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二四話



「うわぁ! 賑わってますねっ! 私の居た村とは大違いですよっ!」


 門を抜けると、そこには多くの人々が右へ左へと活気のある賑わいを見せていた。その人込みに興奮したのか、ソアラが目を輝かせて道行く人たちを目で追っていた。

 その姿たるや、まるで田舎から上京したばかりのお上りさんのそれだ。


 しかし、ソアラにとっては驚くべき人数なのかもしれないが、俺にとってはそうでもない。

 多いといっても、それは渋谷のスクランブル交差点とは比べるべくもなく、よくて、有名な観光名所くらいのものだ。

 もし、ソアラに朝の通勤ラッシュの光景を見せたのなら、一体どんな反応をするのだろうか? と、そんなことを思ってしまう。


「さて、物見遊山も悪くはないが、まずはやるべきことをやろうか」

「そう……ですね」


 自分が追われている身だということを思い出したのか、ソアラは表情をキリリと引き締めて頷いた。

 とはいえ、この街については何処に何があるかなんてことすら分からない状態だ。

 まずは、適当に辺りを散策して、地理の確認。それで、運よく出歩いているエルフを見つけられれば御の字。見つからなければ、改めて人が多く集まる場所などの情報収集をする、ということで一応の方針を決めた。


「んじゃ、ちょいと辺りをうろうろしてみようか」

「ですねっ!」


 そうして、俺たちは特に目的地を定めこともなく、二人して街中を散策することにした。


「ところで……なるべく目立たない様にって言っていたのに、随分と目立つことをしたと思うのですけど、あれでよかったんですか?」


 二人して、しばらく無言のまま歩いていると、ふいにソアラがそんなことを聞いて来た。

 ソアラが言っているのは、門を通った時のことだな。


「ん? ああ、まぁ、一言に“目立つ”といっても種類みたいなものがあるって話しでな……

 要は、悪い目立ち方はしないようにしようってことだよ」


 例えば、人目を忍んでコソコソしているような奴。これは良くない。

 目立たない、という意味では正解かもしれないが、一度誰かの目に留まれば、なにやってんだあいつ? と、不信感を抱かれやすなってしまうのだ。


 誰が敵で、誰が味方なのか分からない以上、下手な不信感は買わないでおくにこしたことはない。

 民衆の中に、されげなく溶け込む。これが潜伏の理想だ。


 と、いう様な事を、ソアラに掻い摘んで説明した。


「なるほど……そうなんですね。

 にしても、やたら詳しいですねスグミさん」

「まぁ、な」


 と、偉そうに語りはしたが、そのソースはゲームで得た知識と経験からのものだ。

 犯人当てゲーム、所謂、人狼ゲームの狼役なんてやっていると、軽率な一言で身バレすることも少なくないからな。

 人の言動一つにも、敏感になるというものだ。


 そんなことを話しながら、二人でエルフはいねぇが~、エルフはいねぇが~と探し回っては見たが、結局、それらしき人物とは出会えないまま、時間だけが過ぎて行った。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


 歩き回って分かったことだが、この街はそれぞれの機能に分かれて区画整備されている様だった。

 住宅が集まった居住区。刃物や皿、金属加工品などを扱う工業区。肉や野菜、それらを加工した品を扱う商業区。と、そんな感じにだ。

 中には、一般人は立ち入りが出来ない、貴族区というものがあった。

 門番の人に話を聞いたら、なんでも特別な許可が必要なんだそうだ。


 で、一通り歩いて商業区へと戻てくると、何処から何かを焼くような香ばしい匂いが漂って来た。


 ぐぅ~~~~~~ぎゅるるるるぅぅぅぅ~~~~~


 タイミングよく、豪快な腹の虫の声が隣から聞こえて来たので振り向くと、


「お腹空きましたねぇ~」


 と、ソアラが動じることもなくケロリと言った。


「いつもみたいに慌てないんだな」

「なんだか、もういろいろとどうでもよくなって来ましたから……」


 と、顔色すら変えない。うむ。いい開き直りだ。

 しかし、なんだか物足りない感もあるといえばある。


 俺の中でソアラとは、はわわわわっ! と慌てている様子がデフォになっているところがあるからな。


 まぁ、そんなことはさておき、ソアラに言われて俺も若干の空腹を感じる。

 確かに、空を見上げればお天道様が頭の上まで来ていた。朝、食べた切りそれから何も食べていなかったから、頃合いといえば頃合いか。


「どこか寄って、お昼にでもしようか」

「そうですね」


 そんな感じで、俺たちは適当にブラブラして手頃な大衆食堂を見つけたのでその中へと入って行った。


「うおっ……思ったより多いな……」

「お昼時ですから」


 大衆食堂は、かなりの賑わいを見せていた。

 客席から無秩序に上がるオーダーに、店員がうるせぇ! と怒号を返す。そんな光景が至る所で繰り広げられていた。

 どっちにしても、日本ではあり得ない光景だな。

 

 入り口に突っ立っていても、客席に案内されるような雰囲気はミジンコもないので、店内を見渡し適当に座れる場所はないかと探す。

 

「あっ、あそこ空いてますよ」


 と、ソアラが指さしたのは壁隅のカウンター席だった。

 テーブル席に空はないようなので、俺達は空いているカウンターを目指した。


 席に座るが、周囲にメニュー表らしきものは見当たらない。

 一応、壁などに掛かっていないかも確認するが、こちらもなし。

 もしかしたら、メニュー表を持って店員が来るかも、と思って少し……いや、しばらく待ってみたが結局誰も来なかった。


 これでは一体何を注文したらいいのか分からんな……


 仕方ないので、手を上げて店員を呼ぶ。と、カウンターで作業をしていた恰幅の良い女性がのしのしと俺たちに近づいて来た。


「注文は何だい? ん? あんたらここらじゃ見慣れない顔をしてるね」


と、開口一番。女性店員は俺たち見てそんなことを言った。

 門番といい、この女性といい、黒髪黒目というのはそれだけ珍しいのものなのだろうか?

 そういえば、街中でも殆ど見なかったな。


「ああ、今朝この街に来たばりでね。で、すまないんだが、この店も初めてで、そもそも何があるのかも分からないんだが……」

「ふん。なんだ、よそ者かい……」

 

 と言うと、唐突に俺たちに背を向ける。と、後ろでなやらゴソゴソとして大きな紙を一枚取り出し、俺たちへと突き付けた。


「ほら、これがメニュー表だよ。紙は高いんだから汚さないでおくれよ」


 そして、「んじゃ、メニューが決まったらまた呼びな」と俺たちの場所からまたのしのしと離れて行った。


「私、一瞬、よそ者に食わすメシはないよっ! とか言われるかと思いました……」

「俺も同じこと思ったよ」


 見た目はオークみたいな人だったが、見かけによらず良い人だったのかもしれない、と頗る失礼なことを考えてしまった。

 で、手渡されたメニュー表を見てみると……


 なんぞこれ?


 そこには、『イパッティの塩焼き』とか『ニムルレケルのバター焼き』とか『モムルノムルの香草焼き』などなど、なんのこっちゃ分からんメニューがびっしりと書き込まれていた。

 当然、写真どころか絵も添えられいないので、それがどんな料理なのかを想像することすら出来ない。


「えっと、どれにしよっかなぁ~♪」


 そんな中、ソアラは実に楽しそうにメニューを見てはあーでもないこーでもないと言っていた。

 彼女は、この得体の知れない料理の数々が、どんなものであるか知っているらしい。

 勘で選ぶのも怖いので、俺はソアラが選んだものと同じものをオーダーすることにした。

 ソアラのオーダーは、『セッペクッチョとマニマニのホルンソン炒め定食』だった。

 だから、セッペクッチョとかマニマニとかなんなんだよそれっ!

 怖いわっ!


 そんな感じで、一体何が出されるのか、若干の恐怖心と共に、俺は料理が出て来るのを待つことになったのだった。


 ちなみに、文字はまったく見覚えのないものであったが、読もうと意識するとウインドウが重なる様に表示して自動翻訳してくれていた。

 今更、驚くようなことはないが、これホントなんなんだろうね。不思議だわぁ~。



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