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四三話


「おはようございますぅ~」


 俺が一階のカウンター席で朝食後のコーヒーを飲んでいると、二階からまだ眠たそうなソアラがのっそりのっそり降りて来た。


「ああ、おはようさん」


 俺が女将さんにソアラの分の朝食セットをオーダーすると、タイミング良くソアラが俺の隣に腰を下ろす。


「あっ、ありがとうございます」

「もう少し遅かったら、お母さん(・・・・)が起こしに行くところだったよ」

「それはもういいですから……」


 昨日の朝のことを思い出したのか、じとっとした目でソアラが睨んで来たのだが、俺はそれを笑って流した。

 ほどなくして、ソアラの前に焼かれた薄切り肉と目玉焼き、それと少量のサラダ……今回は生野菜だった……がワンプレートになった料理と小型のパン二つ、それに水が並べられた。

 これがこの宿屋の朝食メニューだ。

 味の方は可もなく不可もなく、といった感じだった。まぁ、あくまで日本基準なので、ここの文化水準から考えたら結構な上物かもしれない。


「それで、今日はお買い物に行くんですよね?」

「おう。デートな、デート」

「どうしてもデートにしたいんですか……」

「当たり前田のクラッカー」

「あたり、マエダ? クラ……それって何ですか?」


 俺の渾身のギャクに、ソアラは笑うどころか不審感丸出しの顔で、俺を覗き込んで来た。

 止めてくれっ! そんな目で俺を見ないでくれっ! 悲しくなるから……

 あかん……ジェネレーションどころか、世界がまったく違うから全然伝わってねぇや……

 何回同じことを繰り返すやら。別に、俺だって学習してないわけではない。

 ついつい、流れで口を衝いて出てしまうのだ。習慣っていうのは怖いもんだな。

 

「……なんでもないです、はい」

「……はぁ?」


 こういう時は、無かったことにするのが一番だ。うん。


「なんでもいいですけど……で、行く所は決まているんですか?」


 ソアラは、運ばれて来た朝食をパクパクしながら、そう聞いて来た。


「まぁ、一応は、な。ただ、ソアラも気になる所があったなら言ってくれればいいから。

 あっ、ただそれより先に寄りたい所が一つ」

「何処ですか?」

「自由騎士組合だよ。買取出来るか見てもらいたいものがあってさ」


 俺がそう言うと、ソアラはあまり興味が無かったのか「そうなんですか」と、軽く流しただけで、朝食を食べることを優先し始めた。

 この食いしん坊め。

 で、ソアラが朝食を食べ終え一息吐いたところで、俺達は宿屋を後にした。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


「すいません。自由騎士ではないんだけど、買取ってしてもらえのかな?」


 と、いうわけで自由騎士組合買取カウンター前。

 俺は、受付に座っているお姉さん(今度は本物。おそらく二十代)にそう声を掛けた。


「はい。受け付けていますよ。査定を致しますので、買取希望の商品をこちらに提出お願いします」

「ああ……物が少し大きいんで、亜空間倉庫(・・・・・)からの取り出しになるんだけど、ここで出して大丈夫かな?」


 俺は周囲を軽く確認すると、受付嬢に顔を寄せ小声でそう問いかける。

 ソアラやセリカの話を聞くに、亜空間倉庫は随分珍しいスキルのようで、セリカからもあまり人前で使わない方がいいと言われていた。

 なので、一応の確認だ。


「わかりました。それでは工房に直接お持ちください。そうすれば、人の目に付く心配はありませんから。

 勿論、組合職員はお客様の秘密を守る義務がありますので、組合からお客様の情報が洩れることはありません。そこは安心して下さい」


 相談しておいてよかった。もし、この場でドンっと出していたら、騒ぎになっていたかもしれないな。

 俺達は受付嬢の案内で、彼女が工房と呼んでいた場所へと連れて行かれた。


「それで、買取希望の商品は、どういった物なのでしょうか?」

「ああ、えっとデッカい蜥蜴って言えばいいのかな? 悪い、名前は知らないんだ」

「大丈夫ですよ。そういう方は多いので、分かりました。大きな蜥蜴ですね」


 道すがら、商品について質問を受けたので簡単に答えておく。

 なんでも、物によって案内する先が変わるらしい。

 で、受付嬢に着いて行くこと暫し。

 職員用裏口から外へ出て、別の建物へと通されたそこは、まさにザ・工房と言った感じの場所だった。

 至る所に見慣れない道具が所狭しと転がっている。

 中には実際に使用中のものもあり、象くらいの大きさはありそうな何らかの生物を、数人掛かりで解体している最中だった。

 おおっ! こういうの、モンスターをハントするゲームで見た覚えがあるわ。

 ある意味、感動ものの光景である。


「ガンツさんっ! 査定お願いしま~すっ!」


 入り口で職員のお姉さんが大声で誰かを呼ぶ。と、


「おうっ! ナリアちゃんかいっ! ちっと待ってなっ!」


 で、今、正に目の前でその動物らしき何かを解体していた人だかりの中から、一人の声が返って来た。

 しかし、誰が返事をしたのかは、ここからでは分からないな。ってか、このお姉ちゃんはナリアちゃんというのか、覚えておこう。

 で、少ししてひと段落ついたのか、集団の中から一人の男がこちらに近づいて来た。


 ブルックほど体が大きいわけではないが、それでも背が高く、絞まった体の持ち主だ。

 ブルックがゴリマッチョから、こっちはただのマッチョという感じだな。

 頭には厚手の手ぬぐいの様な物を巻いており、上は薄手の赤茶けたシャツ一枚、下は丈夫そうな厚手の同色のズボンを穿いていた。

 シャツは色むらがあることから、初めからこの色だったわけではないのだろう。

 おそらく、生物の解体作業を続ける中で、返り血で染まっていったものだと思われる。

 手にはごつい革製のグローブを嵌め、右手に血みどろになった鉈らしき刃物が一本。


 夜道で突然出会ったら悲鳴ものだが、見る場所が変わればそれは立派な職人の出立だ。

 歳は三十代前後、俺と近いんじゃなかろうか?


「待たせたな。で、ブツはどれだ……って、ああ、なるほど。“倉庫持ち”か」


 男、ガンツはナリアちゃんの隣にいる俺たちを見て、ひとり何かに納得したように頷いていた。

 おそらく、“倉庫持ち”というのが魔空間術士に対する別名みたいなものなのだろう。

 アンリミでも、運送屋って呼ばれていたしな。


「で、ブツはなんだ兄ちゃん?」


 歳が近そうな相手に兄ちゃんと呼ばれるのもどうかとは思ったが、まぁ、そこには触れずに、俺はインベントリから昨日捕まえた蜥蜴を取り出し、ガンツの正面に置いた。


「昨日捕まえたんだが、買取してもらえるヤツか見てもらいたくてね」


 ガンツは慣れているのか、特に驚く様子もなく、早速目の前の蜥蜴の査定を始めた。


「ほぉ……こいつは驚いた。岩蜥蜴(ロックリザード)じゃないか。それにサイズも良いだ。兄ちゃん、よくこいつを狩れたな」

「ロックリザード? 珍しいのか?」

「ああ、滅多にお目に掛かれない上物さ。年に一度、出るか出ないかってくらいの一品なんだが……

 ここまでデカくて、損傷も少ないヤツとなると更に珍しいな」


 ちょっと詳しく聞くと、ロックリザードはその名が示す通り皮が石の様に非常に硬く、その皮を用いた革鎧は丈夫かつ軽いと、害獣の討伐などを専門に行う自由騎士たちの間では垂涎の品なのだそうだ。

 しかも、肉や内臓、骨は最高級の食材であり、人によっては同じ重さの金と交換しいもいいという奴さえいるという。

 部位によっては、更に二倍や三倍にもなるとかなんとか。

 こと骨に至っては、食材としてだけでなく、弓や鎧の素材としても重宝されているため、引く手数多であるらしい。

 また、その鉄をも容易に切り裂く鋭い爪や牙は最高級の(やじり)として人気があり、弓を扱う者達の間では、ロックリザードの爪牙(そうが)を使った鏃を手に入れることは、一種のステータスになっているのだと、ガンツは教えてくれた。


 だが、その絶大な人気とは裏腹に、普段は岩場に擬態してじっとしているらしく、熟練の狩人でも見つけるのは困難なんだとか。

 大体、入手出来た時の多くは、運良く死体を見つけた時であり、その死体もロックリザード同士の縄張り争いで負けて、ボロボロになったヤツが殆どだという。


 偶然発見出来たとしても、動きが素早く追うだけで一苦労。更に、その堅い皮の所為で中途半端な攻撃では傷すら付かない。

 罠で生け捕りにしようにも、力が強い上に賢いため、簡素な罠では簡単に破壊されるか餌だけ取られるのがおち。

 かといって、大きく頑丈な、それこそ「罠ですよ」というものにはまず入らない。

 そんな厄介ことこの上ないロックリザードだが、たまにドンくさい若い個体が罠に掛かることがあり、これがガンツが言っていた“年に一度、出るか出ないかの一品”というやつなんだとか。


 なるほど。本来は見つけ難い獲物なのだろうが、熱源を感知出来るエテナイトの前では、ただの擬態など無意味だったがな。


「にしてもこの切り口……一体、何をしたらこいつの皮をここまで綺麗にバッサリ両断出来るんだ? 兄ちゃん、あんた一体何をした?」

「まぁ、そこはあれこれとちょっと……ね」


 ガンツが興味深げに聞いて来るが、刃物で斬った、と素直に答えると“並みの刃物では切れないヤツを、どうやって斬ったんだ?”という話しになってしまうので、そこは有耶無耶に誤魔化した。

 追及されても、別に困りはしないが説明すのが面倒だ。


「……まっ、そりゃそうか。んな秘密、簡単に他人に教えてやる義理はねぇわな」


 俺はただ説明が面倒だから誤魔化しただけだったのだが、それをガンツが企業秘密……まぁ、企業ではないんだが……と勝手に勘違いしてくれたので、それ以上の追及がなかったのは有難い。


「で、全部買取でいいのかい?」

「あ~、そうだなぁ……さっきの話しだと、肉が随分と美味しいらしから、一番良い所を二人分、残しておいてくれないか?

 昼になったら自由騎士組合(ここ)の食堂で食べようと思うんだけど……そういうことって出来る?」

「おう、出来るぜ。

 んじゃ、ロックリザードの最上級部位二人前残しで、後は全部買取ってことで。

 カネは解体後ってことになるんだが、このサイズだと大体一刻半くらい掛かるが、どうする?」


 一刻半か……

 昨日、セリカに時間の概念について少し尋ねたら、一刻が大体二時間くらいに該当するようだ。と、なると概算三時間ってところか……

 

「じゃ、昼食いに戻って来た時にまとめてってことで」


 ここでじっと待っているのもバカらしいので、一旦ソアラとデートに出て、昼に戻って来た時に受け取ることにした。


「了解した。話は厨房に通しておくからよ。さて……

 野郎共っ! 上物が入ったっ! 他のは後回しでいいから、こいつから手早く片付けるぞっ!」


 そう言うと、ガンツは先ほど大きな何かを解体していた男達を呼びつけ、ロックリザードを抱えて奥の作業場へと向かって行った。


「気を付けろよっ! 下手に爪触ったら、指が簡単にポロっと取れるからなっ!」


 コワっ! 解体作業も案外大変なようだ。


「スグミさん。あの蜥蜴、昨日捕まえたって言ってましたけど、一体何時捕まえたんですか?」


 ガンツが離れたタイミングを見計らって、ソアラがそんなことを聞いて来た。


「ああ、ほらっ、俺が洞窟の奥を確認に行くって言った時があっただろ? あの時、奥にあいつがいたんだよ」

「ああ、あの時ですか……」


 ちょうどあの時はソアラが寝入っていたから、知らないのも無理はない。


「それでは、買取書類の制作を行いますので、先ほどの買取カウンターまでお戻り願います」


 と、再度ナリアちゃんの案内の下、先ほどの場所まで戻ることになった。

 で、渡された用紙……厚手の画用紙の様な紙……に、各種記入事項を埋めていく。最後に査定申請中を示す割符を貰って完了となった。

 査定後、この割符を渡せば代金が受け取れるらしい。


「あっ、そうだ。他にも査定して欲しい物があったんだけど、今から追加って出来るかな?」

「はいぃ? それは、出来ますけど……でしたら、もう一度工房まで……」


 なら最初から全部出せよっ! 二度手間だろぉろぅ!


 という、ナリアちゃんの心の声が表情から聞こえて来たが、こっちも初めてのことなのだから多めに見て下さいな。

 そんな眉間に皺を寄せては、折角の可愛い顔が台無しですぞ?


「ああ、こっちはそんな大きな物じゃないから大丈夫」


 俺はそう言うと、インベントリからこっそり数枚のコイン(・・・)を取り出すと、それをナリアちゃんへと手渡した。


「これでしたら、買取品目に追加するだけで済みますが……これは一体?」

「まぁ、取り敢えず買取出来るかどうかだけ確認を頼むよ」

「は、はぁ……」


 こうして、預ける物を預けて、俺達は一度自由騎士組合を後にした。

 


 

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