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四八話



「ふふみはんっ!! ほのおにふ、ふごふほほいいてふよっ!!」

「女の子が、肉に(かぶ)り付いた状態でしゃべらないの」


 ソアラが、出て来た厚切りの一枚肉のステーキに(かじ)りついて、何やらふがふが言っていたが、何を言っているのかはさっぱり分からんかった。

 ただ、美味しい、ということだけは、肉を無心でガジガシしているソアラの様子から凄く伝わって来た。

 てか、年頃の少女が出された肉を切り分けもせずに、フォークを突き刺していきなりそのまま齧りつくとか……野生児かこの娘は?

 

 食堂では、俺のことがちゃんと伝えられていた様で、カウンターにいる店員に割符を見せたら、すぐに料理の準備を始めてくれた。

 ちなみに、食事の調理代は希少な食材を提供してくれた、とのことで無料にしてくれた。

 有難い話である。では、俺も……


 とはいえ、ここにあるのはあの蜥蜴の肉だ。流石に、ソアラの様に無警戒にがっつくに多少の抵抗もある。

 取り敢えず匂いを嗅いでみると、肉の焼ける本来の香り以上に、コゲたガーリックと思しき(こう)ばし(かお)りが鼻を突き、強烈に食欲をそそられる。

 空腹時には堪える一撃だ。


 溜まらず、厚切りステーキにナイフを落とせば、信じられないくらいサクっと肉が切れた。

 ナイフの切れ味がいい、ということではなく、この肉自体がもの凄く柔らかいのだろう。

 それはまるで、長時間じっくりことこと煮込んだ角煮のような柔らかさだ。

 切り口からは、まるで決壊したダムのように肉汁が溢れ出す。

 絵面の威力がハンパないなコレ……


 ごくりっ。


 さっきまであった躊躇いも何処へやら、俺は切り分けた肉を口に運ぶ。

 と、歯は苦も無く肉を噛み切り、その都度肉からは旨味に満ちた肉汁が惜しげもなく溢れ出す。

 途端、ピリリと辛い濃厚なソースと肉から溢れ出す甘みのある肉汁が絶妙な調和を持って、口の中いっぱいに広がった。

 俺はカエルを食ったことがあっても、蜥蜴は食べたことがない。だから、蜥蜴がどんな味をしているかなんて知りはしない。

 この肉も、牛とも豚とも鳥ともつかない不思議な味がしたが、だだ一つ言えることがある。

 それは……


「うまっ! なんぞコレ!?」


 ただただ美味いということだった。

 この肉だからこそこのソースが引き立ち、このソースだからこそこの肉が輝くのだ。

 肉が良いだけではダメ。ソースが良いだけでもダメ。

 この肉とソースだからこそ、この強烈な異なる色彩を放つ二つの味が、調和を以てまとまっているのだろう。

 それはさながら、肉とソースの社交ダンスのようやぁ~!

 この料理を作ったシェフは、きっと只者ではないと直感で感じた。

 しかし、うむ。これなら、うちの食いしん坊エルフ姫が夢中でがっつくのも理解出来る。


 ただ惜しむらくは、この蜥蜴のステーキが無性に白米が欲しくなる味という点だろうか。

 こればっかりは日本人の(さが)だろう。

 白いご飯の上に、たっぷりとこのピリ辛のタレを付けたステーキを乗せて、思う存分掻き込みたいという、そんな衝動に駆られる。

 このステーキでスタミナ丼を作ったら、絶対に美味いに違いない。


 しかし残念ながら、付け合わせがパンなのでこれは諦める他なかった。

 というか、この世界に米はあるのだろうか?

 まぁ、パンがあるということは麦があるということだから、米があっても不思議ではないのだろうが……どうなんだろう?

 と、俺がそんなことを悩んでいると、


「あ~、これは白いご飯が欲しくなる味ですねぇ~♪」


 ソアラが口の周りをソースでべったりさせながら、そんなことを(のたま)った。


「えっ!? 米があるのか!」

「えっ!? スグミさん、お米を知っているんですか? 人間さんなのに、珍しいですね」


 詳しく聞くと、エルフの主食は米で、森の中で稲を栽培しているらしい。

 しかし栽培量は少なく、すべて村の中で消費されてしまい、村の外へはまず流通しないのだとか。

 また、人間は麦を使った料理が基本なため、米の栽培どころか米という食材があることすら知らない人間も多いのだそうだ。


「へぇ~、俺が居た場所(日本)でも米が主食だったんだよ」

「お米が主食の人間の国ですか……ホント、スグミさんの居たところは変わってますね」


 なんにしろ、思いの外簡単に米が見つかってよかったよかった。

 どの道、ソアラを村に送り届ける予定なので、村に立ち寄った際に少し分けてもらえないか頼んでみよう。


 と、そんな感じでワイワイ食事を楽しんでいたら、コック服に身を包んだ若い男が俺達に話し掛けて来た。


「この度は、滅多にお目に掛かれないロックリザードを提供して頂き、誠にありがとうございました。

 私としましても、貴重な経験を積ませて頂き、感謝しております」


 話を聞くと、この男が今回の料理を手掛けたコックらしい。

 彼自身、ロックリザードを使って料理をするのは初めてとのことで、腕によりをかけて調理はしたが、味が不安で感想を聞きに来たとのことだった。


 俺もソアラも何一つ文句などなく、大変満足していることを伝えると、彼はほっと胸を撫で下ろしていた。

 少しばかり世間話をしたら、彼は自由騎士組合の食堂に来る前は、王都の有名料理店で長いこと修業をしていたのだと話した。

 曰く、その店は長い歴史を持つ店だけに、伝統と仕来(しきた)りというのか、とにかく古いことばかりを厳密に守り続ける気風があり、何か新しい味に挑戦しようとする彼を、外道だの、店の歴史を汚すのかと、散々こき下ろされていたらしい。

 

 彼が若いこともあり、腕は立つのに厨房に立たせてもらえず、日々、下働きの様なことばかりさせられていたようだ。

 そんな料理人として燻っていたところを、偶然自由騎士組合(ここ)の職員にスカウトされて転職を決意したのだと語った。

 で、そのスカウトした職員というのが、組合長のブルックなのだと言う。


「来たばかりの頃は、不味いとお代も頂けずに突き返されたこともありましたが、お陰で色々な味に挑戦する機会を頂き、今では充実した仕事をさせて頂いております。

 それに、たまにですが、こうした貴重食材を調理させて頂く機会にも巡り合えますし、料理人冥利に尽きるというものです」


 ちなみに、不味いと言われたのは彼の腕が悪いからではなく、地方による好みの違いが原因だったようだ。

 日本でだって、西と東で味の好みが大きく違うからな。

 濃い味大好きな人たちの所で薄味料理を出せば、そりゃ不味いと言われるだろうよ。逆もまた然り、だ。

 余談だが、王都は薄味派が主流で、ここアグリスタは濃い味派が主流なのだと彼は言う。

 それに気づくまでに、少し時間が掛かったと若きシェフは笑いながらに苦労譚を語った。

 

 世間話のついでに、俺達が食べたロックリザードの肉について話を聞くと、牛でいう所のヒレに相当する部位らしい。更に、その中でも最も柔らかい、所謂、シャトーブリアン的な代物だったようだ。

 当然、一匹から取れる量は少なく、その分お値段も相当。

 普通に買って食べようとするなら、今食べた分量で一人前五万ディルグは下らないという。

 今回は、俺とソアラの二人前なので一〇万ディルグ(大金貨一枚)……日本円にしたら一五万円くらいか……

 わぁ~おっ! 高っ! 

 ちなみにこの価格は時価であり、時期によっては二倍三倍になることもあるらしい。

 それを聞いて、ソアラ顔を真っ青にしていた。


「もっと味わって食べればよかったです……」


 値段じゃなくてそっちかい……

 でも、まぁ、うん。そうですね。あんなガツガツ食べる料理ではなかったね。


 そんなこなんで楽しく美味しい昼食を終えた俺たちは、自由騎士組合の買取カウンターで査定に出していた商品の代金を受け取り、予定通り午後はソアラの買い物に付き合うことになった。


 で、とある布や糸を取り扱う手芸用品店にて……


「あっ! この布、綺麗~。こっちも(・・・・)一反(いったん)貰いますっ!

 ああっ! こっちの糸も良い色で染まってますね! 刺繍に良いかも……各色、一軸ずつ貰えますか?」

「はいっ! 喜んでっ!!」


 ソアラは手にした布の巻物(?)やら、デカい糸の塊のような物を次々と付き従っていた店員にポイポイと投げ渡す。

 で、店員の手が商品でいっぱいになると、店員は会計所まで走って商品を持って行き、代わりの店員が空かさずソアラに付いて回る、というローテーションをかれこれ小一時間ほどずっと続けていた。

 その甲斐もあり、会計所ではソアラが選んだ商品達が文字通り(うずたか)く積まれた山を形成していた。

 それが一つ、二つ、三つ……そこで俺は数えるのを止めた。

 

 どんだけ買うねん……


 ソアラの奴、昨日から気になっていたという染物屋に来るや否や、宣言通り手当たり次第に爆買いを始めた。

 それこそ、一棚ごと買うという大人買いならぬ、石油王買いである。

 そこに、遠慮ってものは一欠けらも存在しなかった。


 ソアラは手芸用品店で満足するまで買い物をすると、次に農具を扱う店に向かい、こちらもまた(くわ)(すき)を十本単位で購入して行った。

 それ以外にもその他諸々……

 ソアラ曰く、


「村では金属農具は貴重品なんですよ。行商人さんから買うと高くつきますしね。それにしても、街で買うとこんなに安いんですね。知りませんでした。この機会にまとめ買いしておかないとっ!」

 

 と、言っていたが、そのカネ出すのは俺だからな?

 まぁ、いいんだけどさ……


 その後も、お茶っ葉を扱う店や、調理器具などを扱う店など二、三店舗を巡り、ソアラは同様に爆買いして回った。

 おかげで累計で小白金貨一枚、一〇〇万ディルグほどが軽く吹っ飛ぶこととなった。

 しかし、そんなに買ってどうするのかとソアラに尋ねたら、


「きっと、私のことで村のみんなには迷惑というか、心配を掛けさせてしまっているでしょうから、これはそのお詫びの品と言いますか……」


 とのことだった。

 何だかんだで、気配りが出来る子なんだよな、この子は。

 確かに農具一式とか、考えてみればソアラが自分で使う物とも思えないしな。


 ちなみに、買った商品は後日宿屋へと届けてもらうことになっている。その場で亜空間倉庫を使う訳にはいかなかったからな。


 宿への帰り道。

 今回の買い物で使った金額をソアラに教えたら、流石にこれはやり過ぎたと思ったのか、ソアラが少しは申し訳なさそうにしていたが、


「ス、スグミさんが何でも買ってくれるって言ったんですからねっ!

 わ、私、悪くありませんからっ!」


 と、清々しいほどに開き直っていた。

 俺への気配りはないんだよなぁ、この子。まぁ、自業自得といえばそれまでだが。

 まぁ、俺としても大して苦労せずに手に入れたカネだ。だから、俺のカネだとかそんなケチ臭いことをとやかく言うつもりなど毛頭ない。

 悪銭身に付かず、ではないな。どちらかというと、イジー カム イジー ゴーの方かな。


 とはいえ、先に換金しておいてマジでよかった。午前中にソアラの買い物に付き合っていたらと考えるとぞっとする。

 いや? 換金して大金も持っていることを知っていたからたかられたのか?

 なんだかそんなような気がする……


 なんにしても、だ。

 ソアラも楽しんでいたようだし、店の人も思わぬ大量購入で大喜び。俺もさして困っていない。

 誰も迷惑を被った人がいないのであれば、それはそれで良かったのではないかと思う。

 それに、こうしてカネを落として経済を回すのは大事なことだ。

 カネは留まっているだけでは死に銭だ。流れがあって初めてカネは生きる。経済の基本だ。

 ああ~、日本でもこう、女の子にポンと一〇〇万円くらい渡せるような豪遊をしてみたいものである。


 この金貨とか白金貨とか持って、日本に帰れないもんかね? 


 なんてことを考えながら、俺とソアラは宿への岐路を急いだ。

 日は、もうとっくに暮れてしまっていたからな。

 さて今日は散々遊んだから、明日はしっかりと働くことにしようっ!


 

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