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一七話


「あの……着替え終わりました……」


 洞窟の外で待っていたら、岩の向こう側からソアラの声が小さく届いた。

 俺は【形状変化(シャープ・チェンジ)】を使い、閉じていた入り口を開く。


「おおっ! よく似合ってるじゃないか。うん、かわええ、かわええ」


 そこには、まるでどこぞの呪われた島のエルフを彷彿とさせるような、見目麗しい少女が一人立っていた。

 元々見た目は良かったのに、着ている物がボロだった所為で、可愛いとか美人という以前に、痛々しいというか、悲壮というか、そんな印象が強かったからな。

 しかし外見を整えた今、その破壊力たるやモデルとしてスカウトから声を掛けられてもおかしくないレベルだ。


 街中ですれ違おうものなら、十人中十人の男が間違いなく振り返えることだろう。


「その……ありがとう……ござい、ます……」


 面と向かって褒められたのが気恥ずかしかったのか、ソアラはマントの襟元をモジモジしながら、若干俯き気味にそう言った。

 おお、照れとる、照れとる。なんだか反応が初々しいのうぉ~。


 そんなソアラをニヨニヨしながら眺めていたら、仏頂面で睨まれてしまった。


「スグミさん、もしかしてまた私で(・・・・)遊んでませんか?」

「んなこたないない。まぁ、ちょっとした目の保養だとは思っているけどね。

これだけの美人さんには、そうそうお目に掛かれるもんでもないだろうからな」

「っ!! ~~~~~~っ!」


 褒められたのは嬉しいが、何か釈然としないものがある。

 声にこそ出さないが、なにかそうした複雑な感情がソアラの中に渦巻いているらしい。

 怒ったり照れたり困ったり……で、また怒ったり。

 さっきから目まぐるしく変わるその表情は、見ているだけで実に楽しい。


 出会った時は、その顔には恐怖と不安しかなかったが、随分と肩の力も抜けたようでなによりだ。

 きっと、これがソアラという少女の素顔なのだろう。


 俺は、“何か言い返してやりたいが、何を言ったらいいのか分からない”そんな顔でもんもんとしているソアラを他所に、出していた荷物をチェストボックスにしまって回った。

 最後に、チェストボックスも亜空間倉庫にしまって、はい完了。

 立つ鳥跡を濁さず。これで元の何もなかった洞窟の完成だ。


「はぁ~、なんというか、スグミさんの手口が分かって来たような気がします……」

「手口とか……人を犯罪者みたく言うのは止めてくれんかな?」


 で、考え着いて出た言葉がこれだった。


 今日の予定に関しては、昨日の段階で十分な打ち合わせを行っていた。

 一つ、街道を目指す。

 二つ、街道から街を目指す。

 以上。


 ただし、昨日の賊がまだ周囲にいる可能性は十分にあるので、行動は慎重に。

 極力、派手な戦闘は避け、もし遭遇した場合は速やかに無力化。可能ならば、先に発見して先制攻撃で無力化するのが理想的だ。

 だからといって、無駄に戦闘することはない。

 あくまで俺たちの目的は、安全な場所への退避であり、賊の殲滅ではないのだから。


 ソアラの話しでは、エルフの村を出て、人の街で暮らすエルフも少なくないというので、街に着いたらエルフを探し事情を説明して協力をお願いしようと思っている。

 誰が敵で、誰が味方か分からない以上、同族を頼るのが一番確実だろう。

 これが現状の俺のプランである。


 ちなみに、人間の街で暮らすエルフは、基本は男性のみらしい。

 絶対に、エルフ薬の材料としては狙われることがないので、そこまで警戒することなく暮らせるそうだ。

 逆に、エルフの女性はその生涯の殆どを生まれた村で過ごすか、出て行くにしても余所の村に嫁いで行くとか、その程度らしい。まぁ、命を狙われることを考えたら妥当だろうな。

 ただ、たまに、結婚し子どもも産んでとうが立った女性が、物見遊山で人間の街で生活する、とそんな剛の者もいるのだとか。

 こっちもエルフ薬にされないのが分かっているから出来る芸当だろうな。

 ソアラの様な年頃の娘では、そうはいくまい。


 一応、このまま直接ソアラの村を目指す、という手も無くは無いことをソアラに伝えたのだか、土地勘も無いのに無理に村を目指すのは危険ではないかと、俺と同じ結論に達し、この案は正式に却下されることになった。

 まずは、土地勘のある協力者との接触が第一だ。


 出発前に、ソアラがエナジーボウの試射がしたいというので、数度試し撃ちすることにした。

 確かに、使い慣れない武器をぶっつけ本番で使うのは難しいよな。


 最初こそ少し戸惑っていたが、すぐに慣れたようで十射を超える頃には使いこなしていた。

 流石はエルフ(さすエル)。弓の扱いはお手の物である。


「この弓凄いです……こんな思い通りに飛ぶなんて……それに、軽く引けるのに威力がとても高いです。

 でもコレ、そもそも弓の形をしている意味ってあるんでしょうか?

 多分、魔力をある種の衝撃波に転換して射出していると思うんですけど、わざわざ弓の形状を取らずにそのまま射出すればいいのではないかと……」


 そんな、ビームアローの存在意義そのものを否定するような事を言ってはいけない。聡い子はキライだよ。

 ぶっちゃけ、そんなんただの浪漫だしなぁ……

 実際、どんな真意があってコレを作ったのか、それはデザインした人のみぞ知る、だ。


 ついでに、他の装備の能力も少しだけ練習した。

 シールドリングから防壁を展開したり、ソニックーダガーを振ってみたり、天馬のブーツで空を駆けたりした。


 天馬のブーツで空中ダッシュをしている際、ソアラのスカートの中がモロ見えになっていたのだが……見えたのはスパッツなんだよなぁ。チクショウメ……


「私、こういうの詳しくないんですが……これ、たぶん凄い物、なんですよね?」


 一通りチェックが済んだところで、ソアラが自分が身に着けている装備を差してそう尋ねて来た。

 ソアラは、村ではどこにでもいる普通の村娘で、戦いとか冒険とは無縁だったらしい。だから、武具の良し悪しなど分かるはずもない。

 ただ、日常的に弓は使っていたので、弓の良し悪しだけは分かるのだという。


「ん? 別にそこまで凄い物ってこともないな。俺にとってはゴミもいいところだし」

「これでも、スグミさんにはゴミなんですか……」


 これは嘘でも誇張でもなんでもない。

 これらの装備はガチャのハズレだったり、ボスドロップのハズレといった物ばかりだった。


 『アンリミ』の等級でいうなら秘宝級(アーティーファクト)

 これは上から三番目の等級で、この上に伝説級(レジェンダリー)神話級(ミソロジー)と続く。


 秘宝級(アーティーファクト)程度では売ってもカネにならず、分解して素材にしても微妙、まさにガラクタだ。


 駆け出しのプレイヤーが手に入れられれば役には立つが、ある程度上へ行くともう見向きもされなくなる。それが秘宝級(アーティーファクト)の一般的な認識だ。

 中堅プレイヤー以降は、秘宝級(アーティーファクト)が手に入ってもその場に捨てていくのが普通だからな。

 俺の場合、使えないのは分かっていても捨てられずにチェストボックスにしまっていたけど。

 勿体ないオバケが怖いからね。


 まぁ、そんなものでも、取っておけばこうして役に立つ時もある、とうことだな。


 ちなみに、良い物はもっとトンデモな性能をしているし、価格も(すこぶ)るヤバい。

 まぁ、そういったアイテムは、大体分解して黒騎士なんかを造る際の素材になっちまったけどな。


 そんなこんなで、出発前に多少時間を食ってしまったが、これでようやくこの洞窟ともさよならだ。

 と、その前に……


「出発前に、こいつを出しておかないとな」


 俺は亜空間倉庫から、エテナイトを取り出した。


「あの、この子は?」

「ああ、そういえばソアラは寝てたから見てないか。こいつはエテナイト。

 黒騎士と同じで、俺が作った戦闘傀儡人形(バトル・マリオネット)シリーズの一体だよ」


 挨拶代わりに、エテナイトをその場で宙返りさせる。

 発声器官でも付いていれば、ウキキッと愛嬌でも振り撒くのだが、生憎とそこまでのギミックは搭載されていない。


「今回は隠密行動が基本だからな。デカくて五月蠅くて目立つ黒騎士は使えない。代わりに、こいつを使う」


 黒騎士は戦闘メインで作っているため、消音性などいっさい考慮しない作りになっていた。

 だから、歩く度にガチャコンガシャコンと金属がぶつかる音がハンパない。

 だが、エテナイトは金属素材をふんだんに使いながらも、関節部など各所に革製品などを用いて、あまり音を立てない静音仕様にしていた。


「へぇ~、こんな子もいるんですね。かわいいっ♪」


 ソアラはそう言うと、エテナイトの前に屈み込み、良い子良い子と、頭を撫でた。

 ちょっとサービスして、エテナイトに照れたような仕草を取らせる。

 それが面白かったのか、ソアラはひとしきりエテナイトを撫でまわし、抱き上げようとしたら思った以上に重くて断念していた。

 そりゃ、いくら小型とはいえ金属の塊だからな……線の細い女の子では、そう簡単に持ち上げられんだろうよ。

 

「スグミさんの言い方からすると、黒騎士さんやこの子以外にも、まだ他にもいるんですか?」


 抱き上げられなかったのが悔しかったのか、ソアラは少し不満げな顔でそう尋ねてきた。


「ああ、結構あるよ。まぁ、機会があれば見せてあげよう。

 とはいえ、その中の一体はもう既に使う予定があるんだけどな」 

「そうなんですか? それじゃあ、楽しみにしてますねっ♪」


 こうして、俺たちはエテナイトを先頭に、森の中へと入って行った。

 まずは街道を目指さなくてはな。


 

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