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四九話


 翌朝。

 太陽がまだまだ低いうちに、俺は飛び跳ねる兎亭を出ると自由騎士組合へと向かった。

 歩くこと数分。

 まだまだ人通りが少ない道をトテトテ進むと、自由騎士組合の前に砂色のローブで身をくるみ、フードを目深に被った、見るからに不審な人物が一人佇んでいた。

 ……なんたる既視感。


「悪い、待たせたか?」


 俺は、その怪しげな人影に向かって、気さくに声を掛ける。


「いや、それほどでもない」


 その人物は、俺が声を掛ける前から俺の接近に気づいていた様で、俺に近づきながら被っていたフードを外す。

 と、そこから現れたのは、金色の髪をお団子(シニョン)にまとめた美少女騎士、セリカだった。

 うん、知ってた。


 俺達は今から、暫く放置していあの賊を回収に向かうことになっていた。

 ぶっちゃけ、賊の回収だけなら俺一人でも十分だったのだが、セリカから現場を自分の眼で直接見たいと強い要望があったので、一緒に行くことになったのだ。

 ちなみに、ソアラにも一応一緒に行くか尋ねたら、「あのお馬さんにはもう二度と、絶対に乗りたくないですっ!」と全力で拒否された。

 そんなわけで、俺達が戻るまではソアラはイオスと一緒に行動することにしているらしい。

 とはいえ、今の時間はまだベッドで熟睡中だろうけどな。


「そっちの準備は終わったのか?」

「ああ、後は手はず通りにことを進めるだけだ」


 というわけで、俺とセリカは連れ立って街門(がいもん)……街を出入りするための門をこう呼ぶらしい……へと向かい、アグリスタを出た。

 余談だが、セリカは自前の自由騎士証を見せただけで簡単に出してもらえたが、俺は滞在証を返したり、帳面に名前を記入したりと意外と面倒だった。

 しかも、再度アグリスタに入る時は、また通行料と滞在証の発行料金を払わなくてはいけないらしい。

 案外、この街はよそ者には厳しいと知った。

 頻繁に出入りしていたら、あっという間に財布が空だ。

 ブルックの好意で自由騎士にしてもらって、本当に良かったよ……

 

 で、アグリスタを出て十分程トボトボと街道を歩く。

 すぐにでもドーカイテーオーで賊の所まで行きたいところだが、ドーカイテーオーは大きくて派手に目立つので、いくら早朝の人目が少ない時間帯だとはいえ、出すには街からある程度は離れておく必要があったのだ。


「そろそろいいかな?」


 十分に距離を取り、街門が小さく見える様になったところで、俺は亜空間倉庫からドーカイテーオーを取り出した。


「ほぉ……鋼の馬、か……これがスグミが言っていた移動手段なのか?

 結局、一昨日は色々とあって見れなかったからな」


 と、突如目の前に姿を現した巨大な馬に臆することもなく、セリカがドーカイテーオーに近づきペタペタと手を振れる。


「ああ。こいつなら賊の所まで半刻(一時間)くらいで着くことが出来る。諸々の作業時間を含めても、往復二刻(四時間)は掛からないと思うぞ」


 諸々の作業時間とは、賊が乗っていた馬車を見つけたり、賊を馬車に積み込んだりする時間のことだ。


「そうか。では、私もこの馬に跨ればいいのだな?」

「ちょっと待った」


 で、早速ドーカイテーオーに飛び乗ろうとするセリカに待ったを掛ける。

 ドーカイテーオーの体高は、俺の身長一七五センチメートルより少し高い。

 セリカの身体能力を考えれば、それくらいの高さなら飛び乗れるだろうが、だからといってわざわざ無駄に労力を使う必要もあるまい。

 てか、俺が無理だ。


 俺はドーカイテーオーをその場で座らせると、登りやすい様に側面のタラップを展開する。

 手本、というわけではないが、俺はそれを使って楽々とドーカイテーオーの背へと登った。


「便利な物だな……

 それで、私はスグミの後ろにでも跨ればいいのか?」

「いや、はっきり言うが、ドーカイテーオーはかなり速い。振り落とされても面倒だから、俺の前側に座って欲しい」


 ソアラが乗った時も、後ろに跨らせていたら確実に振り落とされていただろうしな。

 セリカがソアラに劣るとは思っていないが、極力危険は排除した方が無難だ。


「……分かった。そもそも、無理を言っているのは私の方だしな。スグミがそういうのなら従おう」


 やはり人の前に座るというのに躊躇いがあるのか、セリカは少し悩む素振りを見せたが、結局は俺に従ってくれた。

 そんなセリカに俺が登りやすい様に手を差し伸べるが、セリカからは「大丈夫だ」とやんわりと断られてしまった。

 それもそのはず、セリカはタラップに片足だけを軽く引っかけると、一息にするりとドーカイテーオーの背まで登り、俺の前に腰を下ろしたのだ。

 余計なお世話、ということだったらしい。これは失礼。


「走らせる前に注意点な。走行中はなるべくしゃべらない。舌を噛むぞ」

「はっはっはっはっ! 私を誰だと思っている? 馬など日頃から乗り慣れている。その程度で舌など噛むものか」


 確かに。セリカの正体は国に仕える正規の騎士だ。そりゃ、馬なんて乗り慣れていて当たり前か。


「スグミ、そういうのを“師に教えを説く”というのだぞ?」


 聞きなれない言い回しだが、この世界の慣用句だろうか?

 意味的にはおそらく“釈迦に説法”と同じだろう。これまた失礼しました。


「んじゃ、ただの乗馬と違う点を。こいつには手綱がない。だから走行中は目の前のバーを握ってしっかりと体を支えてくれ」

「これか? 相分かった」


 そう返事をすると、セリカは指示通りにバーをぎゅっと掴む。


「それにしても、この歳で人の前に座らさせられるとはな……

 幼少の頃、父上と一緒に馬に乗った時以来だ」


 と、セリカが何処か懐かしむようにそう呟いたのが聞こえた。

 生憎と今は背中側しか見えないので、どんな表情をしていたかは分からなかったけどな。


「それじゃあ起こすぞ」


 そんなセリカに一言断りを入れて、俺はドーカイテーオーを立たせる。

 初めに背が大きく傾き、次いでグイっと視界が急激に上がった。

 背を平行にしたまま立たせるのは非常に難しく、最初だけはどしても大きく傾いてしまうのだ。

 すると……


「きゃっ……」


 それに驚いたのか、セリカが妙に可愛らしい声を上げた。


「へぇ、随分と可愛らしい声も出るんだな」


 普段は男勝りな口調で話すセリカにも、可愛い一面もあるもんだと、ちょっとからかう。


「うっ、うるさいっ! い、今のは、す、少し驚いただけだっ!」


 自分でも恥ずかしいと思ったのか、耳を真っ赤にして抗議するセリカ。この様子から察するに、きっと顔まで真っ赤にしているに違いない。

 生憎と、ここからでは表情見えないのが非常に残念だ。


「そ、そもそもっ! 馬とは基本立っている状態から乗る物だっ! 私はそう訓練を受けて来たっ!

 座っている状態で乗って、あとで立たせるなど聞いたことがないっ!

 これなら、立った状態で乗っていた方がまだ楽だった!」


 と、「恥を掻いたのはお前の所為だっ!」と言わんばかりに、なぜか説教を受けてしまった。

 それが、おそらくは照れ隠しなのだろうということは分かる。が、その必死さがあまりに面白くて、ついつい更にからかいたくなる衝動に駆られてしまう。

 しかし、セリカはソアラと違い、なんというか勝気が強い性格をしている。それは、一昨日の手合わせの時に証明済みだ。


 下手にこれ以上刺激すると、暴走して取り返しがつかなくなりそうな気がするので、ここは一つ大人である俺から折れることにした。

 

「はいはい。余計なお世話でしたね。あたしが悪うございましたよ」

「わ、分かればいいんだ。分かればなっ!」


 そんな感じでひと悶着あったが、ここで遊んでいても仕方ないので、早々に無駄話は切り上げ、俺はドーカイテーオーを賊の居る場所へと向けて走らせることにした。

 ハイヨー! ドーカイテーオーっ!! ってな。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


「おおおおぉっ! スグミっ! これは速いな! 凄く速いぞっ!」


 それは、ドーカイテーオーを走らせてすぐのことだった。

 轟々と、猛烈な風切り音の中、セリカの興奮した声が俺の耳へと届いた。

 その興奮振りといったら、俺が危ないと言っているのにも関わらいず、ドーカイテーオーの背の上で立ち上がってしまうほどだった。

 まるで、ジェットコースターに乗ってはしゃぐ子どものそれである。


 ちなみに、振り落とされない様に設置されているハーネスは一人分しかないが、足を掛ける(あぶみ)……というのか、この場合はステップの方が正しいのか?……は広めに設計されているので、セリカはそこに足を掛けて立ち乗りをしていた。

 

 ソアラは今の速度……大体、体感で時速一〇〇キロメートルくらいでもう完全にグロッキー状態になってしまっていたが、そこは王国騎士。

 この速度で立ち乗りとか、まだまだ余裕のようだ。


「まるで風の精霊にでもなったようだっ! 景色が背後へと飛んで行くっ!

 なぁスグミっ! この子に、もっと速く走らせることは出来ないのかっ!」


 と、意外とセリカはスピード狂のようで、更なる速度アップを要求する始末。


「出来るが、はしゃぎすぎて振り落とされるなよっ!」

「私を誰だと思っているっ! この程度で落とされるものかっ!」


 というわけで、俺はドーカイテーオーを更に加速させるため、ギアを一段引き上げた。

 それに伴い、今まで殆ど揺れていなかった背中が、少しだけ強く揺れ始める。


 ドーカイテーオーには、背中の揺れを極力軽減する特殊な機構が内蔵されているのだが、流石に最高速度ともなるとすべての揺れを吸収することが出来なくなり、こうして揺れてしまうのだ。

 まだまだ改良の余地あり、ということだな。


「おおっ!! 更に速くなったぞ、スグミっ!」


 しかし、そんなことは大したことではないとばかりに、立ち乗り姿勢のまま暴風に身を晒すセリカ。

 それでもまるでびくともしていないのだから、その体幹の強さに脱帽だ。


 余談だが、セリカが立ち乗りしている所為で、実は俺の眼前にセリカの尻がドアップで見えているのだが……

 生憎と、厚手の革のズボンを穿いている所為で大した面白味はまったくない。

 これがミニスカートなら、さぞ楽しいことになっていたことだろうに……ちょっと残念だ。

 ってか、何故この国の女騎士の正装はミニスカートではないのだ?

 ラノベの女騎士といったら、みんなミニスカートに鎧がデフォのはずなのだが……解せぬ。


 とはいえ、そこは年頃な女性のヒップ。綺麗な丸みを帯びた美しいラインをじっくと、ねっとりと、そしてたっぷりと堪能させてもらいました。

 ありがたやぁ~、あれがたやぁ~、と取り敢えず拝んでおく。

 で、この記念すべき思い出を忘れない様に、この光景は心のマイメモリーにがっつり保存する。

 てか、この娘は人の前で立ち乗りしたら、目と鼻の先にケツを突き出すことになると気づかないのだろうか?

 ……気づいていないんだろうな。


 とはいえ、今指摘したら、色々と危険なので……俺がセリカに蹴られ未来しか見えない。それで、ドーカイテーオーから落馬することはないだろうが、操作を誤って転倒はしそうである……明かすにしても頃合いを見計らってだろうな。

 まぁ、本人も気づいていないようなので、このまま俺が墓まで記念品として持ってくのが正解のような気もするが……

 なんか、黙ってたら黙ってたで、後でバレたら怒られそうな気もするんだよなぁ。

 実に難しい判断が求められるところだ。


 それから、目的の場所に着くまでの小一時間ほどの間、俺は美少女の尻を至近距離から堪能するという、類稀なる好機に恵まれたのだった。

 ただの移動だからつまらないと思っていたが、実に有意義な時間となりましたマル。

 

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