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一〇三話


「光の御柱(おんばしら)伝承……?」

「うむ。儂らエルフに伝わる古い古い昔話だよ」


 昔話……ね。でも、ソアラやイオスに同じ話をしたが、そんな話があるなど聞いてはいな。

 それとなく、イオスに視線を向けると、ゆっくりと首を左右に振って見せた。

 どうやら、イオスも知らない話のようだ。


「ほっほっほっ、何分、何の面白味もない話しだからねぇ。

 子ども受けも悪くて、今じゃ話して聞かせる親もとんとおらんくなっちまったんだよ」

「どういう話し何ですか?」


 面白くはない、とはいえ、俺の身に起きたことと似ている話しというのなら、興味はある。


「ふむ。んじゃ、久しぶりに一席ぶつとしますかね……コホン。昔々……」


 そうして語り出したオーラさんの昔話を要約すると、光の御柱(おんばしら)伝承とは所謂、エルフの起源についての話だった。

 曰く。 

 昔、エルフはこことは異なる地に住んでいた。

 しかし、そこは大地が荒廃し、碌に作物も育たないような死の土地で、人々は日々、飢えに苦しみながら暮らしていた。

 そんなある日。

 天から金色に輝く一筋の光明が、御柱となって死にかけた大地へと降り立った。

 何事かと怯える人々の中、勇気ある若者が光へと近づき、その光に触れた瞬間、若者は光に飲まれてその姿を消してしまった。

 突然の出来事に、恐れ(おのの)く人々。

 しかし、少しすると光の中に消えた若者が戻って来てこう言った。

 「この光の先には、緑豊かな森が広がっている」と。

 こうして、人々は死せる土地を捨て、新たに緑豊かな土地へと移り住むことにした。

 その森というのが、今、エルフ達が暮らしているこの森なのだという。


「……なんと言いますか」

「あまり面白い話しではなかっただろ?」


 面白いかはともかくとして、何の教訓もない話しだな、とは思った。

 昔話というものには、大体何かしらの教訓が秘められているものだ。

 桃太郎だって、鬼を倒して財宝を手に入れる勧善懲悪のサクセスストーリーが注目されがちだが、反面。ヒト、イヌ、サル、トリ、と単体では弱い生き物でも、協力すれば鬼のような大きな敵にも勝てるという、互いに協力することの重要性を説いている。

 一寸法師だってそうだ。

 体が小さくともそれを弱点とせず、むしろ長所に変えて、自分よりずっと大きな鬼を倒す、という機転の大切さが記され、浦島太郎は、どんなに良い行いをしていても、約束を破れば酷い目に遭うぞ、という戒めを説いている。

 ちなみに金太郎は、平安時代中期に実在した坂田金時という人物の幼少の頃の話しなので、他とはちょっと毛色が違うので除外する。


 しかし、だ。

 この話にはそういったものが、一切含まれていなかった。

 それに、“心清い者へ、神からの祝福が与えられたのだぁ!”とか、変に宗教的な意味合いがこじつけられているわけでもなければ、“選ばれし者のみが新天地へと移り住むことが許されたのだぁ!”とか、選民思想が着いて回っているわけでもない。


 どちらかというと、ただただ本当に起きた事だけを、シンプルにまとめただけのような話だった。

 昔話、それも御伽噺というよりは、故事に近い印象を感じた。


 まぁ、内容はどうであれ、過程と結果だけを見れば、確かに俺の身に起こったことと殆ど同じだといえだろう。

 特に、金色に輝く御柱なんて、見ようによってはポータルそのものだしな。

 あれは外見だけなら、確かに光り輝く柱に見える。

 

 違いがあるとすれば、光の御柱伝承の方は入り口と出口で、双方向移動が可能だったようだが、俺の方は入った切りだった点か。

 いや、待てよ?


「あの、その光の御柱って今でも残ってたりするんでしょうか?」

「はっはっはっ! んなもん、残っとるわきゃなろう。

 言い伝えでは、儂等の御先祖さん達がこの森に住み始めて少ししたら消えたと、そう伝えられとる」


 やっぱり残ってはいないか。だとすると、俺がこっちに飛ばされた直後にポータルが消えた、と仮定すれば、益々類似性が増すってことになる。

 まぁ、半ばこじつけ感は否めないが……

 この話と、俺に起きたことに関係があるかは分からないが、調べる取っ掛かりくらいにはなりそうだな。

 思わぬ所で、思わぬ情報を得たものだ。


「ちなみに、その光の柱が降りた場所とかって、分かったりしますか?」

「さぁのぉ……如何せん、古い話しじゃからな。儂等がこの森に住み始めて、もう数百年は経っとる。その間、部族が分裂したりくっついたりと、森の中を転々と移動しちょるから場所が何処だったかなど、知る者は誰一人としておらんだろろうよ」

「そうですか」


 で、いきなり潰える手掛かり。これでまた白紙状態だよ……


「何ぞ、あまり役にたてなんだようですまんの」


 別に、顏に出した覚えはないのだが、オーラさんが俺から何かを感じ取ったようでそんなことを言う。

 機微に敏いのは、年の功だろうか?


「いえいえ、大変面白い話を聞かせて頂いてありがとうございました」

「はっはっはっ! こんなババァの昔話しで礼を言うなんて、若いのに中々殊勝な心掛けじゃないかい。

 ウチの若い衆にも見習わせたいよ」

「あぁ~、若いと言っても、俺は二七になりますので、言う程若くはないんですけどね」


 そう言った途端、辺り一面が凍り付いた様に静寂が訪れた。

 またこれか……てか、イオスまで目をまん丸にして俺を見ていたが、あれ? イオスには俺の年齢の話しってしてなかったっけ? してなかったかぁ……


「おばあちゃ~ん。入るよぉ~」


 そんな静寂を打ち破ったのは、玄関の方から聞こえた一人の訪問者の声だった。

 声からすると、あれは多分ソアラだな。


 タっタっタっタっタっと、廊下を走る音が近づいて来て、ガラガラと広間の引き戸が開けられる。

 音のした方へと視線を向けると、そこには確かにソアラがいた。


「何? 何かあった?」


 何か異様な場の雰囲気を感じ取ったのか、キョトンとするソアラ。


「いやなに、少しばかり驚いたことがあっただけだよ。

 それで、ソアラや。何かようかい?」


 皆が未だ固まっている中、一番に反応したのはオーラさんだった。


「え? ああ、うん。スグミさんが帰って来るのが遅いから、何をやっているんだろうって様子を見に来たの」

「おや、もうそんなに時間が経っちまったのかい。スグミ殿、長々と申し訳なかったね」

「いえ、こちらこそ」


 そんなわけで、ソアラのお迎えでこの場は解散することなった。

 俺はソアラに連れられ、ソアラの実家へ。イオスも実家に戻ると言って立ち去って行った。


 で、ソアラの家に戻ると、昼に負けず劣らずの豪勢な料理がテーブルの上所狭しと並べられ、俺はその料理一つ一つに舌鼓を打った。

 中でも、川魚の焼き物と一緒に、醤油が出て来たのには驚いた。

 やっぱりあったか、醤油。

 ソアラ曰く、豆を塩と混ぜて発酵させて作った調味料で、この村では豆油(とうゆ)と呼んでいるらしい。

 はい、醤油ですね醤油。


 更に、その豆油を使ったという、肉じゃがに限りなく近い何かが滅茶苦茶うまかった!

 料理が舌に合うってのは、何よりうれしいやね。

 もし、元の世界に戻れなかったとしても、俺、この村でなら一生暮らして行けるかもしれないと、本気で思う。

 料理が合う合わないって、その土地で生活して行く上で、死活問題だと思うし。


 んで、食後。

 ノマドさんの勧めで、村で作ったという酒で舌を湿らせながら、世間話なんぞをしていると、食器を片付け終えたソアラがトコトコと俺へと近づいて来た。

 ちなみに、この酒は米から作っているそうなので、ほぼほぼ日本酒である。


「スグミさんスグミさん」

「なんぞ?」

「実はですね、明日の朝、ご心配をお掛けした方々にご挨拶周りに行こうと思うんですけど、例のアレ、出してもらえますか?」


 例のアレ? アレってなんただっけ? えーと……ああ、アレか。アレね……


「ああ、アレな。ここでいいのか?」

「はい。お願いします」

「あいよ」


 ということで、亜空間倉庫にしまってあった箱詰めされた例のアレを、なるべく邪魔にならなそうな所にポンと出す。

 例のアレとは、アグリスタの街で俺がソアラとのデートと引き換えに、村の人達の為に買ったお土産のことだ。


「とりま、小物関係だけな。農具とかのデカ物はどうする?」

「えっと、それはまた明日ということで。ここで出されても困りますし」

「りょ」

「あの、この木箱は一体……?」


 その一連の流れを見ていたノマドさんが、当然の疑問を口にする。


「ああ、これが昼間に話していた、ソアラが街で買った“お詫びのお土産”ですよ」

「こんなに沢山……ですか……」


 話しの流れで、掛かった金額を聞かれたので、ここに出していない分も含めて総額100万ディルグくらい掛かったと答えたら、ノマドさんの顔から血の気が引いて行った。

 

「その、お代に関しては必ず……」

「ですから結構ですって。実は、ソアラを助けて逃げている時、たまたまロックリザードを捕まえましてね。

 それが街で良い値で売れたんですよ」


 良い値で売れたのは間違いないが、ロックリザードは50万、使った金額は100万と半分程度だ。

 しかし、そんなことをバカ正直に話しても仕方ないので、そこは適当に濁しておく。

 金額のことを黙ったままでもよかったんだが、それはそれでモヤっとするだろうしな。


 ちなみに、100万ディルグというと、この村では一般家庭が半年は楽して暮らせるくらいの金額、とのことだった。

 おお、そう考えると結構な大金か。まぁ、俺に取ってははした金だけどな!


 ああっ! 日本で同じこと言ってみてぇなぁ~。100万円ぽんと出してはした金って言ってみてぇなぁ~。


「もしかして、スグミお兄さんはお金持ちさんなんですか?」


 と、いつのまにやら近くにいたアイラちゃんが、そんなことを聞いて来る。

 どうやら、俺とノマドさんの話しを聞いていたようだ。


「おう! ゼニなら一杯持っちょるけん!」


 そう言って、俺は親指と人差し指で輪っかを作って見せた。

 何せ、俺の財産は単純計算で45兆ディルグ越えですからなっ!

 一国家の経済を破壊するくらいの金額を、一個人で所有しているのだ。これを金持ちといわずして何というのか。


 それを証明するように、俺はインベントリ内に格納されていたディルグ金貨を、大小合わせてジャラジャラと取り出し、テーブルの上に小山を作る。


「うわぁ! うわぁ! スグミお兄さんっ! スグミお兄さんっ!」

「ん? どうしたねアイラちゃん?」

「結婚してくださいっ!!」


 と、少女から突然、熱烈な求婚を受ける俺。

 しかし、だ。うん。目が金貨になってるぞ、アイラちゃんよ。

 てか、なんかデジャヴを感じるんだが……

 ああ、そういえば買い物で、“何でも買ってやる”って言った時のソアラがこんか感じに近かったかも?

 流石は姉妹。血は争えないということだろうか……


「はっはっはっはっ! 現金で素直な子は嫌いじゃないが、ちょっと年齢が足りてないな。

 もう六、七年したら再度トライしてください」

「チェッ、ダメだったかぁ~」


 本気なのか冗談なのか、アイラちゃんはガックリと肩を落とす。


「アイラ、スグミさんは止めておきなさい。お金持ちでも性格はネジ曲がってるから」

「おいコラ」


 そんなアイラちゃんに、ソアラがとんでもねーことを宣った。


「本当のことじゃないですか。散々私のことを弄んでおいて、今度はアイラまでその毒牙に掛けようっていうんですか?」

「言い方! 言い方に悪意しかないんだが!?」

「そなことより、アイラ。こっちで荷物分けるの手伝ってちょうだい」

「は~い!」


 ソアラに呼ばれ、まるで今までのことが無かったかのような軽い足取りで、アイラちゃんがトっトっトっと、ソアラの下へと駆けて行った。

 それをなんとはなしに目で追っていると……


 ガシっ

 

 と、ものっそい強さで誰かに肩を掴まれた。

 何事かと思い振り返ると……


「ぬおっ!!」


 そこには、修羅の様な形相になったノマドさんが居た。


「す、すっ、スグミ殿……そ、ソアラを弄んだというのは、ど、ど、どいうことだろうか?

 それに、アイラの話し。も、も、もしかして、ほ、本気ではないだろうね?」

「ちょっ、まずは落ち着いてっ! 多分、誤解だから! 絶対誤解だからっ!

 話し合えば解るから! ステイっ! ステイっ!」


 その後、アイラちゃんのことは勿論冗談であること、またソアラのことは誤解だと、怒れるノマドさんを説得するのに、すげー苦労したのだった。

 目がマジ過ぎてすげー怖かったよ……

 


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