四四話
一通り店屋を見て回ったが、結果からいうと大して面白いものは何も見られなかった。
何故なら、武器屋も防具屋も、基本的にどの店も現物商品を殆ど置いていなかったからだ。
というのも、どの店も出来合いの既製品は取り扱っていないというのだ。商品は基本、客に合わせたオーダーメイドが一般的なんだと店主が話してくれた。
一応、鍛冶師の腕を示すたるのディスプレイとして、数点だけ置かれてはいたがそれだけだった。
「武具ってのはなぁ、人によって好みが全部バラバラなんだよ。
だから作り置きしても、武具に合う奴が買いに来なきゃ延々と売れない不良在庫になっちまう。
んなもん、いちいち抱えてられっか」
とは、武器屋のおやっさんの談である。
剣一本にしても、人によって求める性能は千差万別。
長物を欲する人もいれば、短い方が好きだという人もいる。
幅厚で丈夫な物を求められることもあれば、細身で取り回しの良い物を探している人もいる。
そうしたニーズに合う商品をすべて取り揃えていたのでは、棚がいくらあっても足りないうえに、素材も無駄になる。
それが、戦うことを生業としている者ならば尚のこと。手にする武具に一角の拘りがあり、故に右に倣えの量産品を好まないのだそうだ。
結果、そうした同一規格の量産品は売れ残り易く、取り扱いを止めた、ということらしい。
ちなみに、そうした同一規格品の大量受注があるのは、数年に一度、国の騎士団の装備を一新する時くらいなものなんだとか。
まぁ、確かに命を預ける相棒が、お手頃価格の量産品では心許ないわな。
そんなわけで、この街の武器、防具屋は一つの武具を作るにも、依頼者と綿密な打ち合わせをした上で、依頼者の要求に合致した商品を丹精込めて一つ一つ丁寧に作るのだという。
たまたま立ち寄った店では、商品はすべて鍛造で制作、鋳造品は作らいと言っていた。
その分お値段は張るが、安かろう悪かろうでは命がいくつあっても足りなくなってしまう。
自由騎士は体が資本だ。死んでしまっては元子もない。
だからこそ、自由騎士は少しでも信頼のおける武具を求め、鍛冶師も粗悪品を売ってその所為で死人が出たとなれば、店の名に傷が付くために妥協した商品は売らない。
ここでは、そうした利害関係が構築されているのだろう。
一応、見習い鍛冶師が打った物の中で、出来の良い物を店頭に数点置く店もあるにはあったが、そういうものは駆け出しの自由騎士向けに低価格で提供されているもので、本職は見向きもしないらしい。
こう……剣とか斧、槍なんかがずらっと並べられてる様を想像していたのだが、ちょっと残念だ。
オーダーメイドだけの取り扱いでは、結構暇なのではないかと思ったが、代わりに武具のメンテナンスや修繕の依頼などが殊の外多く、意外と忙しい日々を送っているとのことだった。
道具屋も道具屋で、こちらもまた面白味に掛ける物しかなかった。
あったのは腹痛を治す薬草だとか、切り傷、打ち身に効く薬草といった、ちょっとした漢方屋といった物ばかり。
試しに店主にポーションやスクロールはないかと聞いたら、
「んな高級品が、こんな片田舎の場末の道具屋にあるわけないだろっ!」
と、普通に怒られてしまった……
ソアラやセリカの前でポーションを出した時に随分と驚かれていたが、ここではポーション自体が高級品で珍しい物らしい。
ふむ、手持ちの各種ポーションにはまだまだ余裕があるが、買い足せないとなると問題だな。
スタミナ回復ポーションならなくなっても大した問題ではないが、HP回復ポーションは底を突く前に何とかしたいな……
店主の話しでは、田舎にはないだけで、もしかたら都会、例えば首都のようなところならあるのかもしれないとは言っていたがさて。
まぁ、俺は錬金術師系のスキルも持っているので、いざとなればポーションを自作することが出来る。
ただ問題は、材料が手に入るか……だな。
アンリミと同じ材料が手に入るのか? それとも、ここの素材で代用が出来るのか? こればかりは探すなり試すなりしてみないと、なんともいえんか。
近いうちに試してみるしかないだろう。
というわけで、大した収穫もないまま、午前の散策は終了となってしまった。
気付けば時間も昼近くとなり、デートは一旦終了。昼食と買取に出していた物の代金を受け取りに、自由騎士組合に戻ることにした。
午後からは、ソアラの見て回りたい所へ足を運ぶ予定だ。
「どうも、査定を頼んでいた者ですが、代金を受け取りに来ました」
「はい、では割符をお願いします」
受付は時間で担当が交代することになっているのか、カウンターにはナリアちゃんではない別の子が座っていた。
俺は名も知らぬ受付嬢に言われるままに、持っていた割符を彼女に渡す……と。
「……っ!?!? スっ、スグミ様ですねっ! え、えっと……組合長から、お見えになられたらお部屋まで通すようにと仰せつかっておりますので、お手数とは思いますがご足労願えますでしょうか?」
割符と何やら書類の様な物を照らし合わせた途端、受付嬢が突然ワタワタと慌て出し、そう口早に捲し立てる。
「ブルックが? まぁ、来いと言うなら行くけど……何の用だろ?」
「さ、さぁ……? それは一介の職員でしかない私には分かり兼ねます……申し訳ございません」
ただの独り言だったのだが、質問だと思った受付嬢が肩を窄めて萎縮してしまった。
あれ? 俺なんか怖がらせるようなことしたか?
取り敢えず、呼ばれているようなので、ブルックがいる組合長室を目指そうとしたら、
「ごっ、ご案内致しますっ!」
と、受付嬢がバネ仕掛けのおもちゃのように勢いよく飛びあがり、俺達を先導する。
場所は昨日ブルックを運んだ時に覚えたので、案内はいらない、と断ったのだが頑なに「ご案内しますっ!」「職務ですのでっ!」と断られてしまった。
何を言っても聞く耳を持ってくれなさそうだったので、諦めて素直に先導されることにした。
コンコン
「マスター、スグミ様がお見えになりましたので、ご案内致しました」
受付嬢が扉をノックしそう告げると、すぐさま中から野太い声で「通せ」という返事があった。
彼女がその言葉を確認すると、扉を開いて自らは扉の前から一歩脇へと退く。
「どうぞ」
どうやら、彼女自身は中に入るつもりはないならしい。
俺とソアラは、彼女の指示に従い部屋へと入ると、後ろでパタリと静かに扉が閉ざされた。
「仕事の片手間ですまんな。取り敢えず、適当に座ってくれ」
そう言うブルックに視線を向けると、執務机に齧りついて何やら書類仕事をしている最中だった。
デカい体を小さくして、せっせと何やら書類に書き込んでいるその姿は、似合わない、の一言だな。
その姿に、どこかサーカスで小さな三輪車に乗った熊の姿が重なって見えた。
俺とソアラは言われるがままに、目の前にあった高そうなソファに腰を落とす。
しかし、ブルックはといえば変わらず書類と格闘中。
そのあまりに真剣な表情が、何だかこちらから声を掛けるのは憚られる雰囲気だったので、ブルックがひと段落するのを待つことにした。
で、待つこと暫し。
「で、昨日の今日で何の用なんだ?」
ブルックが「ふぅ~」とため息一つ、ペンを置いたタイミングを見計らって俺がそう声を掛けた。
「待たせたな。何、お前が今朝持ち込んだ商品に関して、少し聞きたいことがあってな……」
ブルックはそう答えると、座っていた椅子をギシリと軋らせ立ち上がり、俺達の方へと近づいて来た。
そして、俺とソアラが座っている正面、背の低いテーブルを挟んだ反対側にドカンとその硬く重たそうな尻を落とす。
座った瞬間、ソファーからギシギシっと、今にも壊れそうな音がしていたが、大丈夫か?
それにしても、今朝持ち込んだ商品というと、あのロックリザードとかいう蜥蜴のことだろうか?
そういえばナリアちゃんが珍しい獲物だとか言っていたので、今後の参考に捕まえた場所が知りたいとか、そういうことなのかもしれない。
「ああ~、悪いな。土地勘がないんで、何処で捕まえたなんて聞かれても答えれんぞ? ただ、まぁ、場所は覚えていたから、地図があれば教えられないこともないが……」
「……そいつは確かに気にはなるが、今回は蜥蜴の話しじゃねぇ。こっちの方だ」
ブルックはそう言って渋い表情を浮かべると、懐から何かを取り出しテーブルの上に並べて行った。
「こいつは……」
それは俺がロックリザードの買取の時に、ついでに査定をお願いしていたコインだった。
正確には、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、それぞれ一枚ずつの四種四枚。それらが俺の前に並べられる。
「なんですか、これ? ディルグ硬貨とは違う物みたいですけど……」
それを見て、ソアラが不思議そうに声を上げる。
「俺の私物だよ。手っ取り早くこっちのカネに換金出来るかもと思って、査定をお願いしていたんだ」
「へぇ~」
これらの硬貨の正体は、『アンリミ』で使われていた通貨である。こいつが売買出来れば、今後のカネの工面が多少でも楽になるかも、と思って査定をお願いしていたのだが……何か問題でもあったのだろうか?
ちなみにだが、本来、『アンリミ』にこうした硬貨アイテムは存在しない……はずだった。
存在しないとはいっても、通貨という概念がないわけではなく、ゲーム上、硬貨アイテムという形としては存在していなかった、という話しだ。
一応、設定資料集などでは、デザインだけは公式に発表されていたしな。
普通は、支払いなどの金銭の授受はデータによって行われるため、『アンリミ』における通貨とは数字のみの存在であり、硬貨という形あるものを必要としなかった。
まぁ、所謂、電子マネーみたいな感じだったわけだ。
それがどういうわけか、昨日の夜インベントリを整理している時に、偶然、『アンリミ』で使っていた通貨がアイテム化していることに気が付いた。
勿論、デザインは資料にあったものとまったく同じ。
当たり前、というのも可笑しな話しだが、なんでこんなことになっているのかは皆目見当も付かない。
ただ、分かっていることはといえば、これらの『アンリミ』産硬貨……そうだな、アンリミ硬貨とでも呼ぶか……は、アイテムではあるが他のアイテムの様にインベントリには収納されずに、亜空間財布……とでもいうのか、他のアイテムとは別枠に収納されるらしい、ということくらいなものだ。
まぁ、インベントリを圧迫しないのは良いことだがな。
インベントリは、一スロットにつき、スタックが可能なアイテムであれば同一アイテムを一〇個までスタックすることが出来る。
スロットは初期で二〇枠存在し、俺は拡張して四〇枠になっているので、MAX一〇掛け四〇の四〇〇点のアイテムを所持することが可能だ。
しかし、当然ながらすべてのアイテムがスタック出来るわけでもない。裏を返せば、最大四〇点しか所持できないともいえるのだ。
『アンリミ』では別に金持ちではなかったが、それでも全額アイテム化されて他のアイテム同様インベントリ収納になっていたら、間違いなく相当数が溢れかえっていたことだろう。
余談だが、『アンリミ』で使われている硬貨は先の銅、銀、金、白金の四種。換金レートは下位と上位で一〇〇対一の固定レートだ。
銅貨、銀貨、金貨はそれぞれ九九枚まで所持でき、一〇〇枚に達した瞬間、上位硬貨に自動で換金される。
ただし、最上位硬貨である白金貨だけは上限がなく、無尽蔵に増え続けることになる。
ちなみに俺は、白金貨を1.5M枚ほど所持している。
1.5Mと聞くと多いように思われるが、インフレ激しい『アンリミ』では最上位アイテム、もしくは素材を一つ買ったら簡単に吹っ飛ぶ額でしかない。
まぁ、スーパーインフレなんて、長く続くゲームの宿命というやつだな。どのゲームも長く続くと、大体このスーパーインフレ状態に行き着くものだ。
「で? 硬貨がどうかしたのか? まさか、買取拒否とか?」
「いや、そういう話しじゃねぇ。俺は迂遠な話し方は好かん。だから、単刀直入に聞く。
……スグミ、貴様一体何者だ?」




