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五一話


 傀儡操作マリオネット・コントロールというスキルを一言で説明するなら、人形を操るスキル、ということになる。

 人形と聞くと、人の形を模して作られたもの、という印象を受けるが、『アンリミ』ではこの人形(・・)という言葉が指し示す範囲が実に広い。

 例えば、人だけでなく犬や猫といった動物を象ったもの、正確には生物を象ったものならすべてが人形に分類され、スキルの対象となっていた。

 そうでなければ猿を模したエテナイトや、馬を模したドーカイテーオー、それにクマのぬいぐるみを操ることなど出来はしない。

 しかも、その生物という定義もまた広く、実在するもののみならず、ペガサスやドラゴンといった空想上の幻想生物にも適用されている。


 で、今回重要になるのがこの“生物を象ったものなら、すべてがスキルの対象になる”という点だ。

 裏を返せば、それ以外の判定基準が一切ないのである。

 極論、()の形をしていれば、スキル上それは人形(・・)であると判断されるのだ。喩え、それが人そのものだったとしても……だ。


 実際、『アンリミ』でも戦闘不能判定となったPCプレイヤーキャラクターを、傀儡操作マリオネット・コントロールで自身の支配下に置くことは可能だった。

 余談だが、戦闘不能PCを傀儡操作マリオネット・コントロールで支配する主な理由は、デスペナ回避の為の救済行動である。

 『アンリミ』では、一定時間戦闘不能状態を放置すると、強制的に自動復活(リスポーン)させられる。

 自動復活(リスポーン)が発生した時点で、プレイヤーはえげつないデスペナを食らうことになってしまうのだが、他プレイヤーのスキルの影響下にある場合に限り、この自動復活(リスポーン)が発生しないという仕様になっていた。

 ようは、戦闘不能プレイヤーをすぐに回復させる手段がない場合、一時的に傀儡操作マリオネット・コントロールで支配下に置くことで、自動復活(リスポーン)が起きないようにし、デスペナを回避するのだ。

 後は近くにいるプレイヤーか近場の街なりで、回復職を探して復活させてもらえれば、万事解決である。

 とはいえ、大体誰もが復活手段の一つや二つは常時持っているので、パーティーで行動している限りはそう頻繁に使うことがない利用法でもある。が、あればあったで意外と便利だったりするのも事実。

 実際、ソロプレイヤーがうっかり野垂れ死になんてしているのを発見した時などは、出来る限り拾って持ち帰っていたものだ。それでよくお礼を言われたりもした。


 更に付け加えるなら、この傀儡操作マリオネット・コントロール。プレイヤーの許可させもらえれば、通常状態でも支配下に置くことが可能だ。

 まぁ、出来るだけで、そこにあまりメリットはないが。

 一応、傀儡操作マリオネット・コントロールのレベル分のボーナスが、支配したプレイヤーの本来のステータスに上乗せされはするが、だったら自前の人形を使った方が普通に強いし使いやすいという話しだ。

 それに、人形ならサイズ補正も入る。

 しかも、ウチの人形はアマリルコン製の特注品だからな。この攻撃力、防御力を超えられるプレイヤーはそうはいないのだ。

 ただし、この傀儡操作マリオネット・コントロール、自分自身をスキルの対象に選ぶことは出来ないので、ステータスの底上げや、死亡時の自動復活(リスポーン)回避には使えない。

 まぁ、似たようなことは出来るのだが……それはさておき。


 というわけで、俺は文字通りの死体の山から、使い勝手がよさそうな状態のいいものを探すことにした。

 死んだらみんな仏様、とはよくいうが、盗賊家業(こんな仕事)に手を染めていたのだ。きっと今まで碌な生き方をして来てはいまい。

 生前は散々人に迷惑を掛けて来たのだから(たぶん)、死んだ後くらいは少しは人の役に立てと言いたい。


 少しばかり物色して、良さげな物を見つけた。

 うむ。背丈も高くて、ガタイも良い。そしてなにより損傷が少ない。

 よし、キミに決めたっ! ……のはいいが、


「ああ~、やっぱり嫌だなぁ……死体に触るの」


 傀儡操作マリオネット・コントロールは、スキルさえ起動すればすぐに操れるという代物ではない。

 まず、血印(けついん)というスキルを使い、対象物と術者を魔力的に繋げる必要があった。

 この魔力的な繋がりを、魔導パス、もしくは単純にパスと呼ぶ。

 傀儡操作マリオネット・コントロールは、このパスが繋がっている状態でしか機能しないのだ。


 そして、血印(けついん)を施すには、対象物に術者自らが触れる必要があった。

 正直、死体なんぞに触りたくはないのだが、このままうだうだしていたところで何も好転しないので、俺は深呼吸を一つして腹を括る。

 背に腹は代えられない。


「んじゃ、いっちょやりますか……」


 と俺は覚悟を決めて、指の先っちょだけを死体に触れてスキルを起動。


 スキル【血印(けついん)】。


 …………。

 …………。

 …………。


 ?? あれ? 何も起きない? なんでだ?

 アンリミなら、対象物に触れた状態でスキルを使うだけで、問題なくパスをつなげられたはずなんだけど……

 何か間違えたのだろうか?

 今までの経験上、アンリミで使えるスキルはすべて使うことが可能だった。このスキルだけが使用不可、とは考え難い。

 そもそも、パスが繋げられないのであれるなら、黒騎士達を操れるはずがないのだ。となると、別に要因があるはずだ。


 俺は一度死体から手を放し、う~むと唸る。

 別の要因……別の要因、か……ん? 待てよ?

 俺はあることを思い出し、それを実行するためにインベントリから何の変哲もない小ぶりなナイフを取り出した。


「俺は注射だって怖いっていうのに……あ~、ヤダヤダ」


 ナイフを鞘から抜き、その切っ先を左の親指の腹へと押し当てる。そのまま怖いのを我慢してつぷりと突き刺す。

 

「っ!! いってぇ~……」


 痛みから少し遅れて、親指の腹からじわっと血が滲み、時間が経過するにつれぷっくりと小さな山を作った。

 これで上手く行かなければただの痛い損だな……だから成功してくれよ……

 俺はそう願いつつ、血の滲む親指を死体の額に押し付けた。そして、スキル起動。


 スキル【血印】。


 すると、今度は触れていた部分が眩く光輝き出した。これは成功時のエフェクトだ。

 光が収まったところで俺が指を話すと、今まで指が触れていた部分に円形の赤い幾何学的な模様が浮き上がっていた。


「おっ! 印が出たな。成功、成功」


 俺が思い出したこと。それは血印のフレバーテキストについてだった。

 そこにはこう記されている。

 “術者の血を用いて魔紋を刻むことで、魔導を開く”と。故に、血印なのである。

 そういえば、ソアラを助けた時に大男に煙幕弾を投げつけた時も、本来の効果とは別に、フレバーテキストに記されている効果が追加されていたな……

 この世界に来たことで、スキルやアイテムの効果に変化が現れているのか……?


 断言は出来ないが、フレバーテキストから何かしらの影響を与えているのは間違いないようだ。

 後で、スキルやアイテムのフレバーテキストを読み直しておく必要がありそうだな。

 っと、今はそれよりも賊の積み込みが先だな。


 パスも繋がったことなので、俺は傀儡操作マリオネット・コントロールを使い賊だった男を立ち上がらせる。

 積み重なった死体を押し退けて、名も知らぬ死体がゆっくりと立ち上がっていく様はまさにホラーだな。

 自分でやっておきながら、その光景にちょっとゾっとする。

 ほら、ホラー映画でも来る(・・)と分かっていても、ビクっとする時あるじゃない? あれみたいなもんだ。

 今が朝で本当に良かった……

 これが夜中だったら、軽くちびっていたかもしれない。


 てなわけで、作業員も手に入れたことなので、俺は賊たちを纏めている場所へと戻ることにした。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


「っく、賊がまだ残っていたのかっ! スグミっ! 私がそいつの相手をするっ! お前は速く逃げるなり人形を出すなりして身を守れっ!」

「待て待て待て待て待てっ! 違う違う! ストーーーーーーップ!!」


 戻るなり早々。

 着替えを終え待機していたセリカが、俺が折角確保した労働力を切り刻もうとしたので、慌てて止めに入る。

 気持ちは分からんでもないが、問答無用で斬りつけるのはちょっと待て。

 なので、セリカに事の経緯を丁寧に説明する。


「し、死体……だと?」


 話を聞き終わると、死体からずずずっと一瞬で離れドン引きするセリカ。


「お前には本当に驚かされてばかりだが、まさか死者までも操るとは……

 もしや、死霊術の心得でもあるのか?」


 死霊術。仮に、セリカのいう死霊術がアンリミと同じものだとすれば、確かに勘違いしてもおかしくはないか。

 死霊術は死者の魂を召喚したり、死体を操って戦わせるスキルだ。

 死体が動ているのだけを見れば、確かに死霊術に見えることだろう。しかし、実際は死霊術ではなく、黒騎士達を動かしているスキルと同じだ。

 それをセリカに軽く説明する。


「死体を人形に見立てて操っている、と……」

「そういうこった。一応、生きている人間でも俺の支配下に置くことは出来るんだが、事前にちょっとした下準備や、本人の許可が必要だったりで、実用性はないも同然だがな」


 俺の話しを一通り聞いたセリカは、賊を次から次へと馬車へと運搬している働き者の死体の方へと眼をやった。

 ただ説明しているだけでは時間が無駄になるので、その間、俺は賊の積み込み作業を並行して行っていたのだ。


「しかし、死者を働かせるとは……スグミも容赦ないな……」

「生前悪さをしていたんだ。少しは償うチャンスをやろうというのだから、むしろ感謝されてもいいくらいだと思うがね」

「ものは言いよう、だな。その減らず口には感心するばかりだ」

「それ、褒めてるのか? それともバカにしてるのか?」

「勿論、褒めているつもりだ」


 そういうと、意味ありげにセリカはニヤリと笑って見せた。

 ああ、これ絶対にバカにしてるヤツだわ。ドーカイテーオーに乗った時の一件を、まだ根に持っている様だ。

 乳はデカイのに、心は狭いらしい。


 てか、セリカってこんなに胸がデカかったのか……今の今まで全然気づかなかった。

 渡したソアラの服の胸の部分が、ぱっつんぱっつんになっており、見ているだけで息苦しそうだ。

 まぁ、さっきまでは革鎧を着ていたのだから、気づかなくても当然といえば当然なんだけどね。セリカは随分と着やせするタイプのようだ。

 にしても、二人の年齢差はそんなにないはずなのに……これが世にいう胸囲(・・)の格差社会というやつか。

 ソアラ……不憫な子……

 ちょっとだけ、目頭が熱くなって来た。

 だが、胸の大きさだけが女性の魅力を決める決定的な要素ではない。貧乳でもいい、逞しく育って欲しいものである。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


SIDE ソアラ


 ところ変わって、同時刻の飛び跳ねる兎亭にて。


「ぶえぇぇっしょおんっっ!!」

「……ソアラ、お前は女の子なんだから、くしゃみをするにしてももう少しお淑やかに出来んのか?」

「そんなこと言ったってイオ兄ぃ、ずずっ……急に鼻がムズムズしてきたんだから仕方ないじゃん」

「なんだ? 風邪でも引いたか?」

「ん~、なんかそういうのとは違う気がする……こう根拠もなくイラっときたから、きっとスグミさんがどっかで私の悪口を言っているんだよっ!」 

「そんなバカな……」

「むむっ! 信じてないなっ! 私の勘は良く当たるって、ご近所では評判なんだからねっ!」

「分かった分かった。そんなことより、早く朝食を片付けろ。今日はやることが多いんだからな」

「む~……へいへい、分かってますよ~っだ。まったく……イオ兄ぃは昔からあれはするな、これはしろって、いちいち五月蠅いんだから……」

「五月蠅いとはなんだ、五月蠅いとは。そういうお前だって昔から……」

「イオ兄ぃだって……っ!」


 と、微笑ましい一コマがあったのだが、当然、スグミにそれを知る由はなかった。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


「それにしても、何故死体を? 積み込むだけなら、自慢の騎士人形を使えばよかったのではないか?」

「バカ言うな。あんな汚い奴らを担いだら、大事な黒騎士が汚物で汚れるだろうが!」

「ああ……」


 どうやらそれだけで納得してくれたようだ。

 で、俺とセリカは、その間ただ死体が賊を運搬する光景を見るだけ、というのも暇なので、賊を運搬する馬車に少し手を加えることにした。


 現状、馬車は二台あるが、御者は俺一人。

 つまり、このままでは荷物を積んだ馬車か、賊を積んだ馬車のどちらかしか走らせることが出来ないということになる。

 セリカが御者台に座れば、二台の馬車を走らせることが出来るだろうが、セリカの役処は捕らわれのエルフである。

 流石に、それでセリカを御者台に座らせわけには行くまい。

 なので、俺一人で二台の馬車を引けるように改造する必要があるのだ。


 とはいえ加工は簡単で、賊が積まれている馬車から馬を外し、(ながえ)(馬と馬車を繋ぐため、馬車の左右から伸びた棒のこと)の先端を形状変化(シャープ・チェンジ)でちゃちゃっと加工。

 これまた商材の積まれた馬車の後部に、受けようの加工を施してドッキングさせれば、はい完了。

 ついでに、幌が外されて剥き出しになっていた商材を、手持ちのロープで固定して落ちないようにする。

 走っている最中に崩れでもしたら大変だからな。


 商材馬車が前で賊が後ろなのは、単純に賊が近くにいると、臭く、不快になるからだ。

 それを回避するために、賊を積んだ馬車の前に商材が積まれている方の馬車を連結することで、御者席と賊との間に緩衝エリアを設けることにしたのだ。

 こうすれば、幾分かは臭いを軽減することが出来る、と思う。

 で、元々繋がっていた馬は外し、そこにドーカイテーオーを繋げる。


 普通の馬で引いて帰っては、時間が掛かり過ぎるので帰りも当然ドーカイテーオーに馬車を引かせて帰ることにしていた。

 馬車から外された馬たちは“ペットハウス”という、『アンリミ』ではモンスターを捕まえてペット化させるアイテムを使って収納。

 見かけはさ小さな虫籠サイズなのだが、どんなに大きなモンスターでも一つにつき一匹だけ収納することが出来る優れものだ。

 ただ、対象がモンスターではなくただの馬なので、試すまでは正直これが使えるかどうかは分からなったが、まぁ、うまくいったので問題なし。

 フレバーテキストによると籠の中はペットにとっては快適な空間らしく、籠に入れておくだけで減ったHPなどを回復してくれるらしい。

 飢えや渇きもないというのだから、むしろ俺がその中に入って生活したいくらいだよ。


 ちなみに、ペットハウスにはモンスターに分類されるものしか入らないので、盗賊や野盗のような人間型エネミーは収納することは出来ないようになっていた。

 実際、賊を収納出来るか試したが無反応だった。


 都合四つ出来上がった籠は、インベントリに収納。

 インベントリや亜空間倉庫は、通常、生物を生きたまま入れることは出来ない仕様になっているのだか、このペットハウスなら中に生物が入った状態のままでもインベントリ、亜空間倉庫に収納出来る、というのは不思議な話しだ。

 まぁ、元はゲームの仕様だからなぁ……作った人も、そこまで深くは考えてはいなかったのだろう。


「さて、それじゃあ死体の方はどうする? 流石にこれ以上はもう乗らないぞ?」

 

 いくら馬車が大きいとはいえ、流石に賊を全部乗せるのは無理があった。

 生きていた奴らを積み込んだら、もう一杯一杯だ。


「荷物が積まれてる方も空にすれば、乗せられないことはないが……」


 もしくは、この場で適当に馬車を作るか、だな。

 俺のスキルを使えば、周囲の木を利用すれば一時間と掛からず似たような馬車を作ることが可能だ。

 しかし……


「いや、このまま捨て置こう。持って帰る意味も特にないからな。

 だが、死体を野ざらしのままというわけにもいかんから、近いうちに回収するよう、伯父上に連絡を入れておく」

「了解」


 一応、俺が馬車を作って持ち帰るという案も出してはみたが、セリカから「時間を掛けてまでやることではないな」と却下となった。

 ということで、賊の積み込み作業が終わったところで、俺達は一路、来た道を戻りアグリスタを目指すのだった。




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