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一〇〇話


 というわけで、作業をするため俺も含めて全員、一旦切り株から大きく離れることにした。

 何が起きるか分からんので、安全マージンは広めにな。

 十分な安全が確保されたところで、指さし確認。


「ヨシっ!!」

「何をしてるんだ?」

「安全確認」


 奇妙な目で俺を見るヨームに、簡潔に答える。

 さて、ここからは真面目にお仕事をしよう。


 まず、黒騎士に大剣を一本だけ持たせ、それを逆手に持たせる。

 次、それを全力で地面にブッ刺す。

 黒騎士の重量とパワー、そして大剣の切れ味をを以てすれば、太い根が張り巡らされている大地だろうと、包丁で豆腐を切るが如くである。

 実際、地面に突き立てられた大剣の刀身の半分以上が地面に埋もれていた。

 これで飛び上がったり、走ったり、加速度を味方に付ければ根元までずっぽり行きそうだな。

 そこまでやる必要がないからやらんけど。


「おぉ……すげーな……」

「なんてバカ力だ、ありゃ」


 その一撃に、オーディエンス達がまたしてもざわつく。が、心の中でドヤ顔をするに留める。

 男は黙ってクールに仕事、だ。

 突き刺す時のポイントは、切り株の真下に向かって、やや斜めに突き刺すことだ。

 それを切り株に沿って、ぐるりと一周繰り返す。

 そうすることで、切り株を中心に円錐形の切断面を形成し、全方位に伸びている根と切り株を切り離すことが出来るのだ。

 大剣を垂直に突き刺してしまうと、切り株の真下に伸びている根は手付かずになってしまうからな。 


 後は、適当な場所から切り株の下に向かって大剣をブッ刺し、テコの原理で持ち上げれば……

 ズボっ! っとこの通り、簡単に切り株を除去することが出来るというわけだ。

 所要時間、僅か五分少々の出来事である。


「マジかよ……こんなあっさり抜いちまうなんて……」

「俺達だけだと、アレ抜くのにどれくらい掛かったと思う?」

「一日作業だろうな。下手をしたら、今日中には終わらなかったかもしれないぞ」


 でゅふふ。もっと称賛してくれてもいいんだからね?

 湧きたつオーディエンス達に耳を傾け、外面はクールにされど内面では踏ん反り返る。


「少しくらい作業の足しになればいい程度に思っていたんたが……

 ここまでのもんを見せつけられちゃあな……ぐうの音も出やしねぇ。御見それしたぜ」


 そんな中、ヨームが俺へと近づき、慇懃(いんぎん)な態度でそう言って来た。


「そうだろそうだろ。俺はデキる奴だからな。

 で、この抜いた切り株はどうしたらいいんだ?」


 そう聞きながら、俺は黒騎士に引っこ抜いた切り株を持ち上げさせた。それも、片手で楽々と、だ。

 その光景に、ヨームが若干、顏を引きつらせる。


「あ、ああ……そうだな。少し離れた所に木材の集積所があって……いや。

 それはこちらで運ぼう。実は、デカくて後回しになっている切り株がいくつかあってな。

 スグミにはそっちの撤去を手伝ってもらいたいんだが、頼めるか?」

「オーケー、オーケー。任せときな。何でもやっちゃるけん」

「ん? 今、何でもと言ったな? その言葉覚えて置けよ?」


 そう言って、ヨームが不敵な笑みを浮かべた。

 えっ? なんでネタを知っているんだ? と、一瞬思ったが、ただの偶然だろう。

 ヨームは既婚者で娘もいるそうだから、そっち界隈の人ではないだろうし。

 まぁ、そんなネタを抜きにしても、余程変なことを頼まれはしないと思う。ないよな?


 というわけで、俺は切り株を男達に渡し、ついでに根っこの除去作業が楽になる様に、周囲一帯の地面を大剣でゴスゴスとブッ刺して回る。

 これで地面が柔らかくなるだろうし、根っこも細切れにされて少しは引っこ抜きやすくなるはずだ。


「すまんな、助かるよ。ではこっちだ、着いて来てくれ」


 と、ヨームに礼を言われ、次なる作業場へと向けて移動を開始した。


 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢


 作業の内容自体は、至って簡単だった。

 ヨームが指定する切り株を、俺が黒騎士を使って引っこ抜く。それだけだ。

 大きくて後回しになっていた、というだけあって結構なサイズのものをいくつも引っこ抜かされた。

 一本当たり、所要時間は約一〇分少々。

 数にして、大体十本程だっただろうか? 最初は数を数えていたのだが、途中で面倒になって数えるのを止めてしまっていた。

 一本辺り一〇分で十本として、大体作業開始から約二時間程経っていたのだが、基本はヨームとくっちゃっべっていたり、何故かくっ付いて来たソアラとアイラちゃんが働く黒騎士を観察していたりと、やっていることのわりにはまったりとした時間を過ごしていた。

 むしろ、興奮気味に黒騎士について質問してくるアイラちゃんの相手をする方が、ずっと大変だったくらいだ。

 やれどうやって動かしているのか? だとか、何処で学んだのか? だとか、やれ英霊? とは関係があるのか? などなど……

 まるでマシンガンのような質問攻めにあったが、俺はこの世界のことを何もしらないので、殆ど“知らぬ、存ぜぬ”で通すしかなかった。

 終いには、大剣をぶん回す黒騎士にいきなり駆け寄ったりして……

 あの時はヒヤっとしたのなんの。俺とヨームとソアラが一斉にアイラちゃんに飛び掛かって止めたからな。


 ソアラ曰く。

 アイラちゃんはこの世界の物語に出て来る“英霊”なる存在に、強い憧れを抱いているのだとかなんとか。

 英霊とは、簡単にいってしまえば超上位の精霊のことであるらしい。

 本来、実体を持たない精霊でありながら、実体化した超存在。

 主に歴史に名を残すような英雄が、死後、神格を得て精霊化、準神化した存在だと、いわれている。のだそうだ。

 “と、いわれている”という言葉からも分かる通り、この“英霊”は物語の中でのみの存在で、実在はしないのだとソアラは言う。

 ただ、これにはアイラちゃんが猛反発していたが……


 要は、妖怪、幽霊、サンタクロースなんかと同列の存在ってことだな。

 あっいや、サンタクロースはいるか。別名“お父さん・お母さん”ともいうが。


 ともかく。事実、現在この英霊を使役しているという人物は存在していないのだそうだ。

 魔術や精霊なんかが実在する世界でも、こういうオカルト話ってのはあるんだな……と感慨深く感じる。


 そんなアイラちゃんが、イオスから俺の話し……正確には黒騎士の話しを聞いて、もしかして黒騎士は英霊なのでは? と考えてしまったらしい。

 それが、あの矢継ぎ早な質問攻めだった、というわけだ。

 何もないところから突然出で来る。実態がある。騎士っぽい恰好をしている。凄く強い。突然消える。

 まぁ、これだけ並べば、英霊云々を別にしても「なんだそりゃ?」と思うわな。

 

 ごめんよアイラちゃん……こいつはそんな大層なものじゃなくて、俺お手製のただの人形なんだ。


「よし。これで取り敢えず終わりだな」


 黒騎士が最後の切り株を引き抜き終わるったところで、ヨームからそう声を掛けられた。


「取り敢えずってことは、まだ残りがあると?」

「まぁな。ただ、面倒なやつらはこれで全部片付いたって感じだな。残ってるのは

俺達だけでもどうにでもなる細っそいやつばっかりさ。

 お前の手を煩わせるほどのもんじゃねぇ。

 ただ、まだ手伝ってくれるってんなら、別に頼みたい事はいくらでもあるがな」

「いいぜ。どうせ明日の夜まではやることもないからな」


 実は、わざわざ俺の為に村総出で饗宴(きょうえん)を開いてくれるそうなのだ。

 どうやらイオスが村にソアラの無事を知らせた時点で、俺を持てなす用意が進められていたらしく、ノマドさんから是非にと頼まれてしまっていた。

 ただ、急な知らせだったため、現在は準備中。宴会の予定は明日の夜、ということだった。

 初めはソアラを無事村に送り届けたということで、昼のうな丼を食べ終わったら、エルフ村をちょっとぷらぷらして帰るつもりだったわけだが……

 だが、 折角用意してくれているのに、無下に断るわけにも行かず、今日はエルフ村に一泊することが確定していた。

 お泊り先はソアラの家である。


「それじゃあ……と、行きたいところだが、そろそろ休憩の時間だな」


 そう言うと、ヨームが空を仰ぐ。

 木々の梢に遮られ、殆ど空なんて見えないが、それでも太陽の位置位は大体分かる。

 確かに、昼を過ぎてから二時間程作業のしっぱなしだったからな。太陽も随分と傾き始めていた。

 オプション画面で時刻を確かめると午後の三時少し過ぎ。


「つっても、大したことはしてないがな」


 黒騎士は頑張っていたが、俺達は突っ立って喋っていただけだからな。


「俺達は、な。だが、他の連中は普通に汗水流して仕事中だ。いや、スグミのおかげで何時もより忙しいんじゃねぇのか?」


 と、ヨームが嫌味な笑みを向ける。

 そういえば、黒騎士が引き抜いた大きな切り株を、ヒィヒィ言いながら運んでいるグループがあったな。

 ちなみに、引っこ抜いた切り株は、本来は薪用に細かくバラすそうなのだが、人力でやっていては時間が掛かるので、後でまとめて黒騎士が切り刻むことになっている。

 今は一時保管場所に仮置き中だ。


「そりゃそうか。でも、他が忙しいのはヨームがアレも抜け、これも抜けって言うからであって、断じて俺の所為ではないっ!」

「俺は指示しただけで、実際仕事を増やしたのはお前だろ?」

「屁理屈かよっ!」


 歳が近く、二時間も世間話をしている間にヨームとはすっかり仲良くなっていた。

 と、


「おとーさーん!」


 そう何処か遠くから、子どもの声が聞こえて来た。声から、随分幼い感じだということは分かったが、流石に男の子なのか女の子の判断はつかないな。

 

「おっ、来たようだな」


 で、その声に反応したのがヨームだった。


「何時もこの時間に、嫁さんが娘を連れて差し入れを持って来ることになってんだよ」


ということは、この声の主がヨームの娘ちゃんということか。


「おーいっ、おめぇら!! 差し入れが来たぞっ! 休憩だぁっ!」


 遠くで作業に当たっている者達まで届く様に、ヨームが目一杯声を張り上げて叫ぶ。

 なんつー大声だよ……

 近くでまともに聞いてしまったので耳が痛いったらない。


「んじゃ、こっちだ。着いて来てくれ」


 普段、ヨーム達が休憩に使っている場所があるというので、俺達は大人しくヨームに着いて行くことにした。

 少し歩くと、小さな広場に出て、そこには切り倒した丸太がベンチ代わりに所々に置かれていた。

 ここがヨームの言う休憩所らしい。


「あなた。はい、これ。いつもと変わり映えしませんが、皆さんに」

「おお、いつもすまんな」


 そして、休憩所に先に居た女性から、ヨームが何か包みを受け取っていた。

 二人の様子から察するに、この女性がヨームの嫁さんで、足元にいるちっこいのが娘ちゃんか。

 年齢は小学生に上がるかどうか、といったところか。


「あら? ソアラちゃんとアイラちゃんにこんな所で会うなんて、珍しいわね」


 女性、ヨームの嫁さんがソアラとアイラちゃんの二人に気づき、声を掛けて来た。


「先ほどはわざわざ出迎えて頂いて、どうもありがとうございました。今はちょっと付き添いで」

「イーダお姉さん! こんにちわっ! ヨーダちゃんも、こんにちわ」

「はい、こんにちわ」

「アイラお姉ちゃん、こんにちわっ!」


 ヨームの娘、名はヨーダちゃんというらしい……宇宙騎士マスターにでもなるのかな?……が、アイラちゃんに元気よく返事をする。

 うむ。随分と利発そうなお子さんのようだ。しかも、ヨームに全然似ていない。面影すらない。

 完全にお母さん似である。よかったね。こんな老け顔に似なくて。

 で、嫁さんがイーダさんというらしい。

 気軽に話している辺り、みんな顔見知りみたいだな。まぁ、ヨームとも知り合いっぽかったし。

 それに、あまり大きな村ではないので、村民全員顔見知りだったとしてもおかしくはないか。


 ソアラが出迎え云々と言っていたので、ソアラが帰って来た時に門前にいた集団の中にイーダさんも居たのだろう。

 なんてことを考えていら、ふと、イーダさんと目が合った。


「スグミ様とお見受けしますが、よろしかったでしょう?」

「え、ああ、はい。そうです」


 しかし、こうも会う人会う人に名前が知られてるってのは、なんだかちょっとこっ恥ずかしい気がするな。


「お噂は伺っております。ソアラちゃんのこと、ありがとうございました」


 本日何度目かになる御馴染みのやり取りである。

 これまた同じように、助けたのは偶然だからあまり気にしないで欲しい、と伝えたのだが、


「こんな小さな村では、皆が兄弟姉妹のようなものです。

 行方知れずと聞いた時は、どれだけその身を案じたことか……最悪、もう会うことは出来ないかもしれないと、覚悟もしておりました。

 それが、こうしてまた元気な姿で会うことが出来たのです。

 どれだけ感謝の言葉を並べれば、この思いを伝えることが出来るのか……」


 イーダさんはそう言うと、ソアラへとそっと近づき、ぎゅっと力強くソアラを抱きしめた。


「ちょっ、ちょっと、イーダ姉さんっ!」

「あら? 照れなくたっていいじゃない? 昔はよくこうしていたでしょ?」

「昔って、子どもの時の話しを持ち出さないでってばっ!」


 目の前で、何だかほんわかした光景が広がっていたが、それよりも、だ。


「なぁ、ヨーム」


 俺はどうしても、ヨームに一言いっておかなければならない言葉があった。

 

「ん? どうしたよ、スグミ」


 何か用かと振り返るヨームに、俺は全身全霊を込めてこう告げた。


「……死ねよ」

「なんでだよっ!」

 

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