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一〇五話

「あの、すいません。スグミさんはこちらにお居ででしょうか?」


 馬車の外から聞こえた声は、カテラさんのものだった。

 俺はノマドさんに一言断ると、扉へと向かう。


「はいはい~、どうしました?」


 ガチャリと扉を開くと、少しばかり不安そうな表情をしたカテラさんがそこに居た。


「すいませんが、家の者が何処に行ったかご存知ないでしょうか?」


 話を聞くと、台所で片づけを終えて居間に戻って来たら誰も居らず、それで家の中を探し回っていたら、何時の間にか庭には見覚えのある馬車が一台。

 その馬車が俺の持ち物だとすぐに分かり、家族が何処に行ったか聞くために声を掛けた。との、ことだった。


「ああ、それならみんなここに居ますよ。カテラさんもどうぞ」


 というわけで、カテラさんもキャリッジホームへご案内する。


「えっ? なんで中がこんなに広い……って、あなたっ!」


 皆同様、まずは馬車の内部が思った以上に広いことに驚きつつも、リビングエリアで寛ぐノマドさんを見つけ、カテラさんが声を上げる。

 そんなカテラさんに、ノマドさんは手にしていたグラスを軽く掲げて応えてみせた。

 取り敢えず、カテラさんにもソファーに座ってもらって、こうなった経緯を一から説明すことにした。


「……ウチの娘達がとんだ我儘を、お手数をお掛けして申し訳ありません」


 話を聞いて、恥ずかしそうに謝罪するカテラさん。

 しかし、今回はアイラちゃんのお願い……正確にはソアラの入れ知恵なのだろうが……で、このキャリッジホームを出したが、頼まれなくても結局出していただろうことをカテラさん伝える。


「なので、そんなにお気になさらず。

 そんなことより、よろしければカテラさんもソアラ達の後にでもどうですか?」

「それでは……お言葉に甘えて」


 と、一先ずこれで話が落ち着いた。

 ああ、そういえばノマドさんに炭酸水の作り方を説明している途中だったな。

 というわけで、ノマドさんに説明を再開。


 重曹は、それ単体だけを水に溶かしても炭酸水にはならない。それで出来上がるのは重曹水だ。

 お掃除なんかで有名なアレだな。

 炭酸水を作るには、ここにもう一つ素材が必要になる。それがクエン酸だ。

 こちらも、掃除道具として有名な素材だ。

 重曹とクエン酸が化学反応することで、水と二酸化炭素、そしてクエン酸三ナトリウムが発生する。

 この時発生した二酸化炭素が水に溶けて、炭酸水になるというわけだ。

 ここで一つ手間を掛けるとするなら、水は極力冷えた物を用意することだ。

 一般的に、水溶性の固体は水温が高いほど溶け易く、気体は逆に水温が低いほど溶け易い。

 冷たい水なら、発生した二酸化炭素を多く吸収することが出来るようになり、逆に水温が高いと、折角発生した二酸化炭素が水に溶けずにそのまま抜けてしまうことになる、とうことだ。

 ちなみに、重曹はそもそも水に溶けにくい性質をしているので、水温で溶ける量が大きく変わることはない。塩なんかも同じだな。


 飽和量と温度の関係は小学校当たりの理科で、重曹と酸の化学反応は高校の化学でやる内容である。


 ただ、重曹から作った炭酸水には多分のナトリウムが含まれているため、どうしても味が若干塩っぽくなってしまうのは注意が必要だ。

 俺は塩味を消す為に、ここから更にひと手間加えて、錬金術でナトリウム成分を除去していた。

 ただし、これは俺だから……というか、ゲームだから出来る手法だ。

 重曹の一日辺りの接種目安は5グラム程度と言われているため、ナトリウムの摂取量を気にするなら、重曹から作る炭酸水は飲む量を控えめにしておいた方がいいだろう。


 ノマドさんに説明する時は、ナトリウムと言っても通じなかったので簡単に塩だと説明しておいた。

 ついでに、塩の過剰摂取は高血圧などの健康被害の原因になりやすいことも説明しておく。


 俺が合成する際には、重曹、水、そしてクエン酸を含む食材アイテム、リモモンというライムに酷似したアイテムを合成素材として利用していた。

 名前はレモンに近いのに、見た目はライム、味は甘酸っぱい梅干しという、なんとも紛らわしい果物だ。

 なので、俺が提供した炭酸水は、厳密にはリモモン風味の炭酸水、ということになる。

 別に反応させるだけなら、クエン酸に拘る必要はなく、酢など酸を含む物なら基本的には大丈夫である。

 ただし、口にするなら分量には注意が必要になるだろうがな。

 

 また、重曹は加熱することで水、二酸化炭素、炭酸ナトリウムに分解され、二酸化炭素のみを抽出することが出来ることも説明した。

 重曹はこの加熱時に、二酸化炭素を発生させ体積が膨張することから、ベーキングパウダー、所謂ふくらし粉の主原料にもなっている。


「ふむ……つまり、そのまま水に溶いて飲むには多少問題がある、と」

「俺は医者ではないので、そこはなんとも……

 ただ、密閉出来て高圧に耐え得る容器があれば、重曹を加熱して発生した二酸化炭素を水に溶かす、という方法で雷水、ですか? を作ることが出来ます。

 これならナトリウム……塩の問題は解決出来るかと」


 つまりは、従来の炭酸水の製造方法だな。


「なるほど。そこからは私の研究次第、ということですか」

「ご健闘を祈ります」

「あの、スグミさん。先ほど掃除の道具になったり、料理にも使えるという話しをしていたと思うのですが、もう少し詳しくお聞かせ出来ませんか?」


 俺とノマドさんの話しが一段落したところで、カテラさんがそんなことを聞いて来た。

 てか、何かちょっと圧が凄いんですが……

 顔は柔らかい笑顔なのだが、その背後にズゴゴゴゴっという効果音が見えそうなほどだ。


「えっ、あっ、はい。

 重曹は軽い油汚れを落とすのに有効で、使い方は……」


 と、重曹を使ったお掃除の方法を説明して行った。

 特に、コゲ着いた鍋に重曹と水を入れ加熱すればコゲ落としに大きな効果がある、と言ったら、目をランランに輝かせながら俺へと詰め寄って来た。

 何かデジャヴを感じると思ったら、炭酸水が作れる聞いた時のノマドさんの反応とそっくりだと思い出した。

 この似た者夫婦め……


「スグミさん、お風呂ありがとうございました……って、あれ? お母さん?」


 そんな話をしていたら、頭からホコホコと湯気を立てたソアラとアイラちゃんが連れ立って風呂から上がって来た。


「もう、急に居なくなるから驚いたじゃない」

「ああ、えっと……アイラがどうしてもお風呂に入ってみたいって言うから……」

「えーっ! お姉ちゃんが、最初に入りたいって言ったんじゃん!

 それで、私が頼めば絶対入れてくれるからって……」


 ほほぉ、どうやら思った通りソアラの入れ知恵だったらしい。まぁ、だからどうしたってこともないんだがな。


「ソアラ、出て来てすぐで悪いけど、カテラさんも風呂を使うから、使い方を教えてあげてくれ」

「あっ、はい、分かりました。お母さんこっちだよ」


 俺がソアラにそう頼むと、ソアラはカテラさんの手を取って、あっという間に浴室へと消えて行った。

 下手に追及される前に、共犯者を増やしてしまおうという腹積もりではなかろうか?

 最近分かって来たことだが、どうやらソアラは案外こずるい性格をしているみたいだな。


「ついでに、ノマドさんも見て来てはどうですか?」

「そうですか? では」


 後で俺が説明してもいいが、折角ソアラがカテラさんに説明しているなら一緒でもいいだろう。

 俺がそう勧めると、ノマドさんも席を立ち、ソアラ達の後を追って浴室へと入って行った。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


 ブオオォォォォ


「こら、ちょっとじっとしてなさい!」

「だって、なんだかくすぐったいんだもんっ!」

「あの……スグミ殿、あれは一体?」


 ソアラがカテラさんとノマドさんに風呂の使いたいを説明したあと。

 リビングエリアに戻って来たソアラが、アイラちゃんの髪をヘアードライヤーを使って乾かしていると、ノマドさんがそんなことを聞いて来た。

 ちなみに、今はカテラさんが入浴中で、ノマドさんは待ち状態だ。


「ヘアードライヤーですね。

 暖かい風が出る道具で、濡れた髪を早く乾かすことが出来るんですよ」


 それにしても、ソアラがこのキャリッジホームで宿泊したのはたったの一日なのだが、随分とドライヤーを使い熟しているよな……

 チェストボックスの時も感じたことだが、ソアラって異常に適応力が高いんだよ。

 原理云々を度返しして、本質を見抜いて即応用する、みたいな……

 そんなソアラを見て、もしかしてこの子は意外に賢いのでは? と、ちょっとばかり失礼なことを思う。


「魔道具……ですか?」


 この世界の魔道具がどういうものを指すのか、いまいち基準がよく分からないが、魔術的な機構を取り入れて作られた道具、ということなら、(あなが)ち間違いではない。

 当然、このヘアードライヤーも俺謹製の品である。

 『アンリミ』ではそもそも、濡れる、ということが無かったので、ゲーム中では実用性は皆無の完全な雰囲気アイテムであった。

 何せ、服を着たまま海に突っ込んでも、海から出たら元通りだったからな。


 しかし、そこは凝り性の拘りがあり、風呂があるならドライヤーくらいあるやろ?

 ということで、小物アイテムとして作って置いていただけの代物だったのだが、まさかこうして実用することになるとは……

 自慢ではないが、このヘアードライヤー、温風は弱と強、そして送風のみの合わせて三段設定である。

 無駄に細かく作り込まれております。


「まぁ、そんなところですかね」

「スグミ殿の居られた国では、ああいう物は広く普及していたのですか?」


 俺の居た国、というのが『アンリミ』の話しか、それとも日本の話しかで大きく変わってしまうのだが、ここはリアルの方をベースに話すことにした。

 『アンリミ』じゃ、ヘアードライヤーなんて使う意味も作る意味もないからな。


「そうですね……何処のご家庭でも、一台くらいはあると思いますよ」

「それだけ普及しているとうことは、そういう類の物が売られているということでしょうか?」

「ええ、色々な企業(メーカー)が様々な商品が発売されていますね。

 とはいっても、アレは俺が自分で作った物ですが」

「魔道具を自作された、と?」

「ええ。まぁ、物作りが趣味みたいなところがありますから。

 小さなものから大きなものまで、このキャリッジホーム……馬車なんかも俺の手作りですし」

「この馬車も……ですか」


 そう言って、ノマドさんが改めて車内をぐるりと見回した。

 そんな話をしているうちに、風呂からカテラさんが出て来て一言お礼を言われた。


「では、失礼して」


 で、今度は入れ替わる様にノマドさんが風呂へと向かって歩いて行ったのだった。

 

 

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