれではな……


「でもっ!」

「“でも”ではないっ! 大体、昔からお前という奴は……」

「おい、二人ともっ! 俺達は今、見張りをしているんだぞ? こんな所で騒いでバレたらどうするつもりだ?」


 いつしか、単なる兄妹喧嘩の様相になり始めた二人の言い争いを、俺は呆れながら窘める。


「ソアラは自分から言い出したことだろ? やるからには責任感を持って役割を果たせ。お前一人で行動しているわけじゃないんだ。団体行動だってことを自覚しろ。

 ソアラ一人の失敗が、全体に悪影響を及ぼすこともある。やる気がないなら、さっさと帰れ」

「うぅ~、ごめんなさい。でも、スグミさんに正論を言われると、なんだか腹が立ちます……」


 こいつ……ことが終わったら、またキャイン言わせたる。


「イオスもイオスだ。お前がソアラをコントロールしないでどうすんだ?

 相手に合わせて自分の水準を下げるな。この班の頭はお前なんだぞ?

 もっと毅然とした態度で居てくれ。お前がそんな調子じゃ、班自体の能力が下がるぞ?」

「すまん。まったくもって返す言葉がない。ソアラが身内ということもあり、気を抜きすぎていたようだ。

 以降はこのような失態はしないと誓おう」

「そうしてくれ」

「……スグミ殿。やはり、スグミ殿が指揮を執られた方が良いのではないか? 俺より、余程適任だと思うのだが……」


 少し、何を悩んでいるかと思ったら、突然イオスがそんなことを言い出した。


「俺はよそ者だぞ? そんな奴が指揮なんて執ったら、他の奴らに示しが付かなくなる。わざわざ和を乱す必要もないだろ」

「よそ者というのなら、俺とて騎士団の団員ではない。スグミ殿と同じようなものではないのか?」

「少なくとも、昨日今日出会った俺なんかよりは、イオスは騎士隊の奴らとは一緒にいるだろ?」

「それはそうだが……そういうものだろうか……?」

「そういうもんだ」


 いきなり現れた奴に、デカイ顔をされて快く思う者などいはしない。

 表立って現れなくても、小さな不満の積み重ねが、組織全体のパフォーマンスを落とすなんてのはよくある話しだ。

 組織とは、単なる個の集団であってはならない。共通の目的意識を持った共同体であるべきだ……なんてことを、俺が務めている会社の社長が前に言っていたような気がする。


「……とはいえだ。この場でじっとしていても、ソアラが言うように暇なのには違いない」

「でしょ! ……イタっ! って、なにするんですか!?」


 俺の同意に気を良くしたのか、さっきまでのショボくれていじけていたソアラが急に元気になった。

 そんなソアラの頭頂部に、俺は無言のままチョップを落とす。


「調子に乗るな。セリカが詰め所に連れて行かれてしばらく経つが、ここまで何もないといのも、それはそれで気になるところだしな……少し予定を繰り上げてアレを使ってみるか」

「アレというと、スグミ殿が言っていた探索用の人形のことか?」


 本来の予定では、セリカが黒幕の元へと連れ出された時に、その内部の様子を確認するためのものとして、とある人形を用意していた。

 流石に、セリカを一人敵の本丸に突っ込んでおいて、あとはセリカ任せじゃ大変だろうからな。

 その人形でセリカを見守りつつ、何事もなければ証拠品の探索を、いざという時は騎士団総出で突入する作戦になっていたのだ。


「ああ、これがその人形だ」


 そう言って、俺は亜空間倉庫から手の平から零れる程に大きく長いムカデ型をした人形を取り出して、二人に見せた。


ミスって投稿してしまった・・・

編集するのも手間なので、23日分はなしということでお願いします。

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